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第5話:陸の王者
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レイチェルから逃げ切ったヴィクターは、研究所の所長室で通話を行っていた。わざわざ所長室でオッタビオ少将と通話するのは、レイチェルや所員に聞かせたくない話だと思ったからである。
そしてオッタビオ少将からの通話は、ヴィクターの予想通りの内容であった。
『ヴィクター君、忙しい所申し訳ないのだが、監視衛星がヘスペリア平原方向からヘリウム近づく敵を発見した。そこで、だが君の所のアルテンローゼとかいうロボットで迎え撃ってほしいのだ」
寝間着姿のままモニターに映ったオッタビオ少将は、眠そうな声で首都に向かってくる敵を迎撃してほしいと、ヴィクターに告げるのだった。
「司令、アルテンローゼではなくアルテローゼです。…それで、革命軍がまた首都に攻めてくるのですか。しかも連邦軍の代わりにアルテローゼに迎撃に出ろと。どうして連邦軍が出撃せず、アルテローゼに出撃依頼が来るのですか?」
『連邦軍の状況なのだが、いまだ軍の再編を終えておらず、組織だった動きができない状況なのだ。それに偵察衛星の画像を分析した結果、どうも近づいてくる敵は一機で巨人の同類のようだ。つまり、連邦軍を向かわせても大シルチス高原の戦いの二の舞となるだろう。私はそんな無謀な命令を出したくはないのだよ』
連邦軍が出撃せず、アルテローゼだけに出撃命令が下るのかと憤るヴィクター。それに対してオッタビオ少将は、連邦軍は動かせないし、もし迎撃に出せても勝てないと軍の本音を明かすのだった。
『アルペンローゼは、単騎で首都に進行した革命軍を壊滅させた。それにあの巨人に勝っている。連邦軍が動けない今、君たちにしか頼めないのだよ』
オッタビオ少将は、ヴィクターに身勝手にそう言うと、これは誠意のつもりなのか深々と頭を下げた。
「司令、何度も言いますが、あれの名称はアルテローゼです。それと、アルテローゼは、確かに巨人に勝ちましたが、元々実験機レベルの機体です。装甲もナノカーボン繊維強化プラスティック製ですし、戦闘用の武装は搭載していません。そのため、巨人との戦いで勝利はしましたが、機体は大破しました。パイロットが無事であり、巨人に勝てたのは奇跡に近いことなのです」
ヴィクターは、いろいろと理由をつけてアルテローゼの出撃を渋る。それはアルテローゼは実験機であり戦闘用でないことが主な理由だが、それ以上に大きな理由がヴィクターにはあった。
「そして、現在アルテローゼは、パイロットとして私の娘…レイチェルが搭乗しないと動かないのです。どうして私のかわいい娘を戦場に送り出せますか」
ヴィクターは胸ポケットからレイチェルの写真を撮りだして、オッタビオ少将に見せつけてそう訴えるのだった。
実はAIであるレイフは目覚めたが、レイチェル以外ではアルテローゼを動かすことができなかったのだ。レイチェル以外がコクピットに座って操縦しようとすると、機体制御プログラムが不調となり、普通に歩くことさえできなかった。レイチェルを再び乗せたくなかったヴィクターは、必死に調査したのだが、その原因は未だ不明のままだった。
『かわいい娘さんだ。確かに父親であるヴィクター君が出撃を命じたくなるわけだ。だが、連邦軍の兵士も皆同じなのだよ。それに娘さんは仮とはいえ士官候補生として軍に登録されている。先の戦いでもパイロットとして素晴らしい働きを見せたそうじゃないか。軍のオペレータが戦闘データを分析して絶賛していたよ。それに君の娘と言うことは頭も良い。これは将来有望な軍人になること請け合いだぞ』
オッタビオ少将は、無責任にレイチェルを褒め称えると、ハハハと笑うのだった。
「(ふざけるなこの狸親父が、誰が娘を軍人などにするものか)はあ、確かにうちの娘は優秀ですが、心優しいもので、軍人には向いておりません」
ヴィクターは表面は娘を褒められてうれしがる父親を演じるが、父親として間違っても娘を戦場に送るつもりはなかった。
「お父様は、ここにいらっしゃるのですね。先ほどの件、じっくりとお話しさせて…」
そこに、ヴィクターを追いかけてきたレイチェルが扉を開けて入ってきた。
「チッ、レイチェル、入るときはノックぐらいしなさい」
ヴィクターは部屋に鍵をかけ忘れていた自分の迂闊さを呪うが、後の祭りである。
『おお、貴方がレイチェルさんかね。私は地球連邦軍・火星派遣部隊の司令を務めるオッタビオ少将です。うむ、実物は写真よりお綺麗だ』
「まあ、通話中でしたの。これは失礼しましたわ。初めまして、私はヴィクターの娘レイチェルです」
レイチェルは、優雅にオッタビオ少将に挨拶をする。綺麗と言われて少しうれしかったのか、ほほが少し赤い。
「レイチェル、今は大事な話をしているところなのだよ。先ほどの話はまた後で…」
『いや、ちょうど良い。ここは当人にも聞いてもらうべきだろう』
ヴィクターはレイチェルを部屋から追い出そうとしたが、オッタビオ少将がそれを引き留める。
「いや、娘にはまだ…(レイチェル、早く出て行くんだ)」
これは不味いと、ヴィクターはレイチェルに部屋を出て行くように視線で促すが、彼女はそれに気付かなかった。
『いや、アルテローゼが彼女にしか動かせないのであれば、話を聞いて貰うべきだ。レイチェルさん、革命軍がまた攻めてくるのだよ』
