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42驚きの手紙。ジュリエッタって最低!
しおりを挟むジュリエッタからの手紙にはこう書かれていた。
~親愛なるシエル様~
私がスタンフォース公爵様と離縁したことはご存知の事でしょう。今は兄のところに身を寄せているところです。
私はここに帰って来て叔母からの手紙を見て驚きました。
叔母ティロースは夫であるオーランド国の皇帝を毒殺したことはもうすでに皆さまがご存知の事でしょう。この手紙はその亡くなる前に書かれたものです。
あなたがオーランド国に側妃として来られて皇帝との閨を過ごした朝、叔母は皇帝の所に行ったそうです。
セルベーラ国からは初めての側妃を迎えて叔母もあまりいい気持でなかった事はわかりますよね。
だから、朝ギストロの様子を見に行ったのです。そして皇帝は驚くことを言ったのです。
ギストロはあなたとはうまく行かなかったと言ったそうです。あなたが無垢な女とは思っていなかったようで護衛騎士が乗り込んであなたを連れて行きその男がまた謝罪に戻って来たと。
ギストロは前々から男娼に興味があったらしいのですが、まさかその男にそんな事をさせるとはと驚いたそうです。
叔母はずっとギストロの狂乱ぶりには呆れていました。いい加減にいい年をした男がする事ではないと、息子にもいい影響を与えるはずのない多くの側妃たちにも困っていました。でも、とうとう男にまで手を出してしまったのかと心が頽れたそうです。
叔母はいつも毒薬を持ち歩いていたそうで、この男をこれ以上生かしていたら何をしでかすか知れないと叔母はとっさに皇帝に毒を盛ったそうです。
そして自らもその毒で非業の死を遂げたのです。叔母はずっとあのギストロに苦しめられていましたから、それにどれほど辱めを受けて来たのかと思うと今も心が張り裂けそうですわ。
そうそうシエル様。その男が誰かあなたにはわかりますよね?あなたの代わりに騎士は皇帝に辱めを受けたのですよ。
あなたはいつもたくさんの人に守られてそんな事も知らず平然と暮らしているのでしょう。
まったくあなたと言う人は幸せな人ですわ。
シエル様どうかあなたを守るために多くの人が犠牲となっている事を心に刻んでお過ごしになって下さい。
私は当分こちらで過ごすことになって退屈でたまらない毎日ですの。
私にはこんなお手紙を書くことくらいしか楽しみはありませんのでひとまずシエル様にお知らせしておきましたのよ。
だってシエル様だって本当の事を知りたいと思いましたから。
では、シエル様もどうかお身体にお気を付け下さい。
また、何かありましたらお知らせしますわね。では失礼します。
ジュリエッタ・カッペンより~
シエルの手から手紙がはらりと落ちた。
ジュリエッタの手紙に寄ればボルクが皇帝に何かされたということになる。
でも、ボルクは何もなかったと言ったわ。
辱められるという意味が分からないシエルではない。と言うことは皇帝はボルクを相手に閨事でするようなことをしたと言うの?うそでしょ。ああ…嘘だと言って。
騎士としてプライドの高いボルクがそんな事といってもどんな事をされたのかまではよくわからないけど、それでもすごく嫌な思いをしたに違いない。
逆らえば私を奪うと言えば彼の事だもの何でもやったに違いないわ。
私はそんな事も知らないでボルクが苦しんでいるかもしれないのに、彼ばかりを責めていた。
もしかして病気ってその時のショックが原因でって事?
シエルがおかしなことを思いついて言った事もまんざらいいところを突いていたのかもしれない。
そんな事を考えながら夜を明かした。
それにしてもジュリエッタがやることはかなりえぐいと思ってしまった。
シエルは翌日王宮に行くと早速王宮内の図書室に行った。
いつもは仕事で必要な穀物の成長とか、ぬかるんだ道の整備についてとか、鉱物資源の有効活用とかなどの本を見るときにしか利用しない場所だったが今日は違う。
シエルは図書室の一番奥の棚にある閨事に関する本の棚から思いつく限りの本を取り出した。
人目をはばかるように一番奥の席に着くと一心不乱に本を読み漁る。
閨事で起こりうるショック症状ってどんなものがあるのかしら?
それに閨事でどんな事をするかも重要なポイントだわ。
ボルクが何をされたのか、どんな心境になったのか、それによってどんな影響が身体に起きているのか。
本によると男性の閨事の一番の問題点は男性器が機能しなくなることだと書いてある。
つまり、勃起しない。
男性の勃起機能は極めて繊細であること。また機能回復にはストレスやその原因となった事への精神的なダメージを克服しなければならないと書いてあった。
これは極めて難しく本人もだが、相手の女性の理解や協力が最も必要だとも書いてあった。
シエルは確信する。
ボルクの病気ってきっとこれだわ。
だからボルクは私と結婚できないって思ってるのね。それならこれを解決できれば彼は私と結婚してくれるわよね?
