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第4話:黒い影
Bパート(3)
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真っ暗な空間にぽつんとレイフが浮かんでいた。カッパ禿げの片目で出っ歯に身長が低い醜男という生前の姿のレイフは、周囲をキョロキョロと見回す。
『一体全体どうなっておるのじゃ。真っ暗で何もないのじゃ』
レイフは、首を傾げて自分に何が起こったかを思い出そうとした。
『確か、至高のゴーレムを作ろうとして、帝国を出奔したはずだったのじゃ。いや究極だったかな?』
暗闇にレイチェルの姿が浮かび上がる。
『そう、これじゃ、レイチェルを儂は作ったのじゃ。………いや、その途中で儂は殺されたのじゃったな?』
レイフの前に彼を殺した勇者パーティの姿が浮かび上がる。
勇者パーティは、レイチェルのコアを作成するため動けないレイフをいとも容易く殺してしまった。あの時レイフが賢者の石をあきらめれば、レイチェルを普通のゴーレムで我慢すれば、あんな事にはならなかったのだ。レイフは全くバカなことをしたのだった。
『うるさい。死んでまでそんな事をナレーションに言われる筋合いはないわい』
レイフは勇者パーティの姿を手でなぎ払って消し去る。
『大体、レイチェルは完成した…いや、あれはレイチェルじゃなかったのじゃ。レイチェルに本当にそっくりな人間…いや少女だったのじゃ』
再びレイチェルの姿が闇に浮かび上がるが、今度はレイフの作ったゴーレムではなく、人間であるレイチェルの姿だった。
『どうしてレイチェルそっくりの少女が存在するのじゃ? レイチェルにうり二つの人間が存在するなど、ドラゴンが人間とハーフを作る方がまだ可能性があるのじゃ』
ちなみにレイフが筆頭魔道士を勤めていた帝国皇帝は、一族はドラゴンの血を引いていると主張していた。まあ、敵対国からは帝国の貪欲な征服願望から先祖はスライムじゃないかと言われていた。現実として、ドラゴン・ハーフもスライム・ハーフも存在するわけがないとレイフは信じていた。
『そうじゃった、儂はレイチェルと出会ったのじゃ。そして機動兵器として戦ったのじゃ』
レイチェルの横に同じサイズのアルテローゼの姿が浮かび上がった。
『うむ、こうして見るとアルテローゼは帝国時代の戦闘ゴーレムよりもスタイリッシュなのじゃ。科学とやらで作られたゴーレムは、動きが素晴らしかったのじゃ。次に儂が作るゴーレムは、あれを参考にして作るのじゃ』
魔法で体を変形させて動くゴーレムに比べて、人間の体を模した内骨格と筋肉に替わる超電磁アクチュエータ。そしてその上に鎧となる外装を重ねるという構造は、人間と同じ動きをさせるには最適な構造だった。
『…しかし、そのアルテローゼも壊れてしまった…のじゃ。そうじゃ、儂は死んでしまったのじゃ』
アルテローゼの姿がかき消すように消えてしまう。
レイフは自分が…アルテローゼが壊れてしまい、二度目の死を迎えたのだと、ようやく自覚したのだった。
『しかし死んだはずなのに、何故儂はこんな所に存在しておるのじゃ? まさかこんな暗闇が死後の世界とでもいうのか?』
レイフは再び周囲を見回すが、やはり真っ暗闇の世界が広がるばかりであった。
『儂の事じゃ、天国へ逝けるはずもないのじゃが、こんな真っ暗闇に一人で居るぐらいなら、地獄に落ちて悪魔に釜ゆでにされる方がましなのじゃ。…しかしどうしてレイチェルは消えないのじゃ?』
アルテローゼは消えてしまったのにレイチェルの姿はまだ残っていた。
『どうしてなのじゃ』
レイフは、レイチェルの姿に手を伸ばす。しかしレイチェルはその手から逃れ遠ざかっていく。
『ま、待つのじゃレイチェル。儂を…儂を一人にしないでほしいのじゃ』
レイフは遠ざかっていくレイチェルの姿を必死で追いかけた。しかし小男のレイフは、必死に走るがレイチェルに追いつけない。
『レイチェル』
レイフがあらん限りの力を振り絞って、名前を呼ぶ。するとレイチェルが立ち止まった。そしてその頭上から光が降り注いだ。
真っ暗だった空間に光を浴びてたたずむレイチェルは女神もかくやという神々しい姿であった。
レイフはその姿に向かって走りだす。そう、レイチェルの側に行かなければならないという義務感までレイフは感じ始めた。
再びレイチェルに向かって走り始めるレイフ。しかしレイフの脚が突然何者かに掴まれて、彼は転んでしまった。
『一体何なのじゃこれは?』
レイフが自分の脚を掴んでいるモノを見ると、それは闇が凝縮したような黒い手であった。レイフは必死でその黒い手を振りほどこうとするが、手はなかなか脚を離してくれない。それどころか周囲の闇から無数の黒い手が現れると、レイフを掴みレイチェルから引き離そうとするのだった。
『ええい、離すのじゃ。儂はレイチェルの所に行くのじゃ』
しかし黒い手はレイフを離さない。彼はそのまま闇の彼方に運び去られようとした。
いや、その手の先には赤い目を持った漆黒の影がレイフを待っていた。
『アレは、一体…』
レイフはなぜかその漆黒の影に懐かしさと、不快感の両方を感じ動きを止めてしまった。そしてレイフはそのまま影の方に引っ張られていく。
『…レイフ、返ってきて』
レイチェルから光の筋がレイフに向かって伸びたのは、その時であった。その光の筋は、光の綱となりレイフの手を体に巻き付く。そして光の剣となり黒い手をことごとく切り裂いていった。
『レイチェル?』
光の綱はレイフを包み込み繭となる。光に包まれたレイフは、再びレイチェルの声を聞く。
「お願い! レイフ返ってきて」
レイチェルの声が闇を切り裂き、レイフを光りあふれる世界に押し出す。
『儂は…また生き返ったのか?』
「レイフ、本当にレイフですの?」
レイフにはアルテローゼのコクピットで泣いているレイチェルの姿が見えた。つまり彼は再びアルテローゼとして蘇ったのだ。
『儂は儂だぞ。レイフ以外の何物でも無い。それでどうしてレイチェルは泣いているのだ?』
「誰が嫁なのですか。やっぱりレイフですわ。お父様、本当にレイフが戻ってきましたわ」
そう言ってレイチェルは、うれし涙を流すのであった。
『一体全体どうなっておるのじゃ。真っ暗で何もないのじゃ』
レイフは、首を傾げて自分に何が起こったかを思い出そうとした。
『確か、至高のゴーレムを作ろうとして、帝国を出奔したはずだったのじゃ。いや究極だったかな?』
暗闇にレイチェルの姿が浮かび上がる。
『そう、これじゃ、レイチェルを儂は作ったのじゃ。………いや、その途中で儂は殺されたのじゃったな?』
レイフの前に彼を殺した勇者パーティの姿が浮かび上がる。
勇者パーティは、レイチェルのコアを作成するため動けないレイフをいとも容易く殺してしまった。あの時レイフが賢者の石をあきらめれば、レイチェルを普通のゴーレムで我慢すれば、あんな事にはならなかったのだ。レイフは全くバカなことをしたのだった。
『うるさい。死んでまでそんな事をナレーションに言われる筋合いはないわい』
レイフは勇者パーティの姿を手でなぎ払って消し去る。
『大体、レイチェルは完成した…いや、あれはレイチェルじゃなかったのじゃ。レイチェルに本当にそっくりな人間…いや少女だったのじゃ』
再びレイチェルの姿が闇に浮かび上がるが、今度はレイフの作ったゴーレムではなく、人間であるレイチェルの姿だった。
『どうしてレイチェルそっくりの少女が存在するのじゃ? レイチェルにうり二つの人間が存在するなど、ドラゴンが人間とハーフを作る方がまだ可能性があるのじゃ』
ちなみにレイフが筆頭魔道士を勤めていた帝国皇帝は、一族はドラゴンの血を引いていると主張していた。まあ、敵対国からは帝国の貪欲な征服願望から先祖はスライムじゃないかと言われていた。現実として、ドラゴン・ハーフもスライム・ハーフも存在するわけがないとレイフは信じていた。
『そうじゃった、儂はレイチェルと出会ったのじゃ。そして機動兵器として戦ったのじゃ』
レイチェルの横に同じサイズのアルテローゼの姿が浮かび上がった。
