一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

文字の大きさ
上 下
43 / 58

36ボルクの言えない悩み

しおりを挟む

 
  ボルクは一度深呼吸するとみんなの前に来て話を始めた。

 「ベルタード隊長。すまない時間を取らせて。私もシエル様も皇帝を殺してはいない。私はシエル様が殺したかもと思って嘘をついた。シエル様もきっと私が殺したのではと思ったから嘘を言ったんだと思う。どうですシエル様?」

 ボルクはシエルをあの紺碧色の美しい瞳で見つめた。

 シエルはしどろもどろになる。


 そうなの?ボルクは殺してないのね。良かったわ。私もうどうしたらいいかって思ってたの。

 「ええ、ごめんなさい。ボルクの言う通りです。私は彼が殺したかもと思ったから嘘をついて…すみません」

 シエルは嘘をついていたことを正直に謝った。

 ベルタードが怒りもせずうなずいて微笑んだ。


 「やはりそうでしたかシエル姫様。いけませんね。そんな嘘をついては本気にされたらどうするのです?実は私がここに来たのは皇妃ティロース様を油断させるためです。宰相ヘルラードは最初から皇妃を怪しんでいたのです。ヒメルが犯人と言うことは彼女に殺しを頼んだかも知れないと思ったのです。後で死因が毒物であると分かってもしや皇妃が毒を飲ませたのではないかと思ったのです。毒物がカロライナジャスミンということが分かって憶測は確証に変わったのです。オーランド国でもあの毒の事を知る人はそんなに多くありませんので。ですが証拠はありませんしそれで前夜少し騒動があった事を利用して皇妃を油断させようということになったのです。今頃皇妃にはウィスコンティン様が犯人で私が彼を捕まえるためにセルベーラ国に来ていると伝えてあります。皇妃は毒をどこかのタイミングで処分しようとするはずです。その時こそがチャンスだと宰相はおっしゃっていました。申し訳ありませんでしたおふたりを試すようなことを言って。国王陛下を驚かせて申し訳ありませんでした」


 「そう言う事なら仕方あるまい。それに言い出したのはシエルだ。ベルタードが気にすることはない。しかし驚いた。一時はどうなることかと思った…」

 ルドルフは深々とソファーに座り込んだ。


 「陛下、申し訳ありません。私まで一緒になって嘘をついてしまってシエル様がそのような事なさるはずがないのに、あんなことを言われて私も焦ってしまったもので…」

 ボルクは申し訳なさそうに頭をかいた。


 「まあ、私は最初から分かっていましたのでご心配には及びません。でも羨ましい限りですね。ふたりともお互いをかばって罪をかぶろうなんて生半可な気持ちではそのような事出来ません。それでおふたりは結婚されるのですか?」

 「えっ?いえ、そんな事あるはずがないです」

 ボルクは驚いた顔をして否定した。


 でもシエルは違った。

 「私はぜひそうしたいと思っています。お互いの気持ちはもうわかっていますもの。ねぇ、お父様オーランド国の一件はご不幸な事だと思うけど、私、ボルクと結婚したいんです。いけませんか?」

 「シエル様な、何を言ってるのです。そんなこと出来るはずもないことです」

 ボルクは大慌てでそんなつもりはないと両手を横に振る。


 「そうだな…」

 ルドルフは腕を組んで考えこむ。

 「シエルは一度婚約破棄されてるし今回の側妃の一件もある。おそらくもうこの国の貴族は誰もお前を欲しいとは言わんだろうしな。ボルクそれでお前の気持ちはどうなんだ?シエルは結婚したいみたいだぞ?どうするつもりだ。娘をこんな気持ちにさせた責任は取ってもらわなければ困るんだが…」


 ルドルフの言い方は柔らかだったが、顔は絶対に怒っているという顔をしている。
 ボルクを見据える視線はまるで獲物を見据えた鷲のように鋭い眼光で睨まれていた。


 ボルクは途端に狼狽する。

 この何も怖いものなどないような男がシエルの事となるとどうにも男らしさとは無縁の人間になるらしく、真っ赤な顔をしてぶつぶつ何かをつぶやいている。

 「ボルク!どうする気だ?責任を取るのかそれとも?」

 「責任だなんて。勘弁してください。私は男爵家の次男で騎士隊出身の武骨な男です。とてもシエル様にふさわしいとは思えません。私がシエル様を慕っているのは陛下のお嬢様だからで会ってそれ以上の気持ちはありません」

