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第5話:陸の王者
Bパート(3)
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空港の側にある研究所の格納庫では、アルテローゼの周りに多くの作業員が集まり出撃準備が行われていた。急遽出撃の決まったアルテローゼには、連邦軍から武装が提供され、装備のために連邦軍の整備兵も手伝いに駆けつけてきていた。
また、巨人の時にレイフが作り出したグランドフォームも作業員の手によって再現されていた。グランドフォームはそのまま再現したのではなく、ヴィクターを含め研究員と機体の整備主任であるおやっさんの監修の元で改善が行われていた。その甲斐もあり、グランドフォームは、レイフが作り出した物よりパワーや走破性は格段と上がっていた。
それに加え新しい機能として、アルテローゼの機体が完全に仰向けになれば、より高速な移動が可能となる戦車形態が追加されていた。18メートルの車体に追加された武装を含めると、正に陸の王者という姿であった。
レイフもその出来映えを見て、『うーん、これはすばらしい物だ』と、感心するほどだった。
その、アルテローゼの側で、ピチピチのパイロットスーツに身を包んだレイチェルとヴィクターが、出撃前の最後の確認を行っていた。
「レイチェル、結局オッタビオ少将に押し切られた形になってしまったが、本当に戦いに行くのかね。嫌ならまだ断れるのだよ」
ヴィクターは、心配そうな顔でレイチェルに翻意を促すが、
「ええ、お父様。私が、いえアルテローゼが戦わないと、また連邦軍の兵士さんや一般市民の方が大勢死ぬことになりますわ」
レイチェルは、巨人との戦いの後、大シルチス高原の戦いや首都攻防戦で多くの人が亡くなった事を知ってしまった。そして、大シルチス高原の戦いにアルテローゼが参加していれば、多くの人が死なずに救われたのではと、ずっと考えていたのだ。もちろんたらればではあるのだが、レイチェルはそれを考えてしまう性格だった。
「アルテローゼにしかできないことがあり、そのアルテローゼを動かせるのが私だけなのです。私は、自分ができることをやらずに後で後悔するの…そんなことは嫌なのです」
パイロットスーツに身を固めたレイチェルは、キリッとした表情でヴィクターに告げた。
『(ほぇ~。キリッとしたレイチェルはかっこいいの~)』
一方、もう一人の当事者であるレイフは、そんな凛々しいレイチェルの姿をぼーっと眺めていた。
「アルテローゼを動かせる軍人が他にいれば、レイチェルを戦いに出す必要は無いと言うのに…。レイフ君、どうしてレイチェルでなければ駄目なのだ?」
ヴィクターは、レイフにレイチェルしかアルテローゼが動かせない理由を尋ねる。この質問は、レイチェルしかアルテローゼを動かすことが出来ないと分かってから、何度も繰り返された問答だった。
『同じ答えを繰り返すが、それはレイチェルが操縦しないと、機体の制御システムが正常に動かないからだ。その理由は、儂にも良く分からないのだが、恐らく制御コアとパイロットの魔力の相性問題らしいのだ』
レイチェルしかアルテローゼを動かせない。これに関しては、レイフにも説明の付かない現象であった。ヴィクターとレイフは、アルテローゼの制御コアに問題があるのだろうと言うところまで分析した。では制御コアを調査すれば良いとなるのだが、最高機密である制御コアの解析を行うとすると、ブラックボックスを分解して取り出す必要がある。その場合レイフは当然眠りにつくことになるが、原因を突き止めた後再びレイフが目覚めるとは言えなかった。その為、ヴィクターも制御コアを解析する別な手段が見つかるまで、この現象については放置するしかないとあきらめていた。
「今更それを言い出しても仕方ありませんわ。それよりレイフ、アルテローゼの出撃の準備はよろしくて?」
レイチェルはヘルメットを被りアルテローゼの車体の上によじ登ると、コクピットを覗きこんだ。
『後は予備バッテリーを搭載するだけだ。それが終われば、出撃準備は完了だ』
レイフは、レイチェルのためにモニターにアルテローゼの準備状況を表示する。モニターには、50ミリ16連装ミサイルランチャーや90ミリ・レールキャノン、対人レーザー機銃といった兵装が表示されていた。そして射撃武器が無効化されていた時のための装備として、盾と槍という格闘武装がレイフによって準備されていた。
レイチェルは、機体の至る所に凶悪な兵器が搭載されたアルテローゼの機体を眺めて、大きくため息をついた。
「…人を殺すための兵器ですわね」
軍事オタクなら嬉しがるだろう兵器も、人が死ぬのが嫌いなレイチェルにとっては、重荷にしか感じられないのだった。
『レイチェルは、兵器が嫌いなのだな』
「ええ、そうですわ。人を殺したくもないし、人が死ぬのも嫌ですわ」
レイフの問いかけに、レイチェルは吐き捨てるようにそう言った。
『分かった。優しいレイチェルが嫌がるのであれば、儂もなるべく人は殺さないように心がけよう。この兵器も儂が制御すれば、無駄な殺生はしなくて済む。レイチェルは、儂を信頼してトリガーを引けばよいのだ』
「そう…ですの? レイフは、前と随分と変わりましたわね。しゃべり方も『のじゃ』とか言わなくなりましたし、嫁というのも止めたのですか?」
レイチェルは、不思議そうにアルテローゼを見上げた。
『…そうだな。巨人を倒して意識を失った時に、儂は何かを失ったのかもしれないな。それとレイチェルは人間であって儂の嫁ではない。それが分かったからもう嫁と呼ぶのは止めようと思ったのだ』
