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第7話:海から来るもの
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アイラの身元調査において、実は彼女が一週間前に亡くなっていたという事が判明した。元々アイラは獅子型巨人のパイロットであり、もしかしてスパイではないかという疑いもあったため、アイラを詳しく調査をすることをヴィクターは決意したのだった。
「(研究所の医療施設は、高度な医療設備が整っているのだ。アイラの検査ぐらいは余裕だろう」
ヴィクターの指示で、アイラの身体検査が研究所で行われることになった。そして、術衣をまとったアイラは、医療施設で身体スキャンを含め血液検査、精神チェックなど様々な調査を彼女は受けることになった。
当初、アイラは検査を嫌がり暴れた。しかし、レイチェルが説得するとなぜか素直に検査を受けてくれる気になった。
ヴィクターは、レイチェルがどうやってアイラを説得したか不思議がったのだが、それはレイチェルにもよく分からなかった。アイラは、レイチェルのことを「金髪ドリル」と憎まれ口を叩くが、彼女の言うことは素直に従うのだった。
そしてアイラの身体検査の結果が出てくると、ヴィクターと主立った研究職員そしてレイチェルが集まって、医療スタッフから説明を受けることになった。レイフはアルテローゼの修理のために不参加となったが、こっそりと所内の監視カメラをハッキングして覗いていた。
「それでは、アイラという少女の診断結果を御報告します」
研究所の医療スタッフが、端末を操作して部屋の巨大モニターにモニターにアイラの診断結果を映し出した。そこには、アイラの身長、体重、血液、脳波パターン、心電図等々が細かく表示されていた。
「このように、彼女は火星生まれの人類として、問題のない健康状態といえます。まあ、十歳にしては若干身体の発育は悪いのですが、これは幼少時の栄養状態が悪かったことで、今後栄養状況が良くなれば改善できるでしょう。また、髪と肌の色については、火星生まれの者は、全員あの色になってしまいますので、この場合異常無しとさせていただきます」
「つまり、アイラさんは普通の人間だと言うことなのですね」
お風呂で手術痕を見たことで、アイラは何か病気を抱えていないかと、レイチェルは不安に思っていたのだが、医療スタッフの報告を聞いて問題がないことに安堵したのか表情が和らぐのだった。
「ですが、彼女には普通の人間とは異なった点が幾つか見受けられました」
「それは…?」
しかし、医療スタッフの次の発言を聞いて、レイチェルの表情がまたしまった。
「一つは、血液検査で薬物反応が出ました。これは彼女が薬物の投与によって、身体強化されていたという証拠です。恐らくこれは、獅子型機動兵器のパイロットになるための処置と思われます。彼女はこの身体強化処置を施されることで、操縦時の激しいGに耐える体を獲得したのでしょう」
ディビットが調査したデータから、レイフはガオガオのコクピットにフォーリングコントロールによる慣性制御技術は使われていなかったと分析した。つまり、ガオガオのパイロットであるアイラは、生身でGに耐えていたのだが、それが可能で会った理由が判明したのだった。
十歳の子供に身体強化の処置を施すという、非人道的な行為を革命軍が行っている。そんな事実にレイチェルは息をのみ、ヴィクターを始め研究職員も目を見張った。
薬物を用いた人体の強化の技術は、第三次世界大戦で盛んに研究が行われていた。その目的は優秀な兵士を生み出すためであったが、遺伝子改良やサイボーグ化技術も含め、薬物による人体強化は一定の成功を収めていた。しかし世界大戦終了後、薬物による身体強化は、非人道的な技術として、それを応用した医療でのみ使用されることに制限されたのだった。
