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第四章【時空の漂流者】
第一幕『女はタイムリーパー』
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都会の片隅、高架下の路地に建つ古い雑居ビル、そのビルの二階で女は商いをしていた。商うものと言っても小売業ではない。客の運勢を視るのが仕事だ。
「客もとんと来なくなったし、そろそろ店仕舞いかねぇ……」
夕暮れ時、階下に降りて接触の悪い電飾看板を蹴飛ばすのが日課になっていた。
「あたしが生まれた頃は、まだ人間五十年が当たり前の寿命だった。それがどうだい……、今年で齢《よわい》七十を超えるんだ。まだ命が続く限り生きなきゃいけない、ウンザリするねぇ」
女は自身が辿ってきた人生を振り返り辟易していた。
「明日終わらせようかね。最後に一人でも客が来るといいんだけどねぇ……」
年金受給、賃料の安いテナント兼住居、衣食住に困っているわけではない。
――――ゴトンッ――ガタンッ――ガタタンッ――――
一日の始まりはこの不快な電車の足音から始まる。
「昔、家で飼っていた鶏の鳴き声もうるさかったけど、電車の音は何年経っても慣れないねぇ……」
目覚まし代わりに始発の音を聞き、女は目を覚ます。
朝食を済ませた後、商売をする部屋の清掃を毎日欠かさない。
「ここも今日で最後かい。そう思うと少しは名残惜しいってもんだね」
占い師と言っても、手相もタロットカードも出来やしない。
午前十時、階下に四角い電飾看板を放り出す。占い師としての営業開始なのだ。
「――さてさて、茶でもすすりながら待ちぼうけするかねぇ」
客なんて来ると期待していない。もう何年も同じ日々の繰り返し、老人の暇つぶしなのだ。
しかし、今日は特別な日だ。明日にはこの町から消えているのだから。
午前十二時、昼食を食べ終わった女は茶をすすりながら窓辺で階下を見ていた。
この町は学生の多い町でもあり、昼になると高架下の路地は学生で賑やかになる。
「電車は喧《やかま》しいことこの上ないけれど、子どもが賑やかしいのはいいことだねぇ」
「おや? あのボウヤ……」
路地を往来する学生を見ていた時だった。ジッと看板を見ている学生らしき男がいる。
「やれやれ……、最後の最後に子どもの客かい? 頼むからそのまま去っておくれ」
女の願いをよそに階段を上る足音が聞こえる。
「どんな占いをしてもらえるの?」
年齢は十六、七といったところだろうか。細見で髪は短く、双眸《りょうめ》は眼力が強い。顔は長く、額が出ていてホリが深い、耳と鼻も大きい。
「……面白い人相をしているねぇアンタ」
「龍顔って人相だよね? 一年前にさ、屋台《テキヤ》のバイトで極道の親分から言われたことがあるよ」
現代人の人相として決して珍しくはないが、龍願はことを起こせば大成する人間が持つ人相だ。
「どんな占いをするのか訊いたね? どんな占いもあたしはできない」
「――なるほど、机の上に占いグッズが何も置いてないわけだ」
「あたしはね、お客さんの過去から未来の姿が見えんの。どうも目が良過ぎてね」
そら、もう帰りな。こんな老婆の世迷言を信じる奴なんていないのさ。
「へぇー、そりゃすごいや!見てもらえるかな?」
どうせ内心は面白半分なんだろう。だけど、商売は商売、最後まできっちりやるさ。
「そうかい、それじゃあアンタの過去から視てやるよ」
一歳、二歳、三歳、四歳、五歳……。
六歳……。おや?変だね。六歳で顔がかなり変わっている。
……七歳、八歳、九歳……。
十歳……。おやおや、なんてボウヤだい。こんな客が最後に来るとはねぇ。
「アンタ、六歳と十歳ぐらいの頃に顔つきが変わってるね。何かあったのかい?」
あたしの最後の客。このボウヤは無意識に六歳から十歳を何度も繰り返している……。
普通はそのループからは抜け出せないはずだ。
しかし、こうして目の前に存在するということは、タイムスパイラルから無意識に脱出した?
数回六歳から十歳を繰り返した末に、これは脳の障害だろうかね。
それまで白かった顔の色が随分浅黒くなっている。そこでループが終わって十一歳を迎えているようだね。
「未来はどうかな? 老けていくから顔が変わるのは当然か」
未来は視てもアテにならないんだよ。ちょっとした選択で分岐してしまうからね。
「確定済みの過去のことは当てられるけどねぇ……、未来については何歳で顔つきが変わって、何が起きるかと一概に言えないねぇ」
「それじゃ、いつ死ぬか解るのかな?」
ほら、やっぱり来たよ。この質問は大体の客がするんだから困る。
「あたしにはアンタの死期が見えている。ある年齢を境に消えてるからね……。だけどね、死期を客に教えるのはこの業界の禁忌《タブー》なのさ」
このボウヤ……どの未来を選んでも、大して長生きはできないねぇ。
「実はさ、時空間に落ちたことがあるんだけど……。そこに落ちたとき、自分の未来を視て寿命を知ったんだ。だから言っても大丈夫」
あたしが普通のそこいらの老人ならそんな与太話は信じないよ。でも、このボウヤの言う時空間は音無しの世界のことだろうね。
「アンタの姿は五十六歳頃にこの世界から消え去る。これが今視えているアンタの未来の果てだよ」
その時、ボウヤは悲しそうな顔をするよりも安堵の表情を浮かべていた。
「音無しの世界に行けるってことは、別の時代を見ることができるってことだね?」
ひょっとしたらこの子は既にタイムトリップを身に付けているのかもしれない。
「……あの何もない世界から? 別の時代を見る? どうやって……?」
おやまあ、口を滑らせちまったかね。余計なことは言わない方がいいね。
「あの世界は不思議な人がいるんだよ。管理局ってのがあってね、あの世界に入ると怒ってくんの」
そんなことまで知っているとは……。このボウヤにはなにか特別な力でもあるのかもしれないね。
「……夢かな?……夢の中で自我があるよ。好きな場所へ行けるし、好きなことができる」
最後の客がこのボウヤか、神様はなかなか粋な奴なのかもしれないねぇ。
「ところでアンタは過去に戻りたいと思ったことはないのかい?」
「小さい頃は病弱でね、戻りたいとは思わないかな。それに、まだ若いからね!」
やっぱり、自分が六歳から十歳の四年間を何ループもしてたって自覚は無しかい。
「あれ? さっきから何書いてるの?」
「ちょっと黙ってな。手土産にいいものをやるからさ」
手順はこれでいいはずだ。このボウヤなら基礎を飛ばして訓練に入れるだろうよ。
「この手順で練習してみな。うまくいけば過去を垣間見れるかもしれないよ」
あたしゃ何やってるんだろうね。今日会ったばかりのボウヤにタイムトリップの方法を教えている。
「過去へ戻れても、自分の意識と同調しちゃいけないよ。同調すると夢の中から戻った過去が現実に逆転してしまうかもしれない。絶対やめときな」
一番の禁忌《タブー》はちゃんと教えたからね。あとはアンタの使い方次第さ。
「占い師さん、今日はどうもありがとう。また今度来るよ」
今度はないんだけどねぇ……。まぁいいか、最後の客がボウヤでよかったよ。
「ああ、達者でねぇ」
もう、会うことはないだろうけどね。元気に寿命を全うしな。
――さてと、店を畳むときが来たようだ。まずは看板を仕舞わないとね……。
「……まったくどこのガキの仕業だい? 人の看板にスプレーペンキでイタズラするのは!」
閉店の日だからいいんだけどねぇ、店名の一部をスプレーで消すのはなんの嫌がらせだい?
「客もとんと来なくなったし、そろそろ店仕舞いかねぇ……」
夕暮れ時、階下に降りて接触の悪い電飾看板を蹴飛ばすのが日課になっていた。
「あたしが生まれた頃は、まだ人間五十年が当たり前の寿命だった。それがどうだい……、今年で齢《よわい》七十を超えるんだ。まだ命が続く限り生きなきゃいけない、ウンザリするねぇ」
女は自身が辿ってきた人生を振り返り辟易していた。
「明日終わらせようかね。最後に一人でも客が来るといいんだけどねぇ……」
年金受給、賃料の安いテナント兼住居、衣食住に困っているわけではない。
――――ゴトンッ――ガタンッ――ガタタンッ――――
一日の始まりはこの不快な電車の足音から始まる。
「昔、家で飼っていた鶏の鳴き声もうるさかったけど、電車の音は何年経っても慣れないねぇ……」
目覚まし代わりに始発の音を聞き、女は目を覚ます。
朝食を済ませた後、商売をする部屋の清掃を毎日欠かさない。
「ここも今日で最後かい。そう思うと少しは名残惜しいってもんだね」
占い師と言っても、手相もタロットカードも出来やしない。
午前十時、階下に四角い電飾看板を放り出す。占い師としての営業開始なのだ。
「――さてさて、茶でもすすりながら待ちぼうけするかねぇ」
客なんて来ると期待していない。もう何年も同じ日々の繰り返し、老人の暇つぶしなのだ。
しかし、今日は特別な日だ。明日にはこの町から消えているのだから。
午前十二時、昼食を食べ終わった女は茶をすすりながら窓辺で階下を見ていた。
この町は学生の多い町でもあり、昼になると高架下の路地は学生で賑やかになる。
「電車は喧《やかま》しいことこの上ないけれど、子どもが賑やかしいのはいいことだねぇ」
「おや? あのボウヤ……」
路地を往来する学生を見ていた時だった。ジッと看板を見ている学生らしき男がいる。
「やれやれ……、最後の最後に子どもの客かい? 頼むからそのまま去っておくれ」
女の願いをよそに階段を上る足音が聞こえる。
「どんな占いをしてもらえるの?」
年齢は十六、七といったところだろうか。細見で髪は短く、双眸《りょうめ》は眼力が強い。顔は長く、額が出ていてホリが深い、耳と鼻も大きい。
「……面白い人相をしているねぇアンタ」
「龍顔って人相だよね? 一年前にさ、屋台《テキヤ》のバイトで極道の親分から言われたことがあるよ」
現代人の人相として決して珍しくはないが、龍願はことを起こせば大成する人間が持つ人相だ。
「どんな占いをするのか訊いたね? どんな占いもあたしはできない」
「――なるほど、机の上に占いグッズが何も置いてないわけだ」
「あたしはね、お客さんの過去から未来の姿が見えんの。どうも目が良過ぎてね」
そら、もう帰りな。こんな老婆の世迷言を信じる奴なんていないのさ。
「へぇー、そりゃすごいや!見てもらえるかな?」
どうせ内心は面白半分なんだろう。だけど、商売は商売、最後まできっちりやるさ。
「そうかい、それじゃあアンタの過去から視てやるよ」
一歳、二歳、三歳、四歳、五歳……。
六歳……。おや?変だね。六歳で顔がかなり変わっている。
……七歳、八歳、九歳……。
十歳……。おやおや、なんてボウヤだい。こんな客が最後に来るとはねぇ。
「アンタ、六歳と十歳ぐらいの頃に顔つきが変わってるね。何かあったのかい?」
あたしの最後の客。このボウヤは無意識に六歳から十歳を何度も繰り返している……。
普通はそのループからは抜け出せないはずだ。
しかし、こうして目の前に存在するということは、タイムスパイラルから無意識に脱出した?
数回六歳から十歳を繰り返した末に、これは脳の障害だろうかね。
それまで白かった顔の色が随分浅黒くなっている。そこでループが終わって十一歳を迎えているようだね。
「未来はどうかな? 老けていくから顔が変わるのは当然か」
未来は視てもアテにならないんだよ。ちょっとした選択で分岐してしまうからね。
「確定済みの過去のことは当てられるけどねぇ……、未来については何歳で顔つきが変わって、何が起きるかと一概に言えないねぇ」
「それじゃ、いつ死ぬか解るのかな?」
ほら、やっぱり来たよ。この質問は大体の客がするんだから困る。
「あたしにはアンタの死期が見えている。ある年齢を境に消えてるからね……。だけどね、死期を客に教えるのはこの業界の禁忌《タブー》なのさ」
このボウヤ……どの未来を選んでも、大して長生きはできないねぇ。
「実はさ、時空間に落ちたことがあるんだけど……。そこに落ちたとき、自分の未来を視て寿命を知ったんだ。だから言っても大丈夫」
あたしが普通のそこいらの老人ならそんな与太話は信じないよ。でも、このボウヤの言う時空間は音無しの世界のことだろうね。
「アンタの姿は五十六歳頃にこの世界から消え去る。これが今視えているアンタの未来の果てだよ」
その時、ボウヤは悲しそうな顔をするよりも安堵の表情を浮かべていた。
「音無しの世界に行けるってことは、別の時代を見ることができるってことだね?」
ひょっとしたらこの子は既にタイムトリップを身に付けているのかもしれない。
「……あの何もない世界から? 別の時代を見る? どうやって……?」
おやまあ、口を滑らせちまったかね。余計なことは言わない方がいいね。
「あの世界は不思議な人がいるんだよ。管理局ってのがあってね、あの世界に入ると怒ってくんの」
そんなことまで知っているとは……。このボウヤにはなにか特別な力でもあるのかもしれないね。
「……夢かな?……夢の中で自我があるよ。好きな場所へ行けるし、好きなことができる」
最後の客がこのボウヤか、神様はなかなか粋な奴なのかもしれないねぇ。
「ところでアンタは過去に戻りたいと思ったことはないのかい?」
「小さい頃は病弱でね、戻りたいとは思わないかな。それに、まだ若いからね!」
やっぱり、自分が六歳から十歳の四年間を何ループもしてたって自覚は無しかい。
「あれ? さっきから何書いてるの?」
「ちょっと黙ってな。手土産にいいものをやるからさ」
手順はこれでいいはずだ。このボウヤなら基礎を飛ばして訓練に入れるだろうよ。
「この手順で練習してみな。うまくいけば過去を垣間見れるかもしれないよ」
あたしゃ何やってるんだろうね。今日会ったばかりのボウヤにタイムトリップの方法を教えている。
「過去へ戻れても、自分の意識と同調しちゃいけないよ。同調すると夢の中から戻った過去が現実に逆転してしまうかもしれない。絶対やめときな」
一番の禁忌《タブー》はちゃんと教えたからね。あとはアンタの使い方次第さ。
「占い師さん、今日はどうもありがとう。また今度来るよ」
今度はないんだけどねぇ……。まぁいいか、最後の客がボウヤでよかったよ。
「ああ、達者でねぇ」
もう、会うことはないだろうけどね。元気に寿命を全うしな。
――さてと、店を畳むときが来たようだ。まずは看板を仕舞わないとね……。
「……まったくどこのガキの仕業だい? 人の看板にスプレーペンキでイタズラするのは!」
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