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【真幕・第4章】あねだーくねす心撃っ 前編!
2.空手少女との密会は暴露ありですよっ!
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放課後、スズから呼び出しがかかった。用件は聞いていない。
場所はオトリ役の練習をした校舎と校舎の間にある狭い中庭だ。
授業が終わって足早に駆けつけたが、スズの姿は見当たらない。
(この場所、あんまり好きじゃないな)
教師の死角になりやすい場所だ。喫煙で謹慎処分を食らった奴がいるという。
紗月姉も高校時代に、ここで男子生徒とタイマンを張って相手を撃破したと聞いたことがある。この中庭は、私立の進学校の中でも異端児が集まりやすい場所のようだ。
「アオ! もう来てたんだ!?」
スズの大きく甲高い声が鼓膜にジリジリと響いた。
制服姿のスズが鞄と空手着を手に持って歩いて来る。ブラウスはボタンを二つほど開き、スカートはかなり短い。見慣れた格好だが、その表情は明らかに喜々としている。
「わざわざ中庭に呼び出す必要あるのか?」
「教室じゃ言いにくいから呼び出してるんだろっ!」
「回りくどいな。俺に愛の告白か?」
「それは……里志にもうしたから……コクったんだ」
口角が緩みっぱなしで、どうも締りがない顔だ。小踊りでもしそうなぐらい落ち着きがなく、腕をブラブラさせたり、足踏みをしたり動きが忙しない。
「お前なぁ、俺は里志と毎日顔合わせてんだぞ。既に聞いて――」
「違うんだよ! 里志のことじゃない、違うんだ」
「じゃあ、なんなんだ? また、くっだらない頼みごとじゃないだろうな!?」
コイツが俺に話しを持って来るのは、大まかに二つ理由がある。
一つは師匠と慕う紗月姉とのパイプ役。直接言いにくいことや頼みにくいことを俺を通して伝言している。もう一つは、先日の彼氏役などの頼みごとだ。
「里志と付き合うんだけどさ……初恋の相手は里志じゃなかったんだ」
「は? へ? お前、小学生の頃から里志が好きだったじゃないか」
スズは深い溜息を一度落としたあと、少しだけうつむいた。
さっきまでのにやけた表情とは違い、憂いを帯びた真剣な顔つきだ。
「里志は紗月師匠ばっかり追いかけてただろ?」
「そうだったな」
「だから、アオを先に好きになったんだ……」
「アオ? 誰だそれは? ここにいるのか?」
「ふざけんなよ。人が真剣に話してんのにさ」
荒木鈴はご近所さんで、幼馴染であり、男友達に近い存在である。
恋愛対象とは全然違うカテゴリに俺の中では分類されている。当然、スズもそうだと思っていた。
「スズは里志が最初から好きだとばかり……」
「初恋の感情ってずっと残るもんだ。責任を取ってほしいぐらいだねっ」
「すまない。ボクっ娘には全然興味がないんだ」
「これからは女の子らしく髪伸ばす! ベリーショートはヤメ!」
言葉で言い表すのが難しい感覚を味わった。明るげに俺と話すスズは、確かに里志のことが大好きなんだと感じる。それと同時に、微かに俺への好意も伝わって来るのだ。とても不思議な感覚だ。
「まあ、なんだ。とりあえず、おめでとう。よかったなスズ」
「うん。アオがオトリ役に呼んでくれたおかげかなっ」
「んで、結局お前は俺に礼が言いたかっただけなのか?」
「だけって言うなよ! これでも結構感謝してるんだからな!」
腕組みをしてニヤニヤと引き締まらない顔をする奴に、感謝をしていると言われても説得力がまるでない。やっぱり、荒木鈴は俺の中で変わらない存在なのだ。
「里志と仲良くしろよ」
「一個だけ頼みを聞いてくれないかな?」
「う……やはり、頼みごとか!」
こちらに近付いた瞬間、スズは俺の背中に腕を回して抱擁した。
胸元に顔を埋めるように、ピタリとくっつけて離そうとしない。
「頼みごとはハグだ! アオもさっさと手を回せ!」
「なんでこんな場所でお前と抱き合わなきゃならんのだ……」
渋々ではあるが、スズの背中に手を回して軽く抱きしめてみる。
鍛え込んでいるから、コイツの体はもっと固くてムキムキだと勝手に決め込んでいた。でも、こうしてハグすると、想像とまったく違うことに改めて気付く。荒木鈴は正真正銘女の子らしい女の子なんだと。
「五月七日の出来事覚えてる?」
