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第一章【病むを得ず】

第五幕『リピート・タイムリープ』

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 『どの過去に戻るか?』の選択を迫られている私はふと考えた。
体の病気の原因を調べるのと、心の病気の原因を調べるのは勝手が違うんじゃないかと。

「過去に戻ったからって、表面上解るんだろうか?」

そんな当たり前の疑問が頭に浮かんでくる。


 では、過去に戻って解らないとしたら……。未来しかない。
基本、タイムリープは過去に戻る方法だ。未来へは行くことができないと決められている。禁則事項で行けないだけで方法がないわけではない。しかし、確定している過去と違い、未来は無数に分岐する。タイムリープした先が、別の未来になる可能性の方が高い。

(全然違う未来に行けても意味ないな)

 私はフゥーッとため息をつきつつも次の考えを巡らせた。


 ――しばらく思案して、驚愕の結論に至った。

 この精神や体を蝕む異変が現在の自分のせいではなかったとしたら?
つまり、私は数年後ないし数十年後からタイムリープした『私自身』に乗っ取られている!?

「……そんな。そんなはずない……よな……?」

 既に乗っ取られていて、未来からタイムリープしてきた記憶や経験を失っているとしたら……。

 考えるだけでも恐ろしいことだ。
それは、タイムリーパーの禁則事項を完全に犯していることになる。





 私は数名だが、自分と同じ自称タイムリーパーを知っている。
彼らに話をしてみた。やはり、可能性として考えられるのが、未来からのタイムリープということだ。

 既に私は未来の私に乗っ取られているかもしれない。それはそれでいい。事実なら覆すことができないからだ。ジタバタしても何もできない。今からできるのは未来を選択することだけだ。

「もし、未来の私がタイムリープを使って現代の私を乗っ取っていたら……」

 最悪のシナリオが頭をよぎる。近いか遠いか解らないが、将来タイムリープを使って過去に戻ってしまう。そして、過去の自分を乗っ取るという禁則を犯す。

(――そうなったらシャレにならないな。私は『アホ』なのか……?)

「タイムリープを成功して過去に戻っても、またタイムリープを使う未来に辿り着く、以降その繰り返しで抜けられなくなる」

 それを聞いた時、私は固く誓ったはずだ。
禁則を犯すタイムリープを使用しないと。


 何にせよ今の私が未来の自分自身によって乗っ取られているとしたら、タイムスパイラルを回避しなければいけない。タイムリープを使わない未来へ行かなくてはならないのだ。

「この時代に何があってもタイムリープして来ないようにしよう!」

 とにかく、今の自分に言い聞かせた。

 この先、死ぬほど過去へ戻りたくなるような出来事が起こるのかもしれない。
一度身に付けたタイムリープを捨て去ることはできない。

「タイムリープを忘れきればいいんじゃないだろうか?」

 そうだ、退行催眠がある。あれで記憶を呼び起こせるなら、忘れ去ることも可能ではないのか。
期待に胸を膨らませる私が向かう先はセラピールームだった。





「オススメはできません」

 セラピストにすっぱりこう切り返された。
勿論、タイムリープのことは黙っている。

「どうしても忘れたい記憶があって、トラウマになっている。何とかしてほしい」

 こうお願いしたのだ。


 忘れたいことを忘れるということ、それは忘れたいことに関連した記憶も一緒に失うリスクを孕んでいる。私は退行催眠を受けた。タイムリープと決別する為に。完全に忘れ去るよう願って。


 (――覚えている!――)

 催眠状態から覚醒した私はうっすらと冷や汗をかいていた。
タイムリープのことを覚えている。退行催眠前と変わりがなかった。
セラピストの前で口には出さなかったが、「失敗だ、失敗だった」と頭の中で叫んでいた。

 結局、私は「忘れられそうな気がします」などと曖昧な返答をしてセラピールームを後にした。





 数日後、学生時代からの友人が家に遊びに来た。
同窓会があるから来ないかと誘われた。この友人は玉成満たまなり みつると言う名前で、ミツと呼んでいる。そのミツがこう言った、

「須原って覚えてるだろ。あいつが結婚したんだけど、浮気がバレて1年で離婚したんだ」

「それとさ、県外から篠崎も来るぞ。中学の頃、仲良かったよな」

 私は異変に気が付いた。須原?篠崎?何を言ってるんだコイツは…。

「誰だそれは? 覚えてないけど……」

 ミツは「えっ?」と驚いた表情をしている。


 その後も何人かの名前をエピソードと共に列挙してもらったが、そのほとんどが記憶から消えていた。

私は咄嗟にこう吐き捨てた。

「――やられたっ!」

 退行催眠で失ったのは、タイムリープの方法ではなかった。
忘れかけていた同級生の名前や顔を記憶から消し去っていたのだ。ミツのように頻繁に付き合いがある人間は覚えている。どうも完全に忘却したのではないらしい。







 解離性健忘症、薬の副作用や強いストレスで起こる記憶障害だと診断された。

「また患いか、またなのか。やれやれ……」

こうなると再びタイムリープの出番だ。しかし、過去へ戻っても意味がない。
ちょっとばかり特殊な場所へ入って、かなり特殊な人間に事情を説明してアドバイスをもらうしかない。





 ――そして、私はあの場所へ侵入はいる……。
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