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37もちあがるシエルの縁談
しおりを挟むそれからシエルとボルクはお互いを遠ざけるようになった。
それから数日後ベルタードが執務室に現れた。
ルドルフはベルタードから話を聞く。
王宮に滞在している間に、皇妃ティロースの部屋からカロライナジャスミンの毒が見つかってティロースはもう言い逃れが出来なくなり皇帝にあの朝、毒入りのお茶を飲ませたことを白状したらしい。
ヒメルには病気の父がおりその父の治療費や幼い兄妹たちの面倒を見てやると約束していた事もわかった。
ティロースは捕らえられる前に毒を煽って亡くなった。
自分が死ぬ代わりに息子をこのまま皇帝にして欲しいと手紙が残されていたらしい。
あまりいい結果とはいえないがこれで皇帝の事件は無事に解決したとルドルフの所に報告をしに来た。
オーランド国でも手紙を鷹を使ってやり取りしていてその報告は思っていたより早かったのだ。
「これで私の心置きなく帰れます。国王陛下には本当にお世話になりました」
「いえ、いろいろご苦労だった。道中くれぐれも気を付けてな」
「はい、あの…ついでと言うのも…実は新しい皇帝のラグナン陛下からのご依頼がありまして」
「ラグナン陛下から?陛下も皇帝になられたばかりなのにご心痛であろうな」
「はあ、まあギストロ陛下の事は見るに堪えられないといつも仰っておりましたし母上の事も気持ちはわかるとお嘆きでした。家来ともどもギストロ陛下のご自身の招いたご不幸と思っております。そのことは国民も同じ気持ちだろうと、それより一刻も早く新皇帝にはお妃様をと言う声が多くありまして」
「それはもっともなお話。よいご縁があるといいですな」
「ええ、それがラグナン皇帝陛下はシエル様に婚約者になってはもらえないかとおっしゃられておりまして…」
ルドルフは耳を疑った。
「はっ?シエルにですか?ですがシエルはもう20歳にもなりますし、一度ギストロ陛下の元に参ったもので…まあ、そのようなことはなかった事は明白ではありますが…」
「ええ、ですがラグナン陛下がシエル様を見初められたと言われておりまして…いえ、ラグナン陛下はそれはもう真面目な方でギストロ前陛下とは全く違う性格で温厚で情に厚いお方だと家来の評判も良く…」
ベルタードの言葉も途切れ途切れになる。
「いえ、ですが…シエルもつい先ほど側妃の一件で色々あったばかり。すぐにそのような気持ちになれるとは思えません」
無理もない。父のギストロは女癖の悪いことで有名で独裁的で冷酷な王だと言われてきたのだ。
同じ血を引く息子もそんな血を引いているのではと思われても仕方のない事とルドルフを見る顔はうなずく。
「ですが…こういっては失礼とは思いますが、ウィスコンティン様との事がなくなった今ならシエル様もこの結婚に向けて前向きになって頂けるやもしれません。そう思われませんか国王陛下?」
ルドルフは言葉を詰まらせる。
確かにシエルにはもう嫁ぎ先もままならない。この話を断ればもう二度と嫁には行けんかもしれん。
だが…あれが言うことを聞くかどうか…側妃の事では無理をさせたのだ。
シエルの気持ちが前向きになれば受けてもいいかも知れん。
「まあ、少し時間を頂きたい。シエルも今すぐにと言えばとてもそんな気になれんだろう。だが、落ち着けばいい話だと思うやも知れないのでな」
「はい、もちろんです。わが国のほうこそすぐにこのような話をするのを迷っているくらいですがいずれ正式に申し込みをされると思っておいて下さい。では、私はこれで国に帰らせて頂きますので、本当に国王陛下にはどれほどお礼を言っていいかわかりません。感謝の気持ちでいっぱいです。シエル様やウィスコンティン様にもどうぞよろしくお伝えください」
「ああ、ベルタード殿には世話になった。またいつでも訪ねてくれ。では気を付けて」
ベルタードはその日王宮を後にした。
**********
その頃ボルクの所に兄のファルクが尋ねていた。
「ボルク個人的な頼みがある」
「どうしたんです?兄上からそんな事を言われるとは…」
ファルクは出来もよくいつもボルクはそんな兄に引け目を感じていたのだ。
「実は旦那様の奥様のことだ。ジュリエッタ様の事について調べて欲しい。ジュリエッタ様の叔母であるティロース様が皇帝を毒殺して亡くなった」
「ええ、そうらしいですね。最初から怪しいと思ってましたよ」
「ああ、それでジュリエッタ様にも不穏な噂が次々に上がっている。3年前のシエル様の婚約破棄の件を知ってるだろう?あれもジュリエッタ様が仕組んだことらしい。他にも旦那様と良い仲だった伯爵家のご令嬢を婚約者候補から追い落としたり、どうやら今もクォンタム伯爵家の次男と良い仲ではないかとも言われている」
「今頃になって…あの女のやりそうなことだ!」
ボルクはそんな事は知っていたのだ。
「お前知ってたのか?」
「ああ、シエルの婚約破棄の原因となった男たちにからかわれているところに居合わせたからな。あの女がそこまで仕組んでいたとは…」
ボルクがそう言って舌打ちした。
あの一件はシエルの事もあって深追いしなかったから。
ファルクはその表情を見て安堵したようにうなずいた。
「だったら話は早い。旦那様はそれが本当ならジュリエッタ様と離縁したいと思ってる。だからお前にその証拠をつかんで欲しい」
「ったく。俺が諜報部にいるからってそんな個人的な事出来るわけがないだろう」
「だから、個人的な頼みだと言ったはずだ。」
「まあ、あの女に恨みがあると言えばあるが…それに何と言っても兄の頼みなら仕方ないか。まあ、個人的に調べてみるから、安心しろ」
「ああ、こんな事頼めるのは身内くらいだ。これが公になったら…絶対に内密に頼む」
「ああ、任せろ!」
ボルクは数日のうちにジュリエッタの動向を探り、数日後にはクォンタム伯爵家の次男ウォルターとジュリエッタが逢引きをしている所に乗り込んだ。
もちろん証拠を確実にするために兄のファルクも同行していた。
ジュリエッタは言い逃れできなくなりウォルターとの事を白状した。
スタンフォース公爵が劣化の如く怒り即刻離縁が決まった。
ジュリエッタはすぐにカッペン辺境伯の領地に帰るより仕方なくなった。
ファルクはボルクにお礼を言うとまたひとつ話を持って来た。
「いや、実に見事だった。ボルクお前には借りが出来た。そう言えばお前の親しくしているベンハイム嬢だが、その後どうなんだ?オーランド国の事は実にご不幸だったとしか…」
「シエル様なら元気に執務に励んでいらっしゃるだろう」
ボルクはシエルの事は考えないようにしていた。
なるべく王城でも顔を合わせないようにしていたし、だからシエルがどうしているかなど知らなかった。
「そうか。この度の事で旦那様ベンハイム嬢の事を悔やんでおられて、もう一度婚約を申し込みたいと言われているんだ。どうだろう?彼女にその気はありそうか?また結婚するつもりはあるのか?」
「俺にそんな事を聞かれてもわかるはずがない。それはスタンフォース公爵が勝手にすればいい事だ。シエル様がどうするかなんてわかるもんか!さあ、用が済んだなら帰ってくれ。俺も暇じゃないんだ」
ボルクは湧き上がるイライラをどうしていいかもわからず兄に八つ当たりする。
「ああ、悪かった。今度一緒に食事でもしないか?同じ王都にいるんだ。なあボルク」
「考えとく。じゃあな」
「助かったよ。ありがとう。じゃ失礼する」
ファルクは紳士的な挨拶をすると王城を後にした。
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