「もしかしてまた敵が攻めてきたのですか?」
そしてレイチェルは、再び革命軍が攻めてきたことを知る。そして彼女の瞳にはある決意がみなぎっていた。
そしてオッタビオ少将からの通話は、ヴィクターの予想通りの内容であった。
『ヴィクター君、忙しい所申し訳ないのだが、監視衛星がヘスペリア平原方向からヘリウム近づく敵を発見した。そこで、だが君の所のアルテンローゼとかいうロボットで迎え撃ってほしいのだ」
寝間着姿のままモニターに映ったオッタビオ少将は、眠そうな声で首都に向かってくる敵を迎撃してほしいと、ヴィクターに告げるのだった。
「司令、アルテンローゼではなくアルテローゼです。…それで、革命軍がまた首都に攻めてくるのですか。しかも連邦軍の代わりにアルテローゼに迎撃に出ろと。どうして連邦軍が出撃せず、アルテローゼに出撃依頼が来るのですか?」
『連邦軍の状況なのだが、いまだ軍の再編を終えておらず、組織だった動きができない状況なのだ。それに偵察衛星の画像を分析した結果、どうも近づいてくる敵は一機で巨人の同類のようだ。つまり、連邦軍を向かわせても大シルチス高原の戦いの二の舞となるだろう。私はそんな無謀な命令を出したくはないのだよ』
連邦軍が出撃せず、アルテローゼだけに出撃命令が下るのかと憤るヴィクター。それに対してオッタビオ少将は、連邦軍は動かせないし、もし迎撃に出せても勝てないと軍の本音を明かすのだった。
『アルペンローゼは、単騎で首都に進行した革命軍を壊滅させた。それにあの巨人に勝っている。連邦軍が動けない今、君たちにしか頼めないのだよ』
オッタビオ少将は、ヴィクターに身勝手にそう言うと、これは誠意のつもりなのか深々と頭を下げた。
「司令、何度も言いますが、あれの名称はアルテローゼです。それと、アルテローゼは、確かに巨人に勝ちましたが、元々実験機レベルの機体です。装甲もナノカーボン繊維強化プラスティック製ですし、戦闘用の武装は搭載していません。そのため、巨人との戦いで勝利はしましたが、機体は大破しました。パイロットが無事であり、巨人に勝てたのは奇跡に近いことなのです」
ヴィクターは、いろいろと理由をつけてアルテローゼの出撃を渋る。それはアルテローゼは実験機であり戦闘用でないことが主な理由だが、それ以上に大きな理由がヴィクターにはあった。
「そして、現在アルテローゼは、パイロットとして私の娘…レイチェルが搭乗しないと動かないのです。どうして私のかわいい娘を戦場に送り出せますか」
ヴィクターは胸ポケットからレイチェルの写真を撮りだして、オッタビオ少将に見せつけてそう訴えるのだった。
実はAIであるレイフは目覚めたが、レイチェル以外ではアルテローゼを動かすことができなかったのだ。レイチェル以外がコクピットに座って操縦しようとすると、機体制御プログラムが不調となり、普通に歩くことさえできなかった。レイチェルを再び乗せたくなかったヴィクターは、必死に調査したのだが、その原因は未だ不明のままだった。
『かわいい娘さんだ。確かに父親であるヴィクター君が出撃を命じたくなるわけだ。だが、連邦軍の兵士も皆同じなのだよ。それに娘さんは仮とはいえ士官候補生として軍に登録されている。先の戦いでもパイロットとして素晴らしい働きを見せたそうじゃないか。軍のオペレータが戦闘データを分析して絶賛していたよ。それに君の娘と言うことは頭も良い。これは将来有望な軍人になること請け合いだぞ』
オッタビオ少将は、無責任にレイチェルを褒め称えると、ハハハと笑うのだった。
「(ふざけるなこの狸親父が、誰が娘を軍人などにするものか)はあ、確かにうちの娘は優秀ですが、心優しいもので、軍人には向いておりません」
ヴィクターは表面は娘を褒められてうれしがる父親を演じるが、父親として間違っても娘を戦場に送るつもりはなかった。
「お父様は、ここにいらっしゃるのですね。先ほどの件、じっくりとお話しさせて…」
そこに、ヴィクターを追いかけてきたレイチェルが扉を開けて入ってきた。
「チッ、レイチェル、入るときはノックぐらいしなさい」
ヴィクターは部屋に鍵をかけ忘れていた自分の迂闊さを呪うが、後の祭りである。
『おお、貴方がレイチェルさんかね。私は地球連邦軍・火星派遣部隊の司令を務めるオッタビオ少将です。うむ、実物は写真よりお綺麗だ』
「まあ、通話中でしたの。これは失礼しましたわ。初めまして、私はヴィクターの娘レイチェルです」
レイチェルは、優雅にオッタビオ少将に挨拶をする。綺麗と言われて少しうれしかったのか、ほほが少し赤い。
「レイチェル、今は大事な話をしているところなのだよ。先ほどの話はまた後で…」
『いや、ちょうど良い。ここは当人にも聞いてもらうべきだろう』
ヴィクターはレイチェルを部屋から追い出そうとしたが、オッタビオ少将がそれを引き留める。
「いや、娘にはまだ…(レイチェル、早く出て行くんだ)」
これは不味いと、ヴィクターはレイチェルに部屋を出て行くように視線で促すが、彼女はそれに気付かなかった。
『いや、アルテローゼが彼女にしか動かせないのであれば、話を聞いて貰うべきだ。レイチェルさん、革命軍がまた攻めてくるのだよ』
「もしかしてまた敵が攻めてきたのですか?」
そしてレイチェルは、再び革命軍が攻めてきたことを知る。そして彼女の瞳にはある決意がみなぎっていた。
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