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【本幕・第6章】あねとん堰止め乱撃っ 後編!
6.接吻と趣向と姉妹には要注意ですねっ!
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おそらく今、午後二時過ぎだろう。
端末を外しているため正確な時間がわからない。
下着以外の衣服も脱ぎ捨てた。場所は薄暗い来栖邸主寝室のダブルベッドの上。
これから来栖有紀を抱く……予定なのだが、イエスかノーの答えを待っている。
「蒼太君……」
俺の体の下で、フルフルと首を振る。これは明確なノーサインだ。
来栖はベッドからおりて、制服を着始めた。仕方なく俺もそれに続く。
「雰囲気とは裏腹な結末だな」
「とりあえず、理由を説明するから座ってくれない?」
ガラス戸のカーテンを開き、広い部屋に光が差し込んで来た。
来栖はバルコニー側にテーブルを挟んで座り、俺はその向かい側に座る。
「紗月姉さつきねえと同じ理由か?」
紗月姉は以前こう言った。恋を覚える前に、性を覚えれば歪んだトラウマが深くなると。だから、姉は俺と一線を越えない。布きれ一枚でそれを阻んでいる。俺からしてみれば、性と恋や愛の差がよくわからない。
「そうね。君の話を聞いて熟考した結果、紗月さんが正しい。恋愛感情のない君が、先に女性の体を覚えるとどうなると思う? おそらく、君は性行為が恋だと勘違いするわ。そして、もう恋愛感情が芽生えなくなる可能性もある。少し言い方を変えると、恋愛感情がなんなのか今以上にわからなくなるの」
「感情がなくなる? 難しい話でよくわからん……」
「つまり、肉体関係はトラウマが治って、二人が恋人同士になるまで無理よ」
「恋人同士か……」
紗月姉に続いてヘビの生殺しだ。肉体欲と恋愛感情は似て非なるものと、誰かが言っていた気がする。紗月姉や来栖が言っていることが正しいなら、女体の神秘への突入を味わう日がいつになるのやら……
◇◇◇
五月二一日、木曜日の午後四時半過ぎ。
明日の苦手科目についてのテスト勉強をしているが、来栖は数分前から席を外している。
部屋のドア側から紅茶の香りが漂って来る。ここらで一息入れるようだ。
「蒼太君、三〇分休憩にしましょ」
来栖がイチゴショートケーキと紅茶をお盆に乗せて運んで来る。
「ありがとう、来栖。世話になりっぱなしだな。なにかお礼したいけど……」
「いいよ。こうしてここに蒼太君がいるだけでいいの」
その言葉を受け止めて、心の奥底の方から込み上げてくる気持ちはなんだろうと考える。隣でケーキを食べながら、紅茶をすする来栖の肩を自然に抱いているのもなぜだろう。
「来栖、キスしていいか?」
「うん。いいよ」
こちらを向いて目を閉じる来栖に口づけると、一気に紅茶の香りが口の中に広がった。
おかしい、これはおかしい。
来栖は口を開けて、舌を突入させようとしている。
俺は無意識に口を閉じ、それを拒否してしまった。
「悪い……」
「これが蒼太君のトラウマの一つね」
「俺のトラウマは、恋愛しないだけじゃないのか!?」
「君のトラウマは複合的なものよ。一つ、恋愛感情の曖昧さ。二つ、脱ぎたての下着や水着への異常執着。三つ、今のような恋人同士の深いキスを拒絶する」
「二つめと三つめは姉たちと関係ないような気がするぞ。いや、舌入れるのは――」
「今は言わなくてもいいよ。休憩したら続きをしましょう」
「キスのか?」
「……勉強でしょ!!」
俺と来栖は、それ以上話を続けずに休憩時間を終えた。
◇◇◇
午後八時半、来栖は夕食に俺の大好物をテーブルに並べてくれたのだ。
煮込みハンバーグ、オムライス、コンソメス―プ、炒めたソーセージ。
こうして勢揃いすると、お子様ランチみたいだな。
「毎日、お前の料理が食べたくなるな……」
「明日からは、家で花穂さんの料理食べるのよ?」
「花穂姉ちゃんとは友達になれないのか? そうすれば俺も行き来しやすくなるじゃないか。もちろん、間に俺が入って仲良くなれるように配慮するぞ」
「蒼太君! 青山花穂とは仲良くなれない! お互い心の奥でライバル視して、同族嫌悪している人間同士なのよ? まして、君を奪うような危険性のある女と仲良くしてくれると思う?」
そうだ、その通りだ。姉二人は俺に近づく女を、親友であれ敵視する。四条春香先輩がその最たる例だ。特にこの点で、気難しくなりそうな花穂姉ちゃんと、変人来栖有紀が仲良くしている姿など誰が想像できよう。
「美味しい……この味が明日から食べられない、来栖と話せない。残念だ……」
「泣いてるの?」
「いや、泣いてない」
「泣きそうな顔してるわよ」
「うん……やばい」
