そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第一章【病むを得ず】

第三幕『タイムリープは禁則事項』

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 暴力というほどの大袈裟なものではなかったのかもしれない。
子どもを叩いたり、殴ったりする父親などゴマンといるだろう。

 しかし、それが病気の原因となっていれば話は別だ。
現に私は、六歳で小児てんかん、一〇歳で離人症を引き起こしている。

「あ! 忘れていた。もう一つあった」

 思い出した記憶がもう一つある。
退行催眠で父の折檻の頃に戻る途中のことだ。
祖父の車に乗って事故に遭うシーンがあった。
これも母に確認すると、幼い私を乗せた祖父が追突事故を起こした事実が発覚した。


(――ぷっ、ちょっと頭ぶつけ過ぎじゃないか……)

 私は呆れつつも、タイムリープを駆使して実際にその場面を見るのを楽しみにしていた。

楽しみに……と言うと、幼い頃の自分がぶん殴られる場面なので何とも言い難いが……。





 ここでタイムリープの説明を再びしておきたい。
まず、戻れるかどうかは運次第なのだ。戻りたい時期に絶対戻れるとは限らない。

 私は基礎だけ教わって、数年訓練を積んだ。
それでも、確率で言えば五割といったところだ。

「五割で好きな時間に戻れて、過去の自分を見物できる? それがマジならすごくね?」

 まあ、友人に軽ーく話してみるとこんな感じだ。
半分は馬鹿にしているのかもしれない。

「戻れても改変はできない。長くいることも無理。まして完全なタイムリープとなると自分自身を乗っ取るぐらいの執念が必要になる。精々、短編映画を観ているような感覚で終わるよ」

 友人との会話で、一度だけそう答えたことがある。





 そう、完全なタイムリープなどしてはいけないのだ。
何故いけないのか考えてほしい。

 例えば、二〇歳のアナタが一〇歳の自分がいる時代にタイムリープする。そして、一〇歳の自分を乗っ取ればタイムリープは完成する。ここで勘違いをしている連中が大勢いるから困ったものだ。

 一〇歳の自分を乗っ取るということは、ということ。

 つまり、自分がタイムリープしてきたこと、二〇歳までの経験や一〇歳以降のってことだ。

 ひょっとしたら、妙な違和感は残るかもしれない。





 「はい、残念ですけど、強くてニューゲームは不可能です」

 タイムリープの質問をされるとほぼ皆、記憶を持ったまま過去からやり直せると勘違いする。
だからその度に私は冗談交じりにそう答えているのだ。

 こんな質問をされたこともある。実に良い質問だと思う。

「それじゃあ、今の自分が未来からタイムリープしてきた可能性もありませんか?」

 「ない、とは言えないけど、ないと思う。確証はないし、実証したこともないけど何かタイムリープ前のカケラみたいものは残るんじゃないかな?」

 自信のない適当な受け答えだった。
いや、的確な質問で答え方に困った。





 タイムリープを身に付けた人々と言えば聞こえがいいかもしれないが、我々は監視下にあるのだ。

 いくつかのルールを順守しなければならない。おかしい話だが、そのルールの中に『他人にタイムリープができることを言ってはいけない』という項目がない。

 喋っても誰もまともに信じていないからだ。精々、某大型掲示板で仕入れたネタなのだろうと一笑に付される。実はそれがかえって我々タイムリーパーにとってありがたい。





 そう、私たちタイムリーパーは最初から禁則を犯している。

「は? タイムリープができるようになったこと自体が禁則事項に当たるの?」

 はじめの頃はそうやって驚いたものだ。
まさか、普段不可視な世界にルールが存在するなんて……。




 あの日に戻ってみなければいけない。
父が私をぶっていたあの瞬間を客観的に観ておかなければ確証を得ることはできない。

 小児てんかんと離人症の原因は父にあったのかどうか。
心の奥底で燻っている、よく解らない憎悪へ初めて向き合う決心をした。




 ――そして、私は遡る。
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