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【本幕・第10章】あねしーくえんすっ
3.隠された過去の事件を知らされますっ!
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五月二八日、午後九時過ぎ。
リビングに敷いた布団で、美果ちゃんが寝息を立て始めた。
塁姉はテーブルの上にアルバムを置いたまま、お茶を沸かしている。
「青山透流……青山家の集合写真に俺がいない。透流って誰なんだ!?」
「ちょっと待ちなよ。今、お茶入れるから」
二つマグカップを持って、塁姉がテーブルの椅子に座り込んだ。
お茶をすすりながら、俺が凝視する写真に目を落とす。
「この写真に俺がいないのは、まだ養子に来てないってことだよな?」
「そうだ。お前が養子に来たのは、この写真の約一年後だからな」
「青山透流が末っ子って……」
「透流は不幸な事故で死んだんだ。今では青山家と結城家のタブーの話題だ」
青山透流は青山家の末っ子の長男として誕生した。
しかし、一歳になったばかりのある日、事故で亡くなったと言うのだ。
「事故か……」
「事故現場は……結城建業の事務所前の駐車場だ。トラックが車庫入れをするときに、接触事故を起こしたんだ。即死ではなかったけど、意識不明のまま三日後病院で亡くなった。運転していたのが結城社長で、隣りに乗っていたのが賢悟叔父さんだった」
賢悟叔父さんとは、海外赴任中の我が家の父である。
写真の謎がひとつ解けた。青山透流は紗月と花穂の実弟だが、死亡している。
腑に落ちないのは、俺が結城家から養子に来る必要があったのかということ。
「……養子縁組は……」
俺の疑問を遮るように、塁姉は話を続けた。
「賢悟叔父さんは最初に女の子が生まれたからな、男の子が欲しかったんだ。待望の男の子が生まれてさ、すごい喜んでたのを今でも覚えている。だから、あの事故以来抜け殻のようになって……叔父さんの不精さは、その頃の傷を引きずってるんだろうな」
「そうなんだ……父さんが……」
「その数か月後、結城蒼太は青山家と養子縁組されたんだよ。賢悟おじさんは最初は断っていたけど、結城家がどうしてもって言って……あたしも詳しい経緯は知らない」
この話しぶりでは、加奈子さんの父結城陸人が俺を養子に出したのか、実父の結城海斗が養子に出したのかはっきりしない。確かなのは、加奈子さんと同じ母から産まれたことだ。ここでおかしな点が一つ出てくる。加奈子さんの母親である結城藍子さんは、結城陸人の妻である。しかし、DNA鑑定の結果、俺は結城陸人の兄結城海斗の子だと診断された。
(DNA鑑定は塁姉にも内緒だったな……)
青山透流の死亡が四月、一歳の誕生日を迎えて間もなくだった。俺が生まれたのは……次の年の三月だ。なにかおかしい。花穂姉ちゃんと死亡した青山透流の年齢差がない。
「まさか! 塁姉……花穂姉ちゃんと死んだ透流って……」
「双子の姉弟だ。花穂は、自分の正しい誕生日を知らない」
そう言えば、花穂姉ちゃんの誕生日は一〇月一〇日だ。
これまで青山家では、普通に誕生日を祝っていた。
そんな祝いごとの日さえ偽りだったというのか。本人も知らないのか。
◇◇◇
同じ町内の結城家から青山家へ養子に来た理由。それは不幸な事故が関係していた。
父と母は、それを俺に黙っている。いつか話す日が来ると実母である結城藍子さんが言っていた。それはいったい、いつの日なのか。養父母に教えられる前に、俺はすべてを知ってしまった。
「父さんと母さんは、なぜ俺に教えてくれないんだろう?」
「蒼太はもう青山家の子だ。でも、まだ未成年の子供とも言える。賢悟叔父さんは時期を見計らって、蒼太と腰を据えて話し合おうと思っているはずだ。そういう父親だろ?」
言われてみればそうだ。青山家の父と母は人に嘘をつくような人間ではない。
むしろ、黙っていることで苦しんでいる可能性さえある。
「そうだな。ちょっと動揺したけど、俺が養子に出された理由はわかった」
「血縁とか気にするな。家族は家族だし、姉弟であることも変わりない」
「すごい変態ブラコン姉妹だけどな……」
「それだけ弟に愛情注いでいるってことだろ? たまには精子注いでやれ!」
「それ、逆効果な……」
あまり掘りさげて質問すると、地雷を踏む恐れがある。俺の血縁についてだ。
塁姉は知っているのだろうか。養子に出した夫婦のうち、父とは血縁がないこと……
「あの事故からもう一五年になるな……」
「塁姉はもう小学生ぐらいだったから覚えてるんだ!?」
「ああ。葬儀に出たのも覚えてる」
少し探りを入れようと思った。
俺の実父が結城海斗だと、知っているのかどうか。
「加奈子さんの伯父さん知ってるよな?」
「うちの社長だろ? 実は跡取りがいるんだ」
「え!?」
「蒼太、お前だ」
リビングに敷いた布団で、美果ちゃんが寝息を立て始めた。
塁姉はテーブルの上にアルバムを置いたまま、お茶を沸かしている。
「青山透流……青山家の集合写真に俺がいない。透流って誰なんだ!?」
「ちょっと待ちなよ。今、お茶入れるから」
二つマグカップを持って、塁姉がテーブルの椅子に座り込んだ。
お茶をすすりながら、俺が凝視する写真に目を落とす。
「この写真に俺がいないのは、まだ養子に来てないってことだよな?」
「そうだ。お前が養子に来たのは、この写真の約一年後だからな」
「青山透流が末っ子って……」
「透流は不幸な事故で死んだんだ。今では青山家と結城家のタブーの話題だ」
青山透流は青山家の末っ子の長男として誕生した。
しかし、一歳になったばかりのある日、事故で亡くなったと言うのだ。
「事故か……」
「事故現場は……結城建業の事務所前の駐車場だ。トラックが車庫入れをするときに、接触事故を起こしたんだ。即死ではなかったけど、意識不明のまま三日後病院で亡くなった。運転していたのが結城社長で、隣りに乗っていたのが賢悟叔父さんだった」
賢悟叔父さんとは、海外赴任中の我が家の父である。
写真の謎がひとつ解けた。青山透流は紗月と花穂の実弟だが、死亡している。
腑に落ちないのは、俺が結城家から養子に来る必要があったのかということ。
「……養子縁組は……」
俺の疑問を遮るように、塁姉は話を続けた。
「賢悟叔父さんは最初に女の子が生まれたからな、男の子が欲しかったんだ。待望の男の子が生まれてさ、すごい喜んでたのを今でも覚えている。だから、あの事故以来抜け殻のようになって……叔父さんの不精さは、その頃の傷を引きずってるんだろうな」
「そうなんだ……父さんが……」
「その数か月後、結城蒼太は青山家と養子縁組されたんだよ。賢悟おじさんは最初は断っていたけど、結城家がどうしてもって言って……あたしも詳しい経緯は知らない」
この話しぶりでは、加奈子さんの父結城陸人が俺を養子に出したのか、実父の結城海斗が養子に出したのかはっきりしない。確かなのは、加奈子さんと同じ母から産まれたことだ。ここでおかしな点が一つ出てくる。加奈子さんの母親である結城藍子さんは、結城陸人の妻である。しかし、DNA鑑定の結果、俺は結城陸人の兄結城海斗の子だと診断された。
(DNA鑑定は塁姉にも内緒だったな……)
青山透流の死亡が四月、一歳の誕生日を迎えて間もなくだった。俺が生まれたのは……次の年の三月だ。なにかおかしい。花穂姉ちゃんと死亡した青山透流の年齢差がない。
「まさか! 塁姉……花穂姉ちゃんと死んだ透流って……」
「双子の姉弟だ。花穂は、自分の正しい誕生日を知らない」
そう言えば、花穂姉ちゃんの誕生日は一〇月一〇日だ。
これまで青山家では、普通に誕生日を祝っていた。
そんな祝いごとの日さえ偽りだったというのか。本人も知らないのか。
◇◇◇
同じ町内の結城家から青山家へ養子に来た理由。それは不幸な事故が関係していた。
父と母は、それを俺に黙っている。いつか話す日が来ると実母である結城藍子さんが言っていた。それはいったい、いつの日なのか。養父母に教えられる前に、俺はすべてを知ってしまった。
「父さんと母さんは、なぜ俺に教えてくれないんだろう?」
「蒼太はもう青山家の子だ。でも、まだ未成年の子供とも言える。賢悟叔父さんは時期を見計らって、蒼太と腰を据えて話し合おうと思っているはずだ。そういう父親だろ?」
言われてみればそうだ。青山家の父と母は人に嘘をつくような人間ではない。
むしろ、黙っていることで苦しんでいる可能性さえある。
「そうだな。ちょっと動揺したけど、俺が養子に出された理由はわかった」
「血縁とか気にするな。家族は家族だし、姉弟であることも変わりない」
「すごい変態ブラコン姉妹だけどな……」
「それだけ弟に愛情注いでいるってことだろ? たまには精子注いでやれ!」
「それ、逆効果な……」
あまり掘りさげて質問すると、地雷を踏む恐れがある。俺の血縁についてだ。
塁姉は知っているのだろうか。養子に出した夫婦のうち、父とは血縁がないこと……
「あの事故からもう一五年になるな……」
「塁姉はもう小学生ぐらいだったから覚えてるんだ!?」
「ああ。葬儀に出たのも覚えてる」
少し探りを入れようと思った。
俺の実父が結城海斗だと、知っているのかどうか。
「加奈子さんの伯父さん知ってるよな?」
「うちの社長だろ? 実は跡取りがいるんだ」
「え!?」
「蒼太、お前だ」
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