しかし、平和になったとはいえ戦争に有効な技術がそのまま消えていくわけはなく、地球連邦軍の特殊部隊や宇宙軍では、身体強化とサイボーグ技術による特殊な兵士が存在していた。もちろん倫理的に不味いことは連邦軍も理解しており、徹底的な情報規制が行われているため、一般市民には全く知らされていなかった。
そして、火星でも入植当初に宇宙軍がかかわっていたため、強化人間やサイボーグ化された人がいたこともあったのだ。つまり、薬物による人体強化の技術は火星にも存在していたのだった。
「こんな幼い子に、薬物による身体強化ですって。革命軍は血も涙もない、地獄の獣ですわ」
レイチェルは、アイラの境遇に目に涙を浮かべて革命軍を非難する。
『(兵士を肉体改造するとか、なかなかやるじゃないか)』
一方、監視カメラをハッキングして話を聞いていたレイフは、革命軍のやり方に感心していた。
『(子供を強化して兵士にするとは、思い切った戦略だな。こうなれば地球連邦軍も、人間の強化を行った方が良いかもしれないな。…そういえば帝国時代、儂も捕虜を使って人体実験をしたな~。『このポーションを飲めば、お前の筋力は常人の数倍になるぞ』とか、懐かしいかぎりだ。そういえばあのポーションはどうなったのだろう…)』
ゴーレムマスターであるレイフだが、帝国筆頭魔道士として錬金術にも詳しかった。そして様々なポーションの研究も行っていた。そして、研究の中でも心血を注いでいたのは、何と『美顔薬』だった。御存じの通り、レイフは醜男である。普段は『男は顔じゃない』と公言していたが、自分の顔が酷いことにレイフはコンプレックスを抱いていたのだ。
そして研究の甲斐もあり、『美顔薬』を作り出すことに成功したのだ。その成果により帝国皇帝から勲章まで貰ったのだ。『美顔薬』は貴族の間で流行したのだが、肝心のレイフはその薬の恩恵にあずかることができなかったのだ。どうして『美顔薬』で、レイフの容姿が改善されなかったか。それはレイフが醜男なのは、彼にかけられた呪いであったことが理由であった。
レイフの先祖は、かなりの美男子であり女にモテて、ハーレムを気付いていた。しかしそれは他の男性から妬まれてる結果となり、複数の人間から子孫が醜男になる呪いを掛けられたのだった。その呪いの力は強力で、
『(神の奇跡か、悪魔と契約するしか手がないと分かってしまったからな)』
だったのだ。神の奇跡を願うにしてもレイフは信仰心がなく、また悪魔に心を売るほど愚かでもなかった。
しかし、今はロボットのAIとなってしまったので、容姿の心配は全く不要となってしまったのだ。
『(今更『美顔薬』など不要だな)』
とレイフは、それっきり薬のことは忘れてしまったのであった。
閑話休題
横道にそれてしまったが、アイラについての報告はまだ続いていた。
「薬物による強化処理ですが、当研究所の設備で元に戻すことは可能です」
「…本当ですの?」
「はい。しかし、それよりも問題なのはこちらです」
医療スタッフは、アイラの身体スキャンの結果をモニターに映し出した。
「ん? アレは一体なんだね」
ヴィクターは、アイラの透視映像に奇妙な物が映っていることに気づいた。それはアイラの右胸、心臓と反対の位置にあるピンポン球ほどの大きさの物体だった。そしてその球体から細かな根っこのような物が、脳や脊髄をだけでなく体のあちこちに延びていた。
「この右胸にある物体については、この身体スキャン情報だけではよく分かりません。一度彼女の体を開いてみなければ…」
「貴方は、アイラさんを解剖するおつもりなのですか?」
レイチェルは、医療スタッフがアイラを解剖するつもりなのかと、怒りをあらわにして席を立って詰め寄ろうとしたが、それをヴィクターが押しとどめた。
「レイチェル、彼は事実を言っているだけだよ。この状況では、私でもそう言うだろう」
「お父様…。いえ、済みませんでした」
レイチェルは、自分が少し感情的になっていることを自覚し、席に戻った。
「アレは、彼女の体に影響はないのですか?」
アイラの異物について、研究所員から質問が飛ぶ。
「彼女は現状健康なので、現状問題がないとしか言えません。ですので、手術をしてまでそれを除去する必要があるかは分かりません」
医療スタッフは、レイチェルに目を合わせると、お手上げと言う感じで肩をすくめるのだった。
「(研究所の医療施設は、高度な医療設備が整っているのだ。アイラの検査ぐらいは余裕だろう」
ヴィクターの指示で、アイラの身体検査が研究所で行われることになった。そして、術衣をまとったアイラは、医療施設で身体スキャンを含め血液検査、精神チェックなど様々な調査を彼女は受けることになった。
当初、アイラは検査を嫌がり暴れた。しかし、レイチェルが説得するとなぜか素直に検査を受けてくれる気になった。
ヴィクターは、レイチェルがどうやってアイラを説得したか不思議がったのだが、それはレイチェルにもよく分からなかった。アイラは、レイチェルのことを「金髪ドリル」と憎まれ口を叩くが、彼女の言うことは素直に従うのだった。
そしてアイラの身体検査の結果が出てくると、ヴィクターと主立った研究職員そしてレイチェルが集まって、医療スタッフから説明を受けることになった。レイフはアルテローゼの修理のために不参加となったが、こっそりと所内の監視カメラをハッキングして覗いていた。
「それでは、アイラという少女の診断結果を御報告します」
研究所の医療スタッフが、端末を操作して部屋の巨大モニターにモニターにアイラの診断結果を映し出した。そこには、アイラの身長、体重、血液、脳波パターン、心電図等々が細かく表示されていた。
「このように、彼女は火星生まれの人類として、問題のない健康状態といえます。まあ、十歳にしては若干身体の発育は悪いのですが、これは幼少時の栄養状態が悪かったことで、今後栄養状況が良くなれば改善できるでしょう。また、髪と肌の色については、火星生まれの者は、全員あの色になってしまいますので、この場合異常無しとさせていただきます」
「つまり、アイラさんは普通の人間だと言うことなのですね」
お風呂で手術痕を見たことで、アイラは何か病気を抱えていないかと、レイチェルは不安に思っていたのだが、医療スタッフの報告を聞いて問題がないことに安堵したのか表情が和らぐのだった。
「ですが、彼女には普通の人間とは異なった点が幾つか見受けられました」
「それは…?」
しかし、医療スタッフの次の発言を聞いて、レイチェルの表情がまたしまった。
「一つは、血液検査で薬物反応が出ました。これは彼女が薬物の投与によって、身体強化されていたという証拠です。恐らくこれは、獅子型機動兵器のパイロットになるための処置と思われます。彼女はこの身体強化処置を施されることで、操縦時の激しいGに耐える体を獲得したのでしょう」
ディビットが調査したデータから、レイフはガオガオのコクピットにフォーリングコントロールによる慣性制御技術は使われていなかったと分析した。つまり、ガオガオのパイロットであるアイラは、生身でGに耐えていたのだが、それが可能で会った理由が判明したのだった。
十歳の子供に身体強化の処置を施すという、非人道的な行為を革命軍が行っている。そんな事実にレイチェルは息をのみ、ヴィクターを始め研究職員も目を見張った。
薬物を用いた人体の強化の技術は、第三次世界大戦で盛んに研究が行われていた。その目的は優秀な兵士を生み出すためであったが、遺伝子改良やサイボーグ化技術も含め、薬物による人体強化は一定の成功を収めていた。しかし世界大戦終了後、薬物による身体強化は、非人道的な技術として、それを応用した医療でのみ使用されることに制限されたのだった。
しかし、平和になったとはいえ戦争に有効な技術がそのまま消えていくわけはなく、地球連邦軍の特殊部隊や宇宙軍では、身体強化とサイボーグ技術による特殊な兵士が存在していた。もちろん倫理的に不味いことは連邦軍も理解しており、徹底的な情報規制が行われているため、一般市民には全く知らされていなかった。
そして、火星でも入植当初に宇宙軍がかかわっていたため、強化人間やサイボーグ化された人がいたこともあったのだ。つまり、薬物による人体強化の技術は火星にも存在していたのだった。
「こんな幼い子に、薬物による身体強化ですって。革命軍は血も涙もない、地獄の獣ですわ」
レイチェルは、アイラの境遇に目に涙を浮かべて革命軍を非難する。
『(兵士を肉体改造するとか、なかなかやるじゃないか)』
一方、監視カメラをハッキングして話を聞いていたレイフは、革命軍のやり方に感心していた。
『(子供を強化して兵士にするとは、思い切った戦略だな。こうなれば地球連邦軍も、人間の強化を行った方が良いかもしれないな。…そういえば帝国時代、儂も捕虜を使って人体実験をしたな~。『このポーションを飲めば、お前の筋力は常人の数倍になるぞ』とか、懐かしいかぎりだ。そういえばあのポーションはどうなったのだろう…)』
ゴーレムマスターであるレイフだが、帝国筆頭魔道士として錬金術にも詳しかった。そして様々なポーションの研究も行っていた。そして、研究の中でも心血を注いでいたのは、何と『美顔薬』だった。御存じの通り、レイフは醜男である。普段は『男は顔じゃない』と公言していたが、自分の顔が酷いことにレイフはコンプレックスを抱いていたのだ。
そして研究の甲斐もあり、『美顔薬』を作り出すことに成功したのだ。その成果により帝国皇帝から勲章まで貰ったのだ。『美顔薬』は貴族の間で流行したのだが、肝心のレイフはその薬の恩恵にあずかることができなかったのだ。どうして『美顔薬』で、レイフの容姿が改善されなかったか。それはレイフが醜男なのは、彼にかけられた呪いであったことが理由であった。
レイフの先祖は、かなりの美男子であり女にモテて、ハーレムを気付いていた。しかしそれは他の男性から妬まれてる結果となり、複数の人間から子孫が醜男になる呪いを掛けられたのだった。その呪いの力は強力で、
『(神の奇跡か、悪魔と契約するしか手がないと分かってしまったからな)』
だったのだ。神の奇跡を願うにしてもレイフは信仰心がなく、また悪魔に心を売るほど愚かでもなかった。
しかし、今はロボットのAIとなってしまったので、容姿の心配は全く不要となってしまったのだ。
『(今更『美顔薬』など不要だな)』
とレイフは、それっきり薬のことは忘れてしまったのであった。
閑話休題
横道にそれてしまったが、アイラについての報告はまだ続いていた。
「薬物による強化処理ですが、当研究所の設備で元に戻すことは可能です」
「…本当ですの?」
「はい。しかし、それよりも問題なのはこちらです」
医療スタッフは、アイラの身体スキャンの結果をモニターに映し出した。
「ん? アレは一体なんだね」
ヴィクターは、アイラの透視映像に奇妙な物が映っていることに気づいた。それはアイラの右胸、心臓と反対の位置にあるピンポン球ほどの大きさの物体だった。そしてその球体から細かな根っこのような物が、脳や脊髄をだけでなく体のあちこちに延びていた。
「この右胸にある物体については、この身体スキャン情報だけではよく分かりません。一度彼女の体を開いてみなければ…」
「貴方は、アイラさんを解剖するおつもりなのですか?」
レイチェルは、医療スタッフがアイラを解剖するつもりなのかと、怒りをあらわにして席を立って詰め寄ろうとしたが、それをヴィクターが押しとどめた。
「レイチェル、彼は事実を言っているだけだよ。この状況では、私でもそう言うだろう」
「お父様…。いえ、済みませんでした」
レイチェルは、自分が少し感情的になっていることを自覚し、席に戻った。
「アレは、彼女の体に影響はないのですか?」
アイラの異物について、研究所員から質問が飛ぶ。
「彼女は現状健康なので、現状問題がないとしか言えません。ですので、手術をしてまでそれを除去する必要があるかは分かりません」
医療スタッフは、レイチェルに目を合わせると、お手上げと言う感じで肩をすくめるのだった。
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