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【序幕・番外編】ばっく・にゅう・ざ・ふゅーちゃー 壱
3.膝上に正面ダイブして甘えていますっ!
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女子更衣室の長椅子は表面が合皮でクッション性が高い。
寝心地もなかなかのものだ。膝枕はナマ足ではないが、柔らかさを感じる。
部屋の中は少し塩素臭い。制汗スプレーや香水の匂いもきつい。
「少し、落ち着いたか?」
「はい。醜態を晒してしまいました」
すくっと起き上がって、先輩のすぐ隣りに腰掛ける。
泣き過ぎたせいか、少し眼が腫れぼったい。自分が今、どんな顔なのか気になる。
「いいじゃないか。泣きたい時もあるさ」
「このことは花穂姉ちゃんや紗月姉には黙っててください」
「今日起こった出来事は全部言わないよ。紗月さんも今回の件は快く思ってないし、何より蒼太郎に近付く女は排除する傾向があるからな」
「うちの変態姉妹が申し訳ないです……」
「謝らなくていい。あの二人は恋敵だが大切な友人でもある」
「まだ張り合うつもりなんですね……」
「いつか蒼太郎が姉二人以外を選ぶとき、障害にならないだろうか?」
「今はそれ、考えたくないです。加奈子さんの件も考えたくないです」
「すまない」
「――いえ」
四条先輩は一度立ち上がって、長椅子の上に正座した。
そして、また先ほどと同じように膝の上にタオルを掛ける。
「膝枕って本来こうやって正面からするものだったな」
「そうです。横向きの膝枕は首に負担がかかります」
「まだ少し時間があるが、どうする?」
「もちろん、お膝にダイブしますとも!」
撃墜された飛行船のように四条春香の膝へ突入する。
次は頭を乗せるのではなく、顔を埋めるように着地成功。
両手は抱きつくように先輩の腰へ回してホールド。
「なっ! なぜ顔面から来たんだ?」
「先輩ってどうして毛を全部剃っちゃうんですか? 整えるだけで――」
女子更衣室内にパコーンと爽快な音が響き渡った。
近くのロッカーに立てかけてあったビート板で頭を叩かれたのだ。
「さっきまで泣きじゃくっていた人間が、いきなりわたしの陰毛の話か!」
「すみません。姉のアソコもそんなに見たことがないのに、先輩の二度見てますから……」
「しょうがないだろう。ここの水着は知っての通りきわどいんだ」
「でも、そういうのって外側だけカットする人が多いですよね?」
「んん……恥ずかしいことを言わせないでくれ」
「あっ! そうか……無神経でした。ボーボーなんですね」
再び女子更衣室内にパコーンという音が連続で響き渡った。
煩悩の数だけ叩かれるのだろうか。
煩悩がなくなる前に意識がなくなりそうだが……
「ふぅ……良い音だった」
「ふぅーっ! ふぅーっ! 先輩の膝にめり込みそうだった」
「うわ! 蒼太郎! 変なとこに息を吹きかけるな!」
少しだけ顔を起こすと、俺の口元がちょうど先輩の股間に来る。
厚めのタオル越しに熱い吐息をわざと吹きかけてみた。
「今日はいろいろ考え過ぎて疲れました。甘えてしまってごめんなさい」
「蒼太郎が甘えてくれるということは、青山姉妹に並んだのかな?」
「いや、俺は姉ちゃんたちに甘えてないですよ」
実はもの凄く甘えている自覚がある。
料理に洗濯に射精のお世話、これら全部甘えているだけではないか。
「喉乾いてないか? わたしの飲みかけでもよければあるぞ」
「ここ来てから緊張して喉カラカラなんです」
先輩は床に置いてあるバッグの中からペットボトルを取り出した。
よくあるスポーツドリンクのようだ。中身が半分ぐらい減っている。
「飲んでしまってもいいぞ」
「ありがとうございます」
ゴクリと一口飲んで気付いた。微量ながら炭酸が入っている。
早く喉を潤わせたい一心で、炭酸をものともせずに飲み始めた。
「今日の蒼太郎はかっこよかった。わたしは股を濡らしたぞ」
「ぶばっ! うぐぼっ! ゴホッ! ゴホッ!」
俺は微炭酸のスポーツドリンクを口から盛大にぶちまけたのだ。
更衣室の小さな窓辺から差し込む夕日に映えて、実に美しい放物線を描いた。
寝心地もなかなかのものだ。膝枕はナマ足ではないが、柔らかさを感じる。
部屋の中は少し塩素臭い。制汗スプレーや香水の匂いもきつい。
「少し、落ち着いたか?」
「はい。醜態を晒してしまいました」
すくっと起き上がって、先輩のすぐ隣りに腰掛ける。
泣き過ぎたせいか、少し眼が腫れぼったい。自分が今、どんな顔なのか気になる。
「いいじゃないか。泣きたい時もあるさ」
「このことは花穂姉ちゃんや紗月姉には黙っててください」
「今日起こった出来事は全部言わないよ。紗月さんも今回の件は快く思ってないし、何より蒼太郎に近付く女は排除する傾向があるからな」
「うちの変態姉妹が申し訳ないです……」
「謝らなくていい。あの二人は恋敵だが大切な友人でもある」
「まだ張り合うつもりなんですね……」
「いつか蒼太郎が姉二人以外を選ぶとき、障害にならないだろうか?」
「今はそれ、考えたくないです。加奈子さんの件も考えたくないです」
「すまない」
「――いえ」
四条先輩は一度立ち上がって、長椅子の上に正座した。
そして、また先ほどと同じように膝の上にタオルを掛ける。
「膝枕って本来こうやって正面からするものだったな」
「そうです。横向きの膝枕は首に負担がかかります」
「まだ少し時間があるが、どうする?」
「もちろん、お膝にダイブしますとも!」
撃墜された飛行船のように四条春香の膝へ突入する。
次は頭を乗せるのではなく、顔を埋めるように着地成功。
両手は抱きつくように先輩の腰へ回してホールド。
「なっ! なぜ顔面から来たんだ?」
「先輩ってどうして毛を全部剃っちゃうんですか? 整えるだけで――」
女子更衣室内にパコーンと爽快な音が響き渡った。
近くのロッカーに立てかけてあったビート板で頭を叩かれたのだ。
「さっきまで泣きじゃくっていた人間が、いきなりわたしの陰毛の話か!」
「すみません。姉のアソコもそんなに見たことがないのに、先輩の二度見てますから……」
「しょうがないだろう。ここの水着は知っての通りきわどいんだ」
「でも、そういうのって外側だけカットする人が多いですよね?」
「んん……恥ずかしいことを言わせないでくれ」
「あっ! そうか……無神経でした。ボーボーなんですね」
再び女子更衣室内にパコーンという音が連続で響き渡った。
煩悩の数だけ叩かれるのだろうか。
煩悩がなくなる前に意識がなくなりそうだが……
「ふぅ……良い音だった」
「ふぅーっ! ふぅーっ! 先輩の膝にめり込みそうだった」
「うわ! 蒼太郎! 変なとこに息を吹きかけるな!」
少しだけ顔を起こすと、俺の口元がちょうど先輩の股間に来る。
厚めのタオル越しに熱い吐息をわざと吹きかけてみた。
「今日はいろいろ考え過ぎて疲れました。甘えてしまってごめんなさい」
「蒼太郎が甘えてくれるということは、青山姉妹に並んだのかな?」
「いや、俺は姉ちゃんたちに甘えてないですよ」
実はもの凄く甘えている自覚がある。
料理に洗濯に射精のお世話、これら全部甘えているだけではないか。
「喉乾いてないか? わたしの飲みかけでもよければあるぞ」
「ここ来てから緊張して喉カラカラなんです」
先輩は床に置いてあるバッグの中からペットボトルを取り出した。
よくあるスポーツドリンクのようだ。中身が半分ぐらい減っている。
「飲んでしまってもいいぞ」
「ありがとうございます」
ゴクリと一口飲んで気付いた。微量ながら炭酸が入っている。
早く喉を潤わせたい一心で、炭酸をものともせずに飲み始めた。
「今日の蒼太郎はかっこよかった。わたしは股を濡らしたぞ」
「ぶばっ! うぐぼっ! ゴホッ! ゴホッ!」
俺は微炭酸のスポーツドリンクを口から盛大にぶちまけたのだ。
更衣室の小さな窓辺から差し込む夕日に映えて、実に美しい放物線を描いた。
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