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50-1終わりよければすべてよし?
しおりを挟むシエルは重い気分で屋敷に帰って来ると大変なことが起きていた。
弟のランドールが高熱を出して命の危機もあるかも知れないと母から言われてシエルは驚く。
どうやらランドールは何かの毒の中毒症状ではないかと診断された。
医者は色々な薬草を試してみるがどれも効果がなく、母は酷く狼狽えて父も知らせを聞いてすぐに帰って来たが…
ふたりともランドールそばで付きっ切りで看病する。
何しろやっと授かった一人息子。絶対に死なせるわけにはいかないのだ。
”ランドールしっかりして、一体何の毒なのかさえわかれば何か手立てもあるかもしれないのに…”
シエルは何か手掛かりはないかとランドールの部屋を探す。そこで驚くものを見つける。
それはオーランド国の皇帝を毒殺したカロライナジャスミンの花だった。
どうしてシエルが知っているかと言うとあの時毒がカロライナジャスミンだと聞いて調べたのだ。
この花はジャスミンと間違われて誤飲されることもあると本に書かれていた。
もしランドールがジャスミンと間違ってこれをお茶にして飲んでいたら…
シエルはいても立ってもいられない。弟の苦しむ姿に胸が締め付けられる。
シエルは知らない間に笛を吹いていた。
ボルク助けてランドールが大変なの。あなたなら何とか出来るかも知れないわよね?
彼はいつだって私を助けてくれたんだもの…
そこに騒ぎを聞きつけたボルクがやって来た。
「ボルク来てくれたの?」
シエルはまさか彼が来てくれるとは思っていなかった。でも、彼を見ただけで心が少し落ち着いた。
「シエル様が呼ばれたではありませんか」
「あっ、そう言えば笛を…来てくれるなんて思っていなかったわ」
「あなたが呼べばどんなところにでも飛んでいきます。そう言ったはずです」
ボルクは当たり前だと言うように指は親指と人差し指で擦り合わせている。
ボルクはすぐにランドールの事を聞いて様子を見る。
「これは何かの毒にあたったようですね」かれはすぐにランドールの様子を見てきっと中毒症状だと判断する。
「ボルク、ランドールの部屋にカロライナジャスミンがあったの。もしかしてそれを…」
シエルはその事を話すとすぐにボルクは医者に頼んでカンパニュールを用意するよう言った。
「心配するなシエル。ランドールはきっと大丈夫だ。この薬草を煎じて何度も飲ませるんだ」
何でも祖母が間違って毒草を食べた人たちにこの薬湯をよく飲ませていたという。
かなりの吐き気を催す薬湯らしくボルクはその材料を煎じて薬湯を作った。
ランドールは相変わらず呼吸困難、血流低下で顔色が黒ずんでいて時々痙攣をおこし吐き気もあった。
ボルクは何度もその薬湯を飲ませては吐く事を繰り返す。
シエルたちにはランドールの身体中をさするように指示を出し一晩中薬湯を飲ませては吐かせを繰り返した。
空が赤紫色に染まり始めるころ、ランドールはやっと呼吸が落ち着いて痙攣もおさまって行った。
「ボルクのおかげよ。ランドールは助かったわ。お父様、お母様きっともう大丈夫よ」
ふたりはうなだれて息も出来ないほど疲れ果てていたがシエルの言葉を聞いてやっとほっとしたらしい。
一時はもう助からないかもしれないとみんな諦めかけた。でもボルクが知っていた知識のおかげでランドールは助かったのだ。
父はたいそう喜んでボルクの手を握った。
「ボルクありがとう。本当に助かった。君がいなかったらランドールは今頃……何とお礼を言ったらいいかわからない。そうだ!お礼にどうだろうボルク。私の領地の一部を君に与えたいと思うんだが。そうだな?ベルタスはどうだろう?あそこは鉱山もあって豊かな土地だからきっと気にいると思う。それから伯爵の称号も与え君をウィスコンティン伯爵としよう」
父はボルクにそう伝えると自分でもこれならいいと満足そうにぼるくを見た。
ボルクはあまりの事でまだ信じれないと目を丸くしている。
「あの、いえ、ですが…私はそんなつもりでやったのではありません」
「ああ、もちろんわかっている。だが、ランドールを救ってくれたお礼がどうしてもしたい。それにあそこは君のようなものがふさわしいと思うんだ。私利私欲の強いものには務まらん場所だ。鉱山からは金やダイアモンドが採れる。それをきちんと管理するには君のような真面目で正直なものでないとな。どうだろう?」
ルドルフからそう言われボルクはもう黙ってはいられないと思った。
大体シエルの呼ばれたからここに来たが、シエルの両親と顔を合わせた時からボルクの心は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
確かにランドールの事でそれどころではなかったが、ランドールが助かりふたりが自分を救いの神のように褒めたたえてくるともう申しわけない気持ちでいっぱいになっていた。
自分が正直で真面目な?とんでもないことです。
