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【真幕・第5章】あねったい遊撃っ 前編!
1.我慢して旅立つ姉を送り出しますよっ!
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「アメリカに行く!?」
七月一六日の午後七時半。
青山家のダイニングテーブルで、花穂姉ちゃんが招待した隣人の栗栖有紀と夕飯を共にする。食事に箸を付けた途端、姉たちの会話は唐突に渡航の話になった。
「ええ。結城ソフトウェアの業務関係で、お父さんの代理人として行くの」
栗栖の義父である結城海斗は、結城加奈子さんの伯父であり、俺の実父でもある。養子に迎え入れられた栗栖は、この父をよく支え、結城ソフトウェアの事業に大きく貢献していると聞く。少し前に実母の結城青葉に栗栖と会いに行ったが、母も栗栖を褒めちぎっていた。
「なんで、花穂姉ちゃんも行くんだ?」
「いい機会だと思ってね。海外行ったことないし」
珍しく好奇心旺盛な子供のように、姉が目を輝かせている。
しかし、なにか目論んでいる気がしてならないのは、この二人には前例があるからだ。結果的には俺の味方だったが、栗栖は姉と最初から裏で通じ合っていた。
「夏休みに入ってからでいいだろ? なんで今なんだ?」
「蒼太君、遊びで行くんじゃないの。お仕事だから日程があるの」
「じゃあ、尚更姉ちゃんが行く必要ないだろ?」
姉は鳥団子入のクリームシチューをすすりながら、少し表情を曇らせた。
「蒼太は、ずるい。結城家と青山家にあった出来事を全部知ってる!」
「蒼太君。今回の目的地は、上海とニューヨーク。上海にはお父さんがいるから、届け物をするために立ち寄るの。花穂さんは、上海に用事がある。意味がわかるよね?」
花穂姉ちゃんの渡航目的が段々見えてきた。
海外赴任中のうちの両親に会いにいくつもりなのだ。夭折した双子の弟、青山透流のことを聞くために。あらかたは栗栖から聞いているはずだが、本人たちの口から直接聞き出したいのだろう。おそらく、真の目的は誕生日を知ることである。
「わかった……父さんと母さんには、俺の事情も伝えてくれ。青山家の養子になった経緯、実父と実母の存在、代理母出産、青山家の不幸な事故、全部知ったと」
「うん、伝えるね」
「ところで、栗栖。いつから行くんだ?」
「明日の夕方からよ」
話が急過ぎて、一瞬思考が停止してしまった。
やはり、青山花穂と栗栖有紀は侮れない。明日、飛行機に乗って国外に出るということは、姉は既にパスポートを所持しているはずだ。確か発行までには、六日前後必要だった気がする。今回の渡航について、少なくとも一週間前から話し合っていたと容易に推察できる。
「で、帰りはいつなんだ?」
「えっと……有紀ちゃん、いつだったっけ?」
「七月二一日の夜に日本に着くわ」
テーブルに並べられたサラダや煮物を取り分けながら、俺はふと考えた。
母が不在の青山家で、家事全般を取り仕切っているのは花穂姉ちゃんだ。その花穂姉ちゃんが数日いなくなってしまう。
「まあ、食事は自炊するか、コンビニ弁当でいいか」
「これ、四日間の食費ねっ」
姉はテーブルの上に茶封筒を出した。中には札がいくらか入っているようだ。
さらに封筒の上に、なにかを書き記したメモ用紙を重ねた。
「げっ! こんなにすることあるのか!?」
まず、汚れやすい場所の掃除、次に観葉植物の水やり。
他にも、洗濯のやり方やゴミの分別、外出前の施錠についてなど、普段から花穂姉ちゃんがこなしている細かな家事の数々だ。
「水やりは忘れないでね。そこに書いてある分量守って」
「家事って大変だなぁ……」
「それだけ蒼太君が花穂さんにお世話になっているってことよ」
姉の隣りに座る栗栖は、既に食べ終えて片付けようとしている。
一人暮らしをする栗栖もすごいと思っていたが、こうして花穂姉ちゃんが日常的にこなしていた家事を再確認すると、素直に感心してしまう。
「感謝してるよ。花穂姉ちゃんには」
「別にいいよ。蒼太も手伝ってくれてるしねっ」
学校では生徒会長をしていて、それなりに忙しいはずだ。
同学年の加奈子さんと栗栖有紀、三年の御子柴龍司や四条春香といった学内屈指の優秀な人物が結集した生徒会役員のまとめ役である。
家の中では、ほぼ完璧に家事をこなしている。
今も俺や栗栖と会話しながら、食べ終わった食器を片付ける手が止まらない。
常に花穂姉ちゃんは、こんな感じなのだ。やるべきこと、やらなくてはいけないことの連鎖。自分が次になにをするべきかを完全に把握していると言える。
(気が休まらないだろうな)
ふと、俺はそう考えた。両親が海外赴任して約五ヶ月、姉はよく頑張った。
そろそろ、一休みしてもいい頃合ではないか。そういう機会が巡ってきたのだ。
◆◆◆
翌日、学校から帰って来た姉がいつも以上に忙しなく動く。シャワーを終えて、今はメイク中らしい。さっきからリビングと洗面所を行ったり来たり、階段を駆けあがって部屋に戻ったりと落ち着きがない。
「蒼太! 悪いけど、そこの荷物を玄関に運んでくれない?」
「このバッグとポーチ?」
「うん。その二つ。有紀ちゃん迎えに来たら教えて!」
キャリーバッグはうちの両親が使用していたものだ。黒いソフトケースで、サイズはやや小さい。その傍らには普段から姉が使用するポーチが置かれている。俺は指示通り、リビングから玄関へ姉の荷物を運び出した。
すると、玄関のドアをノックする音が聞こえる。
この時間に我が家を来訪するのは、隣人の栗栖しかいない。
「鍵、開いてるぞ」
「あら? 蒼太君もキャリーバッグに入って行くの?」
「んなわけあるか。なんというか、お前の格好すげーな!」
中に入って来た栗栖は、白無地Tシャツにカラフルなスカーフ、ジーンズに歩きやすそうな白いスニーカー姿だ。いつものメガネ姿ではなく、大きめのサングラスをかけているせいか別人に見える。
「渡航時は、いつもこんな感じだけど?」
「普通の格好なのに、セレブ感がすごい……」
「そうかしら? 海外に慣れてるからじゃない? それより蒼太君、あなた顔が少し赤い……と言うより顔色が良くないように見えるわ。ひょっとして――」
「待てっ! それ以上口にするな。花穂姉ちゃんに気づかれるだろ……」
異変を感じたのは今朝からだ。やけに体が重かった。
それに、熱っぽいのは猛暑のせいだけではない。確実に体から高熱を発している。
姉の初の海外旅行に水を差したくなかった俺は、体中に冷却シートを貼ったのだ。
栗栖は嗅覚や聴覚が鋭い。シートの匂いでバレてしまう。
「無理してるんじゃないの?」
「まあ、ちょっとだけな。姉ちゃんには言わないでくれ」
「わかったわ。蒼太君の意志を尊重する。その代わり、ヘルプを呼ぶわ」
「ヘルプって……紗月姉はダメだぞ。今は忙しいし――」
「紗月さんに連絡するわけないでしょう。花穂さんに即バレるじゃない。だいたい、紗月さんの連絡先知らないわ」
手に持った端末を操作しながら、栗栖は玄関の外へ出て行った。
家の中から窓を閉める音が聞こえる。姉も身支度を終えたようだ。
「花穂姉ちゃん、栗栖はもう来てるぞ」
「あれ? 有紀ちゃん、バッグ置いてどこ行ったの?」
「今、外で電話中。タクシー呼んでるんじゃないかな」
リビングから出て来た姉は、学校や家で見る普段の姿と雰囲気が違う。
白いカットソーに黒い薄手のロングカーディガンを重ね、ヴィンテージ風のスキニーデニムパンツを穿いている。
