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24一難去ってまた一難
しおりを挟む私はアルドルフと幸せな時間を過ごしていたが、あれからいろいろなことが様変わりしていった。
結婚は半年後に決まりアルドルフは騎士隊の副隊長に昇格した。
アルドルフは王子と分かった今でも騎士隊の宿舎を住まいにしていてもうすぐ王家が準備してくれる屋敷に引っ越す予定だ。
彼は国王になる権利は捨てて伯爵位だけを受ける事になり新たな名前はアルドルフ・エイヴァン伯爵となった。
アルドルフは堅苦しい生活を嫌がり分相応な金額のお金を貰うことも嫌がったので給料はみんなと同じ副隊長分のお金がアルドルフに払われることになった。
そして髪色はわざと黒くしたままだった。
私はそんな彼にますます好感を抱いている。
王妃様は女性の権利向上の為にと新たな部署を立ち上げ私は是非にと言われて女性権利向上部の副長に任命されることになった。
アルパーシ国王はたくさんの被害女性の訴えで引退するだけでは済まなくなった。
これもエミリア様やメアリーのおかげ。
彼女たちは泣き寝入りしていた貴族令嬢や未亡人などに声をかけ国王だけでなく夫や婚約者などにひどい目にあわされて来た人たちが立ち上がった。
その結果が実を結び国王は結局冗談で言った去勢をする羽目になり王妃たちに見守られ睾丸摘出の施術をうけた。
他にもたくさんの男が摘発された。
これってすごい事で…さすがエミリア様って思った。
王妃様たちはアルパーシ様を献身的に看病しているらしい。
それを機に新たにアルパモント新国王が誕生して国は平常を取り戻していた。
アルパーシ元国王は王宮内の離宮に移り元王妃たちもそちらに移り新国王夫妻が王宮に住むことになった。
アルパモントの妻はニンフェア国の王女でふたりはとても仲が良かった。
私の父は罪を償うため国の所有する鉱山で5年間働くことになった。
ヴィオレッテ公爵家は下の兄が引き継ぎ上の兄が国防長官を引き継いだ。
こんな所はやはり貴族ならではとは思うがふたりの兄ならきっと良い仕事をすると期待している。
王都の屋敷には今は私だけが住んでいる。執事やリルたちもいるのにアルドルフは夜になると心配だからとやって来て使用人部屋に泊って行く。
いっそ我が家に引っ越せばと言うが結婚まではそう言うわけにはと断固として聞かない。
そんな彼がますます好きになって行く。
ジャネット様だが、彼女は心労のためか領地に帰って流産してしまいその後も体調が悪く二度と社交界に戻る気は失くしたらしい。
何もかもが幸せにあふれていた。
それなのに私は時々ほんとにこれで良かったんだろうかって思いにとらわれた。
だって元国王はあんなことになったし父は鉱山で働くことにもなったんだもの。
それで私だけこんなに幸せになって言いのかなて思うのも無理はないのでは?
心の奥には何かが引っかかっている気がして…
★***★
そして3か月が過ぎた。
ある日第1王妃の出身国であるパシオス帝国から使者が来た。
戦争の後国交のなかったふたつの国だったがパシオス帝国からの申し入れでアンナ王妃を嫁がせることで新たな友好関係を作ることになりパシオス帝国とは徐々に取引や行き来がありいい関係が続いていた。
使者はアルパモント国王に謁見した席上でこういった。
「アルパモント国王にはお初にお目にかかります。私はパシオス帝国より参った使者のセドリー・ブラントと申します。帝王の