一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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23まさかこのような姿で

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 メルロが揃えてくれた橙色のシンプルなドレスを着せてもらい髪を結ってもらった。

 デコルテはあまり開きすぎずウエストからの膨らみのスレンダーなドレスで会食にはぴったりと思われた。

 シエルは迎えの侍従について食堂に入ったが時間が早かったらしく一番乗りだった。


 それから次々に男性や女性が現れて席について行った。

 メルロが言った通り皇帝陛下、皇妃。それに宰相のヘルラード・ディファルツ。高位貴族のお三方、それから側妃の皆さまが座った。

 側妃の方々は、オーランド国の方が3人、後は色々な国の方々でどなたもきれいで若い人たちばかり。

 髪の色も金色から黒色。瞳は碧い瞳にエメラルドグリーン、ヘーゼルなど多種多様で肌の色も白色から象牙色の方まで、一体どのようなご趣味かと思いたくなった。

 シエルはいたって普通の女だと思っているのに、この人達から比べればランクは下の方になるのでは、いっそ私などいらないと言ってくれれば良かったのにとさえ思った。



 晩さん会はつつがなく終わる。

 今夜の席は皇帝陛下が中央に座り左側に皇妃、右側にはシエルが座ることになっていた。

 まあ、それは今夜の主役のような存在ではあるけれども。とシエルは思っていたがみんなの視線が痛い。



 聞いたところによると皇帝は子供が全部で4人。皇妃のとの間に皇太子ラグナンと皇女エレオノがいる。

 側妃に産ませた子供が男の子がひとりと女の子がふたりだと言う。

 皇太子は23歳になり他の子どもはまだ18歳以下の方ばかりで皇太子が王位継承をすることが決まっているらしい。

 側妃が子供を産むとその側妃は皇帝とは閨を共にしなくなるらしい。側妃がふたり子供を持つことを皇妃が嫌がるからだ。

 そして噂では皇帝は15年ほど前に熱病にかかり子種を失くしたと言われている。それから後何人もの側妃がいたが誰も妊娠していないのがその証拠と言うことらしい。



 シエルは思った。

 だからこの席に現れた側妃は皆さん若く美しいですね。

 それに陛下も思う存分楽しめるという事なのかもしれない。

 何だか気が重い。

 だが、皆さんの視線が肌に刺さるようで食事を食べないわけにもいかず、シエルは豪華な夕食を無理やり口に運んだ。

 ああ。せっかくのごちそうですのに…

 羊肉の詰め物やソーセージ、野菜のクリーム煮などとても美味しそうな料理ばかりだったのだけど。

 まったく味を感じることが出来なかった。



 そして皆、挨拶をして席を立ち始めた。

 シエルは一応最後まで残っていなくてはいけないと思い次々に挨拶を交わしていった。

 皇妃も席を立ち最後まで残っていたのは皇帝陛下だった。

 あれ?陛下が一番に席を立つべきではないのでしょうか?

 だって一番偉い人なんですからと思うながらも陛下に微笑んだ。

 「陛下今日は私の為にこのような機会を設けて頂き光栄に存じます。お料理も大変美味しくいただきました」

 「うむ、シエルが美味しく食べてくれたなら良かった。今夜は待っているからな。今から風呂に入ると聞いたが?」

 陛下は顔を近づけてくる。

 そんな事をどこからと思うが、そうでした。確認しますとメルロさんおっしゃってましたよね。

 あの…陛下の鼻の下のびてませんか?

 思わず後ろに下がりたくなるが椅子に阻まれて動けない。



 「えっ?はい、その方がよろしいのではと思いましたので」そう言いながら顔を下に向けた。

 「そうだな。風呂上がりのシエルはさぞ美しいであろうな。どうだ?私の部屋で入ってもよいぞ。そなたの噂は聞いておるからな」

 シエルは真っ赤になって首を横に振る。

 何を言われるのですか?

 とんでもないエロ皇帝ではないでしょうか。



 「いえ、とんでもありません。それに噂というのは?」

 「ああ、格式ばかり重んじる輩やからは、男を知った女などと嫌うが、私はそんな事はちっとも構わんと思っておる。むしろその方が最初から楽しめるではないか。遠慮なくそなたを食すことが出来るであろう?」

 ああ、噂。男を誘惑しているとか、何人もの男と関係を持っているだとか言うあの噂ですね。はいはい。

 待って。それに今何と?私を食す?

 どうやって食べられるのかと想像してみるが全く無意味だった。

 そんな事、わかりませんから。あっ、いえ、少しは理解出来ますが。

 

 「食すだなんて…あの陛下はしたないですわ」

 「はしたない?そうか。ハハハ。では、後程部屋で。待っておるからな」

 そう言うと皇帝の唇がシエルの耳朶にかぶりついた。

 耳朶を食まれ、一瞬何が起こったのかわからず何も考えれなくなる。

 「お前は耳までうまいな」

 陛下は笑いながら食堂を出て行った。もちろん近衛兵が付いていた。


 **********


 シエルは部屋に戻るとお風呂の用意が出来ていた。

 メルロが声を掛ける。

 「シエル様いかがでしたか。お料理は口に会いましたか?」

 「ええ、どれもとても美味しかったわ」

 「そうでしたか。お風呂の準備は出来ております」

 「ええ、ありがとう」

 メルロはドレスを脱ぐのを手伝う。

 「シエル様。お風呂に入られるお時間はどのくらいでしょうか?」

 「そうね。1時間ほど」

 「あの、余計な事を申し上げますが、少し急がれた方がいいのではと思います。陛下は気の短い方でして、機嫌のよいときはいいのですがひとたびご機嫌を損なうとそれはもう恐ろしい方でして」

 「まあ、そうなんですか。お会いした感じではとてもそのように見えませんでしたけど」

 「それはシエル様が気に入られたからです。きっと今か今かと待たれていると思いますので、あまりお時間をかけすぎると、その…いえ、こんな事を申し上げるのは」

 メルロも脱いだドレスを受け取りながら言いにくそうに顔を下に向ける。



 「いいのよ。教えてくれてありがとう。これからも何でも話して下さる?私、この国の事がまだよくわからないのでとても助かるわ」

 「はい、もちろんです。お風呂にはバラの香油を垂らしておきました。少しの間でもくつろいでいただけたら、では30分後にまた声をおかけしましょうか?」

 「えっ?…ええ、そうね。うっかりするといけないわね。そうしてちょうだい」

 「わかりました。では、失礼します」

 シエルは何だか急がなくてはと思いすぐに風呂に入る。



 メルロが言った通り、風呂場に入るとばらの香りが立ち込めて気分が良くなった。

 湯船につかり鼻腔にいい香りを吸い込むとしばし何もかも忘れた。

 でも、すぐに現実に引き戻されるとすぐに身体を洗い始めた。

 髪の毛を洗っている暇はなさそうだわ。そんな事を思いながら今から行われることを考える。



 あのエロ皇帝が自分の身体に触れるのだと思うとゾクリと肌が震えた。

 唇を合わせてきたらどうすればいいのだろう。

 まさか、逆らうわけにはいかない。

 謁見の時に舌なめずりしたあの舌先を思い出すだけでまた気持ちが悪いと思う。

 こんな状態で私は皇帝を受け入れる事が出来るのだろうか?

 ボルクにされたみたいに胸に手を這わされ、あわいの間に指を差し入れられるはず、そして今夜、皇帝の男根を受け入れて処女を失うのだ。

 おまけに皇帝は自分をすでに処女を失ったあばずれだと思っている。



 静まり返った風呂の中で湯の上に水滴がポトリと落ちた。

 シエルは気づかない間に泣いていたらしい。

 もう、泣くなんてどうかしてるわ。

 自分でもわかっているはずなのに。

 ボルクとは結ばれるはずもない事だということも。

 皇帝に抱かれなければならないことも。

 ああ…ボルク。いっそ、あの時すべてを奪っていてくれればよかったのに。

 でも、そんな事があればますますボルクに思いが募るかもしれない。

 シエルは浴槽の中に顔をつける。

 いっそ、このまま死んでしまえばいいのに。



 その時メルロに声を掛けられた。

 「シエル様、申し訳ありません。まだお風呂でしたか?そろそろお時間が…」

 「あっ、はい、すぐに出ます」

 シエルの思考は何の決心もなしに立ちあがった。



 急いで体を拭いて出る。風呂に入る前に外したボルクにもらった笛を急いでつける。

 メルロはもう夜衣を準備して待っていた。

 シエルは全身にばらの香油を塗られその上に薄い、本当に薄い絹の寝間着をきせられた。色は情熱的な赤色。

 シエルはあまりの事でおかしくなった。

 こんな寝間着がこの世にあるなんて。

 それにしても下履きは、メルロは下履きを忘れているのでしょうか?

 こんな熟練の侍女がそのような失敗をするとも思えなかったが聞いてみる事に。



 「あの、メルロ下履きは?」

 「そのようなもの必要ございません。これは?」

 首から下げている笛を見てメルロがじろりと見た。

 一瞬ヒヤリとする。これはどうしても付けていたいのと心で叫んでいる。



 「これは、とても大切なお守りなの。付けていると安心できるからこれはこのままで」

 「そうですか。シエル様がそうおっしゃるなら。特に危険なものでもありませんから陛下も何もおっしゃられないでしょう」

 シエルはほっとして屋と鏡を見た。

 恐ろしく色っぽい姿をしている。思わず顔が火照る。

 こんな姿であのエロ皇帝の前に…

 メルロはそう言いながらシエルの髪の毛をきれいに整えた。

 「さあ準備はこれでよろしいかと。では、急ぎませんと」

 メルロにせかされるように廊下に出る。



 萎えた脚は思うように動いてはくれなかったが、それでもメルロにせかされて脚を前に前に踏み出す。

 シエルの脈はあっという間に高まり、緊張が押し寄せてくる。

 もう何も考えれない。

 ええ、もう何の考えない方がいい。なるようにしかならないのですから。





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