「お前が変な男に付きまとわれて、俺が彼氏役した日だろ。いきなりキスしやがって!」
「あれがファーストキスだぞ。初彼氏より先にアオとやっちゃった」
「……そうじゃないかと思ってたんだ。里志には言うな……」
スズが抱擁する腕に力が加わる。甘えているようにも見える。
当たっているはずの胸部の膨らみは下着のせいもあってか、ほとんど感じられない。ただ、その身から発せられる香りは、女の子らしい男心をくすぐる匂いだ。
「よし! これであたしの初恋は終わった! ありがと、アオ!」
スッと離れて、敬礼っぽく右手を額に当てて笑顔を浮かべるスズ。
ようやく、コイツがいったいなにがしたかったのか理解することができた。
スズは、里志と付き合う。まだ、デートらしいデートもしていないはずだ。だから、その前に自分の心の中で燻っている俺への微かな気持ちと決別しに来たのだ。
今日は荒木鈴にとって新たな出発の日であり、初恋との別れの日でもある。
「もう俺はお前を男友達扱いはしない。荒木鈴は女の子だ。里志の彼女で、俺たちが守るべき存在だ」
「今までどおりでいいってば!」
「お前さ、その着崩しを直したらどうだ? 里志もそれ、気にしてたぞ」
「うん。もうこれもやめる。スカートも長くするし、ブラウスもボタン留める」
スズはその場でボタンを留め直して、リボンを巻き直している。
衣服の着崩しには厳しい学校だ。コイツが既に風紀委員や先輩方に目を付けられているのは有名な話である。誰も口出ししないのは、青山姉妹と仲良しだからだ。スズは意図せず、虎の威を借りていたことになる。
「あっ! スズに重要なことを教えておかなければ!」
「わっ! いきなりなに!?」
「里志のチンチンは俺ほどではないが、ボリューム感があるぞ。小柄なお前ではキツイかもしれんが、精々頑張ってくれ!」
「アオはバカだ! 変態! 色魔! デカチン! バーカ、バーカ!」
中指を突き立てながらスズは中庭から去って行った。
生暖かい一陣の風が中庭に吹き込んだ。まるでその場の澱んだ空気を刷新するかのようだ。青峰里志との長年の確執、荒木鈴が長く秘めた初恋の思いは終焉を迎えた。たぶん、物語風に言えば青春の一ページがめくられたのだろうとひとり合点する。
(……そして、なぜ勃っている!)
少しの間だが、スズの肌に触れていた。
紗月姉と加奈子さん以外には、無反応な俺の体に異変が起きていた……
場所はオトリ役の練習をした校舎と校舎の間にある狭い中庭だ。
授業が終わって足早に駆けつけたが、スズの姿は見当たらない。
(この場所、あんまり好きじゃないな)
教師の死角になりやすい場所だ。喫煙で謹慎処分を食らった奴がいるという。
紗月姉も高校時代に、ここで男子生徒とタイマンを張って相手を撃破したと聞いたことがある。この中庭は、私立の進学校の中でも異端児が集まりやすい場所のようだ。
「アオ! もう来てたんだ!?」
スズの大きく甲高い声が鼓膜にジリジリと響いた。
制服姿のスズが鞄と空手着を手に持って歩いて来る。ブラウスはボタンを二つほど開き、スカートはかなり短い。見慣れた格好だが、その表情は明らかに喜々としている。
「わざわざ中庭に呼び出す必要あるのか?」
「教室じゃ言いにくいから呼び出してるんだろっ!」
「回りくどいな。俺に愛の告白か?」
「それは……里志にもうしたから……コクったんだ」
口角が緩みっぱなしで、どうも締りがない顔だ。小踊りでもしそうなぐらい落ち着きがなく、腕をブラブラさせたり、足踏みをしたり動きが忙しない。
「お前なぁ、俺は里志と毎日顔合わせてんだぞ。既に聞いて――」
「違うんだよ! 里志のことじゃない、違うんだ」
「じゃあ、なんなんだ? また、くっだらない頼みごとじゃないだろうな!?」
コイツが俺に話しを持って来るのは、大まかに二つ理由がある。
一つは師匠と慕う紗月姉とのパイプ役。直接言いにくいことや頼みにくいことを俺を通して伝言している。もう一つは、先日の彼氏役などの頼みごとだ。
「里志と付き合うんだけどさ……初恋の相手は里志じゃなかったんだ」
「は? へ? お前、小学生の頃から里志が好きだったじゃないか」
スズは深い溜息を一度落としたあと、少しだけうつむいた。
さっきまでのにやけた表情とは違い、憂いを帯びた真剣な顔つきだ。
「里志は紗月師匠ばっかり追いかけてただろ?」
「そうだったな」
