一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる

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16さばくの夜は燃え上がる

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  夜の始まりはまだ視界があって、岩場の中に目を凝らしているとしばらくするとどこに何があるか薄っすらと見え始めた。

 ボルクは休む間もなく岩場の中を調べている。

 そこは3メートル四方くらいの広さがある洞穴になっていた。

 薄っすらとしか視界のない中でボルクはすぐに洞穴の中にあったランプと敷物を見つけた。

 よく見るとまだ油らしきものが入っていて火をつければ使えそうだった。

 ボルクは荷物から火打石を取り出すとさっそくランプに火を灯した。

 ほの明るいランプの灯りを頼りに中をくまなく調べる。

 危険な害虫がいたら危険だからだ。

 それにもしかしたら何か食べるものがあるかもしれないと思ったが悲しい事に食べ物などはまったくなかった。


 ボルクは少し気を落としたがそんな事を気づかれないように努めて明るい声を出す。

 「よし、これでいいだろう」

 彼は中にあった敷物を洞穴の中に敷いてシエルに座るように言った。

 シエルはやっと洞穴の中に入って敷物の上に腰を下ろす。

 ほぉとため息をついたシエルに期待を持たせるように。

 さらにボルクは荷物から干し肉や乾燥させたフルーツなどを取り出す。

 まるで魔法みたいに。

 「ボルクったらこんなものを持ってたの?うふっ」

 空腹と疲れの中思わず笑みがこぼれた。

 「ああ、お腹いっぱい食べてくれと言いたいが…すぐに助けが来るかわからない。だから最低限ですませたい」

 「ええ」

 やっと出た元気もすぐに泡となる。


 ここにはたどり着いたがそれも束の間の安心だった。

 仲間にここにいる事を知らせなければ誰も助けには来てはくれないだろう。そんな簡単な事さえも考える余裕はなくなっていたなんて…

 それでも干し肉や乾燥フルーツなどをお腹に入れると少しは気持ちが落ち着いた気がした。


 しばらくするとボルクが何やら真剣な面持ちをして話を始めた。

 「シエル姫にはご不自由をかけて申し訳ない。火が起こせればもっといいんですが、何しろもう暗いので今から燃えるものを探すのも無理でしょう。今夜はここで一緒に寝たほうがいいと思います。コホン。夜は冷えますので」

 ボルクの指先は親指と薬指がすり合わされている。


 シエルはボルクの言葉使いに戸惑う。

 旅に出てからボルクはずっと自分に距離を置いていた。それはもちろんわかっている。

 けど、こんな状況でそんな事いいではないかと思う。

  せっかくさっきまで距離が縮まった気がしていたのにどうしてボルクはいつもそうやって私と距離を取りたがるの?

 そんなに私といるのが嫌なの?

 シエルはだんだん腹が立ってくる。


 「なに?ボルク、いきなり他人行儀よ。さっきまで友達みたいだったのにどうしてそんなに態度を変えるのよ!」

 「べ、別に態度を変えているわけでは…これは私の仕事ですので、それをわきまえておかないとと思っただけです」

 「仕事って、これは遭難よ。こんな時に仕事の話を持ち出してどうするつもり?考えなければならないのはこれからどうするかでしょ」

 シエルは言葉に詰まる。

 ボルクは今夜はここに寝るって言ったわ。つまりそれは一緒に寝るということで。

 シエルの脳に母から聞いた閨事の話が浮かび上がった。


 ”閨では男と女がひとつになるんです。

 それはつまり女には股間に3つの口があります。

 一つは排尿、そして排便。もう一つは赤ん坊を宿し産む場所が、あなたはよく知らないでしょうけれど月のものが出てくるのはそこからなのですよ。

 だから男性の欲した股間にあるものをそこに入れるのです。

 何も心配することはありませんよ。すべて男の方に任せてあなたはただじっとされるままにすればいいのです。

 そうすれば自然とそうすることが良いと思えるようになって行くのですから、オホホホ。”と母が言った事を思い出す。


 でも、それはあの皇帝との交わりに行うことで。今日はそのような心配はないかと。

 シエルはほっと溜息をついた。

 そして言い知れない寂しさに襲われた。


 ボルクはそれから寝る場所を整えると言った。

 「シエル姫いつでも横になって下さい。私はそばにはいますが何があるかわかりませんので起きていますから」

 「わかりました。でも、まだ眠くはありませんわ。それにあなたをずっと起こしてはおけません。私も交代で見張りをします」

 さっきは冷えるから一緒に寝ると言ったのに今度は寝ずに起きているという。

 シエルもだんだん意地になってしまう。


 「いいですから少し横になって下さい。今日は相当きつかったんです。シエル姫はずいぶんお疲れのはずです」

 ボルクは優しく言葉をかける。

 シエルはあんなことを言ってはいたが本当はすごく疲れていた。

 何しろボルクと一緒にラクダに乗って緊張しまくったし、盗賊には遭遇して逃げて砂漠をかなり歩いたのだから。

 騎士隊で体を鍛えているボルクでさえかなり体力を消耗している。シエルが疲れないはずがない。



 「そ、そうね。せっかくの行為を無駄にするのは良くないかもしれません」

 シエルはそう言うとボルクが用意してくれたキルトの敷物に横になった。

 すぐに彼が温もりをわけ与えるかのようにそばに座った。頭からすっぽりかぶっていた大きなマントを身体にかけてくれてその上からそっと背中をさすられるとあっという間にシエルは眠りに落ちてしまった。



 **********


 どれくらい経ったのだろう。

 シエルの肌にチクリと痛みが走る。

 「キャッ、痛い。何かいるわ」

 シエルがいきなり飛び起きる。

 すぐにそばにいたボルクがシエルを見た。

 「どうしました?」

 「何かに刺されたような…」

 シエルが痛みを感じた太腿をさする。

 「まさか、サソリが?いや、毒ぐもかもしれない。シエル見せてみろ」

 「えっ?でも」

 それもそのはず場所が場所だけに…下にはドロワーズを着けてはいるが太ももをさらすにはそれさえもどうにかする必要がある。

 「いいから、もしそうなら毒を吸い出さないと」

 ボルクは慌てる。

 それもそうだ。もしそうなら命の危険があるのだ。



 「わかったわ」

 シエルは仕方なく上の服を腰までずり上げ右側のドロワーズをぐっとずり上げる。

 ボルクはその間に消していたランプに明かりをともして太腿のそばにその明かりを近づけた。

 「どの辺りか教えてくれ」

 シエルは右側の太腿の外側を指さす。

 ボルクはしゃがみ込んでそこをじっと見る。

 そんなところをじっと見られるだけで恥ずかしくてぞわぞわする。

 見ればそこは赤くなり噛み跡のようなものが。


 「うーん。蜘蛛かはよくわからないが…ちょっと痛いが我慢してくれ」

 ボルクがいきなりその刺された部分に唇を吸いつけた。

 「ひゃっ!」驚いて変な声が漏れた。

 彼は何度もそこから毒を吸い出そうとするのかチュウチュウと音を立てて吸う。

 シエルも最初は驚いていただけだったが、そんなに大げさなことをするボルクを見ていてだんだんもしかしたら私は死ぬのかもしれないと思い始める。



 何度も毒を吸い出してはそれを口から吐き出してボルクはようやくその行為をやめた。

 「シエル、毒は吸い出したから大丈夫だ」

 ボルクはそう言ったがシエルは気が気ではない。

 「本当に?もう絶対に大丈夫なの?もしかしたら私、死ぬのでは?」

 「大丈夫だ。死んだりしない。君を死なせるもんか。私が付いている。大丈夫だ」

 気づかない間にほろりとこぼれた涙。

 ボルクがそっとその涙をすくい取るように頬から眦に唇を這わせる。


 シエルはボルクの柔らかな唇が触れるともっと欲しいと思ってしまう。

 そんな優しいボルクと一緒にいたい。

 誰も好きでオーランド国の皇帝の元に行くわけではないのに。

 それにもしここで死んだりしたら?

 ゾクッとする恐怖。私はきっと一生後悔する。

 とっさにそんな考えが脳を駆け巡る。

 せめて私の初めてをボルクにもらって欲しい。

 このまま死んでもあなたに抱かれて死ねるならわたし…


 切迫した状況だからこのような考えになるのかも知れない。

 でも、今を逃したら永久にそんな機会が訪れない事はシエルにもわかった。


 シエルはいきなり着ている服のボタンを外し始める。

 簡単な服なので前のボタンを外すと服はすぐに脱げた。

 肩から着ている服がずり落ちると下には薄いシュミーズとドロワーズだけになった。

 「な、何をしている?」

 ボルクは驚いてシエルを見つめている。

 「ボルクお願い。私の…初めてをもらって欲しいの」

 言った先から羞恥が込み上げて来る。


 「何を言うんです。そんな事許されるはずが…いいから服を着て下さい」

 ボルクはずり落ちた服を持ち上げる。

 その手は震えていてシエルはその手をぎゅっと握りしめる。


 「私たち死ぬかもしれないのよ。それでもまだあなたは私の中にある気持ちに嘘をつけと言うの?私はこんな時くらい素直になりたい。ボルクあなたがずっと好きだった。こんなことになってこの気持ちは諦めるしかないと思ったわ。でも、でも…死ぬかもしれないなら私はあなたに抱かれて死んで行きたいのよ」

 シエルはすがるようにボルクを見つめる。

 もうすぐ夜が明けるのだろう。

 岩場の入り口からは薄紫色の光の筋が差し込んでいて、彼のあの美しい紺碧の瞳がキラキラ輝いて見えた。 

 でも、その瞳は輝いているのではなくためらいを浮かべているのか。

 やっぱり無理なの?


 一度口に出してしまった言葉を取り消すことなど出来るはずもないが彼に頷いて欲しくて、シエルは勇気を出してもう一度声を掛ける。

 「ボルク…私の願いを聞いて…だめ?」


 シエルは華奢な腕をボルクの首に絡めた。

 ボルクの首筋の血管がドクドク脈打ち男らしい喉元をごくりと唾液が流れ落ちた。

 「あなたと言う人は…私がどれほど自分の欲をこらえているかわかりませんか?そんな、そんな事を言われたらあなたを奪ってしまう」

 「いいの、それが私の願いなの。ぼ、るく…」

 言葉はボルクの武骨な指でふさがれて途切れた。




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