ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

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第4話:黒い影

Aパート(1)

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 炎に囲まれた巨人の中。外は鉄をも溶けてしまうような高温だが、巨人の中は少し汗が出る程度である。
 しかし、チャンはその巨人の中で汗だくになっていた。

「くそー、脚が痛いぜ」

 自身の脚が破壊されたわけではないが、巨人の脚が壊された感覚はチャンにフィードバックされていた。しかし彼が汗を流しているのはそれだけが理由ではなかった。

「もっと狙って炎を吐き出せ。あの人型をさっさと倒すんだ。くそっ、どうして当たらないんだよ」

 連続で炎弾を吐き出すチャンだが、彼は心臓の鈍痛を感じていたのだった。炎を吐き出すたびにその鈍痛は激しくなっていくが、アルテローゼを近づかせない為には、炎弾を吐き出すことはやめられないのだった。




 巨人の周りで隙をうかがいながら、レイフは魔力マナが尽きるタイミングを計っていた。そして、巨人から吐き出される炎弾の感覚とその威力が弱まってきたことで、魔力マナが尽きる時が近いことに気付いたのだった。

『そろそろじゃな』

「そろそろ?」

『後3-4発も撃てば、それであの大型ゴーレム巨人も弾切れじゃ』

「本当ですの?」

『帝国の筆頭魔道士の言うことを信じられぬのか?』

「帝国? 筆頭魔道士? アルテローゼのAI貴方は変な事を言いますのね。 …確かにもう限界のようですわね」

 レイチェルも巨人が炎弾を吐き出す間隔が開いてきたことに気づくと、両手のスティックを握りしめた。

『炎弾が出なくなれば突入できるが、これ以上近づくと、あの飛んでくる手を避けられぬかもしれぬぞ…』

 レイフとしてはそんな博打のような攻撃を仕掛けたくはないのだが、

「あの手ですか。おそらくそれは気にしなくても、大丈夫ですわ」

 レイチェルは何か考えがあるのか、飛んでくる手を気にせずに巨人に突撃するつもりだった。

『(儂はレイチェルには逆らえないからの~。仕方ないのか)分かったのじゃ。突入のカウントを合わせるのじゃ』

 アルテローゼレイフは、レイチェルにそう言ってカウントダウンを開始した。

フュンフフィーア、』

 レイフはなぜかドイツ語でカウントダウンを始める。そのカウントダウンと同時に、アルテローゼの背中のランドセル駆動が地面に設置寸前まで下りる。

「スリー、ツー」

アインス

「ゼロ!『ヌル』」

 巨人から最後の炎弾が吐き出されると同時に、ランドセルは地面に叩きつけられ、既に限界まで回っていたタイヤが地面を蹴り飛ばす。炎弾を紙一重で避けてアルテローゼは、危険領域に飛び込んだ。


「そう来るのは、こっちもお見通しだぜ」

 アルテローゼの突撃は、チャンにとっても想定内であった。左脚が破壊されている為、蹴りを出すことはできないが、手は飛ばすことができる。その最後の一撃を繰り出すだけのをチャンは残しておいた。そしてこの距離で外すわけがないとチャンは確信していた。

「喰らいやがれ」

 必殺の気合いを込めてチャンが両手を飛ばす。だが手は飛ばなかった。

「何でだ、どうして飛ばねー」

 両手のスラスターは炎を吹き上げているのに、手は肘から離れようとしなかった。手が離れない理由は、両腕の肘にしがみついていたゴーレムの残骸だった。両腕で破壊されたゴーレムの残骸は、他のゴーレムと異なり粘土質の物だったのだ。つまり、巨人の炎で焼かれた粘土は陶器のように堅くなり、それが巨人の腕が離れるのを妨げていたのだが。
 レイチェルは、そうなることを察していたため、手が飛んでこないと信じていたのだった。

「どうして、あの土が邪魔で手がくっついている…だと? うぎゃーっ」

 手が飛ばないことに動揺したチャンに対して、アルテローゼレイフはその隙を見逃さなかった。
 グランドフォームによって加速したアルテローゼは、その突進力を乗せたドリルをランスチャージよろしく巨人の腹部に突き刺したのだ。巨人の腹部は、分厚い金属製の鎧で覆われていたが一点突破を狙ったアルテローゼの攻撃によって貫かれていた。

「アルテローゼ、貫くのです」

『分かったのじゃ。全力で貫くのじゃ』

 レイチェルがスティックを前に倒すと同時に、ドリルを軸に巨大な魔法陣が浮かび上がった。先ほど左足を貫いたときの数倍の大きさの魔法陣がレイフの魔力マナによってギュルギュルと回転し始める。ドリルは巨大な魔法陣によって生み出される回転エネルギーによって一気に巨人の胴体に沈み込んでいった。

「ぐはっ」

 巨人のコクピットで、チャンは腹を抱えて血反吐を吐き出した。巨人を思いのままに操るシステムは巨人が受けたダメージを彼にそのままフィードバックしてしまったのだ。

「こっ、こんな事で負けるのか…オレハ。あのクルシカッタ頃にモドルノカ」

 チャンの脳裏に浮かんだのは、火星のスラム街で生まれてからの苦しい生活だった。
 鉱山労働者相手の風俗嬢だった彼の母は、誰が父とも分からないチャンを産み落とすと、彼を捨てて別な町に行ってしまった。チャンは親の顔も名前も知らぬまま火星の孤児院で育ったが、その孤児院の院長は児童を労働者として働かせるどうしようもない奴だった。地球でも産業革命時代に子供が炭鉱で働かされたことがあったが、同様にチャンも地球企業へ希少鉱物を売る闇鉱山で働かされていた。鉱山は機械化されているため、それが操作できるなら子供でも働けるし、体の小さな子供は鉱山では以外と役に立つのだ。
 鉱山の事故で、チャンと同じ孤児院にいた子供が何人も死んだ。しかし元々戸籍すらない状況では誰も救いの手をさしのべてくれなかった。
 チャンは院長をそして彼と取引をする地球企業を、そして自分たちを助けてくれなかった地球連邦政府を恨んだ。

 そんなチャンがサトシと出会ったのは、火星革命戦線がその闇鉱山を襲撃した際の事だった。闇鉱山を襲っても連邦政府に助けを求めることはできない。それに地球の企業としては誰が鉱山を支配しても、希少鉱物を撃ってくれれば良いのだ。火星革命戦線は闇鉱山を占領し、孤児院の院長を児童虐待の犯罪者として自警団に引き渡した。

 サトシに救われたチャンが火星革命戦線に加わったのは当然の成り行きだった。しかし、子供の頃から鉱山で働かされていた彼にできることは少ない。チャンは革命軍の中でも下っ端扱いであり、資金集めのために結局鉱山で働くことしかできなかった。

 そんなチャンをサトシは巨人のパイロットに選んだのだ。チャンはこれでサトシに恩返しが…いや以外の連中への復習ができると思ったのだ。

「オレハ負けない…」

 コクピットで倒れているチャンの手足に周囲から触手のような物が巻きつく。チャンはそのまま貼り付けにされたようにコクピットにつり下げられた。既に正気を失っているのか、チャンの瞳はうつろな状態であり、「オレハ負けない…」と繰り返しつぶやくだけだった。
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