シエルの純潔を奪った人間を探している事は知っていた。でも、シエルが困ると思ってずっと黙っていた。
いや、違う!自分が困ると思ったからだ。
もう限界だった。胸に秘めた思いも彼女を傷つけた責任も何もかも正直に言いたかった。
ボルクは国王の前に跪ひざまずきひれ伏した。
「国王陛下。実はお話があります……私は国王が思っているような人間ではないのです。私は…私がシエル様を奪ったのです。どうかお許しください。いえ、許してほしいとは思っておりません。ですから私にはそんな土地も称号ももらう資格などないのです。どうかお許しください」
ボルクは申し訳なさそうに深々と首を垂れた。
ここはランドールの部屋。ここにはシエルも母もランドールもいた。
シエルは慌てた。だってボルクは悪くないんだから。
シエルは跪くボルクの手を引くと彼を立たせる。
そして彼の間に立ちふさがるように父に言う。
「待ってお父様それは違うんです。ボルクは私を避けようとしていたのです。だから私が無理やり彼を襲ったのです。彼の手を縛り付け目隠しをして私が彼とどうしても結婚したいがために無理やりやった事なんです。ボルクに責任はありません。それにボルク!貴方は悪くないのに責任取るなんて言わないで。責任は私が取ります。はしたない事をしました。私は修道院に入る覚悟は出来ています。だからボルクには責任を取らせないでお願いお父様。どうかボルクを助けて、悪いのはすべて私なの。だからボルクには…」
シエルの瞳からは一筋の涙が伝い落ちた。
ルドルフは立ち上がるとそっとシエルの頬を拭う。
そしてボルクを見た。ボルクはシエルの後ろで彼女をかばうように腕をシエルの腰に巻き付けている。
いつでも自分が前に出れるように構えていたと思ったら今度はボルクが言った。
「シエル様、何を言ってるんです?私です。私が無理やりシエル様を奪ったのです。罰なら私に…どうか私を罰してください」
やれやれふたりはどちらも自分が責任を取るといい張っている。これは何かの裁判か?
ルドルフは首を振った。
お前たち!もういい加減認めたらどうなんだ?
ふたりとも好きでたまらないと言ってるようなもんだ。まったく…私が言ってやらないとどうにもならんのか?
ルドルフはボルクに聞いた。
「それで、どうしたものか…罰しても失ったものは帰っては来ないだろう。もしろ責任を取ってもらうべきだと思うが…ボルク責任を取ると言うならシエルと結婚することになるがそれでいいのか?」
「えっ?」
ボルクの身体が固まる。脳が機能停止でもしたのかと思われたが何とかボルクは口を開く。
「いいんでしょうか?シエル様と結婚しても…」すごくかすれた声で…
「もちろんそうなるに決まっている。私はあの時も聞いたはずだが?」
そう言われてボルクは思った。あの時の国王はすごくいやそうな顔をしていたではないですかと言ったら怒られるのだろうか?
まさか、国王はあの時から俺達の事を許すつもりだった?
「ええ、ですが…」と言いかけたがルドルフはまだ話は終わってないと。
「それからシエルお前もお前だ。そんなはしたない事をして恥ずかしくはないのか?未来の夫にそんなまねをしたんだぞ。反省しなさい!」
シエルは恥ずかしくて耳たぶまで真っ赤にしていたが。
「えっ?お父様今なんておっしゃったの?未来の夫?もしかして私、ボルクと結婚してもいいのですか?」
「シエル。聞く相手が違うだろう?」
ルドルフは呆れたようにボルクを指さす。
ボルクは親指と中指をしきりに擦り合わせて笑っている。
そしてシエルを見てすっと真面目な顔に変わると今度はシエルの前に跪いた。
これほどまでに言われて気づかなかったらただのばかだとばかりな態度で。
「シエル様、こんな私で良ければ是非結婚していただけませんか?」
ボルクはものすごく真面目な顔だ。
シエルを見上げる彼の瞳は青い宝石と見まごうばかりに輝いている。
「いいんですか?でも、結婚は出来ないとおっしゃっていたではありませんか」
もう、バカ。そんな事を言いたいわけではないのに…あまりに見目麗しい愛しの人に見つめられてシエルは思った以上に照れ臭くなったのだ。
しかしボルクはそんなシエルの言葉を真に受けてさらにシエルを見つめる。
まるで飼い犬が飼い主に必死で食い下がるようにも見える。
「はい、ですが国王陛下から直々にお許しもいただきましたし、伯爵にもして頂けるようですから、もう誰に遠慮することなくあなたと結婚できると。私がどんなにあなたと結婚したかったかご存知なんでしょう?」
彼の声は悲痛なほど必死だがシエルは素直には受け取れなかった。
何よ。私がどんなに結婚したいって言っても断ってたくせに!
「嘘。あなたは結婚しないってずっと言ってたじゃない。だからてっきり私は結婚はいやなのかと思ってたわ!」
シエルは今まで散々ボルクから結婚を断られていたことがどうしても頭から離れない。
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