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第1話:勇者参上!
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目の前で炎が舞い踊り、永年魔王軍の副官として魔王に使えてくれたミスリル・ゴーレムが倒れる。
魔法に耐性があるミスリル製の体であっても、火炎魔法の禁呪であるアトミック・フレアを纏わせた勇者の聖剣の攻撃には耐え切れなかった。
「イリーナ!」
「魔王様、…不甲斐ない…私を…お許しください」
アトミック・フレアの炎で溶かされながらも、イリーナは魔王に別れの言葉を紡いだ。
禁呪の炎に焼かれるのも厭わず、手をのばしたが、その手が触れる前にイリーナは溶け崩れ、物言わぬミスリルの塊となってしまった。
イリーナが倒れた今、魔王を護ってくれる部下は、誰一人いない。魔獣とゴーレムで大陸を支配する直前までいった魔王軍は魔王一人となってしまった。
「…勇者よ、魔王に刃向かった愚か者よ。今その報いを受けるがよい!」
魔王の怒りが魔力となり体からほとばしると、それは魔法の炎となって勇者に放たれた。
魔王は体に宿したその膨大な魔力を使って、無詠唱で魔法を使うことができる。激情に任せて勇者に放たれた魔法の炎は、奇しくもイリーナを焼き尽くしたのと同じアトミック・フレアであった。
「その程度の炎で私は倒せないぞ!」
ただの魔法使いや剣士であれば、魔王の放った魔法を防げるわけもない。しかし勇者は、手に持った聖剣の一振りでアトミック・フレアの炎をなぎ払った。
「くっ、聖剣で禁呪を切り払うか。異世界の勇者はここまで非常識なのか!」
私は異世界からやってきたという勇者と、彼が持つ聖剣をにらみつけた。
姫によって召喚された異世界の勇者は、誰も見たことがない魔法と異世界の聖剣を振るって、魔王の軍団を次々と打ち破ってきた。
「ヘルミネート13世、貴様の悪行も今日限りだ!」
勇者がビシッと音を立てそうな勢いで私を指さした。
「悪行だと、この世界で奴隷のように扱われるゴーレム達を救う、その我の行為が悪行というのか!」
再び魔王から魔法が…今度は雷の魔法であったが…ほとばしるが、それも勇者は聖剣で受け止めてしまった。
「確かにこの世界のロボ…ゴーレムの扱いは惨い…」
この世界でゴーレムがどのように扱われているかを思い出したのか、勇者は寂しげな目をして俯いた。
「我はゴーレム達を救うために…いや、ゴーレムをゴミのように扱う、そんな者達を許すわけにはいかぬのだ!」
魔王は勇者に向かって怒りをぶつけるかのように怒鳴った。
そう、魔王は間違っていない。魔王が大好きだった…初めての友達だったゴーレムを危険だからといって破壊してしまった、連中を許してはおけないのだ。この世界は間違っているのだ。
「魔王の言っている事も理解できる。しかし、だからといって人間を滅ぼすのは間違っている。お前と同様にゴーレムを友とする人達も大勢いるのだ。魔王はそんな人達すら滅ぼそうというのか!」
そう言って勇者が背後を振り返ると、仲間である剣士や僧侶、魔法使いが頷いていた。
「ふっ、そんな偽善者達など信じられるものか! 勇者よ、お前にもわかっているはずだ。この世界ではゴーレムと人は友となれない。人はあくまでゴーレムを使役するだけなのだ!」
そうだ、魔王にはこの世界の人達が、物言えぬゴーレムにどれだけ酷いことをしてきたのかよく知っているのだ。勇者の甘言に乗るほど甘くはない。
「いや、人はその行いを変えていける。今は難しいかもしれないが、きっといつかはゴーレムと人間は友となれる。そんな未来が来る」
しかし勇者は、諦めずに魔王を説得してきた。
「今更貴様と禅問答をするつもりはない。勇者よ、お前は魔王のゴーレム達の敵なのだ!」
ここで私は、手に持った杖を大きく振りかざして叫ぶ…のだ。
「出よ、最終兵器●▽※…」
魔法に耐性があるミスリル製の体であっても、火炎魔法の禁呪であるアトミック・フレアを纏わせた勇者の聖剣の攻撃には耐え切れなかった。
「イリーナ!」
「魔王様、…不甲斐ない…私を…お許しください」
アトミック・フレアの炎で溶かされながらも、イリーナは魔王に別れの言葉を紡いだ。
禁呪の炎に焼かれるのも厭わず、手をのばしたが、その手が触れる前にイリーナは溶け崩れ、物言わぬミスリルの塊となってしまった。
イリーナが倒れた今、魔王を護ってくれる部下は、誰一人いない。魔獣とゴーレムで大陸を支配する直前までいった魔王軍は魔王一人となってしまった。
「…勇者よ、魔王に刃向かった愚か者よ。今その報いを受けるがよい!」
魔王の怒りが魔力となり体からほとばしると、それは魔法の炎となって勇者に放たれた。
魔王は体に宿したその膨大な魔力を使って、無詠唱で魔法を使うことができる。激情に任せて勇者に放たれた魔法の炎は、奇しくもイリーナを焼き尽くしたのと同じアトミック・フレアであった。
「その程度の炎で私は倒せないぞ!」
ただの魔法使いや剣士であれば、魔王の放った魔法を防げるわけもない。しかし勇者は、手に持った聖剣の一振りでアトミック・フレアの炎をなぎ払った。
「くっ、聖剣で禁呪を切り払うか。異世界の勇者はここまで非常識なのか!」
私は異世界からやってきたという勇者と、彼が持つ聖剣をにらみつけた。
姫によって召喚された異世界の勇者は、誰も見たことがない魔法と異世界の聖剣を振るって、魔王の軍団を次々と打ち破ってきた。
「ヘルミネート13世、貴様の悪行も今日限りだ!」
勇者がビシッと音を立てそうな勢いで私を指さした。
「悪行だと、この世界で奴隷のように扱われるゴーレム達を救う、その我の行為が悪行というのか!」
再び魔王から魔法が…今度は雷の魔法であったが…ほとばしるが、それも勇者は聖剣で受け止めてしまった。
「確かにこの世界のロボ…ゴーレムの扱いは惨い…」
この世界でゴーレムがどのように扱われているかを思い出したのか、勇者は寂しげな目をして俯いた。
「我はゴーレム達を救うために…いや、ゴーレムをゴミのように扱う、そんな者達を許すわけにはいかぬのだ!」
魔王は勇者に向かって怒りをぶつけるかのように怒鳴った。
そう、魔王は間違っていない。魔王が大好きだった…初めての友達だったゴーレムを危険だからといって破壊してしまった、連中を許してはおけないのだ。この世界は間違っているのだ。
「魔王の言っている事も理解できる。しかし、だからといって人間を滅ぼすのは間違っている。お前と同様にゴーレムを友とする人達も大勢いるのだ。魔王はそんな人達すら滅ぼそうというのか!」
そう言って勇者が背後を振り返ると、仲間である剣士や僧侶、魔法使いが頷いていた。
「ふっ、そんな偽善者達など信じられるものか! 勇者よ、お前にもわかっているはずだ。この世界ではゴーレムと人は友となれない。人はあくまでゴーレムを使役するだけなのだ!」
そうだ、魔王にはこの世界の人達が、物言えぬゴーレムにどれだけ酷いことをしてきたのかよく知っているのだ。勇者の甘言に乗るほど甘くはない。
「いや、人はその行いを変えていける。今は難しいかもしれないが、きっといつかはゴーレムと人間は友となれる。そんな未来が来る」
しかし勇者は、諦めずに魔王を説得してきた。
「今更貴様と禅問答をするつもりはない。勇者よ、お前は魔王のゴーレム達の敵なのだ!」
ここで私は、手に持った杖を大きく振りかざして叫ぶ…のだ。
「出よ、最終兵器●▽※…」
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