ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

文字の大きさ
上 下
22 / 143
第3話:巨人の慟哭

Bパート(5)

しおりを挟む
 左右の腕を避けたアルテローゼレイフは、巨人にあと一歩で手が届くところまで近寄っていた。射出した腕は背後の重機部隊を突き抜けて言ったため、巨人は今両腕が無い状態だった。

『腕が戻らぬうちに倒してしまうのじゃ』

 アルテローゼレイフが右手のドリルを振るうために、一歩進もうとした時、

「いけませんわ」

 レイチェルがスティックを引いてアルテローゼを下がらせる。

『何をするのじゃ、レイチェル

 レイフはレイチェルの指示に従って機体をバック・ステップさせながら文句を言うが、

「誰が、嫁ですか。あれは誘いです」

 怒り狂って突撃を命じていたレイチェルが、突然冷静にそんなことを言い出す。

『誘いじゃと。何を言っておる…』

 レイフが再び文句をつけようとしたところで、アルテローゼレイフの目の前に炎弾がたたきつけられた。レイフが後一歩踏み出していたら、恐らくその炎に包まれていた事は明白だった。どのような状況でも的確な判断を下せる…レイチェルが有人機動兵器のパイロットとして類い希な適正を持っていることが、再び証明されたのだ。

 一方巨人のコクピットでは、

「これでも喰らえ~って、これも避けるのかよ。ありえねーぞマジで」

 チャンは、必殺を狙った炎弾が避けられた怒りで床を蹴り飛ばしていた。
 チャンはアルテローゼが重機部隊から奪った盾を持っていることを見て、普通に炎弾を撃っても避けられると考え、地面にあえて打ち込むことを考えたのだ。しかし、その企みもレイチェルの的確な判断で失敗に終わってしまった。

『しかし、これではうかつに飛び込めないのじゃ』

 一方、アルテローゼレイフも接近すると上から炎弾が飛んでくると分かり、唯一の攻撃手段であるドリルがとどく位置まで踏み込めずにいた。
 巨人の周りをグルグルと回り隙を窺うが、巨人もその動きに軽々と追従し、そうそう隙は見せてくれなかった。

 このままでは千日手になってしまうと、レイフが思ったとき、

「いけ、ちびっ子達」

 レイチェルは、いつの間にかちびっ子と名付けていたクレイ土塊・ゴーレム達を巨人に突っ込ませた。アルテローゼに置いてきぼりにされていたゴーレム達だったが、ようやく追いついてきたところだった。半数ほどが巨人の手で破壊されてしまったが、それでも30体程残っていたゴーレム達は背後から巨人に襲いかかった。

「こんな奴らにやられるかよ~」

 背後からクレイ土塊・ゴーレムに襲いかかられた巨人は、脚でゴーレム達を蹴りつけて破壊するが、それで倒せたのは数体程度であった。残りのゴーレムは巨人の体によじ登り、その体を叩き始める。

「ええぃ、うっとうしいぞ。腕よ早く戻ってこい」

 チャンの呼び声に、腕が大急ぎで戻ってくる。そして再び元の位置に接続しようとした時に、レイチェルが叫んだ。

「ちびっ子達、腕に取り付きなさい」

 数体のクレイ土塊・ゴーレムが腕の接合部に取り付き、腕の合体の邪魔をする。しかし、腕はゴーレムを潰しながらも強引に元に戻るのだった。
 そして巨人はそろった両腕で、体に群がるゴーレム達を叩きつぶしていった。

『このままでは、クレイ土塊・ゴーレムが全部破壊されてしまうのじゃ。今のうちに攻撃するのじゃ』

 レイフは、レイチェルに攻撃を促すが、

「まだですわ。もう少し待つのです」

 叩きつぶされるゴーレム達の姿を唇を噛みしめながら見つめ、レイチェルはレイフに待つように指示を出した。

「ふっ、大したことないな此奴らは」

 巨人の装甲と質量を相手にするにはクレイ土塊・ゴーレムは小さすぎた。それに元々土から作られたゴーレムは、強度が低く、取り付いて鎧に腕を叩きつけていたが、逆に腕が壊れる有様だった。そして巨人手によって、ゴーレム達は元の土くれに戻ってしまった。巨人の体はクレイ土塊・ゴーレムの残骸により、土まみれになってしまった。

 そのときだった、

「アルテローゼ、攻撃を仕掛けるのは今です」

 レイチェルが、レイフに攻撃を命じる。

『また、炎弾が飛んでくるのではないか?』

「いいから、側面に回り込んで、攻撃するのです」

『分かったのじゃ』

 アルテローゼレイフは、レイチェルの指示に従い、巨人の左側面に回り込んで攻撃を仕掛けようとする。もちろん巨人はそれに追従し体の向きを変えようとしたのだが…。

「体が重いぜ。いってー何がおきたんだ?」

 その時になって、チャンは、巨人を重いとおりに動かせないことに気付くのだった。

 そう、巨人が動けなくなった原因は、クレイ土塊・ゴーレムの残骸である土のためだった。体に張り付いたクレイ土塊・ゴーレムを叩きつぶしたため、残骸の土が巨人の鎧の隙間にくまなく詰まってしまっていた。それが単なる土であれば問題も小さかっただろうが、クレイ土塊・ゴーレムは滑走路の側にある土で作られており、その体には細かな砂利が多数詰まっていたのだ。そんな物が鎧と本体の隙間に詰まったのだ、巨人が動こうとしても自由がきかないのも当たり前である。

『(レイチェルはこうなることを読んでクレイ土塊・ゴーレムを破壊させたのか…。我が嫁、恐るべしなのじゃ)』

「さあ、貴方の罪を数える時間ですわ」

 レイチェルの気合いの入ったスティック操作が、アルテローゼレイフに力を与える。レイフは、右手のドリルを錬金術の工作魔法陣で回転させると、左足の鎧の隙間にねじ込んだ。

 ガッ、ギリギギギギギと異音を立てて、巨人の脚にドリルが食い込んでいく。

「…クッ、パワーが足りませんの?」

 半ばほどまでドリルは食い込んだが、それ以上は進まない。レイチェルは一旦下がるようにスティックを操作するが、右手が抜けないためアルテローゼは立ち止まってしまった。このままでは、巨人の腕に叩きつぶされてしまう。

「動きが止まったな。体は動かなくても腕は動くんだぜ!」

 チャンが吠えると、巨人はその腕をアルテローゼに叩きつけるべく振りかぶった。

『そうはさせぬぞ、ドリル全開なのじゃ』

 シャトルが撃墜された時にアルテローゼレイフに流れ込んだ魔力マナをドリルを回転させる魔法陣に流し込んだ。魔力マナによってその強度と回転力を強化されたドリルは、一気に巨人の脚を貫き破壊してしまった。

「グギャーッ。俺様の脚が~」

 脚を破壊された事が、チャンにどうフィードバックされたのか、巨人は天を仰いで慟哭するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

処理中です...