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第1話:勇者参上!
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米国大統領から宇宙機怪獣来襲の警告を受けた安馬総理は、法律の規定により参議院の緊急集会を行い自衛隊の防衛出動を決議しようとした。
過去に二回しか行われたことのない参議院の緊急集会を行った総理は、緊張して国会議事堂に向かったのだが…
「野党はおろか与党の政治家すらいないとは…。これが日本の政治家の姿なのか?」
閑散とした議場をみて唖然としていた。
議場にいたのは、野党の若手議員と与党の若手議員が数名と両手の数より少なかった。もちろんこのような状態で自衛隊の防衛出動の事前承認など行えない。
なぜ議員がほとんどいないか、それは米国からの警告から宇宙機怪獣の襲来まで3時間ほどしか時間が無かったこともあるが、それ以前に議員が都内から逃げ出していたのだった。
これまでの宇宙機怪獣の襲撃から、大都市を狙って襲来していることが分かっていた。日本であれば東京は真っ先に狙われる可能性が高い。そのため、宇宙機怪獣が日本に来ると聞いた政治家の大半は、様々な理由を付けて東京から逃げ出していた。
『安馬さん、そこは危険だよ。君も早く逃げた方が良いんじゃないの?』
ようやく連絡の付いた与党の重鎮は、安馬総理にそう告げて電話を切ってしまった。
実は安馬総理も逃げ出したかったが、日本人らしい真面目さから内閣総理大臣という立場を捨てることができなかった。つまり小心者だったのだ。
「こうなれば事後承認だが、私の承認だけで防衛出動を命じます。河山くん、自衛隊を出動させてください」
総理は、内閣閣僚の中でも逃げ出していなかった防衛大臣に自衛隊の出動を命じた。
「総理、米軍が負けた相手です。自衛隊で歯が立つでしょうか?」
河山防衛大臣は不安そうな顔をしていた。
「自衛隊の皆さんには申し訳ないが、国防のために存在するのが自衛隊です。ここで自衛隊が出動しなければ、恐らく国民は自衛隊の解散を要求するでしょう。出動は絶対しなければ駄目なのです」
憲法改正で自衛隊を正式な国防軍としたいと言い続けてきた総理にとって、この機会に自衛隊が出動しないという考えは無かった。
「…分かりました。ところで、在日米軍は出動してくれるのでしょうか?」
「要請すれば出動はするかもしれませんが、米国軍は宇宙機怪獣と一度戦って負けています。積極的に戦闘に参加はしない気がします。宇宙機怪獣との戦闘についての情報をもらえないか、大統領にお願いしてみましょう」
総理は防衛大臣と別れ、米国大統領と連絡を取るために議場を後にするのだった。
◇
大気圏に突入した宇宙機怪獣は、重力を無視して直線的な軌道で日本に向かっていった。
自衛隊は襲来予定地は、大都市の東京、大阪、名古屋の何処かであると予想して、戦力の集結を行っていた。
「まさか日本海側とは。完全に裏をかかれたな」
しかし自衛隊のレーダーは、宇宙機怪獣が予想を裏切って日本海側の都市に向かうことを捕らえていた。
「小松と岐阜からスクランブルで上がっているな」
「他の基地からも上がってますが…最初に接敵するのは、小松のF-15とF-35です」
市ヶ谷の防空司令部のモニターには、宇宙機怪獣と自衛隊機を示すマーカーが映し出されていた。
「前衛がエンゲージ、敵機の目視確認に入ります」
専守防衛が基本の自衛隊機は、必ず敵機を目視することになっている。宇宙機怪獣であることが分かっていてもその原則は守られていた。そのため旧型のF-15が敵機を確認し、いざとなったらステルス機であるF-35が攻撃を仕掛けるというフォーメーションを組んでいた。
『ターゲットを視認。米国軍から情報のあった宇宙機怪獣と確認した』
F-15のパイロットから、宇宙機怪獣の種類について報告が入る。
