一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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43もういい加減言うことを聞いてよ!

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 シエルは今夜は王宮に泊るとべルールに告げていた。

 早速王宮の私室に入るとボルクの所に行く準備を始める。

 本で読んだことを脳愛で思い出して、彼にどんな事をしてあげればいいのかをシュミレーションしてみる。

 気が付くと一生懸命そんな事をしていたので時間がかなり過ぎていた。

 大変、もうこんな時間だわ。ボルクはもう部屋に帰っているはずだわ。



 シエルはボルクに警戒されないように、前にボルクの部屋を訪れた時とは違う簡単なワンピースで彼の部屋を訪れた。

 「ボルク、私よ。シエルです。こんな時間にごめんなさい」扉をノックしてボルクに声を掛ける。

 すぐにドアが開いて彼が顔を出した。

 「どうしてんですかシエル様。今日はお屋敷に帰られたとばかり…」

 ボルクは思ってもいない訪問者に驚いた様子だ。

 「今日は…あのね私ボルクにどうしても話があるのよ。少し中に入ってもいい?」

 「何です?どんな話か伺っても?」

 「でも、こんな所で言うのも…」

 シエルは何とか部屋に入らせてもらおうと粘る。

 「いえ、前にもそう言って私を誘惑しましたよね?もうその手には引っかかりませんよ。何です?」

 さすがボルク、勘が鋭いって言うかまどろっこしいって言うのか。

 シエルは大きくため息をついた。

 そして仕方なく話をする事にする。

 だってうそを言って部屋に入っても今度はその嘘をついたことをしつこく言われて肝心な事が出来なくなるかもしれないから…



 「昨日ジュリエッタから手紙が届いたの。その手紙にはあなたの事が書かれていてね…それでボルクオーランド国の皇帝と何があったのか教えて欲しいの」

 「はっ?何を言ってるんです。皇帝と何もある訳がないじゃないですか!」

 ボルクの慌てぶりはすごい。これは絶対何かあるとしか思えないわ。

 「でも、それもすべて私のせいなんでしょう?お願い正直に話してちょうだい。あなたは私のために凄く嫌な思いをしたんじゃないの?だから…その…あそこが病気になって、それで…私と結婚できないとまで言ってるんじゃないの?お願いボルク、私に話してちょうだい。私で治せるなら何でもするわ。その覚悟は出来てるから。だから」

 「ちょっと待って下さい。一体何のことかさっぱりわかりません。皇帝とは何もありません。わかったらもう帰ってもらえませんか?シエル様がこんな所に来ることさえいけない事なんですよ。さあ、早く誰かに見られたらどうするおつもりなんです?」

 「私は困らないわ。だからボルク」

 「おかしな誤解でもされたら私も迷惑なんです。では」

 ボルクは一切のこの話にはふれたくないとばかりにシエルを拒否した。

 扉はピシャリと閉められるとそこには冷たい空気しか残らなかった。


 こんなの!こんなのって…何よ。ボルクったら一人で苦しまなくても私に相談くらいしてくれてもいいんじゃない。

 だってわたしにも責任のあることなのよ。


 どうやったら彼に本当の事を話してもらえるのだろう。

 困った。困ったわ。シエルは頭を抱えながら自分の部屋に戻った。


 ベッドに横になっても焦りは募るばかりだ。

 なぜって、今日も父から言われたのだ。そろそろどちらの申し入れを受けるのか決めなさいと。

 お前が嫁に行ける最後のチャンスなのだ。もう断れると思わないようにと。

 だからこそ今夜ボルクと話がしたかったのに。

 私が思っている通りなのだったら私が何とか治してあげたいと思うのは当然でしょう。

 だって、こんな事になったのは私のせいなんだもの。

 ボルクはいつだって私の言うことを聞いてくれた。どんな事でも彼に言えば叶わないことなどなかった。

 それなのにどうしてだめなの?

