姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛

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【本幕・第9章】あねあにみっくす双撃っ 前編!

1.微かな記憶の中の少女と少年ですねっ!

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まえがき
※この章から最終章へ向けた謎解きが始まります。
※「蒼太の実父」「青山姉妹の真意」「結城家から養子に来た理由」
※「御子柴龍司の素性」「共有ボックスの内容」などです。
______________________________

【本文】
 四条春香の口から出た言葉は、衝撃の告白という大袈裟なものではない。
小学生の頃の四条先輩に対する印象、紗月姉の金魚のフンのひとりで大人しい子。
それだけの記憶しか残っていない。それ以上でも、それ以下でもない。

 午前七時過ぎ。朝食を平らげたあと、登校時間まで先輩と雑談を続けた。

「俺、その頃紗月姉の周りにいた里志や荒木鈴スズは覚えてるんですけど……」
「しょうがないことだ。わたしはあの頃から父に怯え、委縮した性格だったからな。大人しく、目立たないから、印象が薄いのも無理はない」

 食べ終わった食器をお盆に乗せながら、先輩は俺の方を見て答えた。
花穂姉ちゃんはエプロン姿が似合うが、先輩が着るとグラビアアイドルのコスプレみたいだ。

「もうひとり、先輩と同い年の男の子がいませんでした?」
「ミコリュウか? 蒼太郎、知らなかったのか? 奴はここの門下生でもあり、姫咲高剣道部の部長だ。花穂ちゃんが捻挫した折に、生徒会室にいただろう?」
「え? あの肘ついて座ってた態度でかそうな奴!? あれが紗月姉の元手下なんですか!」
「元手下って……奴は外見で誤解されやすいが、成績もよく人柄も悪くないぞ」

 これは珍しい発言だ。男性恐怖症の四条春香が同級生の男子を褒めている。
昔からの馴染みでもあるし、接触行為をするわけでもなければ大丈夫なのか。

「その人の名前、思い出せないんですよ……」
御子柴龍司みこしば りゅうじだ。わたしは昔からミコリュウと呼んでいる」

 御子柴龍司……聞いたことがあるような、ないような名前だ。
というか、強そうな名前もってあだ名で弱そうな響きになるよな。




 五月二六日火曜日、午前七時半過ぎ。
ここから学校への道のりは青山家からの距離より短い。時間にして五分弱だ。
人目を避けるため、俺と先輩は時間差で登校する。
まず、俺は先輩が出る五分前に登校、そのあとで戸締りをして先輩が登校する。

「俺、ひとつ気付いたことがあるんです」

 朝食の片づけを終えた先輩がお茶を用意してくれた。
それを口に運びながら、俺はある話題を切り出した。

「どうした?」
「俺も先輩もトラウマ持ちでしょ? トラウマって避けてるだけでは治らない、そもそも治すべきものなのかって疑問があるんですよ」
「なるほど。それで気づいたこととは?」
「先輩は男性恐怖症ですよね。なのに俺は昨晩、レスリングのとき、恐怖をあおる行動をしました。水着を引き裂いて、先輩を押さえつけて……見る人が見れば、プールに来た奴らの乱暴と変わらない。そう思いませんか?」
「蒼太郎とあの不良二人組では決定的に違う。わたしは蒼太郎が好きだ」
「でも、先輩が俺に対してだけほとんど男性恐怖症が出ないのは、トラウマに対してトラウマ行動を行ったからじゃないかと思ってるんです」
「つまり、トラウマは治すものではなく、相剋するものだと言いたいのだな?」
「はい。おそらく俺のトラウマも……」
「蒼太郎のトラウマをトラウマ行動で打ち消すのか……」

 確証はないが、ひとつの光明は見えた気がする。




 午前八時、四条邸の玄関。
時間差で登校する前に、門から人の通りを確認。
四条邸の前の街路は、登校時と下校時に姫咲高校の生徒がよく通る。

「あっ、先輩。共有ボックスってアプリ知ってます?」

 玄関で靴を履いて、施錠をする四条先輩にたずねてみた。
先輩の持っている機種も比較的新しいスマートフォンだったと思う。

「聞いたことがあるが、使用したことはない。わたしは機械音痴なんだ」
「誰か共有ボックスについて詳しい人、知りませんか?」
「それなら、さっき言ったミコリュウが適任だぞ。あいつは成績もトップでめっぽう機械に強い。うちのネット回線もミコリュウに頼んだ」

 成績トップで剣道が強い。むかつく程の無敵っぷりだな。

「相当詳しいですか?」
「自称天才ハッカーレベルだとほざいていたな……」
「先輩、御子柴龍司を俺に紹介してください!」
「承知した。ワケありのようだな」

 朝の会話はここまでにして、俺は人通りを確認して学校へ向かった。
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