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【真幕・第3章】あねせいくりっどっ 前編!
3.下校デートは姉が邪魔になりますよっ!
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「落ち着いてください……」
激昂して急に立ち上がった俺に対し、加奈子さんは冷静さを取り戻しつつある。
怒りのボルテージは上がりっぱなしだが、泣き止んだ加奈子さんの表情を見ると安堵するのも確かだ。
エアコンの冷気が少しずつ部屋の熱を奪い、快適な気温になってきた。
階下からは姉が掃除機を使用する電気音が聞こえる。手伝いに行きたいが、姉は加奈子さんを見ているように言うだろう。だから、あえて部屋から出ないのだ。
「俺が加奈子さんと帰れるようにするよ」
「弟君は……朝峰君と帰っているんですよね?」
「毎日じゃないよ。里志とは途中まで帰る日もあるけど」
里志とは家の方角が違う。学校を出て途中までいっしょに帰るだけなのだ。
それに妹の用事やら家の手伝いがある日は大急ぎでひとりで帰ってしまう。
「花穂さんと来栖さんが無理な日は――」
「そうじゃないよ。この家までいっしょに帰るんじゃなくて」
「……え? それはどういう……」
「ちゃんと加奈子さんのマンションまで送っていくからさ」
そう言うと加奈子さんは再びうつむいてしまった。
表情は長い髪に隠れてはっきりとうかがえないが、こういう時加奈子さんは顔を赤くして喜んでいる。
「お、弟君の……迷惑になってしまいます……」
「いや、全然迷惑じゃない。運動になるしね。加奈子さんが嫌じゃなければだけど……」
「嫌じゃないです……うれ……」
小声で最後は聞き取れなかったが、これで加奈子さんと下校する口実ができたわけだ。
ここ最近、花穂姉ちゃんと来栖有紀が俺から加奈子さんを遠ざけている。
ブラコン阻止計画が恋のお邪魔虫にしかなっていないことに一刻も早く気付いてほしいものだ。
イチャラブ願望満載の下校ライフが始まるわけだが、いくつかの問題点が脳裏をよぎる。一つは同じ学校の生徒の目だろう。結城加奈子を知らない生徒はほぼいないと言ってもいい。可愛い生徒会長の傍らには可憐な美少女が常に付き添う。姉と俺が一緒にいるのは問題ない。しかし、加奈子さんと登下校すると視線が突き刺さるのだ。明らかに加奈子ファンからの嫉妬のまなざしである。
もう一つの問題点、加奈子さんを直接ガードできるが、犯人と遭遇し捕獲するチャンスがなくなる。隣りに男がいれば襲ってこないし、なにより加奈子さんを囮に使うことなどできるはずがない。
股触揉蔵には自らの手で煮え湯を飲ませてやりたい。
奴は味をしめてこの姫咲市で犯行を繰り返す可能性がある。
里志が軽口で言っていた捕縛作戦が現実味を帯びてきた。
◆◆◆
リビングのセンターテーブルにティーカップが三つ、紅茶の香りが湯気に乗る。
三人でソファを囲んで午後のおやつタイムとなった。姉と加奈子さんは小さめのショートケーキ、俺はプリンとポテトチップスを食べる。
「加奈ちゃん、大丈夫? 少し落ち着いた? 蒼太に襲われなかった?」
「おい。最後余計だろ……」
「はい……いろいろお手数をかけました……」
「姉ちゃんも来栖も一緒に下校できない日は俺が加奈子さんを家まで送っていいか?」
この姉に隠し事は一切できない。むしろ、全部明かして味方に取り込むほうが得策だ。
今回は親友の受難というデリケートな問題なだけに反対はしないだろう。
……と、甘い考えをことごとく粉砕するのが我が姉なのだ。
「加奈ちゃんの家まで? それよりもあっち方面に下校する子に頼めばいいんじゃない?」
「それはそうだけど……そんなに仲良しでもない人に頼むのか?」
「防犯目的で一緒に下校するのに交友関係がいるの? なんで?」
姉は遠まわしに加奈子さんと下校するのはダメだと言っているようなものだ。
こうなると頑として意見を変えないのが花穂姉ちゃんである。こちらの要望は却下、意見も却下、疑問は疑問でツバメ返し。
紅茶をすすりながら静観していた加奈子さんがティーカップを静かに置いた。
家の中に入っていたときの様子とは違い、いつもの落ち着いた雰囲気だ。
「花穂さん、弟君と下校してもいいですか?」
「え? でも、加奈ちゃんの家のほうに帰る子何人かいるよ?」
「わたしはその……人見知り激しいので……」
「うーん……しょうがないなぁ。蒼太、頼める?」
「うん。しばらくは俺が家まで送るよ」
花穂姉ちゃんの数少ない弱点の一つは、親友の加奈子さんなのかもしれない。
お互い交友関係が広いとは言えないが、人気ぶりは全校に知られている存在だ。
性格も考え方もまるで異なるのに、姉は加奈子さんに対して常に柔軟だ。
加奈子さんも姉には物怖じせず意見を言う。冗談も言うときがある。
この二人は幼い頃から名コンビなんだろうと何度も実感させられる。
「ただしっ!!」
カチンとテーブルにティーカップを置いた音が部屋に響く。
花穂姉ちゃんが立ち上がって俺のほうへ近付いて、すぐ隣りのソファに腰掛けた。
「ん? なんだ?」
「加奈ちゃんを送っていくのはいいけど、部屋に入らないこと!!」
「ああ。わかってるよ。エントランス前で俺は帰る。これでいいんだろ?」
「加奈ちゃん! 約束できる? 蒼太を部屋にあげないで」
「え……あの、お部屋に? 暑い日はお飲み物を出してあげたいのですが……」
姉が言わんとしていることは察しがつく。
この場面で口に出すと加奈子さんが引いてしまうので俺は沈黙を決め込んだ。
「蒼太も男なんだよ? もう子どもじゃない。だからダメなの」
「花穂さん……お話がわかりません。なにがダメなのですか?」
「えぇ……加奈ちゃん? わたしにそれ言わせるの?」
一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。
そういえば姉は少し前に、加奈子さんの天然は故意だと指摘したことがある。
この場合は加奈子さんが挑発しているように聞こえたのだろうか。
「俺が加奈子さんの部屋に入らない。それでいいじゃないか」
「……弟君……もし、喉が渇いたら遠慮せず言ってください……」
「加奈ちゃん、男はみんなケダモノなんだからね。だからダメって言ってるの」
「あの……花穂さんの言うダメは、なにがダメなんでしょう?」
姉はヤレヤレといった表情で一旦ため息を落とした。
「そりゃダメだよ! 汗だくで帰宅した二人がシャワーで汗を流したあと、いい雰囲気になってそのままセック――!!」
最後まで言い終わる寸前に姉の口を手でふさいだ。
加奈子さんは小首を傾げ、不思議そうに俺と姉のやり取りを見ている。
激昂して急に立ち上がった俺に対し、加奈子さんは冷静さを取り戻しつつある。
怒りのボルテージは上がりっぱなしだが、泣き止んだ加奈子さんの表情を見ると安堵するのも確かだ。
エアコンの冷気が少しずつ部屋の熱を奪い、快適な気温になってきた。
階下からは姉が掃除機を使用する電気音が聞こえる。手伝いに行きたいが、姉は加奈子さんを見ているように言うだろう。だから、あえて部屋から出ないのだ。
「俺が加奈子さんと帰れるようにするよ」
「弟君は……朝峰君と帰っているんですよね?」
「毎日じゃないよ。里志とは途中まで帰る日もあるけど」
里志とは家の方角が違う。学校を出て途中までいっしょに帰るだけなのだ。
それに妹の用事やら家の手伝いがある日は大急ぎでひとりで帰ってしまう。
「花穂さんと来栖さんが無理な日は――」
「そうじゃないよ。この家までいっしょに帰るんじゃなくて」
「……え? それはどういう……」
「ちゃんと加奈子さんのマンションまで送っていくからさ」
そう言うと加奈子さんは再びうつむいてしまった。
表情は長い髪に隠れてはっきりとうかがえないが、こういう時加奈子さんは顔を赤くして喜んでいる。
「お、弟君の……迷惑になってしまいます……」
「いや、全然迷惑じゃない。運動になるしね。加奈子さんが嫌じゃなければだけど……」
「嫌じゃないです……うれ……」
小声で最後は聞き取れなかったが、これで加奈子さんと下校する口実ができたわけだ。
ここ最近、花穂姉ちゃんと来栖有紀が俺から加奈子さんを遠ざけている。
ブラコン阻止計画が恋のお邪魔虫にしかなっていないことに一刻も早く気付いてほしいものだ。
イチャラブ願望満載の下校ライフが始まるわけだが、いくつかの問題点が脳裏をよぎる。一つは同じ学校の生徒の目だろう。結城加奈子を知らない生徒はほぼいないと言ってもいい。可愛い生徒会長の傍らには可憐な美少女が常に付き添う。姉と俺が一緒にいるのは問題ない。しかし、加奈子さんと登下校すると視線が突き刺さるのだ。明らかに加奈子ファンからの嫉妬のまなざしである。
もう一つの問題点、加奈子さんを直接ガードできるが、犯人と遭遇し捕獲するチャンスがなくなる。隣りに男がいれば襲ってこないし、なにより加奈子さんを囮に使うことなどできるはずがない。
股触揉蔵には自らの手で煮え湯を飲ませてやりたい。
奴は味をしめてこの姫咲市で犯行を繰り返す可能性がある。
里志が軽口で言っていた捕縛作戦が現実味を帯びてきた。
◆◆◆
リビングのセンターテーブルにティーカップが三つ、紅茶の香りが湯気に乗る。
三人でソファを囲んで午後のおやつタイムとなった。姉と加奈子さんは小さめのショートケーキ、俺はプリンとポテトチップスを食べる。
「加奈ちゃん、大丈夫? 少し落ち着いた? 蒼太に襲われなかった?」
「おい。最後余計だろ……」
「はい……いろいろお手数をかけました……」
「姉ちゃんも来栖も一緒に下校できない日は俺が加奈子さんを家まで送っていいか?」
この姉に隠し事は一切できない。むしろ、全部明かして味方に取り込むほうが得策だ。
今回は親友の受難というデリケートな問題なだけに反対はしないだろう。
……と、甘い考えをことごとく粉砕するのが我が姉なのだ。
「加奈ちゃんの家まで? それよりもあっち方面に下校する子に頼めばいいんじゃない?」
「それはそうだけど……そんなに仲良しでもない人に頼むのか?」
「防犯目的で一緒に下校するのに交友関係がいるの? なんで?」
姉は遠まわしに加奈子さんと下校するのはダメだと言っているようなものだ。
こうなると頑として意見を変えないのが花穂姉ちゃんである。こちらの要望は却下、意見も却下、疑問は疑問でツバメ返し。
紅茶をすすりながら静観していた加奈子さんがティーカップを静かに置いた。
家の中に入っていたときの様子とは違い、いつもの落ち着いた雰囲気だ。
「花穂さん、弟君と下校してもいいですか?」
「え? でも、加奈ちゃんの家のほうに帰る子何人かいるよ?」
「わたしはその……人見知り激しいので……」
「うーん……しょうがないなぁ。蒼太、頼める?」
「うん。しばらくは俺が家まで送るよ」
花穂姉ちゃんの数少ない弱点の一つは、親友の加奈子さんなのかもしれない。
お互い交友関係が広いとは言えないが、人気ぶりは全校に知られている存在だ。
性格も考え方もまるで異なるのに、姉は加奈子さんに対して常に柔軟だ。
加奈子さんも姉には物怖じせず意見を言う。冗談も言うときがある。
この二人は幼い頃から名コンビなんだろうと何度も実感させられる。
「ただしっ!!」
カチンとテーブルにティーカップを置いた音が部屋に響く。
花穂姉ちゃんが立ち上がって俺のほうへ近付いて、すぐ隣りのソファに腰掛けた。
「ん? なんだ?」
「加奈ちゃんを送っていくのはいいけど、部屋に入らないこと!!」
「ああ。わかってるよ。エントランス前で俺は帰る。これでいいんだろ?」
「加奈ちゃん! 約束できる? 蒼太を部屋にあげないで」
「え……あの、お部屋に? 暑い日はお飲み物を出してあげたいのですが……」
姉が言わんとしていることは察しがつく。
この場面で口に出すと加奈子さんが引いてしまうので俺は沈黙を決め込んだ。
「蒼太も男なんだよ? もう子どもじゃない。だからダメなの」
「花穂さん……お話がわかりません。なにがダメなのですか?」
「えぇ……加奈ちゃん? わたしにそれ言わせるの?」
一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。
そういえば姉は少し前に、加奈子さんの天然は故意だと指摘したことがある。
この場合は加奈子さんが挑発しているように聞こえたのだろうか。
「俺が加奈子さんの部屋に入らない。それでいいじゃないか」
「……弟君……もし、喉が渇いたら遠慮せず言ってください……」
「加奈ちゃん、男はみんなケダモノなんだからね。だからダメって言ってるの」
「あの……花穂さんの言うダメは、なにがダメなんでしょう?」
姉はヤレヤレといった表情で一旦ため息を落とした。
「そりゃダメだよ! 汗だくで帰宅した二人がシャワーで汗を流したあと、いい雰囲気になってそのままセック――!!」
最後まで言い終わる寸前に姉の口を手でふさいだ。
加奈子さんは小首を傾げ、不思議そうに俺と姉のやり取りを見ている。
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