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第三章【管理局の仕事】

第四幕『秘密のタイムリープ』

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 「……今、なんと言いました? ……私が管理者……?」

「衝撃銃《ショックガン》のエネルギーは特殊なんだよねぇ。君が理解し易いように説明するとね、あのときタイムリープを阻止するために君と亜空間を縫い付けたんだぁ」

 ――縫い付け…………はい?? 縫い付ける?

 

 高速飛行中の私は思わずその場に止まってしまった。

「――よく意味が解りません。私がこの亜空間と縫い付けられてると?」

サリーさんもピタリと止まってこちらを振り返った。

「あのときはああするしかなかったんだぁ……。ごめんねぇ……」

本当に申し訳なさそうな表情をしてうつむいている。不本意だったのだろう。

「撃ったのは村山さんなのに、あなたがそんなに謝らなくてもいいのでは?」

そもそも、この人が撃ったわけではないじゃないか。




 「村さんから連絡を受けて、衝撃銃《ショックガン》の使用許可を出したんだよぉ……」

 前言撤回、やっぱりこの人が撃ったのと変わりないな。

「――それで、結論から聞きます。管理者にならないようにする方法はありますか?」

「あるよん、亜空間と君の背中の縫い目を取り外しちゃえばいいんだよー」

「どうせ、簡単には取り外せないとかいうオチでしょ?」

「ありゃまぁ、大正解ぃ。君、察しがいいねぇ!」

 ――笑いごとじゃありませんってば。





「……で、どうすればいいんですか?」

「そうだなぁ、まずタイムリープを使わないでねぇ。時間の壁に近づくのもしばらくダーメ!」

 やれやれ、なんだか最近禁則禁則ばっかりだなぁ……。

「縫い目は時間の壁に近付かず、亜空間から離れ過ぎなければ自然に解《ほど》けるんだぁ」

 おお、なんか今すごくややこしいこと言ったぞ。

「それってしばらく亜空間に来なさいってことですよね?」

「ほんとごめんねぇ……。たぶん1か月か2ヶ月で解《ほど》けると思うよー」

あと1か月以上、毎日のようにここへ来ないといけないのか……。




 「今、これはタイムリープ未遂の罰ですよね? それじゃあ次からはどうなるんです? 亜空間から離れ過ぎないようにするには毎晩ここへ来ないといけないし、だからと言って管理者でもない私がここにいてもいいんですか?」

 普通なら滞在してはいけない場所なのだ。それなのに、亜空間から離れ過ぎないようにする衝撃銃《ショックガン》は矛盾している。



「一旦、タワーへ帰ろうか?」

「……え?……」

「やっぱり、君には説明しておかないとねぇ。来て!」

 そう言うと猛スピードで来た道を引き返して行った。

「――早っ!ちょっと待ってください!」






 タワーに戻るまでは1分もかからなかった。サリーさんがフルスピードだったからだ。

「うんしょっとぉ!あー、喉渇いたなー。君もなんか飲む?」

 グラスにアイスコーヒーを注ぎながら、片手で上着を脱いでいる。

「いえ、飲み物はいいですよ」

「それじゃあ、説明のはじまりはじまりー!」

 いや、ほんとに早く説明してくださいってば。







 「―――サリーさん!――――」

 説明すると言ってから5分は経過しただろうか、着ていたパーカーや作業ズボンを脱ぎ散らかして先程からアイスコーヒーをグビグビ飲んでいる。

「ここにはねぇ、管理者以外は滞在を認められないの。だから、ここに入るってことは除外すべき侵入者か、わたし達管理者のどちらか」

「あなたが言っていることは矛盾している……。それなら今の私も侵入者じゃないんですか?」




「君、今どんな服装してるのぉ? それ、あたしの管理者の服だよねぇ?」

「これを着ていると侵入者ではなく、管理者として見られるってことですか……?」

 この不細工な太陽のワッペンが管理者の証とでも言うのだろうか。




 その時だった。私の方へサリーさんがグッと近づいて囁《ささや》いた。吐息がかかる距離だ。

「――――秘密……知りたいのぉ?」

「それは……、サリーさんの秘密ですか? それともタイムリープの秘密ですか?」

 インナーウェア姿で迫り来るサリーさんの胸元辺りを指差した。

「君ってむっつり助兵衛さんだよねぇ……」




 「こっちへ来てくれるかなぁ?」

 サリーさんに案内されたのはタワー内部、二階の仮眠室だった。六畳ほどの部屋に仮眠用のシングルベッドが一つだけ設置してある。

「はーい、たった今からプライベートターイムッ!スウィートターイムッ!」

ピッピッピッと音がすると部屋の明かりが落ちた。

「……早く入って来てよぉ……」

 暗闇に目を凝らして見ると、ベッドで布団に包まったサリーさんがいる。

 ――この展開、マジですか……!







 「――それでは、失礼します!――」

一応、全部脱いだけどこれでよかったのかな?

「はにゃ? ええっ!? なんで全裸ぁー。君面白いねぇー。あははっ!」

「えー!これなんて展開なんですか……!?」

「カムフラージュしたんだよぉ!わたし達も監視されてるんだから……こうやってベッドで仮眠取る時は監視から外れるからねぇ」

「仮眠取ってるって思われてない気がしますよ? 私が一緒にいるんですから……」

「それなら大丈夫かなぁ。部屋の明かり消すと、10分だけ監視システムも連動して止まるようになってるからねぇ」

 つまり、漏洩してはいけない秘密を聞き出すのはこの数分が勝負か。







 「……で、どっちの秘密にするのかなぁ? 一つ目、あたしのすっごい秘密ー。二つ目、亜空間と管理者の秘密ー。」

 希望は一つ目なんだけどな、如何せん時間が少ない。
不本意ながら……って違うだろ……!

「冗談はそれぐらいにして、亜空間と管理者のことを聞かせてください!」

 布団に包まったままサリーさんの方を向く。

「そんな丸出しで真剣な顔されても……説得力ないよねぇ……あははっ!」

 ――と、とりあえず……下着は穿いておくか……。








 「あたし達管理者はね、元タイムリーパーなの。正しくはタイムリーパーのなれの果てかなぁ」

「タイムリーパーのなれの果て? それってアーカイブ・ホリックってことですか?」

アーカイブ・ホリック、過去の記憶に囚われ何度もタイムリープを繰り返す人のことだ。

「うん、あたしも村さんも以前はアーカイブ・ホリックだったよぉ。過去へ戻って、自分を乗っ取ってまたタイムリープを覚えるの。そんでまた過去へ戻る、繰り返しだね……」




 「でも、こうしてここにいるってことはタイムスパイラルを抜けたってことですよね?」

そうだ、アーカイブ・ホリックはタイムスパイラルを抜けられない人のことを言うはず。




 「タイムスパイラルを抜ける方法が一つだけあるんだぁ……」

サリーさんは今まで見せたことがない悲しい表情をしている。









 「……それはね、自殺することなんだよ……」
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