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第二章【動いていない世界】
第二幕『亜空間に落っこちる』
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別れ際に村さんが言いたかったことは大体察しがつく。
「そろそろだな。二度と来るなとは言わんが、あんまり来るなよ。お前らタイム……」
お前らタイムリーパーは監視下にあるってことを忘れるんじゃないとか、やたらと過去を垣間見るタイムリープするんじゃないって言いたかったんだろう。
前回も同じようなことを言われている。
まあ、中年オヤジのお説教みたいなもんだ。
動いていない世界の説明をするためには、そこへ初めて訪れたときの話からした方がよさそうだ。
その前に、この『動いていない世界』という名称についてだけど、長ったらしいので『亜空間』『時空間』という言葉に置き換えたい。ちょっと中二病っぽくなるけどね……。
***
――――――――約十数年前、某日――――――――
「ああ、眠いな……」
朝9時に家を出て、9時20分発のバスに乗る予定だ。
バス停まで徒歩で10分ちょっと、家を出て、デパートや商店が並ぶアーケード街を抜けた先にある。
前の晩、寝不足だったせいかバス停に着いてベンチに座った途端、眠気が襲来…。
腕時計を見ると9時12分、居眠りすればバスに乗り遅れる可能性がある。寝てしまわないように気を付けようと思っていた。
しかし……、眠すぎて一瞬カクンッと意識が落ちそうになる。
「――やばいっ!」
カッと目を見開いて、左右にブンブン頭を振った後で異常に気付いた。
(――なにこれ? 目の前が赤い。目がおかしい!)
普段見ている景色を、薄い赤色のフィルム越しに見ているような感じだ。
もっとおかしいのは道路だ。車が1台も通らない。バス停を渡った先に銀行が見えるんだけど、さっきまでいた人が誰もいない。音が何もしない。
「なんなんだこれは? 夢なのか?」
気持ち悪くなって、道路のセンターラインまで歩いた。
南北に走ってる広い道路だったが、どちらを向いても車が来る気配が全くない。
途端にパニック状態になった。とにかく家に帰るしかない。
そう思いながら急ぎ足でアーケード街を引き返すことにした。
アーケード街に入ると、さっきまでと様子が違う。
元々、人通りが少ない場所だけど、どこを見渡しても誰もいない。
並んでる商店やデパートには明かりがついてるけど誰もいない。
「なんだよこれ。どうなってるんだよ――」
しばらく歩いて、アーケード街中心のロータリーまで辿りついた。
相変わらず目の前は赤っぽいし、人の気配も物音も全くない。
「とにかく、家に帰ろう。疲れてるんだろうな……」
ロータリーからアーケード街の出口へ歩いていくと、作業服着た人がウロウロしているのに気付いた。
ここではあえて作業服と書くが、あの人たちが着ているのがこっちで言う作業服に似ているからだ。
実際は何とも形容しがたい格好なのだ。
宇宙服にも似ている気がする。色も何色なのかよく解らない。
「こらぁっ! こっち来て歩き回ったら駄目じゃないか!」
中年のおじさん、年齢にして50歳前後だろうか、アーケード街の出口からこちらへ小走りでやって来た。
「え? なんですか?誰ですか?」
もうとにかく頭の中がパニック状態で咄嗟に出た言葉だった。
「いいからいいから! 今から元へ戻すから! 早くこっち来て!」
そのおじさん、こっちが言うことガン無視。
電話の子機みたいなものを取り出してどこかに連絡している。
「おじさんは誰なの? 何がどうなってるのか説明してくれないか?」
私も少々イラついていたせいか語気を強めた。
「ここはなぁ、お前らが来ちゃいけない場所だ。禁足地ってあるの知らんのか?」
何言ってるんだ、このおっさん!
ここは私が住んでる普通の町で、禁足地ではない!
「いや、ここは私が住んでる町でキンソクチ? なんかじゃないです!」
言い返した途端におじさんは呆れ顔と困惑顔をごちゃ混ぜにしたような表情をした。
「いいか、よく聞け。ここはお前のいた世界とは違う。見りゃ解んだろ! 動いていない世界だって。この世界の色彩が正常に見えるか? ええ? お前らアウターからは正常な色で見えないようになってるんだよ」
捲し立てるように早口で説明されたが、何かとても重要なことを言っているようだ。
「アウターって言いましたよね? 私、外部の者ってことですか……?」
「何ボケたこと言ってるんだよ。お前、こっちに迷い込んでるんだからアウターじゃないか」
この時、少し頭を整理して冷静になれた。ここは元々住んでいる世界と同じに見えるだけで、全く別の世界だということ。そして時間の流れもない、人も住んでいない、通常なら入ってはいけない場所だということ。
「私がアウターなら、おじさんはインナーなの?」
服のアウターとインナーにかけて問いかけてみた。
「説明する時間がないから省くけどなあ、インナーじゃない。わしらは管理者、キーパーと呼ばれることがある。お前らの世界でもいるだろ。守衛って呼ばれてる人が、あんな感じだろうな」
「そろそろ戻ってもらうぞ。移動した分、時間がかかちまったな」
そう言うとおじさんは再び電話の子機のような端末を取り出して誰かと通話し始めた。
通話が終わると端末から伸びたアンテナをビュンとこっちへ向けて、
「いいか、ここには2度と来るな。来てしまっても動くんじゃない。動けば動いた分だけ戻すのがややこしくなる。わしの監督責任になるんだから勘弁してくれよ」
おじさんに「わかった」と返事をするつもりだったが、気付くと何故かバス停のベンチに座っていた。
おじさんは目の前にいる。私はまだ、変な世界からは抜け出せていないようだ。
「――それじゃあな……」
おじさんの声が聞こえた。
顔に何かライトのようなものが当てられている……。
そうだ、最後に訊いておかないといけない。
「おじさん、名前は?」
「わしは管理局の△△地区担当の村山だ。他の者からは村さん……」
そこでプツリと意識が途切れた。
目を覚ました時、道路に車が走っていて、人の往来があって騒がしい元の世界に戻って来ていた。
「――あれっ?」
と思いつつ時計見ると9時13分。1分しか経ってない。
30分ぐらいウロウロしていたはずなんだけどね。
***
時空間に落っこちて、キーパーと呼ばれている村さんと初めて会ったときのお話。
10年後、私はタイムリーパーとして再び村さんと出会う。そこでさらに深く時空間の話やキーパーの役割を知ることになる。
それは、この世界に隠された秘密と言っても過言ではないだろう。
――そして、私は遡る。
「そろそろだな。二度と来るなとは言わんが、あんまり来るなよ。お前らタイム……」
お前らタイムリーパーは監視下にあるってことを忘れるんじゃないとか、やたらと過去を垣間見るタイムリープするんじゃないって言いたかったんだろう。
前回も同じようなことを言われている。
まあ、中年オヤジのお説教みたいなもんだ。
動いていない世界の説明をするためには、そこへ初めて訪れたときの話からした方がよさそうだ。
その前に、この『動いていない世界』という名称についてだけど、長ったらしいので『亜空間』『時空間』という言葉に置き換えたい。ちょっと中二病っぽくなるけどね……。
***
――――――――約十数年前、某日――――――――
「ああ、眠いな……」
朝9時に家を出て、9時20分発のバスに乗る予定だ。
バス停まで徒歩で10分ちょっと、家を出て、デパートや商店が並ぶアーケード街を抜けた先にある。
前の晩、寝不足だったせいかバス停に着いてベンチに座った途端、眠気が襲来…。
腕時計を見ると9時12分、居眠りすればバスに乗り遅れる可能性がある。寝てしまわないように気を付けようと思っていた。
しかし……、眠すぎて一瞬カクンッと意識が落ちそうになる。
「――やばいっ!」
カッと目を見開いて、左右にブンブン頭を振った後で異常に気付いた。
(――なにこれ? 目の前が赤い。目がおかしい!)
普段見ている景色を、薄い赤色のフィルム越しに見ているような感じだ。
もっとおかしいのは道路だ。車が1台も通らない。バス停を渡った先に銀行が見えるんだけど、さっきまでいた人が誰もいない。音が何もしない。
「なんなんだこれは? 夢なのか?」
気持ち悪くなって、道路のセンターラインまで歩いた。
南北に走ってる広い道路だったが、どちらを向いても車が来る気配が全くない。
途端にパニック状態になった。とにかく家に帰るしかない。
そう思いながら急ぎ足でアーケード街を引き返すことにした。
アーケード街に入ると、さっきまでと様子が違う。
元々、人通りが少ない場所だけど、どこを見渡しても誰もいない。
並んでる商店やデパートには明かりがついてるけど誰もいない。
「なんだよこれ。どうなってるんだよ――」
しばらく歩いて、アーケード街中心のロータリーまで辿りついた。
相変わらず目の前は赤っぽいし、人の気配も物音も全くない。
「とにかく、家に帰ろう。疲れてるんだろうな……」
ロータリーからアーケード街の出口へ歩いていくと、作業服着た人がウロウロしているのに気付いた。
ここではあえて作業服と書くが、あの人たちが着ているのがこっちで言う作業服に似ているからだ。
実際は何とも形容しがたい格好なのだ。
宇宙服にも似ている気がする。色も何色なのかよく解らない。
「こらぁっ! こっち来て歩き回ったら駄目じゃないか!」
中年のおじさん、年齢にして50歳前後だろうか、アーケード街の出口からこちらへ小走りでやって来た。
「え? なんですか?誰ですか?」
もうとにかく頭の中がパニック状態で咄嗟に出た言葉だった。
「いいからいいから! 今から元へ戻すから! 早くこっち来て!」
そのおじさん、こっちが言うことガン無視。
電話の子機みたいなものを取り出してどこかに連絡している。
「おじさんは誰なの? 何がどうなってるのか説明してくれないか?」
私も少々イラついていたせいか語気を強めた。
「ここはなぁ、お前らが来ちゃいけない場所だ。禁足地ってあるの知らんのか?」
何言ってるんだ、このおっさん!
ここは私が住んでる普通の町で、禁足地ではない!
「いや、ここは私が住んでる町でキンソクチ? なんかじゃないです!」
言い返した途端におじさんは呆れ顔と困惑顔をごちゃ混ぜにしたような表情をした。
「いいか、よく聞け。ここはお前のいた世界とは違う。見りゃ解んだろ! 動いていない世界だって。この世界の色彩が正常に見えるか? ええ? お前らアウターからは正常な色で見えないようになってるんだよ」
捲し立てるように早口で説明されたが、何かとても重要なことを言っているようだ。
「アウターって言いましたよね? 私、外部の者ってことですか……?」
「何ボケたこと言ってるんだよ。お前、こっちに迷い込んでるんだからアウターじゃないか」
この時、少し頭を整理して冷静になれた。ここは元々住んでいる世界と同じに見えるだけで、全く別の世界だということ。そして時間の流れもない、人も住んでいない、通常なら入ってはいけない場所だということ。
「私がアウターなら、おじさんはインナーなの?」
服のアウターとインナーにかけて問いかけてみた。
「説明する時間がないから省くけどなあ、インナーじゃない。わしらは管理者、キーパーと呼ばれることがある。お前らの世界でもいるだろ。守衛って呼ばれてる人が、あんな感じだろうな」
「そろそろ戻ってもらうぞ。移動した分、時間がかかちまったな」
そう言うとおじさんは再び電話の子機のような端末を取り出して誰かと通話し始めた。
通話が終わると端末から伸びたアンテナをビュンとこっちへ向けて、
「いいか、ここには2度と来るな。来てしまっても動くんじゃない。動けば動いた分だけ戻すのがややこしくなる。わしの監督責任になるんだから勘弁してくれよ」
おじさんに「わかった」と返事をするつもりだったが、気付くと何故かバス停のベンチに座っていた。
おじさんは目の前にいる。私はまだ、変な世界からは抜け出せていないようだ。
「――それじゃあな……」
おじさんの声が聞こえた。
顔に何かライトのようなものが当てられている……。
そうだ、最後に訊いておかないといけない。
「おじさん、名前は?」
「わしは管理局の△△地区担当の村山だ。他の者からは村さん……」
そこでプツリと意識が途切れた。
目を覚ました時、道路に車が走っていて、人の往来があって騒がしい元の世界に戻って来ていた。
「――あれっ?」
と思いつつ時計見ると9時13分。1分しか経ってない。
30分ぐらいウロウロしていたはずなんだけどね。
***
時空間に落っこちて、キーパーと呼ばれている村さんと初めて会ったときのお話。
10年後、私はタイムリーパーとして再び村さんと出会う。そこでさらに深く時空間の話やキーパーの役割を知ることになる。
それは、この世界に隠された秘密と言っても過言ではないだろう。
――そして、私は遡る。
応援ありがとうございます!
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