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第2話:宣戦布告
Aパート(1)
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火星の赤道付近に広がるタルシス地方。その地名は聖書から世界の西の果てにある土地であるタルシシュから名付けられた。そしてタルシス地方には火星、いや太陽系最大と言われるオリンポス山がそびえている。標高25,000メートルとエベレストの三倍以上の高さを誇るオリンポス山は休火山であり、その高さから周囲には雲が発生し雨が降るため、その麓は溶岩台地ではあったが、植物が生い茂るのにふさわしい条件が整っていた。またオリンポス山から流れ出す豊富な水は、火星を縦横に走る運河に供給されていた。
そのオリンポス山から少し南に下がったところにあるタルシス三山と呼ばれる三つの火山との間に、火星最大の鉱山都市オリンポスが存在する。
火山であるオリンポス山は地中から様々な鉱物資源をはき出しており、それが巨大な鉱床となって存在している。オリンポスはその鉱床から稀少な金属を掘り出し、加工して地球へ送り出すためにできた都市である。地球資本の企業が多数存在し、火星資本の企業は鉱山開発に入れないという、地球から最も搾取されていると実感できる都市であった。
そんな都市であるからこそ、反地球連邦政府組織は、そこを拠点としたのであった。
オリンポスの中央には、火星最大のオフィスビルと呼ばれる巨大な建造物…オリンポス行政ビルがそびえ立っていた。そのビルの外観は独特で、正五角形と正六角形が集まった三十二面体であり、オリンポス市民は、ビルのことをサッカーボールの愛称で呼ぶのだった。
そのサッカーボールの地下に火星革命戦線の司令部が置かれていた。反地球連邦の組織の拠点が、地球資本企業も入っている行政ビルの地下に存在していることは、もの凄く非常識な話であり、またその存在が地球連邦政府に漏れていない事が、火星の人々がいかに地球連邦政府を嫌っての証明であった。
そして現在、火星革命戦線の司令部には火星革命戦線の主要メンバーが集まり、ヘリウム攻略作戦の状況確認が行われていた。
黒縁眼鏡をかけた、神経質そうなアジア系の男性。年の頃は三十半ばと思われるその男性が、火星革命戦線のリーダー、サトシ・チーバであった。
火星革命戦線というべたなネーミングは、彼が強固に主張した物であり、他のメンバーの猛烈な反対があったにもかかわらず、リーダー権限で強引に決めた物だった。
予想通り、そのネーミングは火星住民に受けは良くなかったが、その反地球連邦政府の過激な活動とサトシの妙なカリスマによって、オリンポス住民の支持を集めていた。
「おだまりっ! 火星革命戦線は我々マーズリアンというプロレタリアートが、地球連邦政府というブルジョアに対して、我らのリビドーを知らしめるための魂のネーミングなのだ。それを馬鹿にする物には制裁あるのみなのよ…」
…ナレーションに訳の分からない理屈とオカマ口調で突っ込みを入れるサトシだった。
そんなサトシの正面に座るヘルメットを被っているような角刈り頭で、いかにも軍人といった顔つきである小太りな男は、サトシの訳の分からない演説を呆れた顔で見ていた。
「メガ…いやチーバ、毎回思うんだけど、お前って、それ誰にに突っ込んでるんだ?」
角刈りの男の名は、イスハーク・ムハマンド。オリンポス自警団のトップで、見た目通り火星革命戦線の軍事面を仕切っている人物であった。
ちなみにイスハークが、サトシのことをメガネと呼びそうになったのは、彼が現在では近視の矯正が簡単な手術で治るのにメガネをかけているためである。
火星革命戦線が地下組織時代、サトシは仲間内からは親しみを込めてメガネと呼ばれていたのだが、オリンポス住民の支持を得て、ある意味表の組織となった現在、あだ名で呼ばれることを禁止したのだ。
「誰でも良いだろ。それでイスハーク、ヘリウム攻略部隊の進行状況はどうなっているんだ?」
サトシは、三週間前に送り出したヘリウム攻略部隊の状況について、イスハークに尋ねた。
「ヘルメットって呼ぶなよ。それで、攻略軍の進行状況だが、今のところ順調に進んでいるな。あと少しでヘリウムはこちらの手に落ちるだろう。そうなれば他の都市も抵抗を止めて、俺達の軍門に降るだろうな」
サトシはイスハークの言葉に頷き、
「ふむ、やはりアレを投入して正解だったな」
と独り言ちた。
しかしそんなサトシに対して、
「いや、攻略軍が勝っているのはアレのおかげだけじゃないぞ。各都市の反地球連邦組織が、なけなしの戦力を火星革命戦線に出してくれたおかげだからな。彼等のおかげで、火星にいる地球連邦軍を圧倒できる数をそろえられたんだ。そこは感謝しないと…。確かに俺もアレは凄いと思うが、やっぱり戦いは数だよ。お前もそう思うだろアフロ?」
イスハークが言うように、火星に来ている地球連邦軍人の数は非常に少なかった。火星が遠いこともあるが、火星には碌な軍事力がないため、それなりの数のロボット兵器とそれを操る軍人さえいれば十分というのが地球連邦政府の軍事戦略だった。実際それで今まで火星の統治は問題がなかったのだ。
「誰がアフロだ! 俺の名はジョージだ! それに彼奴ら戦力を出すのに見返りを要求してきたんだ、ありゃ同士じゃなくて傭兵だろ」
テーブルをバンと叩いて「アフロ」呼ばわりを抗議したのは、アフロヘアの馬面な白人男性だった。もちろんアフロはあだ名で、本名はジョージ・バイロン。主に火星革命戦線の財政、経済面を支えていた。
「いやいや、戦いは数じゃなくて質だろ?」
アフロ、いやジョージに替わってイスハークに異を唱えたのは、隣にいるジョージの肩より背が低い小柄な男だった。
「いや、戦いは数だって、有名な名言があるだろ。ズールイ」
「またイスハークの古典の蘊蓄が始まったな。なら、鋼の城のスーパーロボットの方も覚えておけよ。あと、次にチビと言ったら殺すぞ」
そう言いながら、ズールイはイスハークにナイフをちらつかせて凄むのであった。
ズールイは、中国系移民であり、オリンポスの裏組織をまとめる犯罪グループの大幹部である。他の三人と異なり、火星革命戦線には最近になって参加したメンバーである。
ズールイはその小柄な体格にコンプレックスを持っており、チビと言われるのを最も嫌っており、彼の背の低さを馬鹿にした物は、火星の運河に浮かぶか沈むと言われている。
またズールイは、地球の古典メディアである巨大ロボット物や巨大怪獣物の映像マニアであり、同じ古典メディアでもリアル路線ロボットや軍事映像マニアであるイスハークとは良くその趣味の方向性の違いで喧嘩となっていた。
そのオリンポス山から少し南に下がったところにあるタルシス三山と呼ばれる三つの火山との間に、火星最大の鉱山都市オリンポスが存在する。
火山であるオリンポス山は地中から様々な鉱物資源をはき出しており、それが巨大な鉱床となって存在している。オリンポスはその鉱床から稀少な金属を掘り出し、加工して地球へ送り出すためにできた都市である。地球資本の企業が多数存在し、火星資本の企業は鉱山開発に入れないという、地球から最も搾取されていると実感できる都市であった。
そんな都市であるからこそ、反地球連邦政府組織は、そこを拠点としたのであった。
オリンポスの中央には、火星最大のオフィスビルと呼ばれる巨大な建造物…オリンポス行政ビルがそびえ立っていた。そのビルの外観は独特で、正五角形と正六角形が集まった三十二面体であり、オリンポス市民は、ビルのことをサッカーボールの愛称で呼ぶのだった。
そのサッカーボールの地下に火星革命戦線の司令部が置かれていた。反地球連邦の組織の拠点が、地球資本企業も入っている行政ビルの地下に存在していることは、もの凄く非常識な話であり、またその存在が地球連邦政府に漏れていない事が、火星の人々がいかに地球連邦政府を嫌っての証明であった。
そして現在、火星革命戦線の司令部には火星革命戦線の主要メンバーが集まり、ヘリウム攻略作戦の状況確認が行われていた。
黒縁眼鏡をかけた、神経質そうなアジア系の男性。年の頃は三十半ばと思われるその男性が、火星革命戦線のリーダー、サトシ・チーバであった。
火星革命戦線というべたなネーミングは、彼が強固に主張した物であり、他のメンバーの猛烈な反対があったにもかかわらず、リーダー権限で強引に決めた物だった。
予想通り、そのネーミングは火星住民に受けは良くなかったが、その反地球連邦政府の過激な活動とサトシの妙なカリスマによって、オリンポス住民の支持を集めていた。
「おだまりっ! 火星革命戦線は我々マーズリアンというプロレタリアートが、地球連邦政府というブルジョアに対して、我らのリビドーを知らしめるための魂のネーミングなのだ。それを馬鹿にする物には制裁あるのみなのよ…」
…ナレーションに訳の分からない理屈とオカマ口調で突っ込みを入れるサトシだった。
そんなサトシの正面に座るヘルメットを被っているような角刈り頭で、いかにも軍人といった顔つきである小太りな男は、サトシの訳の分からない演説を呆れた顔で見ていた。
「メガ…いやチーバ、毎回思うんだけど、お前って、それ誰にに突っ込んでるんだ?」
角刈りの男の名は、イスハーク・ムハマンド。オリンポス自警団のトップで、見た目通り火星革命戦線の軍事面を仕切っている人物であった。
ちなみにイスハークが、サトシのことをメガネと呼びそうになったのは、彼が現在では近視の矯正が簡単な手術で治るのにメガネをかけているためである。
火星革命戦線が地下組織時代、サトシは仲間内からは親しみを込めてメガネと呼ばれていたのだが、オリンポス住民の支持を得て、ある意味表の組織となった現在、あだ名で呼ばれることを禁止したのだ。
「誰でも良いだろ。それでイスハーク、ヘリウム攻略部隊の進行状況はどうなっているんだ?」
サトシは、三週間前に送り出したヘリウム攻略部隊の状況について、イスハークに尋ねた。
「ヘルメットって呼ぶなよ。それで、攻略軍の進行状況だが、今のところ順調に進んでいるな。あと少しでヘリウムはこちらの手に落ちるだろう。そうなれば他の都市も抵抗を止めて、俺達の軍門に降るだろうな」
サトシはイスハークの言葉に頷き、
「ふむ、やはりアレを投入して正解だったな」
と独り言ちた。
しかしそんなサトシに対して、
「いや、攻略軍が勝っているのはアレのおかげだけじゃないぞ。各都市の反地球連邦組織が、なけなしの戦力を火星革命戦線に出してくれたおかげだからな。彼等のおかげで、火星にいる地球連邦軍を圧倒できる数をそろえられたんだ。そこは感謝しないと…。確かに俺もアレは凄いと思うが、やっぱり戦いは数だよ。お前もそう思うだろアフロ?」
イスハークが言うように、火星に来ている地球連邦軍人の数は非常に少なかった。火星が遠いこともあるが、火星には碌な軍事力がないため、それなりの数のロボット兵器とそれを操る軍人さえいれば十分というのが地球連邦政府の軍事戦略だった。実際それで今まで火星の統治は問題がなかったのだ。
「誰がアフロだ! 俺の名はジョージだ! それに彼奴ら戦力を出すのに見返りを要求してきたんだ、ありゃ同士じゃなくて傭兵だろ」
テーブルをバンと叩いて「アフロ」呼ばわりを抗議したのは、アフロヘアの馬面な白人男性だった。もちろんアフロはあだ名で、本名はジョージ・バイロン。主に火星革命戦線の財政、経済面を支えていた。
「いやいや、戦いは数じゃなくて質だろ?」
アフロ、いやジョージに替わってイスハークに異を唱えたのは、隣にいるジョージの肩より背が低い小柄な男だった。
「いや、戦いは数だって、有名な名言があるだろ。ズールイ」
「またイスハークの古典の蘊蓄が始まったな。なら、鋼の城のスーパーロボットの方も覚えておけよ。あと、次にチビと言ったら殺すぞ」
そう言いながら、ズールイはイスハークにナイフをちらつかせて凄むのであった。
ズールイは、中国系移民であり、オリンポスの裏組織をまとめる犯罪グループの大幹部である。他の三人と異なり、火星革命戦線には最近になって参加したメンバーである。
ズールイはその小柄な体格にコンプレックスを持っており、チビと言われるのを最も嫌っており、彼の背の低さを馬鹿にした物は、火星の運河に浮かぶか沈むと言われている。
またズールイは、地球の古典メディアである巨大ロボット物や巨大怪獣物の映像マニアであり、同じ古典メディアでもリアル路線ロボットや軍事映像マニアであるイスハークとは良くその趣味の方向性の違いで喧嘩となっていた。
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