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【本幕・第9章】あねあにみっくす双撃っ 前編!
4.姉と弟の心理戦と報酬準備開始ですっ!
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五月二六日火曜日、午後八時。
花穂姉ちゃんと食卓を囲んで夕飯を食べる最中も思考が巡る。
先手か後手か、どちらが有利か。先にテストの話題を振って、飛躍的な成績アップは御子柴龍司の指南の賜物だとアピールしておくか。それとも、今は黙して聞かれてから答えるか。
「蒼太、羽振りがいいようね? 里志君経由の鈴ちゃん情報だけど」
考えているうちに先手を打たれた。食事中の箸が一瞬静止する。
皮肉交じりの言い回しは、この姉独特の口調だ。羽振りがいい、稼いでいる、なにを稼いでいるか。テストの点数を稼いでいる。
「うん。今回は図書館でかなり頑張ったからな」
「前のテストって二〇〇位以下でしょ? 今回は何位ぐらい?」
「たぶん……二〇位以内、もしかするともっと上かも」
花穂姉ちゃんは首を傾げて、しばらく考えるような素振りを見せた。
「ふぅん。加奈ちゃんも頭いいから、蒼太もやればできる子なんだねっ」
なるほど。今まで、そう考えたことはなかった。
実姉の加奈子さんは秀才だ。加奈子さんの兄二人も秀才と聞いている。となると、俺も素質はあると言うことなのか。
「あれ? 俺、話さなかったっけ? 図書館で御子柴先輩に偶然会って、勉強教わったって。ほら、昔紗月姉の親衛隊だった生徒会の人。姉ちゃんもよく知ってるだろ?」
「そうなの? 御子柴先輩はすごい頭いいらしいね」
姉の目を見て会話するが、疑っている様子はない。
ただし、明日生徒会室でミコ先輩本人に確認する腹づもりだろう。
花穂姉ちゃんは、そういう部分に抜け目がない。
◇◇◇
午後一一時半過ぎ。
寝床に入り、紗月姉の電話を鳴らした。
ミコ先輩への報酬を用意するための下準備を行う。
『蒼ちゃん、どうしたの?』
「この前、紗月姉の部屋換気しに行ったとき『粗大ごみ、捨てる』って書いてる袋があったけど、今週、粗大ゴミ収集日だから出してもいいのかな?」
『ああ、忘れてた。連休にちょっと掃除して、不要な衣類を袋詰めしたんだった』
「いらないなら俺も捨てるものあるからいっしょに収集場所に持って行くけど?」
『あ、うん。頼めるかな? 今週末は帰れたら帰るね』
「わかった。それじゃあ、また」
電話を切ってすぐに紗月姉の部屋へ向かった。花穂姉ちゃんは入浴中だ。
紗月姉の部屋の隅にゴミ袋が三つ、ひとつは燃えるゴミ、もうひとつは衣替え用の服。
さらにもうひとつ、『粗大ごみ、捨てる』と書かれたゴミ袋が置いてある。
早速、中身を確認する作業に取り掛かる。
「げっ! これとこれは抜いておくか……」
ある一定のアイテムを抜き取り、ポケットにねじ込む。
そして、袋を元通りに戻す。これでミコ先輩への報酬の下準備は整った。
あとは明日、ここに本人を呼んで、袋を開けさせればいいだけだ。
寝入る前にしばし考えにふけった。最近少し妙なのだ。
この状態が正常なのだが、花穂姉ちゃんの襲撃がとんとない。
風呂場に入って来ないし、部屋にもやって来ない。朝も起こしてくれない。
テスト期間中は仕方ない。姉は必死に勉強していたはずだ。
なぜ大人しいのだろうと思っていた矢先……
部屋のドアが静かに開かれた。
「久しぶりの添い寝だね、蒼太」
枕を持って、Tシャツと短パン姿の花穂姉ちゃんが廊下から部屋に侵入。
「自分の部屋で寝ろよ……だいたい暑いだろ」
季節は春から初夏への移行期間、気温は例年より高く蒸し暑い。
狭いベッドで、寄り添って寝る季節は冬だけで充分だ。
「わかったよ。脱げってことねっ!」
花穂姉ちゃんがTシャツを脱ごうとしたとき、来栖が言った姉回避の方法を思い出した。たまに高熱を出して、寝込んでしまう体調の不安定さを利用する作戦だ。
単純な手だが、あまり使いたい手ではない。
世話をしてくれる姉に嘘をつき、後ろめたい気分になるからだ。
「姉ちゃん、ごめん。少し体調が悪いんだ。だから、今度にしてくれないか?」
「え!? 蒼太、大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫だけど、早く眠りたい……疲れてるのかも」
「わかった……ごめんね……」
こうして、姉の襲撃は未遂に終わった。
部屋を出るときの花穂姉ちゃんが、残念そうに肩を落としてため息をついていた。
今後、決行予定の作戦を考慮すれば、距離を置くのは正解かもしれない。
「――寝るか!」
なぜなら、俺は姉二人との関係をぶち壊そうとしているのだから……
『ゴム付きソータセージチュパラブ作戦』発動の日は近い。
花穂姉ちゃんと食卓を囲んで夕飯を食べる最中も思考が巡る。
先手か後手か、どちらが有利か。先にテストの話題を振って、飛躍的な成績アップは御子柴龍司の指南の賜物だとアピールしておくか。それとも、今は黙して聞かれてから答えるか。
「蒼太、羽振りがいいようね? 里志君経由の鈴ちゃん情報だけど」
考えているうちに先手を打たれた。食事中の箸が一瞬静止する。
皮肉交じりの言い回しは、この姉独特の口調だ。羽振りがいい、稼いでいる、なにを稼いでいるか。テストの点数を稼いでいる。
「うん。今回は図書館でかなり頑張ったからな」
「前のテストって二〇〇位以下でしょ? 今回は何位ぐらい?」
「たぶん……二〇位以内、もしかするともっと上かも」
花穂姉ちゃんは首を傾げて、しばらく考えるような素振りを見せた。
「ふぅん。加奈ちゃんも頭いいから、蒼太もやればできる子なんだねっ」
なるほど。今まで、そう考えたことはなかった。
実姉の加奈子さんは秀才だ。加奈子さんの兄二人も秀才と聞いている。となると、俺も素質はあると言うことなのか。
「あれ? 俺、話さなかったっけ? 図書館で御子柴先輩に偶然会って、勉強教わったって。ほら、昔紗月姉の親衛隊だった生徒会の人。姉ちゃんもよく知ってるだろ?」
「そうなの? 御子柴先輩はすごい頭いいらしいね」
姉の目を見て会話するが、疑っている様子はない。
ただし、明日生徒会室でミコ先輩本人に確認する腹づもりだろう。
花穂姉ちゃんは、そういう部分に抜け目がない。
◇◇◇
午後一一時半過ぎ。
寝床に入り、紗月姉の電話を鳴らした。
ミコ先輩への報酬を用意するための下準備を行う。
『蒼ちゃん、どうしたの?』
「この前、紗月姉の部屋換気しに行ったとき『粗大ごみ、捨てる』って書いてる袋があったけど、今週、粗大ゴミ収集日だから出してもいいのかな?」
『ああ、忘れてた。連休にちょっと掃除して、不要な衣類を袋詰めしたんだった』
「いらないなら俺も捨てるものあるからいっしょに収集場所に持って行くけど?」
『あ、うん。頼めるかな? 今週末は帰れたら帰るね』
「わかった。それじゃあ、また」
電話を切ってすぐに紗月姉の部屋へ向かった。花穂姉ちゃんは入浴中だ。
紗月姉の部屋の隅にゴミ袋が三つ、ひとつは燃えるゴミ、もうひとつは衣替え用の服。
さらにもうひとつ、『粗大ごみ、捨てる』と書かれたゴミ袋が置いてある。
早速、中身を確認する作業に取り掛かる。
「げっ! これとこれは抜いておくか……」
ある一定のアイテムを抜き取り、ポケットにねじ込む。
そして、袋を元通りに戻す。これでミコ先輩への報酬の下準備は整った。
あとは明日、ここに本人を呼んで、袋を開けさせればいいだけだ。
寝入る前にしばし考えにふけった。最近少し妙なのだ。
この状態が正常なのだが、花穂姉ちゃんの襲撃がとんとない。
風呂場に入って来ないし、部屋にもやって来ない。朝も起こしてくれない。
テスト期間中は仕方ない。姉は必死に勉強していたはずだ。
なぜ大人しいのだろうと思っていた矢先……
部屋のドアが静かに開かれた。
「久しぶりの添い寝だね、蒼太」
枕を持って、Tシャツと短パン姿の花穂姉ちゃんが廊下から部屋に侵入。
「自分の部屋で寝ろよ……だいたい暑いだろ」
季節は春から初夏への移行期間、気温は例年より高く蒸し暑い。
狭いベッドで、寄り添って寝る季節は冬だけで充分だ。
「わかったよ。脱げってことねっ!」
花穂姉ちゃんがTシャツを脱ごうとしたとき、来栖が言った姉回避の方法を思い出した。たまに高熱を出して、寝込んでしまう体調の不安定さを利用する作戦だ。
単純な手だが、あまり使いたい手ではない。
世話をしてくれる姉に嘘をつき、後ろめたい気分になるからだ。
「姉ちゃん、ごめん。少し体調が悪いんだ。だから、今度にしてくれないか?」
「え!? 蒼太、大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫だけど、早く眠りたい……疲れてるのかも」
「わかった……ごめんね……」
こうして、姉の襲撃は未遂に終わった。
部屋を出るときの花穂姉ちゃんが、残念そうに肩を落としてため息をついていた。
今後、決行予定の作戦を考慮すれば、距離を置くのは正解かもしれない。
「――寝るか!」
なぜなら、俺は姉二人との関係をぶち壊そうとしているのだから……
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