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第7話:海から来るもの

Aパート(2)

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 破壊されたガオガオから取り出されたブラックボックスは、極秘裏に研究所の解析室に運び込まれた。そして、ヴィクターの指揮の元、解析されることになったのだが…。

「ブラックボックスですが、接続する端子が、標準規格じゃありません。データの吸い出しができません」

「所長、分解しようにも、ねじ穴もつなぎ目も何もないので、分解ができません」

 ここまでは、ブラックボックスの特殊な外観を見たため、ヴィクターも想定していたのだが、

「ブラックボックスの内部構造、透視できません。CTスキャンもX線も全て妨害されています」

「レーザーカッターで、外部筐体の切断を試みたいのですが、受け付けません」

 と研究所員が悲鳴を上げ始めたことで、ガオガオのブラックボックスの非常識さに驚くことになった。

「透視もできないし、レーザーで傷も付けられないだと?そんな馬鹿な話があるのかね。私にやらせてみたまえ」

 研究所員の言葉を信じ切れなかったヴィクターは、自らの手でレーザーカッターを操りブラックボックスを解体しようとした。しかし、真っ黒なブラックボックスの筐体は、レーザーを吸収したかのように、切断するどころか熱くなることもなかった。

「こんな馬鹿なことがあるのかね。物理法則を無視しているではないか」

 レーザーを当てれば物体は反射するなり熱を吸収するなり何らかの反応を示す。そんな事が起きない物質が存在するとは、ヴィクターには信じられなかった。

『ヴィクター。もしかすると、そのブラックボックスとやらは、魔法で護られているのかもしれないぞ』

 研究所員とヴィクターの作業を見守っていたレイフは、そこで口を挟んだ。どうしてレイフが研究所に居るかというと、彼はブラックボックスの解析に参加したいと格納庫にあった整備用ロボット(人型サイズ)を操って、解析室に押しかけていたのだ。

「…ふぅ。レイフ君、また君の言う魔法かね。私も君が作った盾がレーザーをねじ曲げる現象をこの目で見ている。だから君が魔法と呼ぶ高度な技術が存在するのは認めるのだよ。しかし、何でもかんでも魔法と言うのは乱暴ではないかね。確かにブラックボックスこいつは、レーザーを当てて熱もエネルギー量も変化しない…物理法則すらねじ曲げているように見えるが、何かトリックが存在すると私は考えるのだよ」

 ヴィクターは、レイフの魔法をある程度は認めていたが、それでも科学者として魔法という物を信じたくはないと思っていた。

『まあ、ここは一つ儂に任せてくれ。それで、この整備用ロボットでは魔法が使えないから、ブラックボックスをアルテローゼの所に持って行くぞ』

 レイフは、そう言うと整備用ロボットを操り、ブラックボックスを運び出した。

 現状、レイフが魔法を使えるのは、アルテローゼの機体を操っているときだけだった。いろいろ試してみて、整備用ロボットも自身の体のように操れる様になったのだが、なぜか魔法を使うことができなかった。

『(使い魔なら、離れていても魔法を使えたのだが、このロボットという物は使い魔に似ているが、何かが違うな。しかし、アルテローゼでは人と同じ所に入り込めない。このロボットで魔法が使えるように、こちらの技術を研究しなければならないな…)』

 レイフの言う使い魔とは、魔法使いや魔術師が使役する動物のことである。帝国の魔法使いは、定番の猫やカラス、フクロウと言った生き物だけでなく、コボル等の低級魔物まで使い魔として使役してた。
 その使い魔だが、魔法使いは使い魔に精神を乗り移らせて、その体を使って見聞きしたり魔法を使うことが可能だった。

『(いや、いっその事、使い魔を作ってしまうか。…いや、駄目だ。儂は使い魔を二度と持たないと決めたのだ)』

 帝国の筆頭魔道士であったレイフにとって、当然使い魔を作ることなど簡単にできる。そして火星には、地球からペットとして持ち込まれた犬や猫、鳥などが存在しており、それらを使い魔とすることは可能であった。
 しかし、レイフは使い魔をもったことで受けた苦い経験から、二度と使い魔を持たないと決めていた。


 ◇


 それは、レイフが初めて使い魔を作り高級クラブに連れて行ったときのことだった。

 レイフはその容姿から、女にもてなかった。しかし、彼は帝国の魔道士で、地位も名誉もあり金も持っていた。帝都の高級クラブにいく時も、レイフはチップをはずむ客ということで、水商売の女性キャバクラ嬢には大人気であった。

「レイフ様、この猫はどうされたのですか。当店はペットの持ち込みは禁止なのですが」

「ペットではなく、儂の使い魔じゃ。確か使い魔なら問題ないと聞いておったが?」

「ええ、そうでしたか。使い魔であれば粗相もしませんわね。どうぞお連れください。それにしてもさすがレイフ様の使い魔です、とてもすばらしい猫でございますね」

「そうじゃろ。どうだこの可愛い黒猫は。こやつは由緒正しい使い魔の血統猫なのじゃ」

「やはりそうでしたか。帝国筆頭魔道士のレイフ様にふさわしい、気品と核を感じますわ。それに何と愛らしいことでしょう」

「そうじゃろ、そうじゃろ。こやつを使い魔にしてから、見なそう言うのじゃ」

 高級クラブのママが、使い魔の猫を褒めちぎり、レイフも機嫌が良くなる。

「猫ちゃん、こちらにきて」

「まあ、何て可愛いんでしょう」

「猫さん、こっちにもきて~」

 そして、キャバクラ嬢にも使い魔の猫は、大もてであった。何しろ使い魔だから、普通の猫のように抱っこや触られることを嫌がらないのだ。女性にもてないはずがない。しかし、猫がモテるのと反比例して、レイフは置き去りになってしまう。女性の目は使い魔の猫に向かい、醜男であるレイフなど相手にしてもらえないのだ。

 しかし、使い魔がもてはやされるのは高級クラブだけではなかった。
 レイフが帝国の魔術師として仕事をしている際には、使い魔を連れて歩くのだが、そこでも使い魔の猫は大人気だった。血統書付きの猫の愛らしさに見せられレイフに話しかける人が増えたのだが、それは猫をかまいたいだけであり、その主であるレイフは、逆に邪魔者扱いであった。
 つまりレイフは、使い魔を持ったことで、逆に孤独を感じるという、哀れな状況となってしまった。

 そう、使い魔以下の扱いを受けてしまったレイフは、トラウマを負ってしまったのだった。

『うるせー。だから儂は、二度と使い魔なんて持たないと決めたんだ!』

「レイフ君、突然どうしたんだね?」

 そして、突然叫びだした整備ロボットレイフは、ヴィクターに不振な目で見られるのであった。


 ◇


 レイフは、アルテローゼ《レイフ》の側にガオガオのブラックボックスを運んだ。そして通信で呼び出していたレイチェルもタイミング良く格納庫に現れた。

『レイチェル、アルテローゼに乗ってくれ』

 レイフは、レイチェルをアルテローゼのコクピットに搭乗させて、魔法を使う準備を始める。

「一体何をするつもりなのです?」

『魔法で、ブラックボックスを解析するんだ』

「魔法が使えるようになったのですか?」

 レイチェルが、そんな事を聞いてくるのは、ガオガオとの戦いの後で魔法を使えなかったことが原因であった。あの時レイフは、壊れたアルテローゼを錬金術で修理しようとしたのだが、魔法が使えなかった。

『大丈夫だ。首都に戻ってきてから、試してみたら魔法は使えたよ』

 アルテローゼレイフは胸をどんと叩いてそう答えた。もちろん装甲に傷が付かないように力加減はしてある。

 錬金術が再び使えるようになったことで、アルテローゼの修理は、短時間で終えることができた。
 その修理の間、レイフはどうして魔法が首都の外で使えないか、理由を考えていた。そして気付いたのは、首都とその郊外では、魔力マナの密度が大きく違うことだった。

『(錬金術は他の魔法と違って、外部魔力マナを大量に使うからな。外部魔力マナが無い状況では魔法が発動できないのは当然か)』

 魔法陣を使った魔法や、ゴーレムを操作する魔法は、自分の中にある内部魔力マナを主に使う。しかし錬金術は、素材に働きかけるために膨大な魔力マナを必要とし、それは大気中にある外部魔力マナを使うことでまかなう仕組みとなっていた。
 前の世界では魔力マナは大気に満ちていたため、何処でも錬金術は使えたが、この世界では、錬金術を発動させるだけの魔力マナは、首都にしか存在しなかったのだ。

 なぜ首都と郊外で魔力マナの密度に差があるのか、その原因は不明であった。魔道士であるレイフは、魔力マナについて調査したかった。しかし、魔力マナを感じ取ることができるのはアルテローゼレイフだけである。、つまり調査するならアルテローゼを動かす必要があるが、機動兵器であるアルテローゼレイフはおいそれと動かせない。
 ヴィクターに魔力マナを検出する装置を開発できないか、レイフは依頼するつもりであった。

 ともかく、首都であればアルテローゼレイフは魔法を十分使える。レイフは、錬金術でブラックボックスにかけられた魔法を調査、解除しようと考えていた。

『上半身を起こすぞ。スティックを握ってくれ』

「分かりましたわ」

 上半身を起こしたアルテローゼレイフは、手にガオガオのブラックボックスを乗せる。レイチェルにスティックを握らせたのは、その方が魔法の制御に都合が良かったからである。

『よし、アナライズ分析魔法を発動するぞ』

 レイフがアナライズ分析魔法を発動させると、アルテローゼの手のひらに魔法陣が浮かび上がった。ブラックボックスは、アナライズ分析魔法に反応したのか、表面に複雑な魔法陣を映し出した。
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