 指先は彼がくれたあの笛をくるくる転がすようにしている。

 何か考え事をするときはつい笛をこうやって指で触ってしまう。

 これはシエルのくせになっていた。


 そうだわ!笛を拭いたらボルクは私の所に来てくれるかも知れない。だっていつだってボルクは私の一大事には駆け付けてくれた。

 これは私にとって一大事なんだもの。ボルクだってわかってくれるはずよ。

 シエルは最後の望みをかけて笛を吹いた。何度か続けて吹くとそれで服のをやめてみた。

 それから待つこと数分…

 その間に彼が来てからの事を考えた。


 扉がノックされた。

 シエルはもう一度笛を吹いた。

 「シエル様?大丈夫ですか?何かあったのですか?返事をして下さい」

 ボルクの声がした。彼の声は少し緊張気味に聞こえた。

 シエルは返事をするのをぐっとこらえるともう一度笛を吹いた。


 ボルクの声は狼狽して焦っている様子だ。

 「シエル?どうしたんだ?返事をしてくれ!しないなら扉をか蹴破るぞ。シエル?」

 これ以上は彼の機嫌を損ねてしまうだろう。

 シエルはしびれを切らしていたボルクに返事をした。

 「今、開けるわ」


 扉を開くとボルクが飛び込んで来た。

 「何があった?シエル怪我は?」

 ボルクはシエルを見ると彼女の腕をつかんだ。上から下までじろじろ見て怪我をしていないか確かめている。

 シエルはそんなボルクを見て愛しくてたまらなくなる。

 ああ…ボルク私の愛しい人。あなたはどんな事があっても私の事を心配してくれる。

 もしかしたらさっき部屋に行ったことを怒ってボルクは来ないかもと思っていた。

 なのに…あなたはこうやってすぐに私の所に駆けつけてくれて…

 胸に熱い思いが込み上げて言葉がこぼれる。



 「ボルク…あなたって人は、どうしてこんなに私を思ってくれるの?」

 「どうしてって言われても…それより大丈夫なんですか?笛を吹かれるということは何かあったのでしょう?」

 「大丈夫よ。怪我もしていないし誰かが押し入って来てもないわ」

 「それは良かった」

 ボルクはやっと安心したらしくシエルの腕を離した。

 「でも不安は私の心の中にいっぱいにあるわ。今日お父様から言われたの。早く婚約相手を決めなさいって」

 シエルはボルクを見つめると泣きそうになった。眦には涙が溜まっていく。



 だが、ボルクは理路整然としたような顔をして尋ねる。

 「ええ、そうでしょうね。それでどちらにされるおつもりなんです?」

 「ボルクあなたは私にあなた以外の人と結婚しろと言うつもりなの?」

 シエルは腹が立って来た。

 「ですが、私はもうお断りしましたしあなたと結婚するつもりはないと言ったはずです」

 ボルクは相変わらず釈然とした顔でそう言った。

 そんな態度はシエルの琴線に触れた。

 「でも、それは本心じゃないんでしょう?本当は結婚したいんでしょう?でもあなたが言った病気の事があるから諦めたんでしょう?あなただって私を好きだって愛してるって言ってくれたじゃない。あれは嘘なの?どうなの?はっきり言って!」

 シエルはボルクの胸ぐらにつかみかかった。

 もう、感情は支離滅裂状態で計画していた事など頭からなくなっていた。


 計画ではボルクが入ってきたら、今日は今までのお礼がしたいと彼にマッサージをすると言って、ボルクをベッドに横にならせてシエルが彼の男性器に刺激を与えると言う設定だったのだが…

 媚薬入りのお香を焚いておこうかとも思ったがそんな事をすればきっと彼がその気になったのは媚薬の性と言う事にもなりかねない。

 それにボルクには真っ正直に向かい合いたいと思った。



 「しえ、る…」ボルクの声はかすれて言葉は途切れ途切れでよく見ると彼の碧色の瞳は涙で濡れている。

 「お願いボルク。私と結婚すると言って。病気の事はゆっくり治療して行けばいいじゃない。私なんでも協力するから、だからお願い。私、あなたがどうしても結婚してくれないなら修道院に入るわ。ええ、そうする。他の人と結婚なんて考えられないんだもの。それなら修道院に行った方がまだいいわ」

 「待てシエル。早まるな。修道院なんて行ったら君に会えなくなる。だろう?それが俺にとってどれほど辛い事かわかってるのか?結婚は無理だ。でも、もういい話す。話すから…」

 シエルのあまりに強烈な暴走にボルクはやっと話をしてくれる気になったらしい。



 ボルクはおおむね皇帝から受けた屈辱を話した。

 そしてそんな屈辱を受けたのに自分のあそこは興奮してしまったことをすごく恥じているとも言った。

 だから興奮するとあの時の自分の醜い醜態を思いだして滾りは萎えて行くのだと話した。

 だからそんな自分はシエルにふさわしくないとも言った。



 「ありがとうボルク話してくれて。そんな嫌な思いをさせたのも全部私のせいね。でも私にふさわしいのはあなたしかいないのよ。私がそう思ってるんだからそれでもだめなの?」

 「俺はそんな風には考えられないって言ってるだろう!」

 「だったら私にお返しをさせて欲しいの。もう結婚してって無理なことは言わないわ。だからせめて私の納得がいくようにさせて欲しいの。私の願いをかなえさせてもらえない?だってあなたはいつも私を守ってくれたじゃない。一度くらいあなたの為にお返ししたいの」

 思っていた事より全然違った話になってしまったわ。でも、ボルク、あなたの為に何かしたいの。

 もう、あなたが嫌がることは言わない。だってあなたを困らせようなんて思ってもいないんだから。



 「シエルにそう言ってもらえるなんて夢のようだ。でも、俺のしたことはすべて義務でやった事なんだ。そんなお返しなんてしてもらうつもりも気はない!」

 「ねぇボルク。これだけお願いしてもだめなの?いいじゃない。私がしたいって言ってるのよ。もういいから少しは黙って人の言うことを聞きなさいよ。これは命令よ。ボルク私のお返しを受け入れて頂戴!」

 もう、いいのかしら?そんな自信たっぷりなことを言ってもやろうと思っているのはまったくの初めての事なんだけれど…

 シエルは自分で言っておきながら自信はまったくなかった。

 彼を満足させることが出来るのかは全く未知の世界の話で。

 でも、こうなったらもう引き下がるわけにはいかないのだから。



 「でも、どうやって?何をするつもりだ?シエル…おい、ちょっと待て…」

 ボルクは困惑して苛立っている。それに焦りに充ちていているらしい。

 そして、えっ?まさか。でも、喜んでるの?

 シエルはボルクの指先が親指と中指ですり合わされている事に気づいた。





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