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7-2シエルの唇は魅惑的
しおりを挟むボルクはシエルと口づけをしてしばし我を忘れた。
もっと触れてみたい。この柔肌に触れたら彼女はどんな反応をするのだろうと想像するだけでビリビリとした電流のようなものが彼を刺激していた。
口づけが激しくなるがシエルもそれを拒みはしなかった。
そのうち彼女の乳房にボルクの身体が触れた。
薄い寝間着越しの乳房の柔らかさは、ボルクの硬い筋肉に触れると先の尖りが硬くなった。
それを感じ取ったボルクの雄は破裂しそうなほど高ぶってしまう。
無意識にシエルの脚の間にそれを押し付けた。沸き上がった劣情に理性はあまりに無意味だった。
だが、シエルがそんな動作に怯えて勢いよくぎゅっと股をすぼめたせいでボルクの股間にギリと痛みが走った。
おかげで一気に熱が冷めた。
ボルクは急いでシエルから離れる。
こんな気持ちになってはいけない。彼女を求めてはいけない。
でも、自分はどうしようもなく彼女を欲していると確信するが、そんな事などおくびにも出さないようにして言った。
「すみません。つい、私もハチミツが好きなので。さあ、少しは食事が食べれそうですか?」
ボルクは何を言ってるんだと自分をあざ笑う。
「だからってこんな事…もしかしてボルク私があの噂通りの女だって…」
「ばかな事を言わないで下さい。シエル姫は純真で無垢な方だと知っています」
「じゃあ、キスも初めてだって知ってたの?」
シエルはそう言って俯く。
私ったら、な、何を言って…
「そんなつもりでは…あなたの初めてを奪ってしまって…申し訳ありません」
彼は申し訳なさそうに頭を下げる。
「違うの。あなたに奪われてうれしかったから…だからそんな事言わないで」
ボルクの気まずそうな瞳が上向いた。紺碧色の瞳が見開かれて輝きを増した。
「コホン。とにかくこんなことは二度としません。さあ、食事が冷めてしまいますので」
彼はすでに夢の世界から現実の世界に戻ってしまったらしい。
シエルもこれ以上いけない事だと分かっている。だから彼が言った事は正しい事だと。
はっきりと。
「ええ、そうね。食べてみようかしら」
食べてみようかしらだなんて…何だかおかしくなる。
だってこんな時何て言えばいいのかもわからないもの。
シエルはどうしていいかわからないままボルクが何かを始めた。
ボルクは何もなかったかのように急いでシエルが座れるようベッドの背もたれに枕やクッションを置く。
「さあ、これでいいでしょう。これを膝の上に置いて下さい」
「えっ?あぁ、ええ」
シエルは背もたれに寄りかかるとテキパキしたボルクからトレイを受け取る。
ボルクはスープをさじですくうとシエルの口元に運ぼうとしたが。
「だ、大丈夫よ。自分で食べれそうだから」
急いでさじを受け取るとスープを掬って飲んでみる。
痛かった喉もお茶がきいたのかスープが飲み込めた。
「ボルク、飲めそうよ。このスープおいしいわ」
「そうですか…良かった」
少し残念そうに言うボルクの指は親指と薬指が摺りあわされている。
えっ?何?恥ずかしいでもないし、言いにくいこともないわよね。
彼の心理が読み取れない。
でも、怒っているわけではない。
シエルは食べ始めてみるとお腹が空いていたのかスープもお粥もすべて食べれた。
最期に薬を飲むと彼の表情がほっとした顔に変わる。
そしてすぐにいつもの騎士隊長の顔に戻ってしまった。
シエルの隣でてきぱきと食べ終わったトレイを片付けている。
ボルクあなたにもっと近づきたいのに、もうバリヤーを張ってしまうのね。
「食べれたじゃないですか。良かった。また休みますか?」
「ええ、そうね。もう少ししたら着替えがしたいとべルールに伝えて下さい」
「ですが今はもう少しお休みになられた方がいいかと」
「ええ、そうね。休むからウィスコンティン様もう下がってちょうだい」
「はいわかりました。でもひとりで起き上がってはいけません。もし倒れたりしたら大変ですので」
「じゃあ、どうすれば?あっ、そうでした。べルールもアマルも熱が出たんですよね?ふたりは大丈夫ですか?」
「はい、シエル姫と同じ流行り病だそうです。薬ももらったし同じ食事を持っていくように言ってありますので。後で様子を見て来ます」
シエルは気づく。
「まあ、ボルクは大丈夫?私たちキスしたわ。移ったらどうしましょう」
「心配いりません。この流行り病にはかかったことがあるのです。だから心配いりません。安心して下さい」
ボルクの指を親指と中指で擦り合わせていて…もしかしてうれしいの?
何が?ああ、そうか、病気が移る心配がないんですもの。
「良かったわ。あなたに移したら何を言われるか…」
「大丈夫です。あなたに移されるなら俺は…いや、何でもありません」
シエルはクスッと笑った。
ボルクもそんな彼女を見て微笑んだ。
いつの間にかふたりの間を柔らかな空気が取り巻いていく。
惹かれ合っているふたりの気持ちは引き合う磁石のように。
離れたくない。
離したくない。
こんな事していてはいけないのに…
互いにそんな気持ちが沸き上がっていく。
だが、そんな空気もボルクが立ち上がり部屋を出るころには散霧していた。
「さあシエル姫、少し休んでください。私は侍女の様子を見て来ますので」
「ええ、お願い。ありがとうボルク」
シエルがそう言うとボルクの顔には緊張が走り、ぎゅっとトレイを握りしめた。
そして足早に部屋を出て行った。
扉の外でボルクはしばらく動けなかった。
サージェスの言った言葉が頭をよぎった。
この旅の間だけでも楽しむんだなと、そんなこと出来るわけがない。
彼女は清らかなままオーランド国の皇帝に差し出されなければならないんだ。
もし俺が純潔を奪ってみろ、噂はやっぱり本当だったとシエルは間違った烙印を押されることになるんだから。
俺はそんな事絶対にしたくはない。
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