49 / 58
42驚きの手紙。ジュリエッタって最低!
しおりを挟むジュリエッタからの手紙にはこう書かれていた。
~親愛なるシエル様~
私がスタンフォース公爵様と離縁したことはご存知の事でしょう。今は兄のところに身を寄せているところです。
私はここに帰って来て叔母からの手紙を見て驚きました。
叔母ティロースは夫であるオーランド国の皇帝を毒殺したことはもうすでに皆さまがご存知の事でしょう。この手紙はその亡くなる前に書かれたものです。
あなたがオーランド国に側妃として来られて皇帝との閨を過ごした朝、叔母は皇帝の所に行ったそうです。
セルベーラ国からは初めての側妃を迎えて叔母もあまりいい気持でなかった事はわかりますよね。
だから、朝ギストロの様子を見に行ったのです。そして皇帝は驚くことを言ったのです。
ギストロはあなたとはうまく行かなかったと言ったそうです。あなたが無垢な女とは思っていなかったようで護衛騎士が乗り込んであなたを連れて行きその男がまた謝罪に戻って来たと。
ギストロは前々から男娼に興味があったらしいのですが、まさかその男にそんな事をさせるとはと驚いたそうです。
叔母はずっとギストロの狂乱ぶりには呆れていました。いい加減にいい年をした男がする事ではないと、息子にもいい影響を与えるはずのない多くの側妃たちにも困っていました。でも、とうとう男にまで手を出してしまったのかと心が頽れたそうです。
叔母はいつも毒薬を持ち歩いていたそうで、この男をこれ以上生かしていたら何をしでかすか知れないと叔母はとっさに皇帝に毒を盛ったそうです。
そして自らもその毒で非業の死を遂げたのです。叔母はずっとあのギストロに苦しめられていましたから、それにどれほど辱めを受けて来たのかと思うと今も心が張り裂けそうですわ。
そうそうシエル様。その男が誰かあなたにはわかりますよね?あなたの代わりに騎士は皇帝に辱めを受けたのですよ。
あなたはいつもたくさんの人に守られてそんな事も知らず平然と暮らしているのでしょう。
まったくあなたと言う人は幸せな人ですわ。
シエル様どうかあなたを守るために多くの人が犠牲となっている事を心に刻んでお過ごしになって下さい。
私は当分こちらで過ごすことになって退屈でたまらない毎日ですの。
私にはこんなお手紙を書くことくらいしか楽しみはありませんのでひとまずシエル様にお知らせしておきましたのよ。
だってシエル様だって本当の事を知りたいと思いましたから。
では、シエル様もどうかお身体にお気を付け下さい。
また、何かありましたらお知らせしますわね。では失礼します。
ジュリエッタ・カッペンより~
シエルの手から手紙がはらりと落ちた。
ジュリエッタの手紙に寄ればボルクが皇帝に何かされたということになる。
でも、ボルクは何もなかったと言ったわ。
辱められるという意味が分からないシエルではない。と言うことは皇帝はボルクを相手に閨事でするようなことをしたと言うの?うそでしょ。ああ…嘘だと言って。
騎士としてプライドの高いボルクがそんな事といってもどんな事をされたのかまではよくわからないけど、それでもすごく嫌な思いをしたに違いない。
逆らえば私を奪うと言えば彼の事だもの何でもやったに違いないわ。
私はそんな事も知らないでボルクが苦しんでいるかもしれないのに、彼ばかりを責めていた。
もしかして病気ってその時のショックが原因でって事?
シエルがおかしなことを思いついて言った事もまんざらいいところを突いていたのかもしれない。
そんな事を考えながら夜を明かした。
それにしてもジュリエッタがやることはかなりえぐいと思ってしまった。
シエルは翌日王宮に行くと早速王宮内の図書室に行った。
いつもは仕事で必要な穀物の成長とか、ぬかるんだ道の整備についてとか、鉱物資源の有効活用とかなどの本を見るときにしか利用しない場所だったが今日は違う。
シエルは図書室の一番奥の棚にある閨事に関する本の棚から思いつく限りの本を取り出した。
人目をはばかるように一番奥の席に着くと一心不乱に本を読み漁る。
閨事で起こりうるショック症状ってどんなものがあるのかしら?
それに閨事でどんな事をするかも重要なポイントだわ。
ボルクが何をされたのか、どんな心境になったのか、それによってどんな影響が身体に起きているのか。
本によると男性の閨事の一番の問題点は男性器が機能しなくなることだと書いてある。
つまり、勃起しない。
男性の勃起機能は極めて繊細であること。また機能回復にはストレスやその原因となった事への精神的なダメージを克服しなければならないと書いてあった。
これは極めて難しく本人もだが、相手の女性の理解や協力が最も必要だとも書いてあった。
シエルは確信する。
ボルクの病気ってきっとこれだわ。
だからボルクは私と結婚できないって思ってるのね。それならこれを解決できれば彼は私と結婚してくれるわよね?
一抹の不安が沸き上がるがボルクの気持ちは知っているもの。
私がどうしても結婚したいって言えばお父様だって許して下さるだろうし、ボルクも問題が解決すればきっと、きっと結婚してもいいって言うに決まっているわ。
シエルは高まる気持ちをこらえてまた本に集中する。
勃起機能を回復させるためにはどうすればいいのか必死で必要な知識を得ようとした。
かなりの時間がたったらしく、シエルのお腹がぐぅと鳴った。
何とかそれなりの知識は頭に入ったと思う。
今度はそれをボルクに実戦でやってみるしかないわ。
それにもうこんな時間。急がないと…
お昼時シエルは治安府の執務室に顔を出してみる。
「失礼します。ウィスコンティン様はいらっしゃいますか?」
「シエル様どうしたのです」
まだボルクは机で仕事をしていた。
「ちょうど良かったですわ。一緒にお食事でもと思いましたので」
シエルはもしかしたらと昨日のお礼を兼ねて昼食を作らせて持って来ていた。
「いや、まだ仕事が残っているからシエル様先に食べて下さい」
「せっかくお礼にと持って来たのよ。一緒じゃなければいやです。この食材は私が盛りつけましたのよ。ほら、美味しそうでしょう?」
シエルは籠からきれいに盛り付けられた食べ物を見せる。
そこにはにんにくたっぷりのチキンのソテー。ほうれん草のゼリー寄せ。牡蠣は一度火を入れてアボガドをあえてある。それからブルーベリーのマフィンにジンジャークッキーもあった。
どれもこれも勢力増強食品と書いてあったものばかりだ。
そして今夜はボルクの部屋に押し掛けるつもりだった。
「時間がなければここでも構いませんわ。テーブルに広げますから一緒に食べて下さいね」
ボルクはシエルの行動を不審に思ったらしいが食事をするだけならと渋々腰を上げる。
執務室のソファーの前のテーブルに所狭しと料理を並べて行く。
籠には皿やナイフフォークなども入っていてちょっとしたレストランのように料理が並んだ。
「いやに豪勢だが昼間からこんなに?」
「もちろんです。ボルクは男性なんですからしっかり食べなくては」シエルはボルクが腰かけるとすかさずチキンを彼の口元に出す。
ボルクは嫌いなものはない。何でもおいしく食べると言うのが主義なので差し出されたチキンを口にほおばった。
「このチキン美味しいです。これはニンニク?食欲をそそる香りです」
ボルクは気にいったらしく次々に料理を口に運ぶ。
シエルはうれしくなってほうれん草も牡蠣も食べさせる。
これだけ食べればきっと今夜は…
「どうしましたシエル様?何がおかしいんです?」
シエルは口元をかなり緩ませていたらしくボルクに聞かれてきゅっと口を引き結んだ。
「ううん、あなたが美味しそうに食べてくれるからうれしくって」結婚したらもっと一緒にこんな楽しい時間が過ごせるのよね。ああ…はやく結婚したい。
脳内はもう結婚の事でいっぱいでどんなにきつく口を閉じてもすぐに口元は緩んでしまった。
「こっちのマフィンも食べて、あっ、それからこのクッキーはお茶の時間にでも食べてね、いい?ボルク絶対に食べてよね」
シエルはひとつずつボルクに見せて必ず食べるようにしつこく言う。
「何かおかしくないですか?いきなりどうも様子が変ですが、今までこんな事しなかったですよね?まさか…私の気持ちは変わったわけではありませんよ。結婚は無理ですから。それはわかってくれてますよね?」
グサッとくる言葉がシエルに襲い掛かる。
「わ、わかってるわよ。これはお礼って言ったじゃない。ボルクったら気持ちよく受け取ってくれてもいいじゃない。せっかく」
いけない。これ以上言うと余計なことをしゃべってしまうかも。いきなり言葉を切る。
ボルクはシエルをじっと見ている。
「どうもおかしいんだよな…シエル何か隠してるんじゃないのか?どうせすぐにばれるんだ。いいから言ってしまえ。早く言えよ」
ボルクの言葉使いは崩れていく。
「だからお礼だって、そんなに言うなら私もう帰ります。では、残さず食べて下さいよ。あっ、籠は後で取りに来ますから廊下にでも置いておいて下さい。では!」
ボルクはまだ疑っているようでシエルをじっと見つめたままだ。
目線を指先に向けると指は親指と中指で摺りあわされている。
そうはいってもうれしいんだわ。
シエルは心の中でぐっと腕を曲げた。
今夜こそ今夜こそはと。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18

【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される
狭山雪菜
恋愛
ソフィア・ヒルは、病弱だったために社交界デビューもすませておらず、引きこもり生活を送っていた。
ある時ソフィアに舞い降りたのは、キース・ムール侯爵との縁談の話。
ソフィアの状況を見て、嫁に来いと言う話に興味をそそられ、馬車で5日間かけて彼の元へと向かうとーー
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。また、短編集〜リクエストと30日記念〜でも、続編を収録してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる