姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛

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【本幕・最終章】あねらぶる終撃っ

0.姉たちが揃うと必ずこうなりますねっ!

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 六月一〇日、放課後。
週末の出来事を来栖に報告するために、姫咲公園で落ち合った。
学校モードの来栖有紀が、ベンチに座って待っている。
どこからどう見ても、眼鏡をかけた真面目な女の子にしか見えない。

「遅いわ、蒼太君」
「悪い。花穂姉ちゃんは帰ったか?」
「加奈子さんと生徒会室にいるみたい」

 自販機で買ったスポーツドリンクを、来栖に手渡してベンチに座る。
どんよりとした空の色だ。鉛色の雨雲が、巨大な生き物のようにうねる。

「結城藍子さんから、DNA鑑定書の真相は全部聞いたぞ」

 俺が代理母出産で生まれた経緯、遺伝的には結城海斗と妻青葉の子であること、加奈子さんがブラコンではないことを説明した。すべてを話し終えると、来栖はホッとした顔を見せた。

「不倫の子ではないってことね……」
「ああ。結城陸人さんと、海斗の兄弟関係は良好だ」
「このことは、花穂さんや紗月さんに話したの?」
「いや。青山家の両親が正式に話すまで、俺の出生については内密だ」
「蒼太君……姉二人に隠し事する状況を楽しんでるでしょ?」
 
 スポーツドリンクで喉を潤わせながら、来栖が笑みを浮かべる。

「そう思うなら、花穂姉ちゃんに言ってもいいぞ」
「言わないわ。蒼太君の味方だから」
「敵でも味方でもないって言っただろ? 花穂姉ちゃんとも仲いいし……」
「青山花穂の味方だと言った覚えはないけど? 友達と言った覚えもないわ」

 人をけむに巻くような言い草だが、来栖の主張は理解できる。
要するに、最初は花穂姉ちゃんからの依頼で加奈子さんを監視していたが、想定外の出来事が起こってしまった。テスト期間中に、俺と仲良くなり過ぎたことだ。

「『共有ボックス』は謎のままだな。というか、来栖が花穂姉ちゃんのスパイなら、俺は敵に情報を漏らす愚行を犯してたワケか……」
「最初から二重スパイのつもりだけど? 出会う前から蒼太君側よ」
「思えば、最初は四条春香先輩にプールで再会して……次は来栖だろ。そして、御子柴ミコ先輩。花穂姉ちゃんは、結局なにがしたかったんだろう……」
と蒼太君の関係を進展させないように阻止することが一つね」
「姉たち……紗月姉と加奈子さんか……」

 来栖は途中まで飲んだペットボトルのキャップを締めながら立ち上がる。
指を組んで背伸びをして、一度だけ大きな深呼吸をした。

「もう一つ。花穂さん自身も、蒼太君に近づき過ぎた」
「ミイラ取りがミイラになる……だな」
「共有ボックスについては、花穂さんから聞いてるの。加奈子さんの様子や蒼太君となにをしたのか、オープンに話し合ってるだけよ。本当かどうかは、わからないけどね」

 共有ボックスなるアプリ。
紗月姉と花穂姉ちゃんのアカウントは、『蒼太の共有ボックス』だ。
お互いのブラコンっぷりを報告し合う、実に不愉快なアプリだが……
やはり、加奈子さんと俺の距離感を警戒していたのだろう。

「来栖、教えてくれ。紗月姉はわかってくれたと思うけど……」
「心が揺れている花穂さんとの距離の置き方ね?」
「ああ。姉の気持ちをこれ以上俺に向かないようにするには――」
「突きなさいっ!」
「はぁ?」

 突然、来栖が制服姿のままお尻をプリッとこちらに向ける。

「だから、わたしを選べば姉二人も加奈子さんも諦めるしかないわ!」
「お前は、俺より先に家に呼んだが気になる。違うか? 嘘をつくな」
「ノーコメントね」
「ライバルは四条春香だぞ。精々、三角関係を頑張ってくれ」

 来栖有紀が初めて家に呼んだ人物、それは御子柴龍司だ。
御子柴龍司は姉の紗月にぞっこんだが、どこかで四条春香を気にしている。

 四条春香も家柄の違いを気にしつつ、御子柴龍司を心の底で思っている。
あの二人の砕けた雰囲気を見れば、誰もが気づくだろう。
俺への好意は、紗月姉への憧れや親しみを投影していたに過ぎない。
少し意地悪な言い方をすれば、俺は当て馬にされたのだ。

「蒼太君……噂をすれば来たわ……」
「げっ! 紗月姉までいるじゃないかっ!」

 公園の入口から歩いて来る女性が三人。
グレーのスポーツウェア上下を身にまとった紗月姉。
制服姿で鞄を手に携えた花穂姉ちゃんと四条先輩がいる。
紗月姉は夏休みまで帰らないと言っていたはず……

「蒼ちゃん! お隣りの来栖さんと逢引き?」
「紗月姉! 夏休みまで帰って来ないって言っただろ!?」
「言ったっけ? 明日、休講日になったから帰って来た!」

 紗月姉はカラカラと笑いながら、俺と来栖が座るベンチにやって来た。
少しあとから、花穂姉ちゃんと四条春香がついて来る。

「蒼太と有紀ちゃんが怪しい関係なの? 浮気だよ?」
「蒼太郎、バイトの件は考えてくれたのか? わたしと一緒に……」
「さあて、今夜はどんなイタズラを蒼ちゃんに――」
「どうするの? 蒼太君。誰を選ぶの? わたしを突っついてみる?」

 ズイズイと四人が迫って来る。隣りに座る来栖が、いきなり腕を組んで密着。
俺はため息を落として、曇天を見上げる。空に視線を移す一瞬、なにかが見えた。

 姫咲公園の入り口、数本植えられた街路樹から手だけが見える。
こっちへ来いと、誰かが手招きする。まるで、リレーのバトンを待つ選手のように手を構えて、俺が来るのを待っている。

(――今だっ!)


 鼻息の荒い四人の隙をついて、公園の入り口へ走り抜けた。
そして、差し伸べられた手は、俺を引っ張って住宅街へ走って行く。

 記憶の奥底から同じ光景が、一瞬だけフラッシュバックしては消える。
小さい頃に同じようなことがあった。同じ手に引かれて走り去った。

 踊るように揺れる長い黒髪は、高貴な香りがする。
つないだ手は透き通るように白く、その体は抱き締めれば壊れそうなほど華奢だ。

 隣りの天才変人、我が家の変態姉妹、爆乳ハッタリ剣士に迫られた俺。

 救いの手を差し伸べてくれたのは――――
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