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【序幕・第2章】可憐な加奈子さんっ
5.ベッドに全裸侵入しないでくださいっ!
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四月二十八日。
夕飯を終えて、いつものように食器を片づけているときだった。
隣りで皿を拭く姉が愚痴り始めた。
「合宿行きたくない! 蒼太も一緒に行こっ! 一緒に寝よ!」
「俺は絶対行かない! 加奈子さんがいるだろ?」
「ねえ、蒼太。この前、加奈ちゃんのあられもない姿見て興奮した?」
「この前? ああ、大雨の日か。どうだろ? 神聖な感じかな」
大雨に打たれて高熱を出して倒れて……
そのあとの記憶が曖昧なのは黙っておこう。
「加奈ちゃんは清楚でいいよね。人気高いもん」
「姉ちゃんも結構人気高いだろ。二年のツートップって言われてるぐらいだもんな。成績と容姿に恵まれた親友同士なんて滅多にいないと思うけど?」
「そう言われると悪くない気がするね。加奈ちゃんと行って来るよ」
明日から一泊二日で、花穂姉ちゃんが生徒会の合宿に行く。
新しく結成された生徒会役員の親睦を深めるのが目的らしい。
毎年恒例の親睦旅行は、生徒会長に行き先の決定権が与えられる。
つまり、今年度前期は姉の学内での権力が強大となる。
行き先は海側らしいが、予算の話は聞いていない。
無駄に豪華な旅にすると、しわ寄せを受けるのがマイナーな部活。
少人数の茶道や華道、囲碁などの文化部だ。
花穂姉ちゃんのことだから、その辺の配慮に抜かりはないと思うが……
なにはともあれ、風呂や部屋に無断侵入する姉がいなくなる。
約四〇時間、俺は久しぶりに安息の日々を送れるというわけだ。
「あっ、蒼太! お母さんもまだ帰って来ないのにひとりで大丈夫? プライベートなお楽しみタイムがあり過ぎて死んだりしないよね?」
「姉ちゃん。それ、なんの心配? ご飯? おかず?」
まともに返したつもりが、シモネタになってしまった……
その言葉を耳にした花穂姉ちゃんは、舌なめずりして目を光らせた。
「お・か・ず! お姉ちゃんのフルヌード写真? この前必死に匂い嗅いでた脱ぎたてパンツ? それとも、蒼太はブラの方が好きなのかな?」
「なんの話をしてるんだよ! ご飯は適当に買って食べるし、大丈夫だってば」
部屋に戻ってテレビを観ていると、隣の部屋から物音が聞こえる。
クローゼットを開閉する音、引出しをピシャンと閉める音、慌ただしく明日の準備をする姉ちゃんの姿が目に浮かぶようだ。もうすぐ平穏な一日がやって来る……
「蒼太ぁっ! わたしがいない間、浮気したらダメだからねっ!」
鍵は掛けていなかったが……
ぶち壊す勢いで姉ちゃんがドアを開いた。
「うわぁっ! いきなりなんだ!? 浮き輪? 浮き輪なら一階の押し入れにあるだろ? 合宿って海だっけ? まだ泳ぐには早いかな」
姉ちゃんは浮気と言ったが、ここは華麗にスルーしよう。
最近、このやり取りに少々飽きてきたのだ……
「だってぇ……紗月姉が帰って来るかもなんだよ?」
「紗月姉から連絡あったの?」
「メッセージのやり取りはあるけど、帰るとは言ってないよ」
我が家の長女、青山紗月。一八歳の大学生で、寮暮らしをしている。
特に連絡があったわけでもないので、急に帰って来ることもないと思うが……
就寝前、いつものように施錠と目覚ましのセットを済ませベッドに入る。
今夜は特別な趣向で部屋の入口に両面テープを敷き詰めて、外からドアを開けるとベニヤ板が顔にぶつかるトラップを仕込んでいる。
「名づけて、花穂姉ちゃんホイホイ。なんかチープなネーミング……」
姉ちゃんがまた侵入してくるかもしれない。
二日間俺と離れる前夜は危険日とも言える。
備えは完璧だ。トラップで目を覚ました俺があっさり回避するだろう。
◆◆◆◆◆◆
朝、目覚まし時計より早く目覚めたのは異様な重みを感じたからだ。
それは柔らかくほんのり温かい……
仰向けに寝ている俺の身体に巻き付くように……
「ん!? 花穂姉ちゃん……どうやって入って来たんだよ!?」
少し目線を動かしてみると、花穂姉ちゃんが抱きついたまま寝息をたてている。
感触からして、身体に密着している姉は……全裸だ!
