そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第一章【病むを得ず】

第二幕『退行催眠とタイムリープ』

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 床がぐにゃんと歪む、壁もへにょんと歪む。

私は真っ直ぐ歩けない。支えられながら寝床へ連れて行かれる。

時には意識を失う。

こんな病気になったのが6歳の頃だった。

『小児てんかん』、この病気が後々に離人症を引き起こす原因の一つとなった。





 物事の原因を探るとき根本まで突き詰めて探っているだろうか。
 
「原因の原因はなんだろう?」

離人症の原因は、小児てんかんだと判明している。
しかし、小児てんかんの原因が不明だった。




 私は母に訊ねたことがある。

「あの子どもの頃の病気って原因何だったんだろうね?」と。

母はストレスに弱かったとか、頭をよくぶつけたからと答えていた。

「……いや、頭ってそんなぶつけないって……」

小さな子供がゴンゴン頭をぶつけていたら大事じゃないか。

「そういえば小さい頃、お父さんに酷く叱られたときがあって、引きずりまわされたことがあるわね」

 母の言葉に私はハッとなった。
そんな記憶は私の脳内に全くない。完全にデリートされている。

 そういうやり取りが時々あるから困る。
母の言う幼い頃の私と、私自身が話す過去の話にちょっとした記憶違いがある。

 どちらが間違っているのかは解らない。
母は忘れっぽく、記憶力がよくないはずだから。




 ただ、気になったのは父にひどく叱られた記憶がないということだ。幼い時の話だから覚えていなくて当たり前かもしれないが、何か例えようのない違和感が残っていた。


 タイムリープで遡りたいところだが、記憶にない世界には遡れない。

そこで、短絡的に思いついたのが退行催眠だ。

これも都市伝説級の話になるのだが、前世療法という精神治療法がある。

今、抱えている悩みや問題を前世からヒントを得て解決しようというものだ。





 結果的に私はとあるセラピールームで退行催眠を受けた。

「今覚えていないことは催眠状態から覚めた後、忘れているかもしれません」

セラピストの先生からはそんな注意があった。

 もう一つ、「衝撃的な出来事を忘れている場合、思い出す可能性もあります」
そう付け加えてくれた。

 退行催眠とタイムリープは大きく違う。退行催眠中の私は、幼い頃の私自身に戻っている。
一方でタイムリープ時は、過去の自分と現在の自分が別々に存在する。





 半信半疑で退行催眠に入って何分経っただろうか。
幼い姿になった私は父親にズルズルと引きずられていた。
気付けばそんな場面だったのだ。
とにかく怖かった。激怒した父が襟首を持って私を引きずっているのだ。

 洗面所へ向かう廊下をズルズルズルズル引きずられていたと思うと……。

 ――バッシーンッッ!!

 襟首を掴まれたまま、側頭部に衝撃が走る。痛いと言うより、熱い。熱いのだ。
殴られている。私は殴られているのだ。母親も祖父母も見ていないところで。

チョップと張り手の間のような殴り方だった。
二撃目が来た。

 ――――バシーンッ!!――――

 今度は確かに痛みがあった。一撃目の余韻が残るままの二撃目だ。

 三撃目、打ち据えられた反動で壁に頭が激突。耳がキンキンしていた。
それと同時に目の前にいる男に憎悪が湧いた。





 私はセラピールームを後にした。大きな収穫があった。
母の言う『ひどく叱られた出来事』は、母も知らない父の折檻だったのだ。





 私の記憶の奥底に眠っていた小児てんかんの理由がそれかもしれない。
ここで確証を得なかったのは自分自身で遡ってないからだ。
簡単に言えば、に行って証拠を得ないといけない。




 そして、私は遡る。
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