ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

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第4話:黒い影

Aパート(2)

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 アルテローゼのドリルがギュルギュルと巨人の腹部に潜り込んでいく。

『これで終わりなのじゃ』

「ええ、貴方が与えた絶望を全て返してあげますわ」

「うち貫きますわ」『貫くのじゃ』

 レイフとレイチェルの声がハモった瞬間、ドリルは巨人の腹部を貫通し、ゴーレムの核を貫くのをレイフは感じ取った。

 ぴくりとも動かなくなった巨人からドリルを引き抜くと、ゆっくりと仰向けに倒れていった。

「倒しましたわね」

『うむ、そうじゃな。儂とレイチェルにかかればこのような敵などたやすい物じゃ』

「誰が嫁なのですか? アルテローゼ、今度じっくりとその件に関して話し合いましょう」

 レイチェルはそう言ってモニターに微笑みかけるが、

「巨人は倒しました…ですが、シャトルの人達は…」

 レイチェルは巨人に勝利した喜びをかみしめる間もなく、撃墜されたシャトルを思い表情を曇らせた。

『レイチェル、無事か。巨人を倒したのか』

 そこにレイチェルの父、ヴィクターから通信が入った。どうやら巨人と戦っている間、通信妨害が入っていたらしく、ヴィクターはアルテローゼの状況が把握できていなかったのだ。

「ええ、お父様。私とアルテローゼで巨人は倒しましたわ。…ですが、シャトルの皆さんは…」

 レイチェルの顔が悲しみに染まる。レイフは、『(そんな悲しむ顔のレイチェルも綺麗だと)』映像に見入っていた。

『そうか…本当に巨人を倒したのだな。さすが私の娘だ。シャトルの方は残念だが、お前が全力を尽くしたと私は信じているよ』

 ヴィクターはレイチェルの無事な姿を見て、胸をなで下ろしていた。正規の軍人でもないレイチェルが、(制作者が言うのもおかしいが)怪しい試作機以前の機動兵器に乗って出撃したのだ、不安に思わないわけがなかった。

「お父様、御心配をおかけしました。それで革命軍の兵士さんですが、どうすれば良いのでしょうか?」

『そちらは、今軍と首都警察が空港に向かっている。彼等が革命軍の兵士達を何とかするつもりらしいのだが…彼等の装備では、とても革命軍とは戦える状態ではない。そこで、アルテローゼで革命軍の兵士に武装解除に応じるように説得してほしいと、協力を依頼されたのだが…。レイチェル…大丈夫か』

 ヴィクターは申し訳なさそうな顔になる。

「…はい、お父様。アルテローゼと一緒であれば大丈夫ですわ」

 レイチェルは、ヴィクターにそう答えるのだった。

『(アルテローゼレイフと一緒であれば大丈夫です。じゃと…)』

 一方、レイフはレイチェルの一緒という言葉が頭の中(一体何処?)でリフレインしていたのだった。





「アルテローゼ、革命軍の兵士さんの状況を表示できます?」

 レイチェルは、レイフにそう命じるが、

『そろそろ儂をアルテローゼと呼ぶのは止めるのじゃ。儂の名はレイフなのじゃ』

 レイフは、レイチェルが自分をアルテローゼと呼ぶことに不満を感じていた。

「レイフ? 何を言っているの? 貴方は、アルテローゼではありませんか?」

 レイチェルは頭上にハテナマークを浮かべて、首をかしげる。

『アルテローゼはこの機体の名前じゃ。今現在レイチェルと話している儂が、レイフなのじゃ』

「はぁ、それは一体どういうことなのでしょうか。…もしかしてお父様はAIに機体と異なった名称を付けておられたのでしょうか? ではこれから貴方をレイフと呼ぶのですね。しかし戦っていた間ずっと思ってましたが、レイフはまるで人間のように話すのですね

 レイチェルは、レイフを「レイフ」と呼ぶ事を了解したが、その認識はアルテローゼのAIであるという前提の認識であった。

『いや、儂はAIではないのじゃ。帝国の筆頭魔道士、世界最高のゴーレムマスター・レイフなのじゃ。どうしてか一度死んだ儂の意識が、このアルテローゼとか言う機動兵器に乗り移ったのじゃ』

 レイフは、懸命に自分が置かれている状況を説明するのだが、

「はいはい、誰が入力したのか知らないけど、変なキャラクター設定が入っているのですね。話し方も酷くおじさんぽいですわ。お父様、もしかしてこんな設定データを入力されたので、AIがずっと起動しなかったのではありませんか?」

 レイチェルは、レイフの説明をAIのキャラ設定と受け取ってしまったようだった。

『私はそんなデータものを入れた覚えはないのだが。研究員の誰かが入れたのだろうか。まあ、AIの方は戻ってから再度調整することにしよう』

『まて、儂はそんな設定・・だけの存在などでは…う゛ぉ…』

 レイフがヴィクターに話をしようとした時、アルテローゼの機体が巨大な力で締め付けられたのだった。

「きゃあぁぁ」

 フォーリングコントロールによって守られているコクピットで、レイチェルはシートから投げ出された。それほどの急激な衝撃が機体に加えられたのだ。

『レイチェル、どうした。何が…お…き…』

 ヴィクターとの通信が、急にノイズだらけになると、途絶してしまった。

『馬鹿な、確かにコアを破壊したはず…』

 アルテローゼレイフが振り向くと、そこには貫かれた胴体を修復し、左足も今現在つながり掛けていた巨人の姿があった。アルテローゼは巨人の両手で胴体を捕まれた状態であった。


 巨人のコクピットでは、チャンが触手によってつり下げられた状態でブツブツと「オレハマケナイ…」と呟いていた。目の前のモニターにはアルテローゼの姿が映っており、チャンの虚ろな目はそれを見ていた。


「アルテローゼ、いえレイフ、これは一体どういうことですの」

 振り回されるアルテローゼのコクピットで、レイチェルは必死にシートにしがみついていた。巨人の両手で捕まれて振り回されている状態のため、シートに戻る事すらできずにいるのだ。

『巨人が復活したのじゃ。このままじゃまずいのじゃ』

 巨人はアルテローゼを握りつぶそうと、両手に力を込めている。既に機体の外装は砕け落ち、内部のフレームだけで耐えている状態だった。

『ハード・スキンを施したが、何時までも保たないのじゃ。このままでは握りつぶされてしまうのじゃ』

 レイフは機体の各所にハード・スキンの小さな魔法陣を出現させて、機体の強度を上げることで何とか圧壊を免れている状況だった。ちなみにハード・スキンとは、かけた対象の硬度や強度をあげる魔法で、通常は鎧にかける物である。

「何とか逃げられませんの」

『やっておるが、効果は薄いのじゃ』

 右手のドリルで巨人の腕を砕こうとしているが、巨人の腕はダメージを受けた端から修復されていく。

『(こんな無茶な修復をするとは、術者は何を考えておるのじゃ。これでは魔力マナがいくらあっても足りぬぞ)』

 レイフは巨人を修復している術者の行為に驚いていた。ゴーレムの破壊された部位の修復はもっと時間をかけてやる物であり、それでも多量の魔力マナが必要とされる。下手をすれば作り直した方が早い場合もあるくらいである。それをこの短期間で継続して修復するには、レイフでも行うのを躊躇うほどの魔力マナを必要とするのだ。

「きゃぁ」

 アルテローゼのコクピットが、不気味な軋み音とともに歪みレイチェルが悲鳴を上げる。

『(どうやってこの状況を打破するか…)』

 レイフは筆頭魔道士として様々な攻撃魔法を取得していた。ただ、本職がゴーレムマスターである彼の使う魔法は、触媒や魔法陣の構築が必要な大規模魔法であり、個人戦等に使えるような魔法の手持ちは少ない。それもこんなに機体が密着した状態で使える物ではないのだ。

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