「ん……んんっ! 蒼太ぁ……おあよ? もう朝かぁ……」
俺は部屋の入り口のトラップを見て絶句した。
トラップが作動した形跡がまるでない。
おまけに花穂姉ちゃんの下着も部屋着もどこにも落ちていない。
「姉ちゃんは忍者かよ!? どうやって入ったんだ!?」
「んー……蒼太、動いちゃダメー」
午前五時、部屋がまだ薄闇に包まれているおかげで、姉の肌はよく見えない。
はっきりと見えないだけで、シルエットから察するに全裸だとわかる。
そして、少しずつ唇を俺の口元に近付けているのも……
「姉ちゃんっ! なにすんだよ!? 早く自分の部屋に戻ってくれよ!」
「合宿前に充電! ベロチューかディープキスしてくれたら出ていくねっ!」
「その二択、おかしいだろ!」
断固拒否すると、花穂姉ちゃんはベッドに寝転んでひっくり返ったカエルの体勢になった。
「じゃあ、エッチかセックスか性行為どれかしてくれたら」
「無意味な選択肢だな。却下だっ!!」
「蒼太のデカチンでアソコから大量出血すれば合宿休む理由になるじゃん! 早くして」
そんな言い訳で学校行事を休む奴は世界中探してもいないぞ……
大体、大量出血したら命に関わる。そもそも、俺の股間にそんな破壊力はない。
「あのさ、そんな格好してると風邪ひくよ?」
「蒼太を受け入れる体勢なんだけど」
「部屋が薄暗くてよく見えない。早く部屋に戻ってくれよ」
「充電してくれないの?」
唇ではなく、自分の左頬を人差し指でポンと叩いた。
ここに口づけしろという意味だろう。
薄闇に目が慣れて、柔肌が見えてきた。
僅かに開かれた口元、寝転んでも型崩れしない乳房、スラリとしなやかな美脚。
もう何度か見ている花穂姉ちゃんの裸。充分魅力的だと言える。
「……姉ちゃん! 俺、もう我慢できないっ!」
「蒼太、いいよ。来て!」
俺は股間を押さえて、咄嗟にドアへ走ったのだ。
「おしっこが我慢できない!」
夕飯を終えて、いつものように食器を片づけているときだった。
隣りで皿を拭く姉が愚痴り始めた。
「合宿行きたくない! 蒼太も一緒に行こっ! 一緒に寝よ!」
「俺は絶対行かない! 加奈子さんがいるだろ?」
「ねえ、蒼太。この前、加奈ちゃんのあられもない姿見て興奮した?」
「この前? ああ、大雨の日か。どうだろ? 神聖な感じかな」
大雨に打たれて高熱を出して倒れて……
そのあとの記憶が曖昧なのは黙っておこう。
「加奈ちゃんは清楚でいいよね。人気高いもん」
「姉ちゃんも結構人気高いだろ。二年のツートップって言われてるぐらいだもんな。成績と容姿に恵まれた親友同士なんて滅多にいないと思うけど?」
「そう言われると悪くない気がするね。加奈ちゃんと行って来るよ」
明日から一泊二日で、花穂姉ちゃんが生徒会の合宿に行く。
新しく結成された生徒会役員の親睦を深めるのが目的らしい。
毎年恒例の親睦旅行は、生徒会長に行き先の決定権が与えられる。
つまり、今年度前期は姉の学内での権力が強大となる。
行き先は海側らしいが、予算の話は聞いていない。
無駄に豪華な旅にすると、しわ寄せを受けるのがマイナーな部活。
少人数の茶道や華道、囲碁などの文化部だ。
花穂姉ちゃんのことだから、その辺の配慮に抜かりはないと思うが……
なにはともあれ、風呂や部屋に無断侵入する姉がいなくなる。
約四〇時間、俺は久しぶりに安息の日々を送れるというわけだ。
「あっ、蒼太! お母さんもまだ帰って来ないのにひとりで大丈夫? プライベートなお楽しみタイムがあり過ぎて死んだりしないよね?」
「姉ちゃん。それ、なんの心配? ご飯? おかず?」
まともに返したつもりが、シモネタになってしまった……
その言葉を耳にした花穂姉ちゃんは、舌なめずりして目を光らせた。
「お・か・ず! お姉ちゃんのフルヌード写真? この前必死に匂い嗅いでた脱ぎたてパンツ? それとも、蒼太はブラの方が好きなのかな?」
「なんの話をしてるんだよ! ご飯は適当に買って食べるし、大丈夫だってば」
