姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛

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【真幕・第3章】あねせいくりっどっ 前編!

2.赤色灯は愛と欲望と怒りの色ですねっ!

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 赤色灯せきしょくとうが照り返す夕暮れの日差しに反射してぎらつく。
見慣れない光景に不安を感じ、自宅の玄関めがけて猛ダッシュした。
やはり、白いミニパトは青山家の門前に停車してある。

「姉ちゃんっ!」
「うわっ! 蒼太、びっくりするじゃない!」

 玄関のたたきには若い婦警さんが立っている。
手にはクリップボードを携え、スラスラとペンを走らせる。
姉は帰宅して間もないのか、学校の制服のままだ。

「なにがあった!?」
「姫咲署地域課の赤羽巡査長です。えっと、こちらはお兄さん?」
「いえ、わたしの弟です」

 年の頃は二〇代半ばぐらいだろうか。
背は姉より少し低く、黒髪ショートヘアで引き締まった体型だ。
紗月姉さつきねえがそうであるように、鍛え込まれた体は服の上からでもわかる。

「俺、初めて兄と間違えられた……じゃない! なんでうちに警察の人が?」
「今日、パンフ配ったよね? 五人目の被害者なの」
「え? ええぇ!? 花穂姉ちゃんが!? 大丈夫なのか!?」
「落ち着いてください。被害者はお姉さんのお友達の――」

 玄関のたたきを見ると靴が一足多い。見慣れた通学用の黒い靴である。
姉と目が合うと、コクリとうなずきながらリビングのほうを見た。
事態を察して戦慄が走る。乱雑に靴を脱ぎ捨ててリビングへと飛び込んだ。

「加奈子さんっ!!」
「あ……弟君。おかえりなさい……」
「大丈夫なの!? なにがあったの!? 怪我はない!? ひとりで帰ったの!?」

 リビングのソファーに小さくたたずんでいる制服姿の加奈子さん。
様子を見る限りは普段と変わらない。取り乱した様子もないようだ。

「弟君。一気に聞かないでください……」
「ああ、うん。ごめん。でも――」
「大丈夫です……」
「警察来てるのに大丈夫ってことは――」
「大丈夫。大丈夫です……」

 加奈子さんはいつも通りの笑顔で受け答えしてくれる。
非日常の出来事が起こっている最中でも、決して自分のスタンスを崩さない。
強くもあり、弱くもある。純真であり、やや頑固である。

「そっか……よかった。ちょっと姉ちゃん見てくるよ」
「……はい……」

 リビングから再び玄関のほうへ出ると、姉と婦警の赤羽さんが話し込んでいた。
被害届の話が終わったところのようだ。今は防犯についてあれこれ教わっている。

「花穂姉ちゃん。加奈子さん、大丈夫だって」
「そんなわけないじゃない……加奈ちゃんは強がりなだけだよ」
「そうなのか? なにも話してくれないし……どうすりゃいい?」
「わたしは今からリビングとキッチンの掃除をして、お茶とおやつの用意をするの。蒼太は二階で待っててくれない?」
「わかった」

 それだけ言うと姉は婦警さんと話し始めた。
指示通りに加奈子さんと二階で待機するが……
リビングへ入る足取りが重いのは気のせいだろうか。








★★★








「加奈子さん。姉ちゃんがリビング掃除するから二階で待っててくれって」
「はい……」

 加奈子さんを連れて階段を進むと、下から玄関を開閉する音が聞こえた。
どうやら婦警さんが帰ったらしい。しかし、花穂姉ちゃんが二階に来る気配はない。

「どうしよう? 加奈子さんは姉ちゃんの部屋で待ってる?」
「あ、えと……弟君の部屋でいいです」
「じゃあ、こっち入って」
「はい……」

 自室のドアを開いて加奈子さんを迎え入れる。
この部屋に加奈子さんが入るのは随分久しぶりな気がする。

「加奈子さん……今日、なにがあったの?」
「――――です……」

 閉じたドアの前で加奈子さんはなにかを呟いた。
うつむいた顔が長い髪に隠れて表情が伺えないが、微かに肩を震わせている。

「加奈――」
「……怖かった」

 頬を伝った大粒の涙がフローリングにポタポタと落ち始めた。
昔から加奈子さんはあまり感情を外に漏らさない。泣くこと自体珍しいのだ。
それが堰を切ったように泣いている。

「加奈子さん、こっち」

 フローリングに敷いたラグの上に座布団を二つ用意した。
そこに加奈子さんがチョコンと座る。口元を押さえる手が震えている。

「……弟君。怖かったんです……すごく怖かった」
「うん。ごめん。俺がいっしょにいてあげられなくて」
「いえ……今日は下校の時間が花穂さんとも来栖さんとも合わなくて……」

 どうして俺に連絡して来なかったのか問いたい。
ただ、それは加奈子さんの不用心を攻めることにもなりかねない。

 相手が姉二人や来栖なら慰める方法は簡単だ。
加奈子さんはデリケートだが、心にバリケードを張っている。
姉が踏み越えられない部分を俺に託したのだろう。

「少し、落ち着いて話そう。ゆっくりでいいからさ」
「はい……」
「加奈子さんが帰宅中に住宅街で変質者のひとりと遭遇した。間違いない?」
「そうです……前から男の人が歩いて来て……すれ違いざまに――」

 変質者は二人いる。ポコチンライダーと股触揉蔵だ。
ポコチンライダーはバイクに乗っているため、遭遇したのは股触揉蔵に違いない。

「言いにくければ無理に言わなくてもいいよ」
「……すれ違いざまに……触られたんです……」
「背後から来るパターンと前から来るパターンがあるのかな」
「本当に……怖かった……」

 思い出しているのか、加奈子さんは小刻みに震え出した。
出しゃばりかもしれない、彼氏気取りかもしれないけれど……
その小さな肩をギュッと抱き寄せた。

「もうこんな怖い思いはさせないから」
「弟君に触れられると安心します……手が大きくて、温かいです」
「あのさ……加奈子さん。一応、聞いておきたいんだけど」
「はい……」
「どこをどのぐらい触られたのかな?」

 泣き顔の真っ赤な顔がさらに赤くなる。

「その……下です。いきなり手で鷲掴みで……怖くてその場にしゃがみ込みました」
「ひどいな」
「……胸も触られそうになったのですが……腕で隠して――」
「許せないっ!!」

 里志の言った通りだ。股触揉蔵には灸を据える必要がありそうだ。
未だに検挙できない警察をあてにしていては逃げられてしまうのがオチだ。

 なによりも許しがたいのは、相手が結城加奈子さんだということ。
加奈子さんを恐怖させて、震え上がらせ、泣かせた。

 波風の立たない穏やかな俺の心に、熱い怒りの炎がともった。
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