『うむ、こうして見るとアルテローゼは帝国時代の戦闘ゴーレムよりもスタイリッシュなのじゃ。科学とやらで作られたゴーレムは、動きが素晴らしかったのじゃ。次に儂が作るゴーレムは、あれを参考にして作るのじゃ』
魔法で体を変形させて動くゴーレムに比べて、人間の体を模した内骨格と筋肉に替わる超電磁アクチュエータ。そしてその上に鎧となる外装を重ねるという構造は、人間と同じ動きをさせるには最適な構造だった。
『…しかし、そのアルテローゼも壊れてしまった…のじゃ。そうじゃ、儂は死んでしまったのじゃ』
アルテローゼの姿がかき消すように消えてしまう。
レイフは自分が…アルテローゼが壊れてしまい、二度目の死を迎えたのだと、ようやく自覚したのだった。
『しかし死んだはずなのに、何故儂はこんな所に存在しておるのじゃ? まさかこんな暗闇が死後の世界とでもいうのか?』
レイフは再び周囲を見回すが、やはり真っ暗闇の世界が広がるばかりであった。
『儂の事じゃ、天国へ逝けるはずもないのじゃが、こんな真っ暗闇に一人で居るぐらいなら、地獄に落ちて悪魔に釜ゆでにされる方がましなのじゃ。…しかしどうしてレイチェルは消えないのじゃ?』
アルテローゼは消えてしまったのにレイチェルの姿はまだ残っていた。
『どうしてなのじゃ』
レイフは、レイチェルの姿に手を伸ばす。しかしレイチェルはその手から逃れ遠ざかっていく。
『ま、待つのじゃレイチェル。儂を…儂を一人にしないでほしいのじゃ』
レイフは遠ざかっていくレイチェルの姿を必死で追いかけた。しかし小男のレイフは、必死に走るがレイチェルに追いつけない。
『レイチェル』
レイフがあらん限りの力を振り絞って、名前を呼ぶ。するとレイチェルが立ち止まった。そしてその頭上から光が降り注いだ。
真っ暗だった空間に光を浴びてたたずむレイチェルは女神もかくやという神々しい姿であった。
レイフはその姿に向かって走りだす。そう、レイチェルの側に行かなければならないという義務感までレイフは感じ始めた。
再びレイチェルに向かって走り始めるレイフ。しかしレイフの脚が突然何者かに掴まれて、彼は転んでしまった。
『一体何なのじゃこれは?』
レイフが自分の脚を掴んでいるモノを見ると、それは闇が凝縮したような黒い手であった。レイフは必死でその黒い手を振りほどこうとするが、手はなかなか脚を離してくれない。それどころか周囲の闇から無数の黒い手が現れると、レイフを掴みレイチェルから引き離そうとするのだった。
『ええい、離すのじゃ。儂はレイチェルの所に行くのじゃ』
しかし黒い手はレイフを離さない。彼はそのまま闇の彼方に運び去られようとした。
いや、その手の先には赤い目を持った漆黒の影がレイフを待っていた。
『アレは、一体…』
レイフはなぜかその漆黒の影に懐かしさと、不快感の両方を感じ動きを止めてしまった。そしてレイフはそのまま影の方に引っ張られていく。
『…レイフ、返ってきて』
レイチェルから光の筋がレイフに向かって伸びたのは、その時であった。その光の筋は、光の綱となりレイフの手を体に巻き付く。そして光の剣となり黒い手をことごとく切り裂いていった。
『レイチェル?』
光の綱はレイフを包み込み繭となる。光に包まれたレイフは、再びレイチェルの声を聞く。
「お願い! レイフ返ってきて」
レイチェルの声が闇を切り裂き、レイフを光りあふれる世界に押し出す。
『儂は…また生き返ったのか?』
「レイフ、本当にレイフですの?」
レイフにはアルテローゼのコクピットで泣いているレイチェルの姿が見えた。つまり彼は再びアルテローゼとして蘇ったのだ。
『儂は儂だぞ。レイフ以外の何物でも無い。それでどうしてレイチェルは泣いているのだ?』
「誰が嫁なのですか。やっぱりレイフですわ。お父様、本当にレイフが戻ってきましたわ」
そう言ってレイチェルは、うれし涙を流すのであった。
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