明鏡の惑い

赤津龍之介

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第七章 薄い夢

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 悠太郎が林檎の樹の下で、自分の小ささゆえに悲しくうつむかなければならなかったとき、そうした絶望は一段と深まるほかはなかった。それは初夏の日射しが燦々と降るある日曜日、祖母の梅子がパンチパーマの頭をゆらゆらと揺らしながら、ハイロン集落の田茂たもさんの農園で行なわれる林檎の袋かけの手伝いに、悠太郎を連れていったときのことであった。前の年に梅子はすでに六十歳の誕生日を迎えていたから、悠太郎が幼稚園を卒園した三月の終わりとともに浅間観光を定年退職して、しばらくは家にいることになっていた。「あんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃ、ウッフフ、小さいおまえなんか連れていってもねえ、どうせ役には立つまいが、お祖父様も一緒に行くし、おまえだけうちに残してもおけないからねえ」と梅子は、軽自動車を運転しながら目を吊り上げて嫌味を言った。後部座席に乗せられた悠太郎は、軽自動車が真壁の家の前の砂利道を通り、三本辻を右折してハイロン集落へ向かう短い旅程のあいだ、田茂さんについて家族が話していたことを思い出していた。増田ケンポウがかつて開いた高冷地農業研究場の指導員を引き受け、畑の作り方や牛の飼い方を教えてくれたのが、誰あろう田茂喜三郎きさぶろうさんだということであった。千代次は喜三郎さんと遠い親戚同士になっていたこともあり、開拓民のなかでは例外的に親しくしていて、真壁の家の敷地内に生えている樹を伐る必要があるとき、千代次はいつも喜三郎さんやその息子に伐採を頼んでいたということも聞いていた。それにふたりはよい酒飲み友達で、助手席の千代次はその日も極度に細い近視の目をしばたたきながら、袋かけの作業が終わった後のビールを楽しみにしていた。
 石井観光農園を過ぎたやや先に、田茂さんの農園はあった。その野菜畑ではトウモロコシやジャガイモが作られ、牛舎では白黒斑の乳牛たちが、尻尾で蠅を追い払いながら盛んに餌をみ、柔らかな下草が生えた果樹園には、緑輝く葉を茂らせた林檎の樹が等間隔に植えられていた。そこで栽培されている品種はで、果実を害虫から護り発色をよくするため、まだ五百円硬貨ほどの大きさの林檎の実に、二重になった紙袋をひとつひとつかけてゆくということであった。田茂さんの一家は、喜三郎さんも妻のヨシノさんも息子の幸男ゆきおさんも、それぞれ首に汗拭きのタオルを巻いて、総出で真壁の家の人々を歓迎した。喜三郎さんは皺だらけのひょうたん顔に人懐っこい笑いを浮かべながら、千代次と大きな声で何事か話し合っていた。中身が詰まった麻袋のようにぽっちゃりとした体型のヨシノさんは、「畑でコンフリーができたよ。ユウちゃんはコンフリーが好きか?」と空気の抜けたような声で悠太郎に訊いてきたが、悠太郎はまだコンフリーを食べたことがなかったか、少なくともコンフリーをコンフリーと意識して食べた記憶はなかったので、その問いに答えかねてうつむくほかはなかった。鈍重な牡牛のような風貌ながら、歯を剥き出して人懐っこく笑う幸男さんは、悠太郎のことを「はあ小学生かい、でかくなったのう」と言ったが、梅子は白い日除け帽子を被った頭をゆらゆらと揺らしながら「ウッフフ、この孫は、いっこうはしはししねえ。役に立たねえけったくそ悪い孫だよ」と貶した。悠太郎の身長では、林檎の枝に手が届きようもなかったから、たしかに袋かけの手伝いには、何の役にも立たないのであった。大人たちが枝になった実に次から次へと袋をかけてゆくあいだ、悠太郎は果樹園をうつむいてさまよいながら、柔らかな下草の上に落ちている小さな実を、ひとつ渡されていた二重の紙袋のなかに拾い集めていた。なぜ枝に残っている実と下に落ちている実があるのか不思議に思った悠太郎は、そのことを幸男さんに訊いてみた。「ああ、でかい実をならせるために、まわりの余計な実は、みんな摘み取っちまうだよ」というのがその答えであったが、それを聞いた悠太郎は役に立たない自分を、摘果てきかされた林檎の実に重ね合わせて暗い気持ちになった。初夏の日射しは燦々と果樹園に降り、柔らかな下草に林檎の樹は影を落とし、風に波立つ草とともにその影は静かに揺れていた。
 やがて仕事が終わり、一同が田茂さんの母屋へ引き返すと、酒盛りが始まった。その家の土間の土臭いような生臭いような臭気は、悠太郎の鼻を強烈に突いた。居間で田茂さんの一家と千代次は、白く泡立つ金色のビールを飲み、未成年の悠太郎と自動車を運転する梅子には、冷たい葡萄ジュースや麦茶が出された。アルコールが入って一段と声が大きくなった千代次は、眼鏡の奥で極度に細い近視の目をしばたたきながら、「おめえも飲めや! ちっとぐれえならよかんべえや!」と梅子にもビールを勧めたが、梅子がパンチパーマの頭をゆらゆらと揺らしながら固辞したのと、やはり一段と声が大きくなった喜三郎さんに、「真壁さん、そりゃあよくねえよ!」とたしなめられたのとで、そのうち勧めなくなった。いつしか老人たちの話は、喜三郎さんがこの六里ヶ原へ入植した当時のことや、そのまた昔の大陸でのことに移っていった。いまハイロン集落に農園を構えているのは、もともとこの県でいち早く大陸へ渡った人々であることを、喜三郎さんやヨシノさんは誇りに思っているようであった。「俺たちが大陸で入植したのは北満も北満よ、ハルビンよりもっと北の、ソヴィエトとの国境に近いあたりだものを。遠く東の彼方には、小興安嶺しょうこうあんれいの山脈が見えたよ。西の果てには豪儀にでっかい夕日がおめえ、真っ赤に燃えて沈んだものよ。まあず寒いところだったが、ここらと違って地味は肥沃だったね。小麦でも大豆でも小豆でもトウモロコシでも、まあトウモロコシは向こうでは包米パオミーというんだが、ただ蒔くだけで肥料なんかやらなくも、いっくらだってできるんさあ。現地の連中ともそりゃあ仲良く楽しくやっていた……はずだった。お互いのうちを行ったり来たりして、ご馳走したりご馳走になったりして酒盛りしてさ。神社の祭りではおめえ、馬の力競べや速さ競べで盛り上がって、地酒を酌み交わしながら踊って騒いでのう。まあず満洲国は五族協和の王道楽土ちゅうわけだった。それがなんだってあんなことに……。日本が戦争に負けたんで、俺たちは命からがら引き揚げてきて、ここらを開拓するったっておめえ、土地は痩せた酸性の火山灰土だし、冬でも住むところは壁も屋根も笹葺きの粗末な小屋よ。寒くて眠れねえ夜にはのう、屋根の笹の隙間から、冴え冴えと冬の星が見えたものよ。まあ俺たちはともかくもこうして生き長らえて、第三のふるさとをここまで作ったさ。だが気の毒なのは溥儀ふぎさんだよ。日本軍に担ぎ出されさえしなけりゃあ、あんなひでえ目には遭わなかったものを……」と喜三郎さんが語れば、千代次が「清朝最後の皇帝か。ラストエンペラーちゅうやつさな。廃帝が担ぎ出されて満洲国の皇帝に即位するも、日本が敗戦して、ソヴィエトに抑留されるわ、東京裁判に呼び出されるわで、挙句の果てに中国共産党からは政治犯扱いちゅうわけか。まあず数奇な運命だのう」と応じるのを、悠太郎はうつむいて葡萄ジュースを飲みながら、ところどころ聞いていた。さらに喜三郎さんが「今年の肉親捜しはどうなるかのう」と顔を仰向けるようにして酒臭い嘆息を漏らし、千代次が「中国残留孤児のかい。そうさな、見つかるといいのう」と答えているあいだ、悠太郎は大人たちがおつまみに食べている、金銀のアルミ箔でキャンディーのように包まれたマグロブロックに手を伸ばした。ひとつを噛み締めると、甘じょっぱい味と魚肉のうまみが口のなかに広がった。悠太郎はそれを二個食べ、三個食べた。そんな様子を見た喜三郎さんは、「おお、ユウちゃんはそれが好きかい。楽しみだのう真壁さん。ユウちゃんは大人になりゃあ、豪儀な呑兵衛のんべえにならあな。今にうめえビールが一緒に飲めらあ」と酒臭い息で愉快そうに言ったが、悠太郎にしてみれば、自分が酒を飲む年頃まで生きているとは想像もつかなかった。枝に残って袋をかけられた林檎の実は立派に大きくなって、真っ赤に甘くなるだろう。だが予め摘み取られて下草の上に落ちていた小さな実は、今日ぼくがなすすべもなく拾い集めたあの小さな実は何になるのか。きっと何にもなりはしないのだ。何の役にも立たずにただ捨てられてしまうだけだ。ぼくはあれらの摘み取られた実と同じなんだ――。悠太郎がそんな物思いに沈むあいだにも、古い擦り切れた麻袋のようなヨシノさんは、「コンフリーを持っていきなよ。コンフリーを天ぷらにして食べなよ」と空気の抜けたような声で梅子にしきりと勧め、鈍重な牡牛のような幸男さんは、寡黙にビールを飲み続けていた。
 だから中国残留孤児のプロフィールがテレビで放送される夏休みになり、やがて盆休みに正子伯母様が森山英久伯父様と田無から来てくれても、悠太郎は伯母様に合わせる顔がないような気がしていた。国語では平仮名の習得など何の難しいこともなかったし、担任の麻沼俊子先生がそれぞれ「くっつきの〈は〉」とか「くっつきの〈を〉」とか「くっつきの〈へ〉」とか呼ぶ助詞の「は」「を」「へ」を、「わ」「お」「え」と書き間違えることなど考えられなかったから、国語のテストは申し分なかった。算数では引き算がやや難しく、時々は指を使わなければならないことがあったにせよ、テストの成績に支障を来たすほどのことではなかった。しかし六里ヶ原の明鏡と呼ばれたほどの悠太郎にとっては、学業の進み具合がいかにもまどろこしいように感じられたので、相変わらず麻沼先生への反抗的な態度を改めていなかった。そうした事情は六月の家庭訪問で麻沼先生が、頬の弛み始めた温厚な顔に困ったような表情を浮かべながら話していたから、秀子はわが子の覚えがめでたくないことで心を重くしていた。
 夏休みには朝のラジオ体操が児童たちに課せられたが、これは例の通学班ごとに集まって行なうことになっていた。悠太郎が属するハイロン班は、石井観光農園の売店から道路を隔てた向かいにある公民館の前に集まることになっていた。埃っぽいバラック小屋の屋根の下で、ラジオが体操の音楽と掛け声を流すなかを、班長の大柄な女子が皆の前で手本を示す通りに、尚美もスケちゃこと大輔も悠太郎も、腕を振ったり膝を屈伸させたりジャンプしたり深呼吸したりした。体育の時間の準備体操といい、毎朝のラジオ体操といい、悠太郎はみんなと同じように体を動かすことが苦しかった。「おまえの動きは変だぞ。やっぱり分裂病だ」と尚美が言うものだから、余計につらかった。だがそうして体操が終わり、紐で首から下げたカードに出席の証のスタンプが押されると、悠太郎は途中まではスケちゃと一緒に、そしてスケちゃが別荘地への下り坂に消えてしまった後はひとりで、爽やかな朝の風と光のなかで草木の緑が輝く家路をたどった。愉快そうにスケちゃが話してくれることは、カブトムシやクワガタムシを捕まえた話であれ、銀色にきらきらと光る騎士ナイトガンダムのカードダスを手に入れた話であれ、いちいちが悠太郎に好ましく充実した印象を残した。そして浅間隠の連山の方角から昇った日の光が、雑木林を透かしてカーテンのように地上に降り注ぐ様を見れば、悠太郎はひとり二重瞼の物問いたげな大きな目を見開きながら、いつもその美しさに陶然とするのであった。
 夏休みの常の日ならば、そうして帰り着いた真壁の家では、梅子がパンチパーマの頭をゆらゆらと揺らしながら、トランプのスペードの形のような大きな葉っぱのオオバギボウシや、それぞれ赤と黄色に輝くサルビアとマリーゴールドや、炎のようなタイマツソウや、どこまでも明るい大輪のヒマワリが咲いている花壇の草むしりをしているのであるが、盆休みにはラジオ体操も休みになるから、悠太郎がいくらか遅く起き出せば、台所では手際よく朝食の支度をする正子伯母様と、秀子が何事か話し合っているようであった。おずおずと悠太郎が聞き耳を立てれば、「大丈夫よ。だんだんよくなるから。そんなに心配することはないわよ」という正子伯母様の聡明そうな声が聞こえた。秀子の声は地を這うように低く抑えられていたから、何の話かはっきりとは聞き取れなかったが、悠太郎にはそれがきっと学校での自分のことに違いないと思われた。食卓で悠太郎が睫毛の長い目を悄然と伏せながら、食器や料理がふたつに見えるように目の焦点をずらして朝食を取っていると、千代次が眼鏡の奥で極度に細い近視の目をしばたたきながら、「そういやあ正子はほれ、あの真理の党ちゅう奴等を見たか?」と突然訊いた。その年の二月に投開票が行なわれた衆議院選挙に、二十五人もの候補者を擁立した宗教政党のことを、千代次はかねて気に懸けていたのである。正子伯母様は輪郭のすっきりと整った顔を曇らせて「見たわよ」と答えた。「私が勤めている病院は荻窪にあるでしょう? 党首の教祖が立候補したのが、あの選挙区だったから。荻窪駅の改札を出ると、あれはきっと信者たちね、長髪でひげもじゃの教祖のハリボテを被って、教祖の名前を連呼する歌に合わせて踊っているの。象の被り物を着けて風船を持った信者たちもいたわ。みんなして白いサテンの服なんか着て、音楽に乗せて拡声器で教祖の名前を連呼しながら、消費税廃止だとか教育改革だとか福祉推進だとか歌うものだから、なんだか耳に残っちゃって……。ああいうのを洗脳っていうのかしらね。気味が悪くて怖かったわ」と当時のことを述懐した。航空自衛官のヒデッサ伯父様は、人の好さそうな笑いを浮かべながら目許には酷薄さを漂わせて、「頭のおかしな連中が、世紀末に湧いて出たんですよ。あんな連中のことは心配するには及びません。あの通り全員落選して、それっきりで終わりでしょう」とどこか上滑りするような声で言ってのけた。梅子はパンチパーマの頭をゆらゆらと揺らしながら「ウッフフ、空軍の伯父様は、わが家の防衛大臣だねえ。そうなるとウッフフ、お祖父様は大蔵大臣で、薬剤師の正子は厚生大臣で、教員免許を持ってる秀子は文部大臣で、そしてわったしはウッフフ、内閣掃除大臣! あんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃ! でもわが家の統帥権とうすいけんはウッフフ、お祖父様にあるんだからね」と突拍子もないことを言った。それを聞いた秀子が「よしなよ、そんなこと言うのは。疑似国家でもあるまいし」と眉をひそめて暗い声で苦言を呈すると、梅子は「どうして? 家を治めるっていうのはウッフフ、そういうことでしょうが」と目を吊り上げた。
 そんな話を聞いた悠太郎は、ふと前の年に失踪した弁護士一家のことを思い出して、飲み込んだ食パンが喉につかえるような感じを覚えた。そういえばあの弁護士さんたちが帰ってきたというニュースは、テレビで観たことがなかった。だが象の被り物を着けた白いサマナ服姿の一団や、長髪でひげもじゃの教祖その人の歌と演説はブラウン管に映し出され、容易には忘れ難い印象を悠太郎にも残していた。弁護士一家の部屋に落ちていた、お祖父様の言う「気持ちの悪いバッジ」はあの教団のもので、たしかプルシャとかいうのではなかったか? 真理の党とやらの候補者が、伯父様の言うように落選してそれで終わりとは、悠太郎にはなぜか考えられなかった。だが教祖の名前を連呼して歌い踊るあの集団は何となく楽しそうだし、長髪でひげもじゃの太った教祖は何となく優しそうだと思われてならないのも事実であり、悠太郎はそのことをどう考えたらよいのか分からなかった。騒音停止期間の学芸村にある鬱蒼たる緑の樹々が、明るい夏の朝の風にさわさわと鳴るなかで、悠太郎はひたすら暗い予感のなかに沈み込んでいった。
 悠太郎はしばしば虫籠を肩から提げて虫捕り網を手に、湖畔の遊歩道を舞い飛ぶキアゲハやカラスアゲハを追って照月湖をめぐったが、数多のボートを浮かべた湖は万緑に取り巻かれ波立って光り輝き、照月湖モビレージにも観光ホテル明鏡閣にも客の絶え間はなかった。ボート番小屋のライサクさんこと桜井謙助老人は、ギョロ目を見開いて額に三筋の皺を寄せながら大忙しであったし、明鏡閣では屋内に迷い込んでうるさい翅音を響かせるオニヤンマを、海千山千のサカエさんこと黒岩栄作さんが素手でつまみ出す場面もあったが、その際さしも器用なサカエさんも、指先を噛まれずには済まなかった。剽軽者の橋爪進吉さんは、大食堂を飛び交う黒い蠅を片端から蠅叩きで仕留めながら、「ポメラニアンに生まれてこい!」とか「ラブラドールに生まれてこい!」とか言って、哀れな蠅たちの来世に幸多からんことを祈念しては、ゲジゲジ眉毛の顔をひしゃげたように笑わせていた。明鏡閣前の駐車場を見下ろす高台のローラースケート場もまた盛況であった。真壁の家の前から、舗装された道を通って湖畔へ向かう自動車は、相変わらず真夏の光を車体で照り返しながら行列をなして、林間の清澄な大気のなかに、排気ガスを濛々と放出した。その道の途中にはある女学園の山の家があって、そこでは戸井田一輝の母のアオイさんがせっせと働きながら、ドングリまなこをくりくりと動かしては、浅い呼吸でころころと笑っているはずであった。燦々たる日の光を浴びて、樹々や草花の生命力はいや増しに高まり、湖畔の眩しいような賑わいもまたいや増しに昂進していった。そんなある日ふと悠太郎は、ボート番小屋の階上に位置するレストラン照月湖ガーデンの内部を、ソフトクリームを売るカウンターの窓越しにうかがった。店内では店を任されている入江さん夫妻の高校生になった娘が、地味なコスチュームに身を包んで、注文を取ったり料理を運んだりしていた。色白で伏し目がちな翳りのあるその顔はしかと見えなかったが、揺らめく湖に面したガラス窓を背景に立ち働くその姿は、いつしか悠太郎にはふたりにも三人にも見えてきた。そのとき悠太郎は、あたかも幸薄い湖の妖精を見るかのような心地がした。コーヒーやカレーのおいしそうな香りとともに、悠太郎はその娘の儚げな印象を、胸いっぱいに吸い込んだ。
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