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【本幕・第11章】あねまっくす真撃っ 後編!
4.姉と変態天才が組むのはありですかっ!
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一五八二年六月、本能寺で明智光秀に討たれた織田信長はこう言った。
余は余自ら死を招いたなと。俺の心境も、まさに本能寺の変に近いのではないか。
全幅の信頼を置く、重要な人物に裏切られた気分だ。
挨拶もなしに家に入り込み、リビングルームを開いた人物……
こいつとは知り合って日が浅いが、それなりに交流してきた。
「嘘だろ……なんで、お前が!?」
「言わなかったかしら? わたしは蒼太君の味方でも敵でもない」
来栖有紀が青山家に姿を現した。
さっき花穂姉ちゃんが打ったメールは、来栖を呼ぶためのものだったのだ。
「まさか、来栖が花穂姉ちゃんと通じていたとはな……」
「蒼太はずいぶん有紀ちゃんを信頼してたみたいだね」
「本能寺の変の信長みたいな感じだぞ。謀られた!」
家が隣り同士で、クラスも同じ、生徒会室で一緒になる時間も多い。
なぜ俺は、花穂姉ちゃんと来栖有紀が不仲だと決めつけてしまったのだろう。
「本能寺の変と言うより、蒼太君は本能のまま変態でしょ!」
「お前は花穂姉ちゃん嫌ってるって言ってたから……」
「蒼太、同族嫌悪はあるよ。成績でもライバルだしさ」
「そうね。クソ猫かぶりはお互い様。似たもの同士なの、花穂さんとは」
ここで俺は、一気に脳内再生を巻き戻しさせる。
来栖有紀との出会いから、テスト勉強を教わる過程を思い出す。
いったい、どこから姉と繋がっていたのだ。
「花穂姉ちゃん! 来栖が俺に勉強教えてたの知ってたな!?」
「知ってるもなにも、わたしが有紀ちゃんに頼んだの。目的は加奈ちゃんと紗月姉から少しでも遠ざけるためにね。紗月姉はいなかったけど、加奈ちゃんは時々うちに寄ってたから」
「蒼太君、それも言ったわ。花穂さんの教え方では上位は狙えないって……だから、わたしが蒼太君の勉強を見ることになったのよ」
「じゃあ、お前が塁姉と言ってた姉との関係デフォルト作戦はなんなんだ!?」
この女は、塁姉と目の前で言ったではないか。
自立を目指して距離を置く、ごく自然体にと……
「塁さんは紗月さんと花穂さんの二人だと思ってたみたいだけど、わたしは紗月さんと結城加奈子さんとの距離を置くように言ったつもりよ」
「おかしいじゃないかっ!! 花穂姉ちゃんも相当なブラコン行動してたぞ!」
怒り任せにテーブルを拳で叩いてしまった。
空のグラスがゴトリと倒れ、氷がテーブルに転がる。
「うん。ごめんね。蒼太の気を加奈ちゃんから逸らしたかった」
「たったそれだけの理由で、風呂に入ったりベッドに忍び込んだりしたのか!?」
「蒼太にとっては些細な理由かもしれない。わたしにとっては重要なの」
「なんで、そこまでするんだよ……」
重苦しい沈黙が、一分程続いた。
来栖がテーブルの上の倒れたグラスを立て直している。
「花穂さんにとって、蒼太君は弟として大切。紗月さんは姉として、加奈子さんは親友として大切だったと言うことよ。誤った道を行くなら、それを正さなければいけないわ」
「来栖!! お前もお前だ! この端末の裏アプリを消したんじゃないのか!?」
来栖有紀とテスト勉強をした日、このウェアラブルに姉がインストールした裏アプリが入っていると指摘された。俺の位置をいつでも把握可能なアプリと、強制的にテレビ電話を着信させる裏アプリだ。栗栖はそのとき、裏アプリを削除したと言ったのだ。
「有紀ちゃんを責めないで! 裏アプリを入れたのはわたし。これも、紗月姉と加奈ちゃんの動向を把握するためなの」
「花穂姉ちゃん……俺も紗月姉も欺いてたのか……」
「そんなつもりじゃ――」
「欺いたと言われれば、わたしも同罪ね。裏アプリはあのとき消したけど、花穂さんに事後報告はしたから……」
空気が張り詰めて重い。この場から飛び出したい気分だ。
今日は花穂姉ちゃんと、これまでの反省をしつつ普通の姉弟に戻る約束をするつもりだった。それがどうだ。俺は姉の掌の上で踊らされていただけではないか。
花穂姉ちゃんは、来栖と俺のアイスコーヒーを入れ直した。
二人が目の前に並んで座る。秀才の姉と天才の来栖、組めば最強だな。
全然、仲良しには見えないのが、少し滑稽ではあるが……
「まあ、来栖に関しては、どこか演技っぽい雰囲気あったからな……」
「演じてるつもりはないけど、そういう感じに見えたかもね」
「有紀ちゃん。アレ、持ってきてくれた?」
「ええ。持って来たわ」
少し前に来栖の家で見た封筒だ。
花穂姉ちゃんが中身を取り出すと、DNA鑑定書が出てきた。
「それは俺のDNA鑑定書……」
「蒼太。わたしもこれには驚いているの。加奈ちゃんにも聞いたことがない」
「来栖、お前が直接聞けばいいんじゃないのか?」
「父は今、海外なの。それに、養女のわたしからは聞きにくいかな……」
結城家に秘匿された情報は、結城家の人間に聞くしかない。
やはり、加奈子さんか母である結城藍子さんに聞くべきだろう。
「花穂姉ちゃん。加奈子さんのお母さん、まあ俺の母親でもあるんだけど……泊りに行ったときって加奈子さんの部屋に来るのか?」
「うん。一日一度は来るよ。上の階から食材を持って来てくれるの」
「今週末か来週末に、泊まりの約束を取りつけてくれ!」
「まさか、蒼太も行くの!?」
「そうだ。一緒に行く。姉ちゃんはなにか理由をつけて、途中で家に帰ってほしい。俺はその間に加奈子さんか藍子さんから話を聞き出す。もちろん、この鑑定書も見せるつもりだ!」
「蒼太君、わかってるの? これは結城家を崩壊させるかもしれないわ」
「崩壊だと? 俺の親子の形、姉弟の形も崩壊に近いじゃないか」
来栖の手から鑑定書を奪い取り、そのまま部屋をあとにした。
残ったのは、どこにぶつけていいのかわからない激しい憤りだけだった……
余は余自ら死を招いたなと。俺の心境も、まさに本能寺の変に近いのではないか。
全幅の信頼を置く、重要な人物に裏切られた気分だ。
挨拶もなしに家に入り込み、リビングルームを開いた人物……
こいつとは知り合って日が浅いが、それなりに交流してきた。
「嘘だろ……なんで、お前が!?」
「言わなかったかしら? わたしは蒼太君の味方でも敵でもない」
来栖有紀が青山家に姿を現した。
さっき花穂姉ちゃんが打ったメールは、来栖を呼ぶためのものだったのだ。
「まさか、来栖が花穂姉ちゃんと通じていたとはな……」
「蒼太はずいぶん有紀ちゃんを信頼してたみたいだね」
「本能寺の変の信長みたいな感じだぞ。謀られた!」
家が隣り同士で、クラスも同じ、生徒会室で一緒になる時間も多い。
なぜ俺は、花穂姉ちゃんと来栖有紀が不仲だと決めつけてしまったのだろう。
「本能寺の変と言うより、蒼太君は本能のまま変態でしょ!」
「お前は花穂姉ちゃん嫌ってるって言ってたから……」
「蒼太、同族嫌悪はあるよ。成績でもライバルだしさ」
「そうね。クソ猫かぶりはお互い様。似たもの同士なの、花穂さんとは」
ここで俺は、一気に脳内再生を巻き戻しさせる。
来栖有紀との出会いから、テスト勉強を教わる過程を思い出す。
いったい、どこから姉と繋がっていたのだ。
「花穂姉ちゃん! 来栖が俺に勉強教えてたの知ってたな!?」
「知ってるもなにも、わたしが有紀ちゃんに頼んだの。目的は加奈ちゃんと紗月姉から少しでも遠ざけるためにね。紗月姉はいなかったけど、加奈ちゃんは時々うちに寄ってたから」
「蒼太君、それも言ったわ。花穂さんの教え方では上位は狙えないって……だから、わたしが蒼太君の勉強を見ることになったのよ」
「じゃあ、お前が塁姉と言ってた姉との関係デフォルト作戦はなんなんだ!?」
この女は、塁姉と目の前で言ったではないか。
自立を目指して距離を置く、ごく自然体にと……
「塁さんは紗月さんと花穂さんの二人だと思ってたみたいだけど、わたしは紗月さんと結城加奈子さんとの距離を置くように言ったつもりよ」
「おかしいじゃないかっ!! 花穂姉ちゃんも相当なブラコン行動してたぞ!」
怒り任せにテーブルを拳で叩いてしまった。
空のグラスがゴトリと倒れ、氷がテーブルに転がる。
「うん。ごめんね。蒼太の気を加奈ちゃんから逸らしたかった」
「たったそれだけの理由で、風呂に入ったりベッドに忍び込んだりしたのか!?」
「蒼太にとっては些細な理由かもしれない。わたしにとっては重要なの」
「なんで、そこまでするんだよ……」
重苦しい沈黙が、一分程続いた。
来栖がテーブルの上の倒れたグラスを立て直している。
「花穂さんにとって、蒼太君は弟として大切。紗月さんは姉として、加奈子さんは親友として大切だったと言うことよ。誤った道を行くなら、それを正さなければいけないわ」
「来栖!! お前もお前だ! この端末の裏アプリを消したんじゃないのか!?」
来栖有紀とテスト勉強をした日、このウェアラブルに姉がインストールした裏アプリが入っていると指摘された。俺の位置をいつでも把握可能なアプリと、強制的にテレビ電話を着信させる裏アプリだ。栗栖はそのとき、裏アプリを削除したと言ったのだ。
「有紀ちゃんを責めないで! 裏アプリを入れたのはわたし。これも、紗月姉と加奈ちゃんの動向を把握するためなの」
「花穂姉ちゃん……俺も紗月姉も欺いてたのか……」
「そんなつもりじゃ――」
「欺いたと言われれば、わたしも同罪ね。裏アプリはあのとき消したけど、花穂さんに事後報告はしたから……」
空気が張り詰めて重い。この場から飛び出したい気分だ。
今日は花穂姉ちゃんと、これまでの反省をしつつ普通の姉弟に戻る約束をするつもりだった。それがどうだ。俺は姉の掌の上で踊らされていただけではないか。
花穂姉ちゃんは、来栖と俺のアイスコーヒーを入れ直した。
二人が目の前に並んで座る。秀才の姉と天才の来栖、組めば最強だな。
全然、仲良しには見えないのが、少し滑稽ではあるが……
「まあ、来栖に関しては、どこか演技っぽい雰囲気あったからな……」
「演じてるつもりはないけど、そういう感じに見えたかもね」
「有紀ちゃん。アレ、持ってきてくれた?」
「ええ。持って来たわ」
少し前に来栖の家で見た封筒だ。
花穂姉ちゃんが中身を取り出すと、DNA鑑定書が出てきた。
「それは俺のDNA鑑定書……」
「蒼太。わたしもこれには驚いているの。加奈ちゃんにも聞いたことがない」
「来栖、お前が直接聞けばいいんじゃないのか?」
「父は今、海外なの。それに、養女のわたしからは聞きにくいかな……」
結城家に秘匿された情報は、結城家の人間に聞くしかない。
やはり、加奈子さんか母である結城藍子さんに聞くべきだろう。
「花穂姉ちゃん。加奈子さんのお母さん、まあ俺の母親でもあるんだけど……泊りに行ったときって加奈子さんの部屋に来るのか?」
「うん。一日一度は来るよ。上の階から食材を持って来てくれるの」
「今週末か来週末に、泊まりの約束を取りつけてくれ!」
「まさか、蒼太も行くの!?」
「そうだ。一緒に行く。姉ちゃんはなにか理由をつけて、途中で家に帰ってほしい。俺はその間に加奈子さんか藍子さんから話を聞き出す。もちろん、この鑑定書も見せるつもりだ!」
「蒼太君、わかってるの? これは結城家を崩壊させるかもしれないわ」
「崩壊だと? 俺の親子の形、姉弟の形も崩壊に近いじゃないか」
来栖の手から鑑定書を奪い取り、そのまま部屋をあとにした。
残ったのは、どこにぶつけていいのかわからない激しい憤りだけだった……
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