「やはり中国が撃退したというのは、嘘だったな」
司令部で、指揮を執っていた河野空将はパイロットからの報告に頷くと、
「米国軍からの情報通りなら地上に降りるまではこっちが有利だ。後衛に攻撃の指示を出せ」
攻撃を命じた。
宇宙機怪獣の攻撃手段は直接攻撃と火炎放射である。空戦であればそれらは命中率も低く、戦闘機の方が有利に戦いを進める事ができる事が分かっていた。
『ターゲット・ロックオン、AMRAAM発射する』
F-35から発射された四発の対空ミサイルが、宇宙機怪獣に向かっていく様子がモニターに映し出される。刻一刻とミサイルは近寄っていくが、宇宙機怪獣は避けるそぶりすら見せなかった。
そしてミサイルが命中する寸前、突然ミサイルは進路を変更し爆発してしまった。
「くそっ、やはり命中しないか」
「そっちも情報通りだな」
米国軍からの情報で、宇宙機怪獣に対空ミサイルを発射しても命中寸前で進路をそらされて、効果のない位置で爆発してしまうことが分かっていた。
他の基地から上がってきた戦闘機も含め、全機で対空ミサイルを発射したが、宇宙機怪獣を撃墜することはかなわなかった。
接近しての機銃による攻撃をパイロットは進言してきたが、近寄りすぎると火炎放射により撃墜される恐れがあるため、司令部は許可を出さなかった。
『くそっ、俺はやってやる!』
しかし小松から上がったF-15のパイロットの一人が、命令を破り宇宙機怪獣に接近していった。
「馬鹿、止めるんだ。命令違反だぞ」
『空戦ならこちらが上なんです。やらせてください』
F-15は司令部の命令を無視して宇宙機怪獣に接近していった。
そして火炎放射を避けてF-15は、宇宙怪獣の後方につけた。
『ここなら火炎放射できまい…。ロックオン…ん? あれは…何か背中に乗っているぞ?』
宇宙機怪獣に近づいたF-15のパイロットは、その背中に何かがへばりついているのを視認する。
「何だろう?」と確認しようとしたパイロットは、それが突然自分に向かって飛びかかってくるとは思いもしなかった。
『うぁーーーーーっ』
宇宙機怪獣から飛び降りたソレは、F-15にしがみつくと、そのまま地面に落下していくのだった。
過去に二回しか行われたことのない参議院の緊急集会を行った総理は、緊張して国会議事堂に向かったのだが…
「野党はおろか与党の政治家すらいないとは…。これが日本の政治家の姿なのか?」
閑散とした議場をみて唖然としていた。
議場にいたのは、野党の若手議員と与党の若手議員が数名と両手の数より少なかった。もちろんこのような状態で自衛隊の防衛出動の事前承認など行えない。
なぜ議員がほとんどいないか、それは米国からの警告から宇宙機怪獣の襲来まで3時間ほどしか時間が無かったこともあるが、それ以前に議員が都内から逃げ出していたのだった。
これまでの宇宙機怪獣の襲撃から、大都市を狙って襲来していることが分かっていた。日本であれば東京は真っ先に狙われる可能性が高い。そのため、宇宙機怪獣が日本に来ると聞いた政治家の大半は、様々な理由を付けて東京から逃げ出していた。
『安馬さん、そこは危険だよ。君も早く逃げた方が良いんじゃないの?』
ようやく連絡の付いた与党の重鎮は、安馬総理にそう告げて電話を切ってしまった。
実は安馬総理も逃げ出したかったが、日本人らしい真面目さから内閣総理大臣という立場を捨てることができなかった。つまり小心者だったのだ。
「こうなれば事後承認だが、私の承認だけで防衛出動を命じます。河山くん、自衛隊を出動させてください」
総理は、内閣閣僚の中でも逃げ出していなかった防衛大臣に自衛隊の出動を命じた。
「総理、米軍が負けた相手です。自衛隊で歯が立つでしょうか?」
河山防衛大臣は不安そうな顔をしていた。
「自衛隊の皆さんには申し訳ないが、国防のために存在するのが自衛隊です。ここで自衛隊が出動しなければ、恐らく国民は自衛隊の解散を要求するでしょう。出動は絶対しなければ駄目なのです」
憲法改正で自衛隊を正式な国防軍としたいと言い続けてきた総理にとって、この機会に自衛隊が出動しないという考えは無かった。
「…分かりました。ところで、在日米軍は出動してくれるのでしょうか?」
「要請すれば出動はするかもしれませんが、米国軍は宇宙機怪獣と一度戦って負けています。積極的に戦闘に参加はしない気がします。宇宙機怪獣との戦闘についての情報をもらえないか、大統領にお願いしてみましょう」
総理は防衛大臣と別れ、米国大統領と連絡を取るために議場を後にするのだった。
◇
大気圏に突入した宇宙機怪獣は、重力を無視して直線的な軌道で日本に向かっていった。
自衛隊は襲来予定地は、大都市の東京、大阪、名古屋の何処かであると予想して、戦力の集結を行っていた。
「まさか日本海側とは。完全に裏をかかれたな」
しかし自衛隊のレーダーは、宇宙機怪獣が予想を裏切って日本海側の都市に向かうことを捕らえていた。
「小松と岐阜からスクランブルで上がっているな」
「他の基地からも上がってますが…最初に接敵するのは、小松のF-15とF-35です」
市ヶ谷の防空司令部のモニターには、宇宙機怪獣と自衛隊機を示すマーカーが映し出されていた。
「前衛がエンゲージ、敵機の目視確認に入ります」
専守防衛が基本の自衛隊機は、必ず敵機を目視することになっている。宇宙機怪獣であることが分かっていてもその原則は守られていた。そのため旧型のF-15が敵機を確認し、いざとなったらステルス機であるF-35が攻撃を仕掛けるというフォーメーションを組んでいた。
『ターゲットを視認。米国軍から情報のあった宇宙機怪獣と確認した』
F-15のパイロットから、宇宙機怪獣の種類について報告が入る。
「やはり中国が撃退したというのは、嘘だったな」
司令部で、指揮を執っていた河野空将はパイロットからの報告に頷くと、
「米国軍からの情報通りなら地上に降りるまではこっちが有利だ。後衛に攻撃の指示を出せ」
攻撃を命じた。
宇宙機怪獣の攻撃手段は直接攻撃と火炎放射である。空戦であればそれらは命中率も低く、戦闘機の方が有利に戦いを進める事ができる事が分かっていた。
『ターゲット・ロックオン、AMRAAM発射する』
F-35から発射された四発の対空ミサイルが、宇宙機怪獣に向かっていく様子がモニターに映し出される。刻一刻とミサイルは近寄っていくが、宇宙機怪獣は避けるそぶりすら見せなかった。
そしてミサイルが命中する寸前、突然ミサイルは進路を変更し爆発してしまった。
「くそっ、やはり命中しないか」
「そっちも情報通りだな」
米国軍からの情報で、宇宙機怪獣に対空ミサイルを発射しても命中寸前で進路をそらされて、効果のない位置で爆発してしまうことが分かっていた。
他の基地から上がってきた戦闘機も含め、全機で対空ミサイルを発射したが、宇宙機怪獣を撃墜することはかなわなかった。
接近しての機銃による攻撃をパイロットは進言してきたが、近寄りすぎると火炎放射により撃墜される恐れがあるため、司令部は許可を出さなかった。
『くそっ、俺はやってやる!』
しかし小松から上がったF-15のパイロットの一人が、命令を破り宇宙機怪獣に接近していった。
「馬鹿、止めるんだ。命令違反だぞ」
『空戦ならこちらが上なんです。やらせてください』
F-15は司令部の命令を無視して宇宙機怪獣に接近していった。
そして火炎放射を避けてF-15は、宇宙怪獣の後方につけた。
『ここなら火炎放射できまい…。ロックオン…ん? あれは…何か背中に乗っているぞ?』
宇宙機怪獣に近づいたF-15のパイロットは、その背中に何かがへばりついているのを視認する。
「何だろう?」と確認しようとしたパイロットは、それが突然自分に向かって飛びかかってくるとは思いもしなかった。
『うぁーーーーーっ』
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