60 / 143
第8話:拉致
Aパート(1)
しおりを挟む「捜査の為に全生徒の身上書を確認させていただきます」
野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。
本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。
今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。
武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。
やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけを選り抜いていく。
『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。
武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。
もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。
それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。
「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」
蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、
「ガーン!! あの御影って女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」
まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。
「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」
「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」
『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕も止む無しだ…』
「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」
まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。
「まさか?! どういう事…?」
「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これ私らかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」
捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。
「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」
「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」
武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。
「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」
「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」
「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」
「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめに何かあったらお前の責任だよ?」
「ううっ、国家権力のオーボーっス…」
「いや、あんたもその権力側だからね?」
漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。
☆
「イっケメン、イっケメ~ン♪」
着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。
角倉円、バカっぽく見えても奸智の働く女である。
やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。
「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」
完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。
本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。
今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。
武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。
やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけを選り抜いていく。
『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。
武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。
もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。
それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。
「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」
蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、
「ガーン!! あの御影って女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」
まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。
「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」
「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」
『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕も止む無しだ…』
「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」
まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。
「まさか?! どういう事…?」
「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これ私らかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」
捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。
「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」
「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」
武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。
「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」
「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」
「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」
「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめに何かあったらお前の責任だよ?」
「ううっ、国家権力のオーボーっス…」
「いや、あんたもその権力側だからね?」
漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。
☆
「イっケメン、イっケメ~ン♪」
着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。
角倉円、バカっぽく見えても奸智の働く女である。
やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。
「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」
完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる