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【真幕・第2章】清純な加奈子さんっ
1.触れ合いが愛を確かめる近道ですねっ!
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まえがき
※「○○な加奈子さんっ」の章はメインヒロインターンです。
※基本的にラブストーリー色が強くなります。
________________________________
七月三日、放課後の午後四時前。
明石先生のハイツを出て帰路についた。
先生は時間差で学校へ戻り、顧問をしている空手部に合流する予定だ。
サンサンと照る夕陽が湿ったアスファルトを焼いて蒸し暑い。
歩いているだけで首筋に汗が流れ、シャツがベトついて気持ち悪くなる。
姫咲公園に着く百メートル前後の距離で既にバテそうだ。
「やばい……少し体調悪いかも……」
小さい頃から時々高熱を出して寝込む日がある。
原因は不明で、それは今も続いている。入学早々、雨に打たれ高熱を出した。
あの時は加奈子さんが猫耳姿でお粥を食べさせてくれたのだ。
体調は最悪だったが、シチュエーションは最高だった。
(水分補給するか……)
姫咲公園の奥はベンチがあり、木陰の風通しが良い場所だ。
入り口の道路側から死角になっているためか、イチャつくカップルが利用する。
しかし、猛暑日の夕暮れに好んで来る場所ではない。
(暑過ぎる!)
自販機でボトルのスポーツ飲料を買ってベンチに座り込んだ。
ワイシャツのボタンを上から三つ外してパタパタと冷気を入れて体を冷やす。
グビグビと喉を潤わせている最中に端末の受信音が鳴った。
『公園のベンチに座っているのは弟君ですか? 加奈子』
「え!? 加奈子さん?」
立ち上がって周辺を見回した。
隣りの姫咲スポーツクラブの出入り口付近で、同じ学校の女子生徒が見える。
少しずつ歩み寄って来て、すぐに加奈子さんだと分かった。
鞄と飲み物を手に足早に公園の入り口へ向かう。
周囲に花穂姉ちゃんや来栖がいない。習い事の帰りだろうか。
涼しい場所にいたせいなのか、加奈子さんは汗一つかいていない。
「……弟君、すごい汗です」
「加奈子さんは今日習い事?」
「あ、はい。今日はお琴の予定が急遽変更になって……」
「え? じゃあ、琴の練習はもう終わったんだ?」
「はい……このまま帰ろうと思います」
もう一度周辺をくまなくサーチ。邪魔者は誰もいないようだ。
こうやって加奈子さんと二人きりで下校するのは何日ぶりだろうか。
肩が触れるか触れないかの距離を胸を高鳴らせながら楽しむ自分がいる。
住宅街の細い道路を真っ直ぐ歩いて行く。
車が通り過ぎる度に二人の肩や腕がほんの少しだけ触れ合う。
夕暮れ前の一番暑い時間帯にも関わらず、加奈子さんは涼やかな表情だ。
「なんで加奈子さんは涼しそうなの? 全然汗かいてないよね」
「あ……それは、お琴の教室がすごくエアコンで寒くて……」
「いいなぁ。俺もその教室で昼寝したいよ」
そう答えると、無言でニコリと笑みを浮かべる。
姉たちの邪悪で含みのある笑みと違い、純粋で透明感のある笑みだ。
★★★
加奈子さんは歩幅が小さい。歩くのがかなり遅い。
本来はギリギリ自転車通学可能な距離に住んでいるのだが……
自転車に乗れないため、徒歩でなんとか通学している。
母親の結城藍子さんが送り迎えする日もある。
「今日は……弟君たちの担任の先生が――」
「明石先生に変わったんだ! 学内で有名な先生って聞いたんだけど?」
早速、身近な加奈子さんから探りを入れてみる。
「……バイオレンスビッチです……」
「は? え? 加奈子さん? 今、なんて……」
「……明石先生がバイオレンスビッチとクラスの方が言っていました」
「要するに暴力痴女か。とんでもないネーミングだな」
「あの、弟君……バイオレンスビッチとはどういう意味でしょうか?」
「罵倒語だよ。凶暴でスケベな女って侮蔑してるんだ」
「そんな……ひどいです……」
明石紅衣先生の噂は予想通り二年と三年の間で広まっている。
噂話が好きな連中が広げると、尾ひれが付いて話が勝手に大きくなる。
加奈子さんのように噂を真に受けない人間ばかりなら楽なのだが……
「明石先生は紗月姉の空手の師匠でさ、俺も前から知ってるんだけど、悪い噂を立てられるような人じゃないよ。ちょっと鼻っ柱が強い美人だから妬まれるんだろうね。逆らうと怖いし」
悪い噂の半分は本当のことだ。明石先生は不祥事で公立校を辞職している。
だけど、ありのまま加奈子さんに伝えることはできない。例え口外しないとしてもだ。
「目を……目を見れば分かります。明石先生は悪い人ではありません……」
「俺はその判別はできないなぁ……姉二人が善人の目をした悪人だから」
「紗月さんと花穂さんはとてもいい人です」
クスリと笑いながら答える加奈子さんも、実は姉たちの性根をよく知っている。
青山姉妹はいい人だが、善人とは言い切れない。あの二人の悪さを知る人物は少ない。一番の被害者である俺や、幼馴染の加奈子さんは悪さに慣れっこだと言うことだ。
「もう家か。加奈子さん、送って行くよ」
「はい……」
自宅の前を通り過ぎて、大通りへ向かう。
しばらく歩いていると加奈子さんが鞄から紙袋を取り出した。
「加奈子さん、それは?」
「あっ。あの、これ……四条先輩から弟君に返すようにって」
加奈子さんは少し恥ずかしそうな顔で余所見をしながら紙袋を差し出した。
四条先輩になにか貸していただろうか。全く身に覚えがないのだが……
紙袋を開いて中身を確認するとカラフルな雑誌が登場した。
「なんでこれを俺に……」
いつか先輩の家に泊まった日にコンビニで買った一〇代女子向けの雑誌だ。
月刊の別冊で『女の子のHOW TO SEX』という特集記事で男女の交わる姿をイラストで掲載している。途中から実写も入ってかなり際どい内容になる。
「四条先輩が弟君との練習に使うようにと……」
「えーっと、加奈子さん。雑誌の中身は見てないよね?」
「い、いえ……見てしまいました……」
湯気立ちそうな勢いで加奈子さんが頬を赤面させた。
「見ちゃったんだ」
「その……好奇心でつい……」
「これはなんというか、練習や参考にはならないから」
「想像すると……恥ずかしくて。弟君とその……こんなことを……」
適当にめくったページは性行為を解説している。
大きめのイラストと隅っこにAV男優と女優の絡み合う写真入り。
これを見ると確かに想像してしまう。
「いやいや。これ、大げさなんだよ! ここまでしない!」
「どこまでするんですか……?」
「どこまで? うーん……」
雑誌を鞄に突っ込んで、加奈子さんの左手を右手でギュッと握った。
お互いの手の平が汗がジンワリと湿っているのがよくわかる。
「弟君?」
「今はここまでかなぁ……」
また加奈子さんがクスッと笑った。
握った手はそのままに、夕陽を背に二人並んで歩いて行く。
※「○○な加奈子さんっ」の章はメインヒロインターンです。
※基本的にラブストーリー色が強くなります。
________________________________
七月三日、放課後の午後四時前。
明石先生のハイツを出て帰路についた。
先生は時間差で学校へ戻り、顧問をしている空手部に合流する予定だ。
サンサンと照る夕陽が湿ったアスファルトを焼いて蒸し暑い。
歩いているだけで首筋に汗が流れ、シャツがベトついて気持ち悪くなる。
姫咲公園に着く百メートル前後の距離で既にバテそうだ。
「やばい……少し体調悪いかも……」
小さい頃から時々高熱を出して寝込む日がある。
原因は不明で、それは今も続いている。入学早々、雨に打たれ高熱を出した。
あの時は加奈子さんが猫耳姿でお粥を食べさせてくれたのだ。
体調は最悪だったが、シチュエーションは最高だった。
(水分補給するか……)
姫咲公園の奥はベンチがあり、木陰の風通しが良い場所だ。
入り口の道路側から死角になっているためか、イチャつくカップルが利用する。
しかし、猛暑日の夕暮れに好んで来る場所ではない。
(暑過ぎる!)
自販機でボトルのスポーツ飲料を買ってベンチに座り込んだ。
ワイシャツのボタンを上から三つ外してパタパタと冷気を入れて体を冷やす。
グビグビと喉を潤わせている最中に端末の受信音が鳴った。
『公園のベンチに座っているのは弟君ですか? 加奈子』
「え!? 加奈子さん?」
立ち上がって周辺を見回した。
隣りの姫咲スポーツクラブの出入り口付近で、同じ学校の女子生徒が見える。
少しずつ歩み寄って来て、すぐに加奈子さんだと分かった。
鞄と飲み物を手に足早に公園の入り口へ向かう。
周囲に花穂姉ちゃんや来栖がいない。習い事の帰りだろうか。
涼しい場所にいたせいなのか、加奈子さんは汗一つかいていない。
「……弟君、すごい汗です」
「加奈子さんは今日習い事?」
「あ、はい。今日はお琴の予定が急遽変更になって……」
「え? じゃあ、琴の練習はもう終わったんだ?」
「はい……このまま帰ろうと思います」
もう一度周辺をくまなくサーチ。邪魔者は誰もいないようだ。
こうやって加奈子さんと二人きりで下校するのは何日ぶりだろうか。
肩が触れるか触れないかの距離を胸を高鳴らせながら楽しむ自分がいる。
住宅街の細い道路を真っ直ぐ歩いて行く。
車が通り過ぎる度に二人の肩や腕がほんの少しだけ触れ合う。
夕暮れ前の一番暑い時間帯にも関わらず、加奈子さんは涼やかな表情だ。
「なんで加奈子さんは涼しそうなの? 全然汗かいてないよね」
「あ……それは、お琴の教室がすごくエアコンで寒くて……」
「いいなぁ。俺もその教室で昼寝したいよ」
そう答えると、無言でニコリと笑みを浮かべる。
姉たちの邪悪で含みのある笑みと違い、純粋で透明感のある笑みだ。
★★★
加奈子さんは歩幅が小さい。歩くのがかなり遅い。
本来はギリギリ自転車通学可能な距離に住んでいるのだが……
自転車に乗れないため、徒歩でなんとか通学している。
母親の結城藍子さんが送り迎えする日もある。
「今日は……弟君たちの担任の先生が――」
「明石先生に変わったんだ! 学内で有名な先生って聞いたんだけど?」
早速、身近な加奈子さんから探りを入れてみる。
「……バイオレンスビッチです……」
「は? え? 加奈子さん? 今、なんて……」
「……明石先生がバイオレンスビッチとクラスの方が言っていました」
「要するに暴力痴女か。とんでもないネーミングだな」
「あの、弟君……バイオレンスビッチとはどういう意味でしょうか?」
「罵倒語だよ。凶暴でスケベな女って侮蔑してるんだ」
「そんな……ひどいです……」
明石紅衣先生の噂は予想通り二年と三年の間で広まっている。
噂話が好きな連中が広げると、尾ひれが付いて話が勝手に大きくなる。
加奈子さんのように噂を真に受けない人間ばかりなら楽なのだが……
「明石先生は紗月姉の空手の師匠でさ、俺も前から知ってるんだけど、悪い噂を立てられるような人じゃないよ。ちょっと鼻っ柱が強い美人だから妬まれるんだろうね。逆らうと怖いし」
悪い噂の半分は本当のことだ。明石先生は不祥事で公立校を辞職している。
だけど、ありのまま加奈子さんに伝えることはできない。例え口外しないとしてもだ。
「目を……目を見れば分かります。明石先生は悪い人ではありません……」
「俺はその判別はできないなぁ……姉二人が善人の目をした悪人だから」
「紗月さんと花穂さんはとてもいい人です」
クスリと笑いながら答える加奈子さんも、実は姉たちの性根をよく知っている。
青山姉妹はいい人だが、善人とは言い切れない。あの二人の悪さを知る人物は少ない。一番の被害者である俺や、幼馴染の加奈子さんは悪さに慣れっこだと言うことだ。
「もう家か。加奈子さん、送って行くよ」
「はい……」
自宅の前を通り過ぎて、大通りへ向かう。
しばらく歩いていると加奈子さんが鞄から紙袋を取り出した。
「加奈子さん、それは?」
「あっ。あの、これ……四条先輩から弟君に返すようにって」
加奈子さんは少し恥ずかしそうな顔で余所見をしながら紙袋を差し出した。
四条先輩になにか貸していただろうか。全く身に覚えがないのだが……
紙袋を開いて中身を確認するとカラフルな雑誌が登場した。
「なんでこれを俺に……」
いつか先輩の家に泊まった日にコンビニで買った一〇代女子向けの雑誌だ。
月刊の別冊で『女の子のHOW TO SEX』という特集記事で男女の交わる姿をイラストで掲載している。途中から実写も入ってかなり際どい内容になる。
「四条先輩が弟君との練習に使うようにと……」
「えーっと、加奈子さん。雑誌の中身は見てないよね?」
「い、いえ……見てしまいました……」
湯気立ちそうな勢いで加奈子さんが頬を赤面させた。
「見ちゃったんだ」
「その……好奇心でつい……」
「これはなんというか、練習や参考にはならないから」
「想像すると……恥ずかしくて。弟君とその……こんなことを……」
適当にめくったページは性行為を解説している。
大きめのイラストと隅っこにAV男優と女優の絡み合う写真入り。
これを見ると確かに想像してしまう。
「いやいや。これ、大げさなんだよ! ここまでしない!」
「どこまでするんですか……?」
「どこまで? うーん……」
雑誌を鞄に突っ込んで、加奈子さんの左手を右手でギュッと握った。
お互いの手の平が汗がジンワリと湿っているのがよくわかる。
「弟君?」
「今はここまでかなぁ……」
また加奈子さんがクスッと笑った。
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