 「そうか…そうだろうな。そこまではっきりしているなら…仕方あるまい。シエル諦めろ!」

 「お父様。でもボルクは私に…」


 シエルはボルクを見る。

 彼が顔を背けて迷惑そうな顔をしていて指先は怒った時の指だった。

 「もう、ボルクったらひどいじゃない!私に言った事は嘘だったの?」

 「あ、あれはシエル様が勝手に…」

 「もういいわ!あなたなんか大っ嫌い!」


 「シエル、それくらいにしろ。ここをどこだと思ってるんだ!」

 父から言われてシエルは執務室を飛び出す。


 ベルタードが何だか悪いことをしたような顔をする。

 「何だか悪いことを言いました。おふたりはもうそのような関係ではと私の勝手な思い込みでしたか。この度の事で迷惑をおかけしましたことお許しください。皇妃様のお気持ちもわからなくはないのです。何しろ皇帝は女性との関係が絶えませんでしたので皇妃様がお気の毒ではありますが罪は罪ですので、ではまた進展がありましたらご報告申し上げます。私は数日こちらで過ごして国に帰ることになっておりますので。国王陛下本当に重ね重ね申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 「いえ、私に出来ることがあればいつでも頼って下さい。ベルタード殿も大変でしょう。今夜はぜひ一緒に食事でもしましょう」

 「はい、ありがとうございます」

 ベルタードはそう言うと執務室を後にした。



 「陛下、私も仕事がありますので失礼します」

 ボルクもすぐに執務室を出て行った。

 すぐに出て行ったシエルの事が気になった。

 今すぐシエルのところに行って彼女を抱きしめたい衝動にぐっと唇っを噛んだ。

 だが、ボルクは彼女の想いに応えられない大きな障害があることに気づいてしまったのだ。

 もし、それがなかったらシエルにあんな事を言われてどれほどうれしかったか。 

 俺と結婚したいだって?夢でも見ているのかとさえ思った。でも、無理なんだ。

 本当なら手を上げて喜びたいのにそう出来ないもどかしさにボルクは廊下で「クッソ!」と声を上げた。

 
 そして昨夜シエルが自分の部屋に来て迫って来た時の事を思い返した。

 最初はボルクもおおいにその気になっていたのだ。大好きなシエルに迫られて興奮しないはずがない。

 もしあんな事がなければきっとシエルを自分のものにしていたに違いない。

 だが、あの時、ふっと皇帝とのことが頭に浮かんで、自分はあのような忌まわしいことをされて興奮したのだと思うとぞっとした。

 その途端滾っていた男根は一気に元気を失ってしまったのだ。

 皇帝との事を思い出すたびにおぞましい自分が嫌になる。そしてアソコは完全に熱を失ってしまうのだ。

 俺だってシエルと結婚出来るなんて夢みたな話だ。

 もう何も遠慮することもなくシエルを俺だけのものにできるなんて本当に夢みたいなこととしか言いようがない。

 でも、愛している女を抱けない男なんて。

 クッソ!ただの腑抜けじゃないか。


 いっそのことシエルに本当の事を話してしまおうか。

 いや、あんな恥さらしな事をシエルには絶対に知られたくはない。

 俺はどうすればいい?

 ボルクはひとり大きく溜め気を吐いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

一晩だけのつもりだったのに異世界に攫われました

木村
恋愛
セイレン・ルイ・ファラリアは、自分より年上の孫までいる男に嫁ぐことに。ならばいっそ慣れてしまいたいと、隣国で行われる神事で観光客の中から一晩の遊び相手を探すことに。しかし実際に男に囲まれると恐ろしく、何もできないでいたセイレンを、美しい騎士が助け出した。 「うちの番さかい、もう誰にも触られたらあかんよ」 方言人外×人生崖っぷち男爵令嬢による異世界ロマンスファンタジー! ムーンライトノベルズのブルームーンカクテル企画参加作品です 企画URL:https://nl.syosetu.com/event/bluemooncocktail/ ※神様に嫁入りするつもりはございません  https://www.alphapolis.co.jp/novel/827614135/239940205 のスピンオフ小説となります。この話は単体で読めます。(でも本編読んだ方が面白いです) なろうの方のURL https://novel18.syosetu.com/n6452jv/

【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。 だけど私は子爵家の跡継ぎ。 騒ぎ立てることはしなかった。 子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として 慎ましく振る舞ってきた。 五人目の婚約者と妹は体を重ねた。 妹は身籠った。 父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて 私を今更嫁に出すと言った。 全てを奪われた私はもう我慢を止めた。 * 作り話です。 * 短めの話にするつもりです * 暇つぶしにどうぞ

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

処理中です...