姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛

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【真幕・第3章】あねせいくりっどっ 中編!

1.捕縛作戦の要はパンモロ少女ですよっ!

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 七月八日、放課後。
双子の妹と買い物に行くと言う里志を見送って、隣りの一年C組に足を運ぶ。
授業を終えた荒木鈴スズが雑に教科書やノートをバッグに放り込んでいる。

「スズ、ちょっといいか?」

 人もまばらな教室内に入って、スズの背後から声を掛けた。

「ん? アオ? どうしたの?」
「ちょっと頼みがあってな。こっち来てくれ」

 教室の出口を指差して歩き始めると、スズもそれに続く。
階段を降りて、下駄箱で靴に履き替え、外の人気ひとけが少なそうな場所へ向かう。

「なんだよ? こんなとこに連れて来て。愛の告白か!?」

 校舎から少し離れ、敷地の隅にある焼却炉までたどり着いた。

「誰がボクっ娘に告白するんだよ……」
「じゃあ、なに!?」

 スズは教室を出る前から落ち着かない様子だ。
コイツはいつもこんな感じなのだ。これから部活が控えているため、あまり余裕がない。
それに加えて昔からせっかちである。どう考えても俺とは相性が悪そうだ。

「変質者が出たって話、聞いてるよな?」
「知らない生徒いないっしょ? その変質者の正体がアオなの?」
「アホ! 違うに決まってんだろ……里志と捕まえようと思ってるんだ」

 俺の言葉を聞いたスズは、しばらく地面に視線を落としたあと首を横に振った。

「なに言ってんの? 警察でも捕まえられないのに無理だよ」
「加奈子さんが被害に遭ってるんだ。見過ごすわけにはいかなくなった」
「加奈子ちゃん怖かっただろうね。許せないな!」

 スズも小さい頃から加奈子さんと親しい。
直接交流があるわけではないが、慕っている花穂姉ちゃんと常にいっしょにいるため、自然に親しくなったようだ。

「加奈子さんの股ぐらを鷲掴みにするなんて……股触揉蔵め、許せん!」
「アオって加奈子ちゃん大好きだよなっ!」
「え? そう見えるか?」

 そういえば、ここ最近の俺の出生の秘密やら加奈子さんとの血縁の問題はスズと関わりがなかった。蚊帳の外に置いたわけではないが、里志やスズには特になにも報告していないのだ。だから、スズの言う大好きは恋愛的な好きとは少し違う。

「あたしも加奈子ちゃん大好きだけどね! いいよね、可憐というか純粋というか」
「そりゃお前に可憐さ皆無だし、純粋より漆黒の紗月信奉者空手馬鹿ボクっ娘だからな……」
「アンタ、変質者の前に成敗されたいの!?」

 パヒュンッっと目の前をハイキックの蹴り足が一瞬で通り過ぎる。
当たると本当に痛そうな蹴りだが、そんなもの気にならない光景を目撃してしまった。

「ぷっ! お前、今日はキャラもののボクサーパンツか!」
「いいじゃないかっ! ゴリザベスはスタンプでも人気だろ! ってか見んな!!」

 白地のローライズボクサーにプリントされてあるのは、数年前からちょっとした流行のゴリザベスというキャラだ。ゴリラがお姫様のような格好をして、お姫様らしくない様子を描いている。チラリと見えたスズのパンツにもゴリザベスが寝転んでお菓子を食べているプリントが付いていた。

「悪いな、時間を取らせて。あとはスズの部活が終わってからにしようか」
「え? まあ、いいんだけど……二時間ぐらい待つの?」
「俺もに行くから大丈夫だ」
「アオが部活やってるって初耳なんだけど?」
「仮入部、幽霊部員、出入り自由みたいなもんだ。気にするな」

 学内で暇を潰せる場所はいくつかある。その一つが図書館だ。
しかし、図書館は会話するわけでもなく、ひたすら本を読むか勉強に励むだけでつまらない。そこでもう一つの暇潰しポイント、茶道部の部室に行くのだ。そこにいる部員のひとりはずっと前からの知り合いで、今回のような変質者事件にも良い助言をくれる期待感がある。

「それじゃあ、部活終わったらメッセージ入れるよ」
「わかった。頼むよ」

 スズはそのまま格技場へ、俺は再び上履きに履き替えて別棟へと向かった。








◆◆◆





「いーやーだっ!!」

 開口一番これである。
時計の針が午後六時を指す頃、格技場から制服姿のスズが姿を現した。
部活が終わったばかりなのか、首にタオルを巻いて額の汗を拭っている。

「やっぱダメか……」

 話しの続き、つまり変質者捕獲作戦についてスズにあることを頼んだのだ。

「アオか里志が女装すりゃいいじゃん!」
「いや……女装はなしの方向で……」

 股触揉蔵を捕らえるには、まず遭遇する必要がある。
どこにいるのか、いつ出るのかわからないような相手に遭遇する手段はただ一つ。
誰かがオトリになって出くわすシチュエーションを作らねばならない。

 オトリ役は普通の女子生徒には少し荷が重い。
変質者に遭遇しても悲鳴をあげず、立ち向かう勇気がある者が適任だ。
できることなら被害に遭う寸前で身をかわすか、反撃また捕縛可能な人物……
それはもう、荒木鈴より適任者が見当たらない。

「その作戦、里志が言い出したって? オトリ役も里志がアタシにしてほしいって言ってんの?」
「頼める女子が他にいないだろ。それに、格闘技経験者だからな。里志はお前を信頼してるんだ」

 スズは幼い頃から里志が好きで、そこが突っつきやすい弱点でもある。

「うーん。部活に支障が出ない範囲で、条件を飲んでくれるなら……」
「帰り道だからな、部活には支障はない。条件はなんだ?」

 照れているのか、暑いだけなのか、スズは真っ赤な顔をしている。
なにかを言いたげだが、口に出そうとしては言葉を引っ込める。

「さ、里志と……」
「だから、里志がなんなんだ?」
「里志とデートだ! これが条件! それ以外は認めないっ!」

 湯気立ちそうな顔を逸らしてスズが言う。

「なんだ、そんな条件か……それぐらいならオッケーだ」
「それぐらいって、里志がいいって言うかわかんないよ?」
「里志がお前と遊びに行くだけだろ? たったそれだけの条件でいいのか?」

 長年想い続けてきたスズにとっては、里志とのデートは一大イベントなのだろう。
俺にとって朝峰里志が隣りにいるのはガキの頃から日常なので、特別な感じに思えない。

「……いいんだ。里志とデートして……コクる!」
「おぉっ! いよいよフラれるのか!?」
「えっ! 里志って今好きな子いんの? アオ、なんか聞いてんの!?」
「冗談だ。里志に好きな子がいるとか全然知らん!」
「バカだなぁ、アオは……里志が好きな女は師匠に決まってんじゃん」

 確かに里志はずっと紗月姉が好きだと公言している。
ただ、それは本当なのだろうか。俺はずっと疑問に思い続けていた。

「いいかスズ! 里志の紗月姉への思いは憧れだ! 恋に似てはいるがそうじゃない。例えばだな、俺も三年の四条先輩や御子柴先輩に憧れている! 美しくかっこいい、頭もいいし、性格もいいんだ」
「アオから見てどう? 脈アリだと思う?」

 ないと言えばスズはこの頼みを断るだろう。
この作戦の肝を握るのは、どうやら俺やスズではなく冗談交じりに作戦を発案した里志らしい。

「それはわからん。だけど、俺はお前と里志にくっついてほしい」
「……わかった。協力するよ。そっちのお膳立てはアオに任せる」

 午後六時半過ぎ。まだ外は明るい。
分かれ道に差し掛かったところでスズに念を押すことにした。

「そうだ! スズの条件で忘れてたことがあるぞ!」
「ん? なになに?」
「里志とのデートはエッチありとエッチなし、どっちがいい?」

 みるみるうちにスズの顔は赤らんで、少し怒気をはらんできた。
今、頭の中でエロエロな妄想が爆発したのだろう。額に汗を出して、目が潤んでいる。

「アオはアホだ! 変態! バーカ!!」

 捨てゼリフを吐いて、スズは曲がり角へ走り去った。
オトリ役はこれで問題ない。あとは発案者の里志を作戦に引き入れるだけだ。
まさか、自分が口に出した捕縛を本当に実行するとは思ってもいないだろう……
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