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【序幕・第2章】可憐な加奈子さんっ
4.猫耳エプロンお嬢様と秘密共有ですっ!
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リビングのソファで目を覚ました。
雨音がまだ聞こえる。倒れてからそれほど時間は経ってないようだ。
ダイニングテーブルへ視線を移すと、姉たちが談笑している。
「んん……花穂姉ちゃん……」
「蒼太! 大丈夫!? お医者さん呼ぶ?」
心配そうな表情で姉と加奈子さんが俺の寝る場所へやってくる。
「大丈夫……加奈子さんとここに運んで寝かせてくれたんだ?」
「重かったよ。紗月姉がいたら二階まで運べたんだけどね」
「弟君……気分悪くありませんか?」
「うん。熱はまだあるみたいだけど、気分は悪くない」
小さい頃から時折、高熱を出して寝込んでしまう。
だからなのか、周囲の人たちは慣れっこだ。即座に対応してくれる。
「蒼太、部屋で寝たほうがいいよ。加奈ちゃんと肩を貸すから」
「わかった……」
ソファから身を起こすと、頭を揺さぶられたような感覚に襲われる。
朦朧とした意識に奪われそうな視覚を、フルフルと首を振って取り戻した。
「わたしも弟君を運ぶお手伝いしますね……」
「ごめん。加奈子さんまで手伝わせることになって」
姉は右側から、加奈子さんは左側から俺と肩を組んだ。
立ちあがってリビングを出る。足元がおぼつかないまま階段をのぼり始めた。
二人が着用するもこもこ素材のルームウェアの感触が気持ちいい。
密着して再びおっぱい挟撃状態だが、今はそれどころではない。
部屋に入ると、そのままベッドで横になって布団をかけられた。
花穂姉ちゃんはポケットから冷却シートを取り出して、俺の額に貼り付ける。
「制服が乾くの遅くてね、加奈ちゃんはうちで夕飯食べて帰るから」
「そっか……量が多いと乾燥機の時間長くなるんだっけ?」
「そうそう。しかも、制服だからソフト乾燥。あと三時間は回ってるよ」
「花穂さん……お料理のお手伝いをさせてください」
「うん。加奈ちゃんと料理するの久しぶりじゃない?」
なにやら楽しげな料理の話題で盛り上がりながら、二人は階下へおりて行った。
加奈子さんが青山家で夕飯を共にしたり、宿泊するのは昔からよくあることだ。
今日は姉と夕飯を食べて、家から迎えがくる。
高熱で思考が少々鈍っているのか、夕飯にお粥のリクエストを忘れていた。
携帯電話で花穂姉ちゃんの端末にメールを送信する。
すると、五秒待たずに返信メールが入った。
『Re:お粥はもうすぐできるから、ちょっと待っててね』
姉と加奈子さんは、一番最初にお粥を作ってくれたようだ。
惜しむらくは猫耳加奈子さんのエプロン姿を拝見できないことだ。
夕飯までしばらく微睡みの誘いに甘んじよう……
◆◆◆◆◆◆
どれぐらい時間が過ぎたのか、窓の外は既に薄暗い。
天井のシーリングライトは常夜灯が点灯している。
たぶん、花穂姉ちゃんが様子を見にきてくれたんだろう。
「腹減ったなぁ……」
熱による発汗で下着が湿って気持ち悪い。
脱水症状を起こさないため、ベッド脇に置かれた経口補水駅で喉を潤す。
腹ごしらえは姉次第。持ってきてもらうしかない。
(あとで見返り要求するだろうな……)
二番目の姉花穂は、見返り要求型人間である。
なにかをしてもらうと、なにかでお返ししないといけなくなる。
先日の乗馬マシン役のような、とんでもないのもありえる。
気の進まないまま、姉に再びメールする。
また五秒待たずに返信があると思っていたら、階段をのぼる足音が聞こえる。
足音がいつもと違う。静かで、ゆっくりと歩いてくる。
「……電気、つけますね」
「あれ? 加奈子さん?」
「花穂さんは食事のお片づけ中です。弟君にお粥持って行くようにと……」
シーリングライトで部屋が照らされ、加奈子さんがトレーを持って入ってきた。
もこもこ素材のルームウェア、その上から黒いエプロンを着ている。
残念ながら猫耳フードはかぶっていない。
「ありがとう。ちょっと行儀悪いけど、布団の上で食べるよ」
やけに重く感じる体を起こして、大きく深呼吸をする。
加奈子さんに手を差し伸べ、お粥を乗せたトレーを受け取ろうとすると……
「……弟君、熱いから冷ましますね」
お粥を木製のスプーンで少量すくいあげ、息を吹きかける加奈子さん。
口の中に運ばれてくるお粥をパクリと食べる。
なんだろう、この感覚。熱を帯びた体とお粥の熱がひとつになる妙な感じ。
「美味しい」
「あ……塩加減は紗月さんに聞いたそうです」
ほとんど料理ができない一番上の姉。
子どもの頃からよく熱を出す俺に、お粥を作ってくれたものだ。
作るたびに塩加減を間違っていたが、いつしか適量を覚え込んでいた。
「そうなんだ。紗月姉にもお礼しとかないとな……」
「弟君。はい、どうぞ」
加奈子さんの吐息で冷まされたお粥が再び口に運ばれてくる。
熱で頭がクラクラするが、このチャンスを生かさなくては……
俺は加奈子さんに、ルームウェアの猫耳フードをかぶせた。
「……すごい可愛い」
「え、あの……ちゃんと食べてくださいね」
「はーい。あーん」
猫耳フードの白いルームウェアと黒いエプロン姿。
かぶされたフードを取らずに、そのままお粥を運んでくれる。
熱はさがった気はしないが、少し元気が出た。
お茶碗一杯分のお粥を平らげ、水分を摂って横になった。
猫耳加奈子さんが、そっと布団を肩まであげて整える。
いっそのこと、朝までその格好で添い寝看病してほしいぐらいだ。
ますます熱があがって、体の一部分だけが元気になりそうだが……
「まだお熱さがりませんか?」
「うん。体が熱いんだ。あんまりさがってないと思う」
加奈子さんは俺の額に貼られた冷却シートを取り外した。
そこにペタリと手の平を置く。ひんやりとして気持ちいい。
「あとで花穂さんが着替えを持ってくると思います……」
「うん。加奈子さん、今日はありがとう」
「弟君……お大事に」
加奈子さんは、リモコンでシーリングライトを常夜灯に切り替える。
額に置かれた手の平の感触は、柔らかくやや湿った感触に変わった。
目が闇に慣れたときに見た加奈子さんは、口元を指でおさえ照れた顔を見せた。
「か、加奈子さん……今……」
「あの……花穂さんには……」
口元で人差し指を立てて、内緒のジェスチャーを作る。
ペコリと軽く会釈をして、お粥の乗ったトレーを持って階段をおりて行った。
猫耳エプロンの加奈子さんに、内緒のデコチューされてしまった。
なんだかよくわからない気分で目が回りそうだ。
思い返すと体が火照り、熱で胸が焦げる気さえする。
その翌日も熱がさがらず、学校を休むことになった。
かかりつけの病院へ行き、もらった解熱剤で平熱に戻ったのは翌々日だった。
雨音がまだ聞こえる。倒れてからそれほど時間は経ってないようだ。
ダイニングテーブルへ視線を移すと、姉たちが談笑している。
「んん……花穂姉ちゃん……」
「蒼太! 大丈夫!? お医者さん呼ぶ?」
心配そうな表情で姉と加奈子さんが俺の寝る場所へやってくる。
「大丈夫……加奈子さんとここに運んで寝かせてくれたんだ?」
「重かったよ。紗月姉がいたら二階まで運べたんだけどね」
「弟君……気分悪くありませんか?」
「うん。熱はまだあるみたいだけど、気分は悪くない」
小さい頃から時折、高熱を出して寝込んでしまう。
だからなのか、周囲の人たちは慣れっこだ。即座に対応してくれる。
「蒼太、部屋で寝たほうがいいよ。加奈ちゃんと肩を貸すから」
「わかった……」
ソファから身を起こすと、頭を揺さぶられたような感覚に襲われる。
朦朧とした意識に奪われそうな視覚を、フルフルと首を振って取り戻した。
「わたしも弟君を運ぶお手伝いしますね……」
「ごめん。加奈子さんまで手伝わせることになって」
姉は右側から、加奈子さんは左側から俺と肩を組んだ。
立ちあがってリビングを出る。足元がおぼつかないまま階段をのぼり始めた。
二人が着用するもこもこ素材のルームウェアの感触が気持ちいい。
密着して再びおっぱい挟撃状態だが、今はそれどころではない。
部屋に入ると、そのままベッドで横になって布団をかけられた。
花穂姉ちゃんはポケットから冷却シートを取り出して、俺の額に貼り付ける。
「制服が乾くの遅くてね、加奈ちゃんはうちで夕飯食べて帰るから」
「そっか……量が多いと乾燥機の時間長くなるんだっけ?」
「そうそう。しかも、制服だからソフト乾燥。あと三時間は回ってるよ」
「花穂さん……お料理のお手伝いをさせてください」
「うん。加奈ちゃんと料理するの久しぶりじゃない?」
なにやら楽しげな料理の話題で盛り上がりながら、二人は階下へおりて行った。
加奈子さんが青山家で夕飯を共にしたり、宿泊するのは昔からよくあることだ。
今日は姉と夕飯を食べて、家から迎えがくる。