部屋に戻ってテレビを観ていると、隣の部屋から物音が聞こえる。
クローゼットを開閉する音、引出しをピシャンと閉める音、慌ただしく明日の準備をする姉ちゃんの姿が目に浮かぶようだ。もうすぐ平穏な一日がやって来る……
「蒼太ぁっ! わたしがいない間、浮気したらダメだからねっ!」
鍵は掛けていなかったが……
ぶち壊す勢いで姉ちゃんがドアを開いた。
「うわぁっ! いきなりなんだ!? 浮き輪? 浮き輪なら一階の押し入れにあるだろ? 合宿って海だっけ? まだ泳ぐには早いかな」
姉ちゃんは浮気と言ったが、ここは華麗にスルーしよう。
最近、このやり取りに少々飽きてきたのだ……
「だってぇ……紗月姉が帰って来るかもなんだよ?」
「紗月姉から連絡あったの?」
「メッセージのやり取りはあるけど、帰るとは言ってないよ」
我が家の長女、青山紗月。一八歳の大学生で、寮暮らしをしている。
特に連絡があったわけでもないので、急に帰って来ることもないと思うが……
就寝前、いつものように施錠と目覚ましのセットを済ませベッドに入る。
今夜は特別な趣向で部屋の入口に両面テープを敷き詰めて、外からドアを開けるとベニヤ板が顔にぶつかるトラップを仕込んでいる。
「名づけて、花穂姉ちゃんホイホイ。なんかチープなネーミング……」
姉ちゃんがまた侵入してくるかもしれない。
二日間俺と離れる前夜は危険日とも言える。
備えは完璧だ。トラップで目を覚ました俺があっさり回避するだろう。
◆◆◆◆◆◆
朝、目覚まし時計より早く目覚めたのは異様な重みを感じたからだ。
それは柔らかくほんのり温かい……
仰向けに寝ている俺の身体に巻き付くように……
「ん!? 花穂姉ちゃん……どうやって入って来たんだよ!?」
少し目線を動かしてみると、花穂姉ちゃんが抱きついたまま寝息をたてている。
感触からして、身体に密着している姉は……全裸だ!
「ん……んんっ! 蒼太ぁ……おあよ? もう朝かぁ……」
俺は部屋の入り口のトラップを見て絶句した。
トラップが作動した形跡がまるでない。
おまけに花穂姉ちゃんの下着も部屋着もどこにも落ちていない。
「姉ちゃんは忍者かよ!? どうやって入ったんだ!?」
「んー……蒼太、動いちゃダメー」
午前五時、部屋がまだ薄闇に包まれているおかげで、姉の肌はよく見えない。
はっきりと見えないだけで、シルエットから察するに全裸だとわかる。
そして、少しずつ唇を俺の口元に近付けているのも……
「姉ちゃんっ! なにすんだよ!? 早く自分の部屋に戻ってくれよ!」
「合宿前に充電! ベロチューかディープキスしてくれたら出ていくねっ!」
「その二択、おかしいだろ!」
断固拒否すると、花穂姉ちゃんはベッドに寝転んでひっくり返ったカエルの体勢になった。
「じゃあ、エッチかセックスか性行為どれかしてくれたら」
「無意味な選択肢だな。却下だっ!!」
「蒼太のデカチンでアソコから大量出血すれば合宿休む理由になるじゃん! 早くして」
そんな言い訳で学校行事を休む奴は世界中探してもいないぞ……
大体、大量出血したら命に関わる。そもそも、俺の股間にそんな破壊力はない。
「あのさ、そんな格好してると風邪ひくよ?」
「蒼太を受け入れる体勢なんだけど」
「部屋が薄暗くてよく見えない。早く部屋に戻ってくれよ」
「充電してくれないの?」
唇ではなく、自分の左頬を人差し指でポンと叩いた。
ここに口づけしろという意味だろう。
薄闇に目が慣れて、柔肌が見えてきた。
僅かに開かれた口元、寝転んでも型崩れしない乳房、スラリとしなやかな美脚。
もう何度か見ている花穂姉ちゃんの裸。充分魅力的だと言える。
「……姉ちゃん! 俺、もう我慢できないっ!」
「蒼太、いいよ。来て!」
俺は股間を押さえて、咄嗟にドアへ走ったのだ。
「おしっこが我慢できない!」
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