27 / 58
23まさかこのような姿で
しおりを挟むメルロが揃えてくれた橙色のシンプルなドレスを着せてもらい髪を結ってもらった。
デコルテはあまり開きすぎずウエストからの膨らみのスレンダーなドレスで会食にはぴったりと思われた。
シエルは迎えの侍従について食堂に入ったが時間が早かったらしく一番乗りだった。
それから次々に男性や女性が現れて席について行った。
メルロが言った通り皇帝陛下、皇妃。それに宰相のヘルラード・ディファルツ。高位貴族のお三方、それから側妃の皆さまが座った。
側妃の方々は、オーランド国の方が3人、後は色々な国の方々でどなたもきれいで若い人たちばかり。
髪の色も金色から黒色。瞳は碧い瞳にエメラルドグリーン、ヘーゼルなど多種多様で肌の色も白色から象牙色の方まで、一体どのようなご趣味かと思いたくなった。
シエルはいたって普通の女だと思っているのに、この人達から比べればランクは下の方になるのでは、いっそ私などいらないと言ってくれれば良かったのにとさえ思った。
晩さん会はつつがなく終わる。
今夜の席は皇帝陛下が中央に座り左側に皇妃、右側にはシエルが座ることになっていた。
まあ、それは今夜の主役のような存在ではあるけれども。とシエルは思っていたがみんなの視線が痛い。
聞いたところによると皇帝は子供が全部で4人。皇妃のとの間に皇太子ラグナンと皇女エレオノがいる。
側妃に産ませた子供が男の子がひとりと女の子がふたりだと言う。
皇太子は23歳になり他の子どもはまだ18歳以下の方ばかりで皇太子が王位継承をすることが決まっているらしい。
側妃が子供を産むとその側妃は皇帝とは閨を共にしなくなるらしい。側妃がふたり子供を持つことを皇妃が嫌がるからだ。
そして噂では皇帝は15年ほど前に熱病にかかり子種を失くしたと言われている。それから後何人もの側妃がいたが誰も妊娠していないのがその証拠と言うことらしい。
シエルは思った。
だからこの席に現れた側妃は皆さん若く美しいですね。
それに陛下も思う存分楽しめるという事なのかもしれない。
何だか気が重い。
だが、皆さんの視線が肌に刺さるようで食事を食べないわけにもいかず、シエルは豪華な夕食を無理やり口に運んだ。
ああ。せっかくのごちそうですのに…
羊肉の詰め物やソーセージ、野菜のクリーム煮などとても美味しそうな料理ばかりだったのだけど。
まったく味を感じることが出来なかった。
そして皆、挨拶をして席を立ち始めた。
シエルは一応最後まで残っていなくてはいけないと思い次々に挨拶を交わしていった。
皇妃も席を立ち最後まで残っていたのは皇帝陛下だった。
あれ?陛下が一番に席を立つべきではないのでしょうか?
だって一番偉い人なんですからと思うながらも陛下に微笑んだ。
「陛下今日は私の為にこのような機会を設けて頂き光栄に存じます。お料理も大変美味しくいただきました」
「うむ、シエルが美味しく食べてくれたなら良かった。今夜は待っているからな。今から風呂に入ると聞いたが?」
陛下は顔を近づけてくる。
そんな事をどこからと思うが、そうでした。確認しますとメルロさんおっしゃってましたよね。
あの…陛下の鼻の下のびてませんか?
思わず後ろに下がりたくなるが椅子に阻まれて動けない。
「えっ?はい、その方がよろしいのではと思いましたので」そう言いながら顔を下に向けた。
「そうだな。風呂上がりのシエルはさぞ美しいであろうな。どうだ?私の部屋で入ってもよいぞ。そなたの噂は聞いておるからな」
シエルは真っ赤になって首を横に振る。
何を言われるのですか?
とんでもないエロ皇帝ではないでしょうか。
「いえ、とんでもありません。それに噂というのは?」
「ああ、格式ばかり重んじる輩やからは、男を知った女などと嫌うが、私はそんな事はちっとも構わんと思っておる。むしろその方が最初から楽しめるではないか。遠慮なくそなたを食すことが出来るであろう?」
ああ、噂。男を誘惑しているとか、何人もの男と関係を持っているだとか言うあの噂ですね。はいはい。
待って。それに今何と?私を食す?