涙がハラリと自然にに溢れ出る。俺は来栖の体を強く抱き寄せた。
短い別れであるように、ひたすら願いながら……
端末を外しているため正確な時間がわからない。
下着以外の衣服も脱ぎ捨てた。場所は薄暗い来栖邸主寝室のダブルベッドの上。
これから来栖有紀を抱く……予定なのだが、イエスかノーの答えを待っている。
「蒼太君……」
俺の体の下で、フルフルと首を振る。これは明確なノーサインだ。
来栖はベッドからおりて、制服を着始めた。仕方なく俺もそれに続く。
「雰囲気とは裏腹な結末だな」
「とりあえず、理由を説明するから座ってくれない?」
ガラス戸のカーテンを開き、広い部屋に光が差し込んで来た。
来栖はバルコニー側にテーブルを挟んで座り、俺はその向かい側に座る。
「紗月姉さつきねえと同じ理由か?」
紗月姉は以前こう言った。恋を覚える前に、性を覚えれば歪んだトラウマが深くなると。だから、姉は俺と一線を越えない。布きれ一枚でそれを阻んでいる。俺からしてみれば、性と恋や愛の差がよくわからない。
「そうね。君の話を聞いて熟考した結果、紗月さんが正しい。恋愛感情のない君が、先に女性の体を覚えるとどうなると思う? おそらく、君は性行為が恋だと勘違いするわ。そして、もう恋愛感情が芽生えなくなる可能性もある。少し言い方を変えると、恋愛感情がなんなのか今以上にわからなくなるの」
「感情がなくなる? 難しい話でよくわからん……」
「つまり、肉体関係はトラウマが治って、二人が恋人同士になるまで無理よ」
「恋人同士か……」
紗月姉に続いてヘビの生殺しだ。肉体欲と恋愛感情は似て非なるものと、誰かが言っていた気がする。紗月姉や来栖が言っていることが正しいなら、女体の神秘への突入を味わう日がいつになるのやら……
◇◇◇
五月二一日、木曜日の午後四時半過ぎ。
明日の苦手科目についてのテスト勉強をしているが、来栖は数分前から席を外している。
部屋のドア側から紅茶の香りが漂って来る。ここらで一息入れるようだ。
「蒼太君、三〇分休憩にしましょ」
来栖がイチゴショートケーキと紅茶をお盆に乗せて運んで来る。
「ありがとう、来栖。世話になりっぱなしだな。なにかお礼したいけど……」
「いいよ。こうしてここに蒼太君がいるだけでいいの」
その言葉を受け止めて、心の奥底の方から込み上げてくる気持ちはなんだろうと考える。隣でケーキを食べながら、紅茶をすする来栖の肩を自然に抱いているのもなぜだろう。
「来栖、キスしていいか?」
「うん。いいよ」
こちらを向いて目を閉じる来栖に口づけると、一気に紅茶の香りが口の中に広がった。
おかしい、これはおかしい。
来栖は口を開けて、舌を突入させようとしている。
俺は無意識に口を閉じ、それを拒否してしまった。
「悪い……」
「これが蒼太君のトラウマの一つね」
「俺のトラウマは、恋愛しないだけじゃないのか!?」
「君のトラウマは複合的なものよ。一つ、恋愛感情の曖昧さ。二つ、脱ぎたての下着や水着への異常執着。三つ、今のような恋人同士の深いキスを拒絶する」
「二つめと三つめは姉たちと関係ないような気がするぞ。いや、舌入れるのは――」
「今は言わなくてもいいよ。休憩したら続きをしましょう」
「キスのか?」
「……勉強でしょ!!」
俺と来栖は、それ以上話を続けずに休憩時間を終えた。
◇◇◇
午後八時半、来栖は夕食に俺の大好物をテーブルに並べてくれたのだ。
煮込みハンバーグ、オムライス、コンソメス―プ、炒めたソーセージ。
こうして勢揃いすると、お子様ランチみたいだな。
「毎日、お前の料理が食べたくなるな……」
「明日からは、家で花穂さんの料理食べるのよ?」
「花穂姉ちゃんとは友達になれないのか? そうすれば俺も行き来しやすくなるじゃないか。もちろん、間に俺が入って仲良くなれるように配慮するぞ」
「蒼太君! 青山花穂とは仲良くなれない! お互い心の奥でライバル視して、同族嫌悪している人間同士なのよ? まして、君を奪うような危険性のある女と仲良くしてくれると思う?」
そうだ、その通りだ。姉二人は俺に近づく女を、親友であれ敵視する。四条春香先輩がその最たる例だ。特にこの点で、気難しくなりそうな花穂姉ちゃんと、変人来栖有紀が仲良くしている姿など誰が想像できよう。
「美味しい……この味が明日から食べられない、来栖と話せない。残念だ……」
「泣いてるの?」
「いや、泣いてない」
「泣きそうな顔してるわよ」
「うん……やばい」
涙がハラリと自然にに溢れ出る。俺は来栖の体を強く抱き寄せた。
短い別れであるように、ひたすら願いながら……
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