レイフに人の体があったなら、彼は遠くを見ていただろう。そんな雰囲気がアルテローゼから漂っていた。
また、巨人の時にレイフが作り出したグランドフォームも作業員の手によって再現されていた。グランドフォームはそのまま再現したのではなく、ヴィクターを含め研究員と機体の整備主任であるおやっさんの監修の元で改善が行われていた。その甲斐もあり、グランドフォームは、レイフが作り出した物よりパワーや走破性は格段と上がっていた。
それに加え新しい機能として、アルテローゼの機体が完全に仰向けになれば、より高速な移動が可能となる戦車形態が追加されていた。18メートルの車体に追加された武装を含めると、正に陸の王者という姿であった。
レイフもその出来映えを見て、『うーん、これはすばらしい物だ』と、感心するほどだった。
その、アルテローゼの側で、ピチピチのパイロットスーツに身を包んだレイチェルとヴィクターが、出撃前の最後の確認を行っていた。
「レイチェル、結局オッタビオ少将に押し切られた形になってしまったが、本当に戦いに行くのかね。嫌ならまだ断れるのだよ」
ヴィクターは、心配そうな顔でレイチェルに翻意を促すが、
「ええ、お父様。私が、いえアルテローゼが戦わないと、また連邦軍の兵士さんや一般市民の方が大勢死ぬことになりますわ」
レイチェルは、巨人との戦いの後、大シルチス高原の戦いや首都攻防戦で多くの人が亡くなった事を知ってしまった。そして、大シルチス高原の戦いにアルテローゼが参加していれば、多くの人が死なずに救われたのではと、ずっと考えていたのだ。もちろんたらればではあるのだが、レイチェルはそれを考えてしまう性格だった。
「アルテローゼにしかできないことがあり、そのアルテローゼを動かせるのが私だけなのです。私は、自分ができることをやらずに後で後悔するの…そんなことは嫌なのです」
パイロットスーツに身を固めたレイチェルは、キリッとした表情でヴィクターに告げた。
『(ほぇ~。キリッとしたレイチェルはかっこいいの~)』
一方、もう一人の当事者であるレイフは、そんな凛々しいレイチェルの姿をぼーっと眺めていた。
「アルテローゼを動かせる軍人が他にいれば、レイチェルを戦いに出す必要は無いと言うのに…。レイフ君、どうしてレイチェルでなければ駄目なのだ?」
ヴィクターは、レイフにレイチェルしかアルテローゼが動かせない理由を尋ねる。この質問は、レイチェルしかアルテローゼを動かすことが出来ないと分かってから、何度も繰り返された問答だった。
『同じ答えを繰り返すが、それはレイチェルが操縦しないと、機体の制御システムが正常に動かないからだ。その理由は、儂にも良く分からないのだが、恐らく制御コアとパイロットの魔力の相性問題らしいのだ』
レイチェルしかアルテローゼを動かせない。これに関しては、レイフにも説明の付かない現象であった。ヴィクターとレイフは、アルテローゼの制御コアに問題があるのだろうと言うところまで分析した。では制御コアを調査すれば良いとなるのだが、最高機密である制御コアの解析を行うとすると、ブラックボックスを分解して取り出す必要がある。その場合レイフは当然眠りにつくことになるが、原因を突き止めた後再びレイフが目覚めるとは言えなかった。その為、ヴィクターも制御コアを解析する別な手段が見つかるまで、この現象については放置するしかないとあきらめていた。
「今更それを言い出しても仕方ありませんわ。それよりレイフ、アルテローゼの出撃の準備はよろしくて?」
レイチェルはヘルメットを被りアルテローゼの車体の上によじ登ると、コクピットを覗きこんだ。
『後は予備バッテリーを搭載するだけだ。それが終われば、出撃準備は完了だ』
レイフは、レイチェルのためにモニターにアルテローゼの準備状況を表示する。モニターには、50ミリ16連装ミサイルランチャーや90ミリ・レールキャノン、対人レーザー機銃といった兵装が表示されていた。そして射撃武器が無効化されていた時のための装備として、盾と槍という格闘武装がレイフによって準備されていた。
レイチェルは、機体の至る所に凶悪な兵器が搭載されたアルテローゼの機体を眺めて、大きくため息をついた。
「…人を殺すための兵器ですわね」
軍事オタクなら嬉しがるだろう兵器も、人が死ぬのが嫌いなレイチェルにとっては、重荷にしか感じられないのだった。
『レイチェルは、兵器が嫌いなのだな』
「ええ、そうですわ。人を殺したくもないし、人が死ぬのも嫌ですわ」
レイフの問いかけに、レイチェルは吐き捨てるようにそう言った。
『分かった。優しいレイチェルが嫌がるのであれば、儂もなるべく人は殺さないように心がけよう。この兵器も儂が制御すれば、無駄な殺生はしなくて済む。レイチェルは、儂を信頼してトリガーを引けばよいのだ』
「そう…ですの? レイフは、前と随分と変わりましたわね。しゃべり方も『のじゃ』とか言わなくなりましたし、嫁というのも止めたのですか?」
レイチェルは、不思議そうにアルテローゼを見上げた。
『…そうだな。巨人を倒して意識を失った時に、儂は何かを失ったのかもしれないな。それとレイチェルは人間であって儂の嫁ではない。それが分かったからもう嫁と呼ぶのは止めようと思ったのだ』
レイフに人の体があったなら、彼は遠くを見ていただろう。そんな雰囲気がアルテローゼから漂っていた。
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