どうやって食べられるのかと想像してみるが全く無意味だった。
そんな事、わかりませんから。あっ、いえ、少しは理解出来ますが。
「食すだなんて…あの陛下はしたないですわ」
「はしたない?そうか。ハハハ。では、後程部屋で。待っておるからな」
そう言うと皇帝の唇がシエルの耳朶にかぶりついた。
耳朶を食まれ、一瞬何が起こったのかわからず何も考えれなくなる。
「お前は耳までうまいな」
陛下は笑いながら食堂を出て行った。もちろん近衛兵が付いていた。
**********
シエルは部屋に戻るとお風呂の用意が出来ていた。
メルロが声を掛ける。
「シエル様いかがでしたか。お料理は口に会いましたか?」
「ええ、どれもとても美味しかったわ」
「そうでしたか。お風呂の準備は出来ております」
「ええ、ありがとう」
メルロはドレスを脱ぐのを手伝う。
「シエル様。お風呂に入られるお時間はどのくらいでしょうか?」
「そうね。1時間ほど」
「あの、余計な事を申し上げますが、少し急がれた方がいいのではと思います。陛下は気の短い方でして、機嫌のよいときはいいのですがひとたびご機嫌を損なうとそれはもう恐ろしい方でして」
「まあ、そうなんですか。お会いした感じではとてもそのように見えませんでしたけど」
「それはシエル様が気に入られたからです。きっと今か今かと待たれていると思いますので、あまりお時間をかけすぎると、その…いえ、こんな事を申し上げるのは」
メルロも脱いだドレスを受け取りながら言いにくそうに顔を下に向ける。
「いいのよ。教えてくれてありがとう。これからも何でも話して下さる?私、この国の事がまだよくわからないのでとても助かるわ」
「はい、もちろんです。お風呂にはバラの香油を垂らしておきました。少しの間でもくつろいでいただけたら、では30分後にまた声をおかけしましょうか?」
「えっ?…ええ、そうね。うっかりするといけないわね。そうしてちょうだい」
「わかりました。では、失礼します」
シエルは何だか急がなくてはと思いすぐに風呂に入る。
メルロが言った通り、風呂場に入るとばらの香りが立ち込めて気分が良くなった。
湯船につかり鼻腔にいい香りを吸い込むとしばし何もかも忘れた。
でも、すぐに現実に引き戻されるとすぐに身体を洗い始めた。
髪の毛を洗っている暇はなさそうだわ。そんな事を思いながら今から行われることを考える。
あのエロ皇帝が自分の身体に触れるのだと思うとゾクリと肌が震えた。
唇を合わせてきたらどうすればいいのだろう。
まさか、逆らうわけにはいかない。
謁見の時に舌なめずりしたあの舌先を思い出すだけでまた気持ちが悪いと思う。
こんな状態で私は皇帝を受け入れる事が出来るのだろうか?
ボルクにされたみたいに胸に手を這わされ、あわいの間に指を差し入れられるはず、そして今夜、皇帝の男根を受け入れて処女を失うのだ。
おまけに皇帝は自分をすでに処女を失ったあばずれだと思っている。
静まり返った風呂の中で湯の上に水滴がポトリと落ちた。
シエルは気づかない間に泣いていたらしい。
もう、泣くなんてどうかしてるわ。
自分でもわかっているはずなのに。
ボルクとは結ばれるはずもない事だということも。
皇帝に抱かれなければならないことも。
ああ…ボルク。いっそ、あの時すべてを奪っていてくれればよかったのに。
でも、そんな事があればますますボルクに思いが募るかもしれない。
シエルは浴槽の中に顔をつける。
いっそ、このまま死んでしまえばいいのに。
その時メルロに声を掛けられた。
「シエル様、申し訳ありません。まだお風呂でしたか?そろそろお時間が…」
「あっ、はい、すぐに出ます」
シエルの思考は何の決心もなしに立ちあがった。
急いで体を拭いて出る。風呂に入る前に外したボルクにもらった笛を急いでつける。
メルロはもう夜衣を準備して待っていた。
シエルは全身にばらの香油を塗られその上に薄い、本当に薄い絹の寝間着をきせられた。色は情熱的な赤色。
シエルはあまりの事でおかしくなった。
こんな寝間着がこの世にあるなんて。
それにしても下履きは、メルロは下履きを忘れているのでしょうか?
こんな熟練の侍女がそのような失敗をするとも思えなかったが聞いてみる事に。
「あの、メルロ下履きは?」
「そのようなもの必要ございません。これは?」
首から下げている笛を見てメルロがじろりと見た。
一瞬ヒヤリとする。これはどうしても付けていたいのと心で叫んでいる。
「これは、とても大切なお守りなの。付けていると安心できるからこれはこのままで」
「そうですか。シエル様がそうおっしゃるなら。特に危険なものでもありませんから陛下も何もおっしゃられないでしょう」
シエルはほっとして屋と鏡を見た。
恐ろしく色っぽい姿をしている。思わず顔が火照る。
こんな姿であのエロ皇帝の前に…
メルロはそう言いながらシエルの髪の毛をきれいに整えた。
「さあ準備はこれでよろしいかと。では、急ぎませんと」
メルロにせかされるように廊下に出る。
萎えた脚は思うように動いてはくれなかったが、それでもメルロにせかされて脚を前に前に踏み出す。
シエルの脈はあっという間に高まり、緊張が押し寄せてくる。
もう何も考えれない。
ええ、もう何の考えない方がいい。なるようにしかならないのですから。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18

【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる