一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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36ボルクの言えない悩み

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  ボルクは一度深呼吸するとみんなの前に来て話を始めた。

 「ベルタード隊長。すまない時間を取らせて。私もシエル様も皇帝を殺してはいない。私はシエル様が殺したかもと思って嘘をついた。シエル様もきっと私が殺したのではと思ったから嘘を言ったんだと思う。どうですシエル様?」

 ボルクはシエルをあの紺碧色の美しい瞳で見つめた。

 シエルはしどろもどろになる。


 そうなの?ボルクは殺してないのね。良かったわ。私もうどうしたらいいかって思ってたの。

 「ええ、ごめんなさい。ボルクの言う通りです。私は彼が殺したかもと思ったから嘘をついて…すみません」

 シエルは嘘をついていたことを正直に謝った。

 ベルタードが怒りもせずうなずいて微笑んだ。


 「やはりそうでしたかシエル姫様。いけませんね。そんな嘘をついては本気にされたらどうするのです?実は私がここに来たのは皇妃ティロース様を油断させるためです。宰相ヘルラードは最初から皇妃を怪しんでいたのです。ヒメルが犯人と言うことは彼女に殺しを頼んだかも知れないと思ったのです。後で死因が毒物であると分かってもしや皇妃が毒を飲ませたのではないかと思ったのです。毒物がカロライナジャスミンということが分かって憶測は確証に変わったのです。オーランド国でもあの毒の事を知る人はそんなに多くありませんので。ですが証拠はありませんしそれで前夜少し騒動があった事を利用して皇妃を油断させようということになったのです。今頃皇妃にはウィスコンティン様が犯人で私が彼を捕まえるためにセルベーラ国に来ていると伝えてあります。皇妃は毒をどこかのタイミングで処分しようとするはずです。その時こそがチャンスだと宰相はおっしゃっていました。申し訳ありませんでしたおふたりを試すようなことを言って。国王陛下を驚かせて申し訳ありませんでした」


 「そう言う事なら仕方あるまい。それに言い出したのはシエルだ。ベルタードが気にすることはない。しかし驚いた。一時はどうなることかと思った…」

 ルドルフは深々とソファーに座り込んだ。


 「陛下、申し訳ありません。私まで一緒になって嘘をついてしまってシエル様がそのような事なさるはずがないのに、あんなことを言われて私も焦ってしまったもので…」

 ボルクは申し訳なさそうに頭をかいた。


 「まあ、私は最初から分かっていましたのでご心配には及びません。でも羨ましい限りですね。ふたりともお互いをかばって罪をかぶろうなんて生半可な気持ちではそのような事出来ません。それでおふたりは結婚されるのですか?」

 「えっ?いえ、そんな事あるはずがないです」

 ボルクは驚いた顔をして否定した。


 でもシエルは違った。

 「私はぜひそうしたいと思っています。お互いの気持ちはもうわかっていますもの。ねぇ、お父様オーランド国の一件はご不幸な事だと思うけど、私、ボルクと結婚したいんです。いけませんか?」

 「シエル様な、何を言ってるのです。そんなこと出来るはずもないことです」

 ボルクは大慌てでそんなつもりはないと両手を横に振る。


 「そうだな…」

 ルドルフは腕を組んで考えこむ。

 「シエルは一度婚約破棄されてるし今回の側妃の一件もある。おそらくもうこの国の貴族は誰もお前を欲しいとは言わんだろうしな。ボルクそれでお前の気持ちはどうなんだ?シエルは結婚したいみたいだぞ?どうするつもりだ。娘をこんな気持ちにさせた責任は取ってもらわなければ困るんだが…」


 ルドルフの言い方は柔らかだったが、顔は絶対に怒っているという顔をしている。
 ボルクを見据える視線はまるで獲物を見据えた鷲のように鋭い眼光で睨まれていた。


 ボルクは途端に狼狽する。

 この何も怖いものなどないような男がシエルの事となるとどうにも男らしさとは無縁の人間になるらしく、真っ赤な顔をしてぶつぶつ何かをつぶやいている。

 「ボルク!どうする気だ?責任を取るのかそれとも?」

 「責任だなんて。勘弁してください。私は男爵家の次男で騎士隊出身の武骨な男です。とてもシエル様にふさわしいとは思えません。私がシエル様を慕っているのは陛下のお嬢様だからで会ってそれ以上の気持ちはありません」

 「そうか…そうだろうな。そこまではっきりしているなら…仕方あるまい。シエル諦めろ!」

 「お父様。でもボルクは私に…」


 シエルはボルクを見る。

 彼が顔を背けて迷惑そうな顔をしていて指先は怒った時の指だった。

 「もう、ボルクったらひどいじゃない!私に言った事は嘘だったの?」

 「あ、あれはシエル様が勝手に…」

 「もういいわ!あなたなんか大っ嫌い!」


 「シエル、それくらいにしろ。ここをどこだと思ってるんだ!」

 父から言われてシエルは執務室を飛び出す。


 ベルタードが何だか悪いことをしたような顔をする。

 「何だか悪いことを言いました。おふたりはもうそのような関係ではと私の勝手な思い込みでしたか。この度の事で迷惑をおかけしましたことお許しください。皇妃様のお気持ちもわからなくはないのです。何しろ皇帝は女性との関係が絶えませんでしたので皇妃様がお気の毒ではありますが罪は罪ですので、ではまた進展がありましたらご報告申し上げます。私は数日こちらで過ごして国に帰ることになっておりますので。国王陛下本当に重ね重ね申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 「いえ、私に出来ることがあればいつでも頼って下さい。ベルタード殿も大変でしょう。今夜はぜひ一緒に食事でもしましょう」

 「はい、ありがとうございます」

 ベルタードはそう言うと執務室を後にした。



 「陛下、私も仕事がありますので失礼します」

 ボルクもすぐに執務室を出て行った。

 すぐに出て行ったシエルの事が気になった。

 今すぐシエルのところに行って彼女を抱きしめたい衝動にぐっと唇っを噛んだ。

 だが、ボルクは彼女の想いに応えられない大きな障害があることに気づいてしまったのだ。

 もし、それがなかったらシエルにあんな事を言われてどれほどうれしかったか。 

 俺と結婚したいだって?夢でも見ているのかとさえ思った。でも、無理なんだ。

 本当なら手を上げて喜びたいのにそう出来ないもどかしさにボルクは廊下で「クッソ!」と声を上げた。

 
 そして昨夜シエルが自分の部屋に来て迫って来た時の事を思い返した。

 最初はボルクもおおいにその気になっていたのだ。大好きなシエルに迫られて興奮しないはずがない。

 もしあんな事がなければきっとシエルを自分のものにしていたに違いない。

 だが、あの時、ふっと皇帝とのことが頭に浮かんで、自分はあのような忌まわしいことをされて興奮したのだと思うとぞっとした。

 その途端滾っていた男根は一気に元気を失ってしまったのだ。

 皇帝との事を思い出すたびにおぞましい自分が嫌になる。そしてアソコは完全に熱を失ってしまうのだ。

 俺だってシエルと結婚出来るなんて夢みたな話だ。

 もう何も遠慮することもなくシエルを俺だけのものにできるなんて本当に夢みたいなこととしか言いようがない。

 でも、愛している女を抱けない男なんて。

 クッソ!ただの腑抜けじゃないか。


 いっそのことシエルに本当の事を話してしまおうか。

 いや、あんな恥さらしな事をシエルには絶対に知られたくはない。

 俺はどうすればいい?

 ボルクはひとり大きく溜め気を吐いた。



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