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第5話:陸の王者
Bパート(4)
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『レイチェル、まだ間に合う。出撃は止めるんだ~』
アルテローゼに乗り込んだレイチェルに対して、出撃をあきらめるようにとヴィクターが繰り返し通信を送ってくる。
「お父様、しつこいですわ! レイフ通信を切ってください」
『儂としては、ヴィクターの気持ちも分かるのだがな。…まあ五月蠅いから、ヴィクターからの通信は着信拒否にしておいたぞ』
女にもてたことのないレイフは、当然子供など持ったことは無い。しかし帝国時代の彼は、戦場に兵士を送り出す側だったので、親が子供を戦場に送り出す時の光景は嫌と言うほど見てきた。
だが、レイチェルも仮とはいえ兵士となったのだ。レイフとしては、兵士は指揮官の指示に従わなければならないと認識しており、この場合連邦軍の司令からの命令が最優先事項なのは当然のことだと思っていた。
「とにかく出撃ですわ。ヘリウムから出てしまえば、お父様もあきらめるでしょう」
レイチェルの命令に従い、アルテローゼは、戦車モードで静かに動き出した。
「生きて帰ってくるんだぞ~」
「俺たちの整備は完璧だ。勝利しかないぞ」
「聖戦完遂なのだ~」
「進め総員火の玉じゃ~」
「レイチェルさん好きじゃー」
格納庫から出ると、アルテローゼの背後で研究所員や作業員そして連邦軍の整備兵が、口々に叫びながら手を振っていた。
「…ええ、必ず勝ってきますわ」
レイチェルが、見送りに感激している中、
『(あいつは要注意人物としてマークだな)』
レイフは、「レイチェルさん好きじゃー」と叫んでいた整備兵を抹殺対象としてこっそりマークするのだった。
◇
格納庫を出たアルテローゼは、順調に空港から首都の幹線道路に出た。18メートルと規格外の大きさのアルテローゼは、幹線道路の二車線分を跨いで走る必要があった。そのため首都の道路には交通規制がかかり、昼の混雑する時間だというのに車は走っていなかった。ただ、交通規制の理由を知った市民が、道路周辺やビルからアルテローゼを見送っていた。
「ううっ、まるで見せ物になった気分ですわ」
『出陣する兵士を市民が見送るのは当たり前の光景だがな。儂にしてみれば、出陣する兵士は、もっと華やかに送り出す物だと思っているのだが』
レイチェルは、見られていることが恥ずかしいようだった。しかし、帝国で華やかな出陣に慣れているレイフは、もっと華々しく送り出して貰いたいと思っていた。
そんなこんなで、アルテローゼは順調に首都から抜け出し、目的のヘスペリア平原に向かう道路に入った。こちらも本来なら各都市に向かう長距離バスやトラックが走っているのだが、戦闘が始まるとあってか、一台も見当たらなかった。
このままアルテローゼだけで戦場に向かうかと思われたところ、直ぐにアルテローゼの背後一台の車両が追いついてきた。それは、地球連邦軍と側面に描かれた指揮車であった。
「マジでアレについて行くのかよ」
「仕方ないわな。命令だもの」
「さすがに今度命令無視したら…営巣行きぐらいじゃ済まないだろうな」
「今度命令無視したら、銃殺かもな~」
「…死して屍広う物なし…」
指揮車に乗っていたのは、首都で壁を防衛していた、ディビット、マイケル、クリストファー、ホァン、ケイイチの五人組であった。首都防衛において命令不服従の罪に問われ軍事裁判に掛けられた彼等だが、オペレータに生身での徹底抗戦は無謀な命令だったと判断され、営巣入りとなった。そして営巣から出てすぐに命じられたのが、アルテローゼへの同行であった。ある意味懲罰的な命令であるが、オッタビオ少将からの勅命であれば、任務拒否などできるわけもなかった。
ちなみに彼らによって簀巻きにされていた中佐殿は、指揮官が不足した事もあり、連邦軍の再編でもっと大きな部隊の指揮官に栄転となった。つまり、現在五人組を指揮する上官はいない状態だった。もちろんそんな馬鹿な状態でアルテローゼに同行を命じられる訳もなく…
「第32武装偵察小隊の皆さん、初めまして。私がアルテローゼのパイロット、レイチェル中尉です。この度の作戦では、皆さんが一緒に戦ってくださると言うことで心強く思っておりますわ。小隊とアルテローゼの部隊ですが、オッタビオ少将さんから、私に部隊の指揮官になってほしい言われました。ですが、ついこの前まで学生だったわたくしが、作戦指揮をとるなど当然無理な話です。そこでこの部隊の作戦指揮は、わたくしに代わってアルテローゼのAIであるレイフがとりますの。皆さんレイフの指示に従ってくださいね」
指揮車のモニターにバストアップで映し出されたレイチェルが、この部隊の指揮をレイフが執ると宣言するのだった。
なぜ、AIであるレイフが部隊の指揮を執るか、それは今の連邦軍に指揮を任せるだけの士官が残っていなかったことが原因であった。軍の再編も終わっていない状況で、有人・人型機動兵器という前代未聞の兵器と、問題児ばかりの小隊の指揮官をやりたいという人物はみつからなかった。
結局、出撃間際になってオッタビオ少将がレイチェルを中尉に野戦任官するという荒技で、部隊の指揮官と決めたのだった。もちろんレイチェルは、「指揮官など務まらない」と断るつもりだったが、レイフが『指揮なら任せておけ』と請け負ったのだった。
連邦軍ではAIは作戦を提示することはあっても、命令を出すことはない。これはAIが人の生死にかかわる判断を下してはいけないという基本思想があるからである。当然レイフが作戦指揮を執るといえば、問題であるし、兵士からAIに生死をキメさせるのかと反発が合って当然なのだが、レイチェルはそんな常識を理解していなかった。
もちろん、五人組もそう感じて叱るべきだったのだが…。
「(うぁ、金髪ドリルだぜ。初めて見たよ。もしかしてお嬢様ってやつか~)レイチェル中尉殿、ディビット少尉であります。こちらこそよろしくお願いします」
「(うほっ、中佐よりこっちの方が断然いいぜ)同じく、マイケル少尉であります。お願いします~」
「(なんて綺麗な人なんだ)同じく、クリストファー少尉であります。中尉の指揮下に入れて光栄に思います」
「(…踏まれたい)ホァン少尉であります。命令してください」
「かれんだ~」
と、五人組は、AIが指揮を執るというレイチェルの言葉を素直に受け入れるのだった。
『いや、実際に指揮を執るのは儂だぞ。…まあ良いか。儂がアルテローゼのAIのレイフだ。軍の指揮はデータとして十分持っているから、大船に乗ったつもりで指揮は任せてほしい』
レイフは、五人にそう告げたのだが、
「えーっ。レイチェル大尉が指揮を執ってください」x5
とブーイングされるのだった。
『(こ、こいつら役に立つのか?)』
レイフは、軍人としては駄目そうな香りを漂わせる五人に不安を覚える。このままでは指揮を執るのは難しいかと思われたが…。
「そうですね、AIの指揮では不安なのかもしれませんわね。ですが、レイフは優秀なAIです、彼の命令はわたくしからの命令と思って聞いてください」
と、レイチェルがにっこりと微笑むと、
「はーい。わかりましたー」x5
と馬鹿みたいに彼等はうなずくのであった。それで良いのかと、盛大に突っ込みをいれたくなる状況であった。
『(オペレータとしての能力は高いと人事データにはあったが、本当に大丈夫か此奴ら。…まあ、いざとなればアルテローゼの盾になって貰うか)』
レイフは、五人組の評価を最低レベルまで下げるのだった。
アルテローゼに乗り込んだレイチェルに対して、出撃をあきらめるようにとヴィクターが繰り返し通信を送ってくる。
「お父様、しつこいですわ! レイフ通信を切ってください」
『儂としては、ヴィクターの気持ちも分かるのだがな。…まあ五月蠅いから、ヴィクターからの通信は着信拒否にしておいたぞ』
女にもてたことのないレイフは、当然子供など持ったことは無い。しかし帝国時代の彼は、戦場に兵士を送り出す側だったので、親が子供を戦場に送り出す時の光景は嫌と言うほど見てきた。
だが、レイチェルも仮とはいえ兵士となったのだ。レイフとしては、兵士は指揮官の指示に従わなければならないと認識しており、この場合連邦軍の司令からの命令が最優先事項なのは当然のことだと思っていた。
「とにかく出撃ですわ。ヘリウムから出てしまえば、お父様もあきらめるでしょう」
レイチェルの命令に従い、アルテローゼは、戦車モードで静かに動き出した。
「生きて帰ってくるんだぞ~」
「俺たちの整備は完璧だ。勝利しかないぞ」
「聖戦完遂なのだ~」
「進め総員火の玉じゃ~」
「レイチェルさん好きじゃー」
格納庫から出ると、アルテローゼの背後で研究所員や作業員そして連邦軍の整備兵が、口々に叫びながら手を振っていた。
「…ええ、必ず勝ってきますわ」
レイチェルが、見送りに感激している中、
『(あいつは要注意人物としてマークだな)』
レイフは、「レイチェルさん好きじゃー」と叫んでいた整備兵を抹殺対象としてこっそりマークするのだった。
◇
格納庫を出たアルテローゼは、順調に空港から首都の幹線道路に出た。18メートルと規格外の大きさのアルテローゼは、幹線道路の二車線分を跨いで走る必要があった。そのため首都の道路には交通規制がかかり、昼の混雑する時間だというのに車は走っていなかった。ただ、交通規制の理由を知った市民が、道路周辺やビルからアルテローゼを見送っていた。
「ううっ、まるで見せ物になった気分ですわ」
『出陣する兵士を市民が見送るのは当たり前の光景だがな。儂にしてみれば、出陣する兵士は、もっと華やかに送り出す物だと思っているのだが』
レイチェルは、見られていることが恥ずかしいようだった。しかし、帝国で華やかな出陣に慣れているレイフは、もっと華々しく送り出して貰いたいと思っていた。
