一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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19-1私たち助かったの?

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 「たいちょーう。どこです隊長。たいちょーう返事をして下さーい」

 微かに聞こえていた声は次第に洞穴の中にまで聞こえて来た。

 まさか、助けが来てくれたの?

 ボルクは立ち上がると洞穴の入り口に駆け寄る。

 「おーい。ここだ。ここにいる。サージェス!」


 見ればサージェスが岩場に走って来る。

 「ご無事でしたか隊長!」

 「サージェスか。無事だったか」

 「はい、けが人が半数ほどいましたが、オーランド国の国境警備隊に助けられました」

 「オーランド国の?」

 「はい、国境警備隊が一緒です。いやぁ、盗賊はオーランドで盗みをしたらしく警備隊が追っていて助けられましたよ」

 「それは運が良かった。それにしてもよくこの場所がわかったな」

 「これです。隊長から預かっていて良かったです。笛をふいたらガルに遭遇出来まして、足に着けていたこの辺りの場所とガルの案内で見つけることが出来ました」

 「そうか。ガルが…ありがとう助かった。さあ、シエル姫」

 ボルクが紳士的にシエルに手を差しだした。

 シエルの手は震えた。

 まともにボルクの顔を見る事さえためらう。

 今までと同じような態度があなたには取れるの?

 でもボルクは何のためらいもなく今までと同じ家来を装っている。 

 シエルの心に薄い氷が張っていく。

 いっそこのまま死ねたら良かったのに。

 そんな考えがよぎる。

 ああ…でも、でも、もうボルクはさっきまでの彼ではないのね。

 そんな事わかっていたはずなのに。

 シエルはぐっと唇をかみしめた。

 そして顔を上げた。



 「ええ、サージェス副隊長見つけて下さってありがとうございます」

 「とんでもありませんシエル姫。ご無事で何よりです」



 シエルは助かった言うのに大きくため息をつく。

 オーランド国に行かなければならなくなったから。

 ボルクの顔を見た。

 彼はすっかり元の騎士隊長の顔に戻っていた。

 シエルの心に固くて熱い氷が張っていく。

 ボルクへの想いは騎士去ることは出来ない。私の宝物なんだから、でも、この想いは心の奥に葬っておくしかないのだと。




 オーランド国の国境警備隊はすぐにサージェスに追いつくとボルクに挨拶をした。

 「隊長のベルタードです。よくご無事で」

 ベルタードは金髪にエメラルドのような美しい瞳を持つ端整な顔立ちの男だった。

 「ありがとうございます。私は騎士隊長のボルク・ウィスコンティンです。こちらはセルベーラ国のシエラ・ベンハイム姫です」

 「これは、この度は大変な目に合われて、ですが私たちが来たからにはもうご安心ください。姫を安全に皇都グレビアトまでお連れ致します。すぐに休めるよう今、天幕を張りますのでしばらくお待ちください。その間に何か飲み物をご用意させましょう」

 ベルタードはシエルのうやうやしく敬礼をする。

 「ベルタード隊長、遠路遥々来て下さり本当にありがとうございます。一時はどうなるかと気をもみましたがやはり皆頼りになりますね。本当に助かりましたわ」

 シエルは彼に挨拶をした。

 ベルタードは敬愛を込めてシエルの手にキスをする。

 シエルはにっこり微笑む。



 すぐに他の隊員が水の入ったカップをもって来た。

 洞穴の入り口に座ったままそれを受け取る。まだ立ち上がる元気すらわかないのだ。

 「どうぞ、今は水しかありませんが、すぐにお茶のご用意も出来ますので今しばらくお待ちください」

 ボルクとふたりその水をごくごく飲み干す。

 「まさか、こんなに早く助けが来るなんて…」

 「ええ、私も驚きました。まだ信じれないくらいです。ガルがいてくれて本当に助かりました」

 ボルクが笛を取り出して見せた。

 「あつ、それ私のと同じ笛ですのね」

 「ええ、これは鳥を呼ぶときに使う笛なんです」

 「じゃあ、私も笛を拭いたらガルが来てくれるの?」

 「ええ、きっと来ると思いますよ。ガルはこの笛の音を聞いたらその音の所に来るようにしつけてありますから」

 「そう…」

 何だかうれしくなった。ボルクと同じ取りを呼べるなんて…



 あっ、そう言えばべルールたちは?

 「サージェス。べルールたちはどうしました?無事ですか?」

 通りかかったサージェスに尋ねる。

 「ああ、すみません。まだお話していませんでした。べルール殿とアマルは怪我をして今オーランド側の国境の町サマストで治療を受けています。だから大丈夫ですよ」

 「そう、良かったわ」



 ボルクも心配だったのだろう。

 「サージェス。他の隊員はどうなった?」

 「はい、半分ほど怪我でやられました。もうだめかと思っていたところに国境警備隊の方が来てくれて本当に助かりましたよ。そうでなかったら危なかったんです」

 「そうか、じゃあ、運が良かった。ああ、あそこにいるのはラファーガとソルだな」

 「ええ、あのふたりはほんとに頼りになりますよ。あの盗賊相手にも怪我ひとつ追わなかったんですから」

 青い隊服を着た数人男が見えた。セルベーラ国の色が。

 かたやオーランド国の警備隊は赤い色を基調とした隊服でどの男も砂漠の中で良く目立った。

 隊は十人ほどの小さい隊らしく、天幕を張るのも全員で手際よく動いてあっという間に休める場所を作って行く。



 「さあ、シエル姫どうぞあちらで休んでください。ウィスコンティン様もどうぞ。さぞお疲れでしょう。今夜はここで野営して明日の朝オーランドに向けて出発しますのでおふたりとも今夜はゆっくり休んで下さい」

 「ありがとうベルタード隊長。本当に我が隊を助けていただいたこと感謝する。おまけにこうして助けにまで来ていただいて」

 ボルクは立ちあがり頭を下げて感謝の意を伝える。

 「とんでもありません。我が国で悪事を働いた盗賊を逃したこちらの失態でもあるのです。あなた方はオーランド国にとってとても大事な人たちです。無事にお連れするのは私たちの役目ですのでご安心ください」

 ベルタード隊長が胸を張った。

 そしてシエルに向かって礼をして去っていった。



 「これでやっと安心出来ます。本当に助けが来てよかったですねシエル姫」

 「ボルクはそれで平気なの?」

 「もちろんです。あなたを失うわけにはいきませんから」

 「でも、一緒に…」

 「もう忘れて下さい。あんな事を言って私もどうかしていました。すみません。私は手伝いに行ってきます。姫は支度が出来るまでここで待っていて下さい」

 「でも…」

 何を言っても聞く気はないとボルクはさっと立ち上がって行ってしまう。

 シエルの伸ばした指先は行き場を失っていた。

 ボルクの後ろ姿を見送るしか出来なかった。

 彼の指先は親指と薬指で摺りあわされているだけで…




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