高熱で思考が少々鈍っているのか、夕飯にお粥のリクエストを忘れていた。
携帯電話で花穂姉ちゃんの端末にメールを送信する。
すると、五秒待たずに返信メールが入った。
『Re:お粥はもうすぐできるから、ちょっと待っててね』
姉と加奈子さんは、一番最初にお粥を作ってくれたようだ。
惜しむらくは猫耳加奈子さんのエプロン姿を拝見できないことだ。
夕飯までしばらく微睡みの誘いに甘んじよう……
◆◆◆◆◆◆
どれぐらい時間が過ぎたのか、窓の外は既に薄暗い。
天井のシーリングライトは常夜灯が点灯している。
たぶん、花穂姉ちゃんが様子を見にきてくれたんだろう。
「腹減ったなぁ……」
熱による発汗で下着が湿って気持ち悪い。
脱水症状を起こさないため、ベッド脇に置かれた経口補水駅で喉を潤す。
腹ごしらえは姉次第。持ってきてもらうしかない。
(あとで見返り要求するだろうな……)
二番目の姉花穂は、見返り要求型人間である。
なにかをしてもらうと、なにかでお返ししないといけなくなる。
先日の乗馬マシン役のような、とんでもないのもありえる。
気の進まないまま、姉に再びメールする。
また五秒待たずに返信があると思っていたら、階段をのぼる足音が聞こえる。
足音がいつもと違う。静かで、ゆっくりと歩いてくる。
「……電気、つけますね」
「あれ? 加奈子さん?」
「花穂さんは食事のお片づけ中です。弟君にお粥持って行くようにと……」
シーリングライトで部屋が照らされ、加奈子さんがトレーを持って入ってきた。
もこもこ素材のルームウェア、その上から黒いエプロンを着ている。
残念ながら猫耳フードはかぶっていない。
「ありがとう。ちょっと行儀悪いけど、布団の上で食べるよ」
やけに重く感じる体を起こして、大きく深呼吸をする。
加奈子さんに手を差し伸べ、お粥を乗せたトレーを受け取ろうとすると……
「……弟君、熱いから冷ましますね」
お粥を木製のスプーンで少量すくいあげ、息を吹きかける加奈子さん。
口の中に運ばれてくるお粥をパクリと食べる。
なんだろう、この感覚。熱を帯びた体とお粥の熱がひとつになる妙な感じ。
「美味しい」
「あ……塩加減は紗月さんに聞いたそうです」
ほとんど料理ができない一番上の姉。
子どもの頃からよく熱を出す俺に、お粥を作ってくれたものだ。
作るたびに塩加減を間違っていたが、いつしか適量を覚え込んでいた。
「そうなんだ。紗月姉にもお礼しとかないとな……」
「弟君。はい、どうぞ」
加奈子さんの吐息で冷まされたお粥が再び口に運ばれてくる。
熱で頭がクラクラするが、このチャンスを生かさなくては……
俺は加奈子さんに、ルームウェアの猫耳フードをかぶせた。
「……すごい可愛い」
「え、あの……ちゃんと食べてくださいね」
「はーい。あーん」
猫耳フードの白いルームウェアと黒いエプロン姿。
かぶされたフードを取らずに、そのままお粥を運んでくれる。
熱はさがった気はしないが、少し元気が出た。
お茶碗一杯分のお粥を平らげ、水分を摂って横になった。
猫耳加奈子さんが、そっと布団を肩まであげて整える。
いっそのこと、朝までその格好で添い寝看病してほしいぐらいだ。
ますます熱があがって、体の一部分だけが元気になりそうだが……
「まだお熱さがりませんか?」
「うん。体が熱いんだ。あんまりさがってないと思う」
加奈子さんは俺の額に貼られた冷却シートを取り外した。
そこにペタリと手の平を置く。ひんやりとして気持ちいい。
「あとで花穂さんが着替えを持ってくると思います……」
「うん。加奈子さん、今日はありがとう」
「弟君……お大事に」
加奈子さんは、リモコンでシーリングライトを常夜灯に切り替える。
額に置かれた手の平の感触は、柔らかくやや湿った感触に変わった。
目が闇に慣れたときに見た加奈子さんは、口元を指でおさえ照れた顔を見せた。
「か、加奈子さん……今……」
「あの……花穂さんには……」
口元で人差し指を立てて、内緒のジェスチャーを作る。
ペコリと軽く会釈をして、お粥の乗ったトレーを持って階段をおりて行った。
猫耳エプロンの加奈子さんに、内緒のデコチューされてしまった。
なんだかよくわからない気分で目が回りそうだ。
思い返すと体が火照り、熱で胸が焦げる気さえする。
その翌日も熱がさがらず、学校を休むことになった。
かかりつけの病院へ行き、もらった解熱剤で平熱に戻ったのは翌々日だった。
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