一抹の不安が沸き上がるがボルクの気持ちは知っているもの。
私がどうしても結婚したいって言えばお父様だって許して下さるだろうし、ボルクも問題が解決すればきっと、きっと結婚してもいいって言うに決まっているわ。
シエルは高まる気持ちをこらえてまた本に集中する。
勃起機能を回復させるためにはどうすればいいのか必死で必要な知識を得ようとした。
かなりの時間がたったらしく、シエルのお腹がぐぅと鳴った。
何とかそれなりの知識は頭に入ったと思う。
今度はそれをボルクに実戦でやってみるしかないわ。
それにもうこんな時間。急がないと…
お昼時シエルは治安府の執務室に顔を出してみる。
「失礼します。ウィスコンティン様はいらっしゃいますか?」
「シエル様どうしたのです」
まだボルクは机で仕事をしていた。
「ちょうど良かったですわ。一緒にお食事でもと思いましたので」
シエルはもしかしたらと昨日のお礼を兼ねて昼食を作らせて持って来ていた。
「いや、まだ仕事が残っているからシエル様先に食べて下さい」
「せっかくお礼にと持って来たのよ。一緒じゃなければいやです。この食材は私が盛りつけましたのよ。ほら、美味しそうでしょう?」
シエルは籠からきれいに盛り付けられた食べ物を見せる。
そこにはにんにくたっぷりのチキンのソテー。ほうれん草のゼリー寄せ。牡蠣は一度火を入れてアボガドをあえてある。それからブルーベリーのマフィンにジンジャークッキーもあった。
どれもこれも勢力増強食品と書いてあったものばかりだ。
そして今夜はボルクの部屋に押し掛けるつもりだった。
「時間がなければここでも構いませんわ。テーブルに広げますから一緒に食べて下さいね」
ボルクはシエルの行動を不審に思ったらしいが食事をするだけならと渋々腰を上げる。
執務室のソファーの前のテーブルに所狭しと料理を並べて行く。
籠には皿やナイフフォークなども入っていてちょっとしたレストランのように料理が並んだ。
「いやに豪勢だが昼間からこんなに?」
「もちろんです。ボルクは男性なんですからしっかり食べなくては」シエルはボルクが腰かけるとすかさずチキンを彼の口元に出す。
ボルクは嫌いなものはない。何でもおいしく食べると言うのが主義なので差し出されたチキンを口にほおばった。
「このチキン美味しいです。これはニンニク?食欲をそそる香りです」
ボルクは気にいったらしく次々に料理を口に運ぶ。
シエルはうれしくなってほうれん草も牡蠣も食べさせる。
これだけ食べればきっと今夜は…
「どうしましたシエル様?何がおかしいんです?」
シエルは口元をかなり緩ませていたらしくボルクに聞かれてきゅっと口を引き結んだ。
「ううん、あなたが美味しそうに食べてくれるからうれしくって」結婚したらもっと一緒にこんな楽しい時間が過ごせるのよね。ああ…はやく結婚したい。
脳内はもう結婚の事でいっぱいでどんなにきつく口を閉じてもすぐに口元は緩んでしまった。
「こっちのマフィンも食べて、あっ、それからこのクッキーはお茶の時間にでも食べてね、いい?ボルク絶対に食べてよね」
シエルはひとつずつボルクに見せて必ず食べるようにしつこく言う。
「何かおかしくないですか?いきなりどうも様子が変ですが、今までこんな事しなかったですよね?まさか…私の気持ちは変わったわけではありませんよ。結婚は無理ですから。それはわかってくれてますよね?」
グサッとくる言葉がシエルに襲い掛かる。
「わ、わかってるわよ。これはお礼って言ったじゃない。ボルクったら気持ちよく受け取ってくれてもいいじゃない。せっかく」
いけない。これ以上言うと余計なことをしゃべってしまうかも。いきなり言葉を切る。
ボルクはシエルをじっと見ている。
「どうもおかしいんだよな…シエル何か隠してるんじゃないのか?どうせすぐにばれるんだ。いいから言ってしまえ。早く言えよ」
ボルクの言葉使いは崩れていく。
「だからお礼だって、そんなに言うなら私もう帰ります。では、残さず食べて下さいよ。あっ、籠は後で取りに来ますから廊下にでも置いておいて下さい。では!」
ボルクはまだ疑っているようでシエルをじっと見つめたままだ。
目線を指先に向けると指は親指と中指で摺りあわされている。
そうはいってもうれしいんだわ。
シエルは心の中でぐっと腕を曲げた。
今夜こそ今夜こそはと。
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