そんなこんなで、アルテローゼは順調に首都から抜け出し、目的のヘスペリア平原に向かう道路に入った。こちらも本来なら各都市に向かう長距離バスやトラックが走っているのだが、戦闘が始まるとあってか、一台も見当たらなかった。
このままアルテローゼだけで戦場に向かうかと思われたところ、直ぐにアルテローゼの背後一台の車両が追いついてきた。それは、地球連邦軍と側面に描かれた指揮車であった。
「マジでアレについて行くのかよ」
「仕方ないわな。命令だもの」
「さすがに今度命令無視したら…営巣行きぐらいじゃ済まないだろうな」
「今度命令無視したら、銃殺かもな~」
「…死して屍広う物なし…」
指揮車に乗っていたのは、首都で壁を防衛していた、ディビット、マイケル、クリストファー、ホァン、ケイイチの五人組であった。首都防衛において命令不服従の罪に問われ軍事裁判に掛けられた彼等だが、オペレータに生身での徹底抗戦は無謀な命令だったと判断され、営巣入りとなった。そして営巣から出てすぐに命じられたのが、アルテローゼへの同行であった。ある意味懲罰的な命令であるが、オッタビオ少将からの勅命であれば、任務拒否などできるわけもなかった。
ちなみに彼らによって簀巻きにされていた中佐殿は、指揮官が不足した事もあり、連邦軍の再編でもっと大きな部隊の指揮官に栄転となった。つまり、現在五人組を指揮する上官はいない状態だった。もちろんそんな馬鹿な状態でアルテローゼに同行を命じられる訳もなく…
「第32武装偵察小隊の皆さん、初めまして。私がアルテローゼのパイロット、レイチェル中尉です。この度の作戦では、皆さんが一緒に戦ってくださると言うことで心強く思っておりますわ。小隊とアルテローゼの部隊ですが、オッタビオ少将さんから、私に部隊の指揮官になってほしい言われました。ですが、ついこの前まで学生だったわたくしが、作戦指揮をとるなど当然無理な話です。そこでこの部隊の作戦指揮は、わたくしに代わってアルテローゼのAIであるレイフがとりますの。皆さんレイフの指示に従ってくださいね」
指揮車のモニターにバストアップで映し出されたレイチェルが、この部隊の指揮をレイフが執ると宣言するのだった。
なぜ、AIであるレイフが部隊の指揮を執るか、それは今の連邦軍に指揮を任せるだけの士官が残っていなかったことが原因であった。軍の再編も終わっていない状況で、有人・人型機動兵器という前代未聞の兵器と、問題児ばかりの小隊の指揮官をやりたいという人物はみつからなかった。
結局、出撃間際になってオッタビオ少将がレイチェルを中尉に野戦任官するという荒技で、部隊の指揮官と決めたのだった。もちろんレイチェルは、「指揮官など務まらない」と断るつもりだったが、レイフが『指揮なら任せておけ』と請け負ったのだった。
連邦軍ではAIは作戦を提示することはあっても、命令を出すことはない。これはAIが人の生死にかかわる判断を下してはいけないという基本思想があるからである。当然レイフが作戦指揮を執るといえば、問題であるし、兵士からAIに生死をキメさせるのかと反発が合って当然なのだが、レイチェルはそんな常識を理解していなかった。
もちろん、五人組もそう感じて叱るべきだったのだが…。
「(うぁ、金髪ドリルだぜ。初めて見たよ。もしかしてお嬢様ってやつか~)レイチェル中尉殿、ディビット少尉であります。こちらこそよろしくお願いします」
「(うほっ、中佐よりこっちの方が断然いいぜ)同じく、マイケル少尉であります。お願いします~」
「(なんて綺麗な人なんだ)同じく、クリストファー少尉であります。中尉の指揮下に入れて光栄に思います」
「(…踏まれたい)ホァン少尉であります。命令してください」
「かれんだ~」
と、五人組は、AIが指揮を執るというレイチェルの言葉を素直に受け入れるのだった。
『いや、実際に指揮を執るのは儂だぞ。…まあ良いか。儂がアルテローゼのAIのレイフだ。軍の指揮はデータとして十分持っているから、大船に乗ったつもりで指揮は任せてほしい』
レイフは、五人にそう告げたのだが、
「えーっ。レイチェル大尉が指揮を執ってください」x5
とブーイングされるのだった。
『(こ、こいつら役に立つのか?)』
レイフは、軍人としては駄目そうな香りを漂わせる五人に不安を覚える。このままでは指揮を執るのは難しいかと思われたが…。
「そうですね、AIの指揮では不安なのかもしれませんわね。ですが、レイフは優秀なAIです、彼の命令はわたくしからの命令と思って聞いてください」
と、レイチェルがにっこりと微笑むと、
「はーい。わかりましたー」x5
と馬鹿みたいに彼等はうなずくのであった。それで良いのかと、盛大に突っ込みをいれたくなる状況であった。
『(オペレータとしての能力は高いと人事データにはあったが、本当に大丈夫か此奴ら。…まあ、いざとなればアルテローゼの盾になって貰うか)』
レイフは、五人組の評価を最低レベルまで下げるのだった。
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