「だから、アオを先に好きになったんだ……」
「アオ? 誰だそれは? ここにいるのか?」
「ふざけんなよ。人が真剣に話してんのにさ」
荒木鈴はご近所さんで、幼馴染であり、男友達に近い存在である。
恋愛対象とは全然違うカテゴリに俺の中では分類されている。当然、スズもそうだと思っていた。
「スズは里志が最初から好きだとばかり……」
「初恋の感情ってずっと残るもんだ。責任を取ってほしいぐらいだねっ」
「すまない。ボクっ娘には全然興味がないんだ」
「これからは女の子らしく髪伸ばす! ベリーショートはヤメ!」
言葉で言い表すのが難しい感覚を味わった。明るげに俺と話すスズは、確かに里志のことが大好きなんだと感じる。それと同時に、微かに俺への好意も伝わって来るのだ。とても不思議な感覚だ。
「まあ、なんだ。とりあえず、おめでとう。よかったなスズ」
「うん。アオがオトリ役に呼んでくれたおかげかなっ」
「んで、結局お前は俺に礼が言いたかっただけなのか?」
「だけって言うなよ! これでも結構感謝してるんだからな!」
腕組みをしてニヤニヤと引き締まらない顔をする奴に、感謝をしていると言われても説得力がまるでない。やっぱり、荒木鈴は俺の中で変わらない存在なのだ。
「里志と仲良くしろよ」
「一個だけ頼みを聞いてくれないかな?」
「う……やはり、頼みごとか!」
こちらに近付いた瞬間、スズは俺の背中に腕を回して抱擁した。
胸元に顔を埋めるように、ピタリとくっつけて離そうとしない。
「頼みごとはハグだ! アオもさっさと手を回せ!」
「なんでこんな場所でお前と抱き合わなきゃならんのだ……」
渋々ではあるが、スズの背中に手を回して軽く抱きしめてみる。
鍛え込んでいるから、コイツの体はもっと固くてムキムキだと勝手に決め込んでいた。でも、こうしてハグすると、想像とまったく違うことに改めて気付く。荒木鈴は正真正銘女の子らしい女の子なんだと。
「五月七日の出来事覚えてる?」
「お前が変な男に付きまとわれて、俺が彼氏役した日だろ。いきなりキスしやがって!」
「あれがファーストキスだぞ。初彼氏より先にアオとやっちゃった」
「……そうじゃないかと思ってたんだ。里志には言うな……」
スズが抱擁する腕に力が加わる。甘えているようにも見える。
当たっているはずの胸部の膨らみは下着のせいもあってか、ほとんど感じられない。ただ、その身から発せられる香りは、女の子らしい男心をくすぐる匂いだ。
「よし! これであたしの初恋は終わった! ありがと、アオ!」
スッと離れて、敬礼っぽく右手を額に当てて笑顔を浮かべるスズ。
ようやく、コイツがいったいなにがしたかったのか理解することができた。
スズは、里志と付き合う。まだ、デートらしいデートもしていないはずだ。だから、その前に自分の心の中で燻っている俺への微かな気持ちと決別しに来たのだ。
今日は荒木鈴にとって新たな出発の日であり、初恋との別れの日でもある。
「もう俺はお前を男友達扱いはしない。荒木鈴は女の子だ。里志の彼女で、俺たちが守るべき存在だ」
「今までどおりでいいってば!」
「お前さ、その着崩しを直したらどうだ? 里志もそれ、気にしてたぞ」
「うん。もうこれもやめる。スカートも長くするし、ブラウスもボタン留める」
スズはその場でボタンを留め直して、リボンを巻き直している。
衣服の着崩しには厳しい学校だ。コイツが既に風紀委員や先輩方に目を付けられているのは有名な話である。誰も口出ししないのは、青山姉妹と仲良しだからだ。スズは意図せず、虎の威を借りていたことになる。
「あっ! スズに重要なことを教えておかなければ!」
「わっ! いきなりなに!?」
「里志のチンチンは俺ほどではないが、ボリューム感があるぞ。小柄なお前ではキツイかもしれんが、精々頑張ってくれ!」
「アオはバカだ! 変態! 色魔! デカチン! バーカ、バーカ!」
中指を突き立てながらスズは中庭から去って行った。
生暖かい一陣の風が中庭に吹き込んだ。まるでその場の澱んだ空気を刷新するかのようだ。青峰里志との長年の確執、荒木鈴が長く秘めた初恋の思いは終焉を迎えた。たぶん、物語風に言えば青春の一ページがめくられたのだろうとひとり合点する。
(……そして、なぜ勃っている!)
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