「一応、紗月姉にも連絡してるんだけどね、今は忙しくて帰れないってさ」
「たった四日間だけだろ。俺ひとりでも大丈夫だ」
「加奈ちゃんも習い事で時間が厳しいみたい。テストの復習もするって言ってた」
一学期の期末テスト、俺は中間テストに比べ順位を落とした。
それでも、七二位と一〇〇位以内に踏みとどまれて一安心だ。波乱の展開は、二年生の上位が入れ替わったことだった。まず、学年一位を獲得したのは加奈子さんだ。僅差で栗栖が二位、花穂姉ちゃんは三位。不動の一位である天才栗栖有紀の牙城を崩した加奈子さんは、さらに勉学に没頭するようになったという。
「花穂さん、用意できた? タクシー来るみたい」
「わかった。蒼太、お留守番よろしくねっ」
そう言うと、姉はガラガラとキャリーバッグを引きながら玄関を出た。
午後五時過ぎ、外はまだ明るい。姉を見送ったあと、栗栖が中に戻って来た。
「蒼太君、ヘルプを呼んでおいたわ。ゆっくり休みなさい」
「ああ。すまない……」
「本当に大丈夫……ではなさそうね」
「いいから早く行け。姉ちゃんに気づかれる……」
「蒼太君、玄関は施錠せずに開けておいてね。今夜のヘルプが来るから」
「大げさだな。俺は大丈夫だ。花穂姉ちゃんを頼むぞ栗栖」
「任せて。くれぐれも無理しないようにね。それじゃあ」
栗栖にごまかしは効かない。たぶん、俺が相当無理しているのを知っている。
さて、栗栖が呼んだヘルプが誰なのか気になるところだ。紗月姉でも加奈子さんでもないのは確かで、アイツが連絡先を知っている人物となると限られてくる。
家の門前で車が走り去って行く音が耳に入った。
花穂姉ちゃんと栗栖が呼んだタクシーが、隣市の空港に向かって出発した。
(行ったか……あ、あれ?)
壁にもたれながら、その場にズルズルとへたり込む。
フェードアウトするように、視界が暗くなっていく。体中が煮えたぎるように熱い。
朦朧とする意識の中、最後に見たのは玄関のドアを開く人物の姿だった……
七月一六日の午後七時半。
青山家のダイニングテーブルで、花穂姉ちゃんが招待した隣人の栗栖有紀と夕飯を共にする。食事に箸を付けた途端、姉たちの会話は唐突に渡航の話になった。
「ええ。結城ソフトウェアの業務関係で、お父さんの代理人として行くの」
栗栖の義父である結城海斗は、結城加奈子さんの伯父であり、俺の実父でもある。養子に迎え入れられた栗栖は、この父をよく支え、結城ソフトウェアの事業に大きく貢献していると聞く。少し前に実母の結城青葉に栗栖と会いに行ったが、母も栗栖を褒めちぎっていた。
「なんで、花穂姉ちゃんも行くんだ?」
「いい機会だと思ってね。海外行ったことないし」
珍しく好奇心旺盛な子供のように、姉が目を輝かせている。
しかし、なにか目論んでいる気がしてならないのは、この二人には前例があるからだ。結果的には俺の味方だったが、栗栖は姉と最初から裏で通じ合っていた。
「夏休みに入ってからでいいだろ? なんで今なんだ?」
「蒼太君、遊びで行くんじゃないの。お仕事だから日程があるの」
「じゃあ、尚更姉ちゃんが行く必要ないだろ?」
姉は鳥団子入のクリームシチューをすすりながら、少し表情を曇らせた。
「蒼太は、ずるい。結城家と青山家にあった出来事を全部知ってる!」
「蒼太君。今回の目的地は、上海とニューヨーク。上海にはお父さんがいるから、届け物をするために立ち寄るの。花穂さんは、上海に用事がある。意味がわかるよね?」
花穂姉ちゃんの渡航目的が段々見えてきた。
海外赴任中のうちの両親に会いにいくつもりなのだ。夭折した双子の弟、青山透流のことを聞くために。あらかたは栗栖から聞いているはずだが、本人たちの口から直接聞き出したいのだろう。おそらく、真の目的は誕生日を知ることである。
「わかった……父さんと母さんには、俺の事情も伝えてくれ。青山家の養子になった経緯、実父と実母の存在、代理母出産、青山家の不幸な事故、全部知ったと」
「うん、伝えるね」
「ところで、栗栖。いつから行くんだ?」
「明日の夕方からよ」
話が急過ぎて、一瞬思考が停止してしまった。
やはり、青山花穂と栗栖有紀は侮れない。明日、飛行機に乗って国外に出るということは、姉は既にパスポートを所持しているはずだ。確か発行までには、六日前後必要だった気がする。今回の渡航について、少なくとも一週間前から話し合っていたと容易に推察できる。
「で、帰りはいつなんだ?」
「えっと……有紀ちゃん、いつだったっけ?」
「七月二一日の夜に日本に着くわ」
テーブルに並べられたサラダや煮物を取り分けながら、俺はふと考えた。
母が不在の青山家で、家事全般を取り仕切っているのは花穂姉ちゃんだ。その花穂姉ちゃんが数日いなくなってしまう。
「まあ、食事は自炊するか、コンビニ弁当でいいか」
「これ、四日間の食費ねっ」
姉はテーブルの上に茶封筒を出した。中には札がいくらか入っているようだ。
さらに封筒の上に、なにかを書き記したメモ用紙を重ねた。
「げっ! こんなにすることあるのか!?」
まず、汚れやすい場所の掃除、次に観葉植物の水やり。
他にも、洗濯のやり方やゴミの分別、外出前の施錠についてなど、普段から花穂姉ちゃんがこなしている細かな家事の数々だ。
「水やりは忘れないでね。そこに書いてある分量守って」
「家事って大変だなぁ……」
「それだけ蒼太君が花穂さんにお世話になっているってことよ」
姉の隣りに座る栗栖は、既に食べ終えて片付けようとしている。
一人暮らしをする栗栖もすごいと思っていたが、こうして花穂姉ちゃんが日常的にこなしていた家事を再確認すると、素直に感心してしまう。
「感謝してるよ。花穂姉ちゃんには」
「別にいいよ。蒼太も手伝ってくれてるしねっ」
学校では生徒会長をしていて、それなりに忙しいはずだ。
同学年の加奈子さんと栗栖有紀、三年の御子柴龍司や四条春香といった学内屈指の優秀な人物が結集した生徒会役員のまとめ役である。
家の中では、ほぼ完璧に家事をこなしている。
今も俺や栗栖と会話しながら、食べ終わった食器を片付ける手が止まらない。
常に花穂姉ちゃんは、こんな感じなのだ。やるべきこと、やらなくてはいけないことの連鎖。自分が次になにをするべきかを完全に把握していると言える。
(気が休まらないだろうな)
ふと、俺はそう考えた。両親が海外赴任して約五ヶ月、姉はよく頑張った。
そろそろ、一休みしてもいい頃合ではないか。そういう機会が巡ってきたのだ。
◆◆◆
翌日、学校から帰って来た姉がいつも以上に忙しなく動く。シャワーを終えて、今はメイク中らしい。さっきからリビングと洗面所を行ったり来たり、階段を駆けあがって部屋に戻ったりと落ち着きがない。
「蒼太! 悪いけど、そこの荷物を玄関に運んでくれない?」
「このバッグとポーチ?」
「うん。その二つ。有紀ちゃん迎えに来たら教えて!」
キャリーバッグはうちの両親が使用していたものだ。黒いソフトケースで、サイズはやや小さい。その傍らには普段から姉が使用するポーチが置かれている。俺は指示通り、リビングから玄関へ姉の荷物を運び出した。
すると、玄関のドアをノックする音が聞こえる。
この時間に我が家を来訪するのは、隣人の栗栖しかいない。
「鍵、開いてるぞ」
「あら? 蒼太君もキャリーバッグに入って行くの?」
「んなわけあるか。なんというか、お前の格好すげーな!」
中に入って来た栗栖は、白無地Tシャツにカラフルなスカーフ、ジーンズに歩きやすそうな白いスニーカー姿だ。いつものメガネ姿ではなく、大きめのサングラスをかけているせいか別人に見える。
「渡航時は、いつもこんな感じだけど?」
「普通の格好なのに、セレブ感がすごい……」
「そうかしら? 海外に慣れてるからじゃない? それより蒼太君、あなた顔が少し赤い……と言うより顔色が良くないように見えるわ。ひょっとして――」
「待てっ! それ以上口にするな。花穂姉ちゃんに気づかれるだろ……」
異変を感じたのは今朝からだ。やけに体が重かった。
それに、熱っぽいのは猛暑のせいだけではない。確実に体から高熱を発している。
姉の初の海外旅行に水を差したくなかった俺は、体中に冷却シートを貼ったのだ。
栗栖は嗅覚や聴覚が鋭い。シートの匂いでバレてしまう。
「無理してるんじゃないの?」
「まあ、ちょっとだけな。姉ちゃんには言わないでくれ」
「わかったわ。蒼太君の意志を尊重する。その代わり、ヘルプを呼ぶわ」
「ヘルプって……紗月姉はダメだぞ。今は忙しいし――」
「紗月さんに連絡するわけないでしょう。花穂さんに即バレるじゃない。だいたい、紗月さんの連絡先知らないわ」
手に持った端末を操作しながら、栗栖は玄関の外へ出て行った。
家の中から窓を閉める音が聞こえる。姉も身支度を終えたようだ。
「花穂姉ちゃん、栗栖はもう来てるぞ」
「あれ? 有紀ちゃん、バッグ置いてどこ行ったの?」
「今、外で電話中。タクシー呼んでるんじゃないかな」
リビングから出て来た姉は、学校や家で見る普段の姿と雰囲気が違う。
白いカットソーに黒い薄手のロングカーディガンを重ね、ヴィンテージ風のスキニーデニムパンツを穿いている。
「一応、紗月姉にも連絡してるんだけどね、今は忙しくて帰れないってさ」
「たった四日間だけだろ。俺ひとりでも大丈夫だ」
「加奈ちゃんも習い事で時間が厳しいみたい。テストの復習もするって言ってた」
一学期の期末テスト、俺は中間テストに比べ順位を落とした。
それでも、七二位と一〇〇位以内に踏みとどまれて一安心だ。波乱の展開は、二年生の上位が入れ替わったことだった。まず、学年一位を獲得したのは加奈子さんだ。僅差で栗栖が二位、花穂姉ちゃんは三位。不動の一位である天才栗栖有紀の牙城を崩した加奈子さんは、さらに勉学に没頭するようになったという。
「花穂さん、用意できた? タクシー来るみたい」
「わかった。蒼太、お留守番よろしくねっ」
そう言うと、姉はガラガラとキャリーバッグを引きながら玄関を出た。
午後五時過ぎ、外はまだ明るい。姉を見送ったあと、栗栖が中に戻って来た。
「蒼太君、ヘルプを呼んでおいたわ。ゆっくり休みなさい」
「ああ。すまない……」
「本当に大丈夫……ではなさそうね」
「いいから早く行け。姉ちゃんに気づかれる……」
「蒼太君、玄関は施錠せずに開けておいてね。今夜のヘルプが来るから」
「大げさだな。俺は大丈夫だ。花穂姉ちゃんを頼むぞ栗栖」
「任せて。くれぐれも無理しないようにね。それじゃあ」
栗栖にごまかしは効かない。たぶん、俺が相当無理しているのを知っている。
さて、栗栖が呼んだヘルプが誰なのか気になるところだ。紗月姉でも加奈子さんでもないのは確かで、アイツが連絡先を知っている人物となると限られてくる。
家の門前で車が走り去って行く音が耳に入った。
花穂姉ちゃんと栗栖が呼んだタクシーが、隣市の空港に向かって出発した。
(行ったか……あ、あれ?)
壁にもたれながら、その場にズルズルとへたり込む。
フェードアウトするように、視界が暗くなっていく。体中が煮えたぎるように熱い。
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