142 / 217
【本幕・第9章】あねあにみっくす双撃っ 前編!
3.見返り要求型の人間は単純ですよねっ!
しおりを挟む
「え? は……はい?」
俺は視力、聴覚は問題ないはず。
聞き間違いだろうか。ベンチに座る御子柴龍司はこう言ったのだ。
やらないかと。固まる俺に対して、その男はさらに驚愕の行動に出た。
「だから、やらないかと言ってる! 紗月先輩の弟ならこっちも強いんだろ?」
ズボンの中に右手を入れ、ファスナーから握り拳を天へ向かって突き上げる。
困惑する俺を見かねて、四条先輩が御子柴龍司に近づいた。
「ミコリュウ! 悪ふざけはやめろ! 死ねボケナス!」
「四条先輩……ボロカスですね」
なんだか、懐かしいやり取りのように思える。
「わはははは! 悪いな、青山弟。四条、相変わらず容赦ないツッコミだな」
これでやっと理解した。
現生徒会は我が実姉加奈子さん以外、変態と変人の集まりだ。
この御子柴先輩の二刀流って、まさかそっちの二刀じゃないだろうな……
「蒼太郎のことは学校で話した通りだ。なんとか知恵を貸してやってほしい」
「ミコ先輩、よろしくお願いします」
「貴様……そこは普通、御子柴先輩か龍司さんとか呼べよ。ミコ先輩って早口で言ってみろ! 聞き方によってはうんこ先輩に聞こえるぞ!」
「くくく……うんこ先輩か。ミコリュウにぴったりではないか」
四条先輩が腹を抱えて笑い始めた。つられてミコ先輩も爆笑する。
なんだか、この二人の間には不思議な空気が流れているな……
五月二六日、午後四時半前。
四条春香から同じ生徒会で剣道部主将の御子柴龍司を紹介され、知恵を借りたい理由についても粗方の説明を済ませた。ミコ先輩にやってほしいことは二つある。
「ミコ先輩、どうですか?」
「ひとつ目は貴様がテスト期間中に女子と乳繰り合っていたことを姉にばれないようにするんだな? 要するに俺が図書館で勉強を教えたって、話を合わせればいいんだろ?」
「ミコリュウは呑み込みが早いな」
念のために来栖有紀の名前は伏せておいた。
乳繰り合っていたと言うのは語弊があるが……あ、乳繰り合ってたな。
「はい。もし、花穂姉ちゃんに聞かれたら、話合わせてくれるだけでいいんです」
「それで青山弟よ。貴様に手を貸して俺になにか益はあるのか? どうだ?」
ミコ先輩も花穂姉ちゃんと同じ、見返り要求型の人間のようだ。
御子柴龍司の性格は事前にリサーチ済み。この男が朝峰里志以上の紗月信奉者で、誰よりなにより青山紗月にべた惚れなのだ。それは俺にとって好都合であり、この男の弱点でもある。
「おい、ミコリュウ! 蒼太郎はお前が大好きな紗月さんの弟だぞ! 力になってあげれば、紗月さんの心象もよくなるだろう。わたしからも紗月さんにうまく伝えよう」
「益ですか? ミコ先輩ちょっとお耳を拝借……」
やや語気を強める四条先輩を余所に、ベンチにふんぞり返るミコ先輩に耳打ちする。もちろん、俺の要求を聞いてもらうための見返りについてだ。
「……ぐおっ! そ、それは本当だろうな!?」
「なんだ? こいつになにを言ったのだ? 蒼太郎」
釣りは大成功だ。ミコ先輩が垂涎ものの一品を餌にしたのだ。
これでミコ先輩は俺の言うことを聞いてくれる。
◇◇◇
午後五時、四条先輩はバイトで姫咲スポーツクラブに行った。
ミコ先輩は公園の自販機でジュースを二本買って、一本を俺に手渡してグビグビと飲み始める。
「青山弟よ。さっきの見返りの件だが……いつだ?」
「そうですね、明日にでも取りに来てください」
「それ、本当にばれないのか? ばれても俺の名前出すなよ?」
「大丈夫です。俺が普通にくれと言えば、くれるようなブラコン姉ですよ?」
俺の言葉を聞いたミコ先輩は一瞬むせて、ゴシャっと空き缶を握り潰した。
「昔から青山姉妹のブラコンっぷりは知っていたが……まだ続いてるとは……」
ひとつ目はこれでいいだろう。問題はもうひとつの方だ。
これはグレーゾーンを超えるような願いかもしれない。
「共有ボックスの方はどうです?」
「ブラコン姉妹の『蒼太の共有ボックス』をのぞき見るか……」
「やっぱり、アカウントの乗っ取りは難しいですよね?」
「ある人物の力を借りれば可能かもしれん。明日、そいつの家に行こう」
俺は視力、聴覚は問題ないはず。
聞き間違いだろうか。ベンチに座る御子柴龍司はこう言ったのだ。
やらないかと。固まる俺に対して、その男はさらに驚愕の行動に出た。
「だから、やらないかと言ってる! 紗月先輩の弟ならこっちも強いんだろ?」
ズボンの中に右手を入れ、ファスナーから握り拳を天へ向かって突き上げる。
困惑する俺を見かねて、四条先輩が御子柴龍司に近づいた。
「ミコリュウ! 悪ふざけはやめろ! 死ねボケナス!」
「四条先輩……ボロカスですね」
なんだか、懐かしいやり取りのように思える。
「わはははは! 悪いな、青山弟。四条、相変わらず容赦ないツッコミだな」
これでやっと理解した。
現生徒会は我が実姉加奈子さん以外、変態と変人の集まりだ。
この御子柴先輩の二刀流って、まさかそっちの二刀じゃないだろうな……
「蒼太郎のことは学校で話した通りだ。なんとか知恵を貸してやってほしい」
「ミコ先輩、よろしくお願いします」
「貴様……そこは普通、御子柴先輩か龍司さんとか呼べよ。ミコ先輩って早口で言ってみろ! 聞き方によってはうんこ先輩に聞こえるぞ!」
「くくく……うんこ先輩か。ミコリュウにぴったりではないか」
四条先輩が腹を抱えて笑い始めた。つられてミコ先輩も爆笑する。
なんだか、この二人の間には不思議な空気が流れているな……
五月二六日、午後四時半前。
四条春香から同じ生徒会で剣道部主将の御子柴龍司を紹介され、知恵を借りたい理由についても粗方の説明を済ませた。ミコ先輩にやってほしいことは二つある。
「ミコ先輩、どうですか?」
「ひとつ目は貴様がテスト期間中に女子と乳繰り合っていたことを姉にばれないようにするんだな? 要するに俺が図書館で勉強を教えたって、話を合わせればいいんだろ?」
「ミコリュウは呑み込みが早いな」
念のために来栖有紀の名前は伏せておいた。
乳繰り合っていたと言うのは語弊があるが……あ、乳繰り合ってたな。
「はい。もし、花穂姉ちゃんに聞かれたら、話合わせてくれるだけでいいんです」
「それで青山弟よ。貴様に手を貸して俺になにか益はあるのか? どうだ?」
ミコ先輩も花穂姉ちゃんと同じ、見返り要求型の人間のようだ。
御子柴龍司の性格は事前にリサーチ済み。この男が朝峰里志以上の紗月信奉者で、誰よりなにより青山紗月にべた惚れなのだ。それは俺にとって好都合であり、この男の弱点でもある。
「おい、ミコリュウ! 蒼太郎はお前が大好きな紗月さんの弟だぞ! 力になってあげれば、紗月さんの心象もよくなるだろう。わたしからも紗月さんにうまく伝えよう」
「益ですか? ミコ先輩ちょっとお耳を拝借……」
やや語気を強める四条先輩を余所に、ベンチにふんぞり返るミコ先輩に耳打ちする。もちろん、俺の要求を聞いてもらうための見返りについてだ。
「……ぐおっ! そ、それは本当だろうな!?」
「なんだ? こいつになにを言ったのだ? 蒼太郎」
釣りは大成功だ。ミコ先輩が垂涎ものの一品を餌にしたのだ。
これでミコ先輩は俺の言うことを聞いてくれる。
◇◇◇
午後五時、四条先輩はバイトで姫咲スポーツクラブに行った。
ミコ先輩は公園の自販機でジュースを二本買って、一本を俺に手渡してグビグビと飲み始める。
「青山弟よ。さっきの見返りの件だが……いつだ?」
「そうですね、明日にでも取りに来てください」
「それ、本当にばれないのか? ばれても俺の名前出すなよ?」
「大丈夫です。俺が普通にくれと言えば、くれるようなブラコン姉ですよ?」
俺の言葉を聞いたミコ先輩は一瞬むせて、ゴシャっと空き缶を握り潰した。
「昔から青山姉妹のブラコンっぷりは知っていたが……まだ続いてるとは……」
ひとつ目はこれでいいだろう。問題はもうひとつの方だ。
これはグレーゾーンを超えるような願いかもしれない。
「共有ボックスの方はどうです?」
「ブラコン姉妹の『蒼太の共有ボックス』をのぞき見るか……」
「やっぱり、アカウントの乗っ取りは難しいですよね?」
「ある人物の力を借りれば可能かもしれん。明日、そいつの家に行こう」
0
お気に入りに追加
924
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/contemporary.png?id=0dd465581c48dda76bd4)
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる