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第6話:戦場はヘスペリア平原

Aパート(5)

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 対戦車ミサイルが、ガオガオに命中する。…そう思われた時、少女とガオガオの取った行動は、レイフの予想を超えるものだった。ガオガオは、前方の対戦車ミサイル群に飛び込むと、ミサイルが命中する寸前にシールドの魔法を発生させたのだ。

 レイフは、ガオガオがシールドの魔法を全身に張り巡らせた場合、五~六発の対戦車ミサイルが命中すれば、無効化できるだろうと分析していた。しかしガオガオと少女は、シールドの魔法を全面にだけ張ることで強度を高め、正面から向かっていた四発の対戦車ミサイルをそれで受け止めきったのだ。

 そしてガオガオが前に進んだことで、全方位から命中させることを狙った対戦車ミサイル群は、タイミングをずらされてしまった。左右と後ろ、そして上空の対戦車ミサイルは、一秒程の差で、ガオガオに命中していない状態であった。

『くっ、まだ誘導は間に合うか!』

 タイミングと狙いをずらされたレイフは、残りのミサイルを後ろ向きのガオガオの脚と下半身に誘導し直す。着弾まで一秒も無い状態で、ミサイルの誘導を行えたのは、レイフが電子頭脳並みの思考速度を持ったおかげである。そして当初の狙い通り対戦車ミサイルは、ガオガオの下半身に次々と命中していった。

 ドドド、ドカーン

 残り十二発の対戦車ミサイルが、ガオガオに命中する。連邦軍の主力戦車なら一発で戦闘不能となる対戦車ミサイルがまとめて命中したのだ、被弾したガオガオの下半身がまるでガラスのように「パリーン」と音を立てて砕け散った。

『やり過ぎたか…いや、何かおかしいぞ!』

 レイフは、砕け散ったガオガオの下半身を見て、やりすぎたかと思ったが、まるで鏡にでも命中したかのような破壊の光景に違和感を抱くのだった。

「レイフ、さがりなさい!」

 違和感を抱いたレイフが反応するより、一瞬早くレイチェルがスティックを操作する。それに従って、レイフはアルテローゼを緊急後退させた。
 アルテローゼが後退した一瞬後に、その機体があった場所をガオガオの爪が空振りしていく。

「ちぇっ、外しちゃった」

『ガオン』

 爪による攻撃が外れたことに少女が舌打ちし、ガオガオが申し訳なさそうに鳴く。

「ガオガオのせいじゃないよ。あっちのパイロットの反応が良かったんだよ」

 少女はそう言うとハンドルを切って、今度はこちらが攻撃の主導権を握るぞとアルテローゼの側面に回り込むようにガオガオを走らせた。




『ミサイルは命中しなかったのか』

「ミサイルが当たったのは、シールドに映し出されたライオンさんの虚像ですわ。あの状態からミサイルを全て交わすなんて、信じられない度胸と操縦ですわ」

 レイチェルは、ミサイルによってガオガオが破壊されなかったことを少しうれしく思っていた。しかし、レイフが必勝を確信したミサイルを全て回避し、逆襲まで行ったパイロットの少女の腕と、それに答えるガオガオの運動性に脅威を感じていた。

『まさかシールドに自分を映しだして囮りにするとはな』

 少女とガオガオは、前から来た対戦車ミサイルを受け止めたシールドを背後に回して自分の下半身を映し出すことで、ミサイルの囮としたのだった。ミサイルの爆発に紛れたそんな事をされれば、レイフが見間違うのは仕方なかった。

 ガオガオが側面に回り込もうとするのを見て、アルテローゼレイフは後退を取りやめた。そして、回り込もうとするガオガオに槍を構え牽制するが、その素早い動きにアルテローゼは追従し切れなかった。

『このままでは、巨大獅子あれに翻弄されるだけだな。どうせ飛び道具は避けられるのだ、重荷のレールキヤノンもミサイルランチャーは不要だな』

「そうですわね。私もレイフの考えに賛成しますわ」

 ガオガオの機動性に追いつくために、思い切り良くアルテローゼレイフはレールキヤノンとミサイルランチャーを機体から切り離す。残る武装は、胸部の対人レーザー機銃と槍、そして盾だけという身軽な姿になった。これで周囲を旋回するガオガオに機体の動きがついて行けるようになった。

『パイロットの安全を考えると、狙うは下半身だが、攻撃のタイミング…あわせられるか?』

「私のことでしたら、大丈夫ですわ。レイフに合わせてみせますわ」

『良い返事だ』

 レイフの問いかけにレイチェルは微笑んで答える。

 一方、ガオガオのコクピットでは、

「次で倒そうね」

『ガォ』

 少女が、次こそアルテローゼを倒すぞと息巻いていた。

 スキを窺いながらアルテローゼの周りを駆け回るガオガオと、それを向かい撃たんとするアルテローゼ。その緊張を打ち破ったのは、ホァンが操る多脚装甲ロボットによる攻撃だった。

『レイチェルさん、援護します』

 多脚装甲ロボットは、元々革命軍に歩兵がいた場合に備えての戦力であった。そのため巨大な機動兵器の戦いに巻き込まれないように離れていたのだが、気づけばいつの間にかガオガオの間近に肉薄したていた。

 至近距離から発射されたの40ミリ・グレネード弾は、ガオガオの左後ろ脚の付け根に命中し、幾ばくかのダメージを与えた。

『卑怯だぞ、地球人』

『ガオッ』

 少女が怒り、ガオガオは右後ろ足で攻撃を仕掛けてきた多脚装甲ロボットをまとめて蹴り飛ばした。歩兵サイズしかない多脚装甲ロボットはまとめて鉄くずとなる。

『ちっ、余計なことをする。だが、おかげで隙ができたぞ』

 アルテローゼレイフは、動きを止めたガオガオに向けて、槍を構えて全力で突撃ランスチャージした。下半身の体制が崩れたガオガオには、アルテローゼの攻撃を避ける術は無かった。
 そして突進するアルテローゼの槍先が、ガオガオの左脇腹を捉える。

「それはさせないよ!」

『ガッ』

 腹を貫く寸前ガオガオは槍の柄を、いやアルテローゼの右手を噛んで止めていた。ギリッとガオガオの牙が右手に食い込み、噛み千切られる。

「まだまだですわ」

『ここからだな』

 アルテローゼレイフは、ガオガオに槍の柄ごと右手がかみ砕かれるが、その間に左手の盾をガオガオの左後ろ脚に叩きつけた。

「きゃぁ」

『ギャン!』

 盾はガオガオの左後ろ脚に痛手を与え、アルテローゼは右手を失った状態で二機は交錯した。
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