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【本幕・第9章】あねあにみっくす双撃っ 前編!
2.二刀流の天才剣士を紹介されましたっ!
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五月二六日火曜日、午前一一時。
授業中に頭を埋め尽くすのは、昨晩の四条春香との逢瀬ではない。
今、起こっている事態と、これから起こるであろう事態に憂慮しているのだ。
「蒼太……お前、中間テストすごくねえ?」
「まぐれだ。勉強したからな……」
里志が俺の答案用紙を見て驚いている。テストが返却されるたびにこれだ。
苦手科目でさえ平均点を大幅に上回る結果。来栖有紀効果は抜群だ。
そして、順位が今週中に発表されて、俺の名前は上位に明記される。
同時に花穂姉ちゃんからの嫌疑が、俺に向けられるのは明白だ。
言い訳を用意しなければならない。どう言い訳するかが問題である。
(――正直に言おうかな)
来栖有紀は、花穂姉ちゃんを同族嫌悪している。嫉妬心もあるだろう。
花穂姉ちゃんも同じだ。同族嫌悪するような性格ではないが、なにかしらライバル意識はあるはず。
クラスメイトで同じ生徒会の来栖有紀の家で、毎日テスト勉強をして成績があがりました……言えない。泊まり込みでしっかり勉強しました……絶対、言えない。言えば姉は嫉妬の炎を轟々と燃やし続け、あらあゆる要求をしてくるだろうし、なにより来栖本人に迷惑がかかる。
「言い訳……どうしたものか」
「蒼太? あんまり嬉しそうじゃないな」
「いや、そうじゃないんだけどな」
どうすれば、中の下からトップクラスへ一気に成績アップした言い訳ができるだろう。そんな魔法の騙し言葉があるなら教えてほしい。相手は秀才の我が姉花穂だ。一筋縄では騙されない。俺の浅知恵で誤魔化せる相手ではない。
昼休みも食堂で言い訳をずっと考えていた。
考えながらカレーライスを食べていると、長テーブルの正面に巨大な胸が乗っかった。四条先輩がうどんセットのトレイを置いて、静かに食べ始めた。
「浮かない顔だな。体調が悪いのか?」
「いえ、ちょっと面倒なことが……」
四条春香は花穂姉ちゃんとは旧知の仲だが、先輩と後輩の間柄だ。
生徒会で接点があるが、俺が言うことを漏らすことはないだろう。
先輩に今回のテストの成績が良過ぎること、来栖有紀に教わったこと、花穂姉ちゃんに疑われる心配があることを話した。
「……というわけでして。困ってるんです」
「なるほど。要するに来栖有紀の存在を隠したまま、花穂ちゃんに、『なぜいきなり成績があがったのか?』と詰め寄られたときに言い訳が必要だと?」
「はい。知ってのとおり、姉二人は超ブラコンです。俺が女子に勉強を教わったと知れば、ややこしくなりそうなので……」
「では、図書館で男子に教わったことにすればどうだろうか?」
「そういう話を合わせてくれる人がいないんです……」
四条先輩はうどんをすすりながら、ニヤリと薄笑いを浮かべた。
「だから紹介するではないか。ミコリュウに教わったと言えばいい。あいつは今回も学年一位だろうからな。毎回図書館でテスト勉強しているし」
「あっ、そうか!」
「本人が引き受ければの話だが。それにしても、あの大人しい無口な来栖有紀と、蒼太郎に接点があったとはな……」
「たまたまですよ。家も隣りだし。でも、このことは姉には内緒でお願いします」
「来栖とは、その……仲が良さそうだな」
「同じ図書委員で、偶然知り合った隣人ですよ。俺が頼み込んで勉強教わっただけで、テスト後は全然会ってません」
「そうか。少し安心した」
来栖有紀の名前が出ると、先輩は少し不機嫌そうな表情を浮かべていた。
泊まり込んだことや、混浴したことは当然伏せて話してある。来栖本来の姿や、性格は俺以外の人間が知らなくてもいい。
四条先輩の俺への好意を利用するようで気が引けるが……
今、必要な人材は、姉側につかない信用に足る人間だけだ。
◇◇◇
午後四時、下駄箱から出たときに四条先輩から声を掛けられた。
どうやら校内では花穂姉ちゃんに見られる可能性があるため、姫咲公園で御子柴龍司と会う約束を取りつけているらしい。
「その人はどんな人ですか?」
「とにかく頭がきれる。文武両道で人気もある。珍しい二刀使いだ」
「二刀流?」
「ん、まあ……そうだ」
里志やスズ同様の紗月信者が、どんな奴なのか楽しみだ。
校門を出て公園の方へ先輩と歩いて行く。この時間帯は下校する生徒も多い。
妙な噂を避けるため、俺と先輩はやや距離を空けて歩き続けている。
「ん? 誰もいない」
「蒼太郎、こっち。奥のベンチだ」
公園の出入り口から奥のベンチは、死角になって見えない。
俺は先輩と公園の奥の方へ歩き、ベンチに座る男の姿を発見した。
「あの人が?」
黒髪の角刈りで目つき鋭く、身長は一七五ぐらいだろうか。
スリムな体型だが、強そうな感じがする。紗月姉と同じ、強者のオーラだ。
四条先輩に絡んだ不良や、夏本などとは比較にならない迫力を感じる。
「ミコリュウ。紗月さんの弟、蒼太郎だ。小さい頃見たことあるだろ?」
「貴様が紗月先輩の弟か?」
「はい。青山蒼太です」
ベンチにふんぞり返って、両手はポケットの中。
――なんて態度が悪い男だろう。
そう思っていると、突然目の前でワイシャツのボタンを外し始めたのだ……
「やらないか」
授業中に頭を埋め尽くすのは、昨晩の四条春香との逢瀬ではない。
今、起こっている事態と、これから起こるであろう事態に憂慮しているのだ。
「蒼太……お前、中間テストすごくねえ?」
「まぐれだ。勉強したからな……」
里志が俺の答案用紙を見て驚いている。テストが返却されるたびにこれだ。
苦手科目でさえ平均点を大幅に上回る結果。来栖有紀効果は抜群だ。
そして、順位が今週中に発表されて、俺の名前は上位に明記される。
同時に花穂姉ちゃんからの嫌疑が、俺に向けられるのは明白だ。
言い訳を用意しなければならない。どう言い訳するかが問題である。
(――正直に言おうかな)
来栖有紀は、花穂姉ちゃんを同族嫌悪している。嫉妬心もあるだろう。
花穂姉ちゃんも同じだ。同族嫌悪するような性格ではないが、なにかしらライバル意識はあるはず。
クラスメイトで同じ生徒会の来栖有紀の家で、毎日テスト勉強をして成績があがりました……言えない。泊まり込みでしっかり勉強しました……絶対、言えない。言えば姉は嫉妬の炎を轟々と燃やし続け、あらあゆる要求をしてくるだろうし、なにより来栖本人に迷惑がかかる。
「言い訳……どうしたものか」
「蒼太? あんまり嬉しそうじゃないな」
「いや、そうじゃないんだけどな」
どうすれば、中の下からトップクラスへ一気に成績アップした言い訳ができるだろう。そんな魔法の騙し言葉があるなら教えてほしい。相手は秀才の我が姉花穂だ。一筋縄では騙されない。俺の浅知恵で誤魔化せる相手ではない。
昼休みも食堂で言い訳をずっと考えていた。
考えながらカレーライスを食べていると、長テーブルの正面に巨大な胸が乗っかった。四条先輩がうどんセットのトレイを置いて、静かに食べ始めた。
「浮かない顔だな。体調が悪いのか?」
「いえ、ちょっと面倒なことが……」
四条春香は花穂姉ちゃんとは旧知の仲だが、先輩と後輩の間柄だ。
生徒会で接点があるが、俺が言うことを漏らすことはないだろう。
先輩に今回のテストの成績が良過ぎること、来栖有紀に教わったこと、花穂姉ちゃんに疑われる心配があることを話した。
「……というわけでして。困ってるんです」
「なるほど。要するに来栖有紀の存在を隠したまま、花穂ちゃんに、『なぜいきなり成績があがったのか?』と詰め寄られたときに言い訳が必要だと?」
「はい。知ってのとおり、姉二人は超ブラコンです。俺が女子に勉強を教わったと知れば、ややこしくなりそうなので……」
「では、図書館で男子に教わったことにすればどうだろうか?」
「そういう話を合わせてくれる人がいないんです……」
四条先輩はうどんをすすりながら、ニヤリと薄笑いを浮かべた。
「だから紹介するではないか。ミコリュウに教わったと言えばいい。あいつは今回も学年一位だろうからな。毎回図書館でテスト勉強しているし」
「あっ、そうか!」
「本人が引き受ければの話だが。それにしても、あの大人しい無口な来栖有紀と、蒼太郎に接点があったとはな……」
「たまたまですよ。家も隣りだし。でも、このことは姉には内緒でお願いします」
「来栖とは、その……仲が良さそうだな」
「同じ図書委員で、偶然知り合った隣人ですよ。俺が頼み込んで勉強教わっただけで、テスト後は全然会ってません」
「そうか。少し安心した」
来栖有紀の名前が出ると、先輩は少し不機嫌そうな表情を浮かべていた。
泊まり込んだことや、混浴したことは当然伏せて話してある。来栖本来の姿や、性格は俺以外の人間が知らなくてもいい。
四条先輩の俺への好意を利用するようで気が引けるが……
今、必要な人材は、姉側につかない信用に足る人間だけだ。
◇◇◇
午後四時、下駄箱から出たときに四条先輩から声を掛けられた。
どうやら校内では花穂姉ちゃんに見られる可能性があるため、姫咲公園で御子柴龍司と会う約束を取りつけているらしい。
「その人はどんな人ですか?」
「とにかく頭がきれる。文武両道で人気もある。珍しい二刀使いだ」
「二刀流?」
「ん、まあ……そうだ」
里志やスズ同様の紗月信者が、どんな奴なのか楽しみだ。
校門を出て公園の方へ先輩と歩いて行く。この時間帯は下校する生徒も多い。
妙な噂を避けるため、俺と先輩はやや距離を空けて歩き続けている。
「ん? 誰もいない」
「蒼太郎、こっち。奥のベンチだ」
公園の出入り口から奥のベンチは、死角になって見えない。
俺は先輩と公園の奥の方へ歩き、ベンチに座る男の姿を発見した。
「あの人が?」
黒髪の角刈りで目つき鋭く、身長は一七五ぐらいだろうか。
スリムな体型だが、強そうな感じがする。紗月姉と同じ、強者のオーラだ。
四条先輩に絡んだ不良や、夏本などとは比較にならない迫力を感じる。
「ミコリュウ。紗月さんの弟、蒼太郎だ。小さい頃見たことあるだろ?」
「貴様が紗月先輩の弟か?」
「はい。青山蒼太です」
ベンチにふんぞり返って、両手はポケットの中。
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