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第1話:勇者参上!
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『私は一体どうなってるの? なおくん、るみちゃん、どこに行ったの?』
後頭部を打って気絶している良美は、真っ暗な空間で一人全裸でたたずんでいた。まるで永遠に落ちていくような感覚の中、突然空間が光に満たされると、良美は巨大な力が体に満ちるのを感じ取った。
『この力は一体どうなっているの? よく分からないよ。なおくんーーー』
体の奥底から力がわき出し、どんなことでもできそうな感覚にとらわれ、良美は恐れを感じていた。いつも側にいてくれる作がいない状況も不安に拍車をかけ、良美は、力があふれ出ないように体を丸めてしまった。
『なおくん、るみちゃん、私を助けて…』
良美がそう呟いたとき、目の前にぼんやりと青色をした光球が現れた。直径十センチほどの光球から、良美はなぜか懐かしいモノを感じとった。
『これは何?』
良美はそっと手を伸ばすと、その光球を優しく手で包み込んだ。光球はそこで何かを語りかけるように点滅し始めた。
『懐かしい…けど、悲しい感じがする。それにこの感情は…後悔? ねえ、貴方は誰なの?』
光球から様々な感情を感じ取った良美は、思わず光球に語りかけてしまった。すると光球は良美の胸に飛び込み、そのまま胸の中に吸い込まれていった。
『これは…わたし? ああ、私のことなのね。今、全部思い出した』
光球は感情と記憶の塊、いや良美の心の欠片だった。良美は今まで自分の心が欠けていたことを知らずに生きていたのだ。今その欠片を手に入れ、良美は自分がどんな存在であったかを思い出したのだった。
『…でも、今更こんな事を思い出しても意味はない。だって私は、今ここで幸せに生きているんだもの…』
心の欠片は、良美に異世界の知識ととある感情をもたらしたが、それは今地球で、女子高生として生きている良美には不要な物であった。
『どうしたらよいの? ねえ、わかんないよ』
良美は心の欠片からあふれ出る感情に混乱し、空間の中でくるくると回り続けた。
『…ちゃん。よっちゃん』
混乱状態の中、突然良美に作の声が聞こえた。
『なおくん?』
『よっちゃん、よっちゃん、…』
良美が周囲を見回すと、頭上から作の声が聞こえることが分かった。そして、その声が妙に弱々しい事に気付いた。
『なおくん、どうしたの? 何かあったの?』
『よっちゃん、よっちゃん、…』
良美が呼びかけるが、作は名前を連呼するだけだった。
『何かあったんだ。早くなおくんの所に行かなきゃ』
良美は作の声のする方に向かって進んだ。急ぎたいという思いに、体にあふれる力が反応したのか、まるでワープでもするかのように空間が後ろに流れいく。
『よっちゃん』
そして良美は光り輝く空間から飛び出した。
◇
「なおくん!」
良美が目を覚ますと、目の前に作の顔があった。
「よっちゃん、ようやく…目を覚まして…くれた」
どういうわけか、作は横たわった良美に覆いかぶさるような姿勢を取っていた。
「なおくん、ちょっとこの体勢はまずいんだけど…」
「はは、しょうがないだろ。よっちゃんは気を失っていたんだ。こうするしかなかったんだよ」
そう言って作は笑ったが、その力ない笑顔に良美は異常を感じ取った。
「ねえ、どうしたの。何かおかしいよ」
良美はそう言って作の体に手を伸ばした。
ヌルリ
良美はそこで作のワイシャツが濡れていることに気付いた。そのワイシャツに触った手は真っ赤に濡れていた。作の体は血まみれだったのだ。
「なおくん!」
「よっちゃんを…助けられて…良かった」
そう言って作は力が抜けたのか、良美に覆いかぶさるように倒れてしまった。
「なおくん、どうしたの? なおくん!」
良美は慌てて作の体を持ち上げて自分の体を引きずり出した。身長二メートル、体重110キロの作の巨体だが、今の良美は力に満ちあふれており、軽々と持ち上げられる。
「なおくん…ヒッ」
うつぶせに横たわった作の体をみて、良美は小さく悲鳴を上げる。作の背中には、大きな鉄筋コンクリートの破片が突き刺さっていた。作の体が血まみれだったのはその破片による傷のためだった。
「これじゃ、なおくんが死んじゃう」
良美は医学について素人であったが、異世界の知識から作が致命傷を負っていることが理解できた。
「どうすれば良いの?」
いつもの良美であれば、このような状況ではパニックになってしまい何もできなかっただろう。しかし、今の良美には異世界の知識と力があった。どうすれば作を助けられるか、その方法を知識は教えてくれた。
「これを使えば良いのか…」
良美は空間を操作して、漆黒の石片を取り出した。
「本当に取り出せた」
良美が行ったのは、異世界の自分が使っていた格納空間へのアクセスだった。いまだに夢の中のような記憶だが、物を取り出せることで知識が間違っていないことを良美は実感した。
「私は聖職者じゃないから、なおくんは治せない。だけど心は賢者の石に封じることが出来る。でもそれじゃ、なおくんは生きているけど死んだも同然だよ…」
良美は周囲を見回すと、作のリュックを見つけた。リュックの中を探って、作のスマートフォンを見つけた良美は薄らと微笑んだ。その微笑みは、今までの良美を知っている者が見れば、彼女がおかしくなったかと思うほど冷酷な笑みだった。
「これを使えば、なおくんは大丈夫だよね」
良美はスマートフォンからSIMカードを抜き出すと、そこに漆黒の石片を差し込んだ。
「後は儀式を行えば…。なおくんの魂はそろそろ体から抜け出しそうだし、生き血はたっぷりあるね。これなら大丈夫だよね」
良美は作の体が既に鼓動を止めていることを確認し、その体の上にスマートフォンをそっと置く。そして作の体から流れ出した血を使って、床に巨大な魔法陣を描いた。
「ん、完璧」
ぶきっちょなはずの良美であったが、魔法陣は魔法で描くため一瞬で構築される。魔法陣の仕上がりに満足し、良美は魔法陣に魔力を流し始めた。
「クッ、久しぶりの魔法だけど…なおくん、絶対に助けるからね。…我ここに彼の者の魂を神々の欠片に封じ込める♪!」
良美の歌うような呪文と魔力に反応して、魔法陣は激しく光ると、その光は作の体とスマートフォンを包み込んでいった。
後頭部を打って気絶している良美は、真っ暗な空間で一人全裸でたたずんでいた。まるで永遠に落ちていくような感覚の中、突然空間が光に満たされると、良美は巨大な力が体に満ちるのを感じ取った。
『この力は一体どうなっているの? よく分からないよ。なおくんーーー』
体の奥底から力がわき出し、どんなことでもできそうな感覚にとらわれ、良美は恐れを感じていた。いつも側にいてくれる作がいない状況も不安に拍車をかけ、良美は、力があふれ出ないように体を丸めてしまった。
『なおくん、るみちゃん、私を助けて…』
良美がそう呟いたとき、目の前にぼんやりと青色をした光球が現れた。直径十センチほどの光球から、良美はなぜか懐かしいモノを感じとった。
『これは何?』
良美はそっと手を伸ばすと、その光球を優しく手で包み込んだ。光球はそこで何かを語りかけるように点滅し始めた。
『懐かしい…けど、悲しい感じがする。それにこの感情は…後悔? ねえ、貴方は誰なの?』
光球から様々な感情を感じ取った良美は、思わず光球に語りかけてしまった。すると光球は良美の胸に飛び込み、そのまま胸の中に吸い込まれていった。
『これは…わたし? ああ、私のことなのね。今、全部思い出した』
光球は感情と記憶の塊、いや良美の心の欠片だった。良美は今まで自分の心が欠けていたことを知らずに生きていたのだ。今その欠片を手に入れ、良美は自分がどんな存在であったかを思い出したのだった。
『…でも、今更こんな事を思い出しても意味はない。だって私は、今ここで幸せに生きているんだもの…』
心の欠片は、良美に異世界の知識ととある感情をもたらしたが、それは今地球で、女子高生として生きている良美には不要な物であった。
『どうしたらよいの? ねえ、わかんないよ』
良美は心の欠片からあふれ出る感情に混乱し、空間の中でくるくると回り続けた。
『…ちゃん。よっちゃん』
混乱状態の中、突然良美に作の声が聞こえた。
『なおくん?』
『よっちゃん、よっちゃん、…』
良美が周囲を見回すと、頭上から作の声が聞こえることが分かった。そして、その声が妙に弱々しい事に気付いた。
『なおくん、どうしたの? 何かあったの?』
『よっちゃん、よっちゃん、…』
良美が呼びかけるが、作は名前を連呼するだけだった。
『何かあったんだ。早くなおくんの所に行かなきゃ』
良美は作の声のする方に向かって進んだ。急ぎたいという思いに、体にあふれる力が反応したのか、まるでワープでもするかのように空間が後ろに流れいく。
『よっちゃん』
そして良美は光り輝く空間から飛び出した。
◇
「なおくん!」
良美が目を覚ますと、目の前に作の顔があった。
「よっちゃん、ようやく…目を覚まして…くれた」
どういうわけか、作は横たわった良美に覆いかぶさるような姿勢を取っていた。
「なおくん、ちょっとこの体勢はまずいんだけど…」
「はは、しょうがないだろ。よっちゃんは気を失っていたんだ。こうするしかなかったんだよ」
そう言って作は笑ったが、その力ない笑顔に良美は異常を感じ取った。
「ねえ、どうしたの。何かおかしいよ」
良美はそう言って作の体に手を伸ばした。
ヌルリ
良美はそこで作のワイシャツが濡れていることに気付いた。そのワイシャツに触った手は真っ赤に濡れていた。作の体は血まみれだったのだ。
「なおくん!」
「よっちゃんを…助けられて…良かった」
そう言って作は力が抜けたのか、良美に覆いかぶさるように倒れてしまった。
「なおくん、どうしたの? なおくん!」
良美は慌てて作の体を持ち上げて自分の体を引きずり出した。身長二メートル、体重110キロの作の巨体だが、今の良美は力に満ちあふれており、軽々と持ち上げられる。
「なおくん…ヒッ」
うつぶせに横たわった作の体をみて、良美は小さく悲鳴を上げる。作の背中には、大きな鉄筋コンクリートの破片が突き刺さっていた。作の体が血まみれだったのはその破片による傷のためだった。
「これじゃ、なおくんが死んじゃう」
良美は医学について素人であったが、異世界の知識から作が致命傷を負っていることが理解できた。
「どうすれば良いの?」
いつもの良美であれば、このような状況ではパニックになってしまい何もできなかっただろう。しかし、今の良美には異世界の知識と力があった。どうすれば作を助けられるか、その方法を知識は教えてくれた。
「これを使えば良いのか…」
良美は空間を操作して、漆黒の石片を取り出した。
「本当に取り出せた」
良美が行ったのは、異世界の自分が使っていた格納空間へのアクセスだった。いまだに夢の中のような記憶だが、物を取り出せることで知識が間違っていないことを良美は実感した。
「私は聖職者じゃないから、なおくんは治せない。だけど心は賢者の石に封じることが出来る。でもそれじゃ、なおくんは生きているけど死んだも同然だよ…」
良美は周囲を見回すと、作のリュックを見つけた。リュックの中を探って、作のスマートフォンを見つけた良美は薄らと微笑んだ。その微笑みは、今までの良美を知っている者が見れば、彼女がおかしくなったかと思うほど冷酷な笑みだった。
「これを使えば、なおくんは大丈夫だよね」
良美はスマートフォンからSIMカードを抜き出すと、そこに漆黒の石片を差し込んだ。
「後は儀式を行えば…。なおくんの魂はそろそろ体から抜け出しそうだし、生き血はたっぷりあるね。これなら大丈夫だよね」
良美は作の体が既に鼓動を止めていることを確認し、その体の上にスマートフォンをそっと置く。そして作の体から流れ出した血を使って、床に巨大な魔法陣を描いた。
「ん、完璧」
ぶきっちょなはずの良美であったが、魔法陣は魔法で描くため一瞬で構築される。魔法陣の仕上がりに満足し、良美は魔法陣に魔力を流し始めた。
「クッ、久しぶりの魔法だけど…なおくん、絶対に助けるからね。…我ここに彼の者の魂を神々の欠片に封じ込める♪!」
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