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【本幕・第10章】あねしーくえんすっ
2.アルバムの秘密を明かしてくださいっ!
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五月二八日、午後七時前。来栖邸の勝手口側の駐車場で塁姉を待つ。
来栖邸は明かりがない。来栖有紀は出掛けているようだ。
待つこと五分弱、白い軽自動車が家の前に停車した。窓から塁姉が顔を出す。
「蒼太、乗りなよ。すぐ家帰るぞ」
「ソータ、デカチン!」
「わかった。美果ちゃん、デカチンって言っちゃダメだってば……」
助手席には塁姉が鞄や荷物を乗っけているため、美果ちゃんが乗る後部座席に乗り込んだ。車は大通りへ出て、加奈子さんのマンションを過ぎ隣町の青山家へと向かう。
「珍しいな、蒼太がうちに来たいって言うのは」
「塁姉に頼みがあるんだ。姉二人に言いにくいことだからさ」
「そうか……蒼太もそういう年頃だもんな。美果が寝てからにしろよ?」
「ソータ?」
「塁姉……そういうのじゃないからな!」
隣町へ続く国道はこの時間、少し混みだす。週末になると余計に混雑するのだ。
姫咲の町から走ること二十分、塁姉が住む祖父母の家が見えて来た。
こちらの青山家は築五十年の古民家だったが、今年リフォーム工事をしたらしい。
年末年始に来た折と違って、モダンな新築民家に見える。
塁姉の父と母である伯父夫婦は、ここから近くのアパートに暮らしている。
狭っちいアパート暮らしを嫌がって、塁姉は実家に引っ越したらしい。
広い庭先に駐車して、荷物を家の中に運び入れる。
玄関のドアも、前に来たときと違うものに変わっている。内装もクロスや床板を貼り替えたようだ。数か月前に来たときと別空間だ。匂いが新築臭いと言うべきだろうか。新築ではないが……
「蒼太、晩御飯作るから美果の相手してくれる?」
「お安い御用だ。任せてくれ」
塁姉はリビングに入り、エプロンを装着して調理モードに突入。
俺は保育士モードに突入か。子供の相手は嫌いではない。
「ソータ!」
「ん? 美果ちゃんこれは……」
美果ちゃんは出しっぱなしのアルバムの中から、一枚の写真を持って来た。
その写真は一〇数年前の正月に撮ったものだろうか。
親戚一同が玄関前に並んで写っている。
「ソータ、ソータ!」
「父さん母さん、紗月姉と花穂姉ちゃんが写ってるな。あと伯父さん伯母さん、塁姉だろ。おじいちゃんとおばあちゃん……この一番小さい子供が……俺か?」
集合写真の真ん中で、父さんと母さんが乳幼児を抱いている。それが俺なのかどうかわからない。ただ、紗月姉はその幼児の頭を撫でたりして、可愛がっている様子がうかがえる内容の写真だ。俺は美果ちゃんと、しばらく写真を見て時間を潰した。
「よし、美果と蒼太! メシ食うぞ!」
キッチンテーブルの上に用意されているのはすき焼きだ。
カセットコンロでグツグツ煮え立っている。甘辛いダシの香りが食欲をそそる。
「ソータ、マンマ……」
「うん、腹減った。美果ちゃん、ご飯食べようか」
「美果、こっち座って。蒼太は向かいの席に座ってくれ」
こうして、三人で食卓を囲むのは珍しいことだ。
なにより、俺が来たことで喜ぶ美果ちゃんの顔を見ると心が和む。
◇◇◇
午後八時過ぎに入浴。俺が入ったあとで、塁姉と美果ちゃんが入った。
リビングには先程のアルバムが出しっぱなしになっている。
おそらく、祖父母が旅行の関係で物入れから放り出して来たのだろう。
退屈しのぎにもう一度アルバムをめくることにした。
「塁姉と紗月姉は写真多いな」
やはり最初の子は写真が多い。俺の写真は赤ん坊のものしかない。
今それを見ても、自分だとわからない。
(――この写真)
美果ちゃんが俺に渡して来た集合写真を手に取って見た。
真ん中に写る母さん。右隣りに紗月姉がいて、赤ん坊の頭を撫でている。
左隣りは花穂姉ちゃんだろうか。父さんに抱えられた赤ん坊がもう一人いる。ここでやっとこの写真の妙な部分に気がついたのだ。
「塁姉……塁姉っ!」
美果ちゃんの髪の毛をドライヤーで乾かす塁姉を呼んだ。
このアルバム……これ見よがしにリビングに置いたのは祖父母ではない。
「蒼太……来栖副社長から粗方は聞いてる。それを出したのはあたしだ」
「この赤ん坊、よく見ると俺とは全然違う……誰なんだ? それに花穂姉ちゃんとの年齢差がおかしい。この二人の赤ん坊は、同い年に見えるぞ……」
「その写真に写ってる赤ん坊は、青山家の末っ子だ」
青山家の末っ子は、養子の俺ではないのか……
「末っ子って俺じゃ……」
「末っ子は青山透流だ……」
来栖邸は明かりがない。来栖有紀は出掛けているようだ。
待つこと五分弱、白い軽自動車が家の前に停車した。窓から塁姉が顔を出す。
「蒼太、乗りなよ。すぐ家帰るぞ」
「ソータ、デカチン!」
「わかった。美果ちゃん、デカチンって言っちゃダメだってば……」
助手席には塁姉が鞄や荷物を乗っけているため、美果ちゃんが乗る後部座席に乗り込んだ。車は大通りへ出て、加奈子さんのマンションを過ぎ隣町の青山家へと向かう。
「珍しいな、蒼太がうちに来たいって言うのは」
「塁姉に頼みがあるんだ。姉二人に言いにくいことだからさ」
「そうか……蒼太もそういう年頃だもんな。美果が寝てからにしろよ?」
「ソータ?」
「塁姉……そういうのじゃないからな!」
隣町へ続く国道はこの時間、少し混みだす。週末になると余計に混雑するのだ。
姫咲の町から走ること二十分、塁姉が住む祖父母の家が見えて来た。
こちらの青山家は築五十年の古民家だったが、今年リフォーム工事をしたらしい。
年末年始に来た折と違って、モダンな新築民家に見える。
塁姉の父と母である伯父夫婦は、ここから近くのアパートに暮らしている。
狭っちいアパート暮らしを嫌がって、塁姉は実家に引っ越したらしい。
広い庭先に駐車して、荷物を家の中に運び入れる。
玄関のドアも、前に来たときと違うものに変わっている。内装もクロスや床板を貼り替えたようだ。数か月前に来たときと別空間だ。匂いが新築臭いと言うべきだろうか。新築ではないが……
「蒼太、晩御飯作るから美果の相手してくれる?」
「お安い御用だ。任せてくれ」
塁姉はリビングに入り、エプロンを装着して調理モードに突入。
俺は保育士モードに突入か。子供の相手は嫌いではない。
「ソータ!」
「ん? 美果ちゃんこれは……」
美果ちゃんは出しっぱなしのアルバムの中から、一枚の写真を持って来た。
その写真は一〇数年前の正月に撮ったものだろうか。
親戚一同が玄関前に並んで写っている。
「ソータ、ソータ!」
「父さん母さん、紗月姉と花穂姉ちゃんが写ってるな。あと伯父さん伯母さん、塁姉だろ。おじいちゃんとおばあちゃん……この一番小さい子供が……俺か?」
集合写真の真ん中で、父さんと母さんが乳幼児を抱いている。それが俺なのかどうかわからない。ただ、紗月姉はその幼児の頭を撫でたりして、可愛がっている様子がうかがえる内容の写真だ。俺は美果ちゃんと、しばらく写真を見て時間を潰した。
「よし、美果と蒼太! メシ食うぞ!」
キッチンテーブルの上に用意されているのはすき焼きだ。
カセットコンロでグツグツ煮え立っている。甘辛いダシの香りが食欲をそそる。
「ソータ、マンマ……」
「うん、腹減った。美果ちゃん、ご飯食べようか」
「美果、こっち座って。蒼太は向かいの席に座ってくれ」
こうして、三人で食卓を囲むのは珍しいことだ。
なにより、俺が来たことで喜ぶ美果ちゃんの顔を見ると心が和む。
◇◇◇
午後八時過ぎに入浴。俺が入ったあとで、塁姉と美果ちゃんが入った。
リビングには先程のアルバムが出しっぱなしになっている。
おそらく、祖父母が旅行の関係で物入れから放り出して来たのだろう。
退屈しのぎにもう一度アルバムをめくることにした。
「塁姉と紗月姉は写真多いな」
やはり最初の子は写真が多い。俺の写真は赤ん坊のものしかない。
今それを見ても、自分だとわからない。
(――この写真)
美果ちゃんが俺に渡して来た集合写真を手に取って見た。
真ん中に写る母さん。右隣りに紗月姉がいて、赤ん坊の頭を撫でている。
左隣りは花穂姉ちゃんだろうか。父さんに抱えられた赤ん坊がもう一人いる。ここでやっとこの写真の妙な部分に気がついたのだ。
「塁姉……塁姉っ!」
美果ちゃんの髪の毛をドライヤーで乾かす塁姉を呼んだ。
このアルバム……これ見よがしにリビングに置いたのは祖父母ではない。
「蒼太……来栖副社長から粗方は聞いてる。それを出したのはあたしだ」
「この赤ん坊、よく見ると俺とは全然違う……誰なんだ? それに花穂姉ちゃんとの年齢差がおかしい。この二人の赤ん坊は、同い年に見えるぞ……」
「その写真に写ってる赤ん坊は、青山家の末っ子だ」
青山家の末っ子は、養子の俺ではないのか……
「末っ子って俺じゃ……」
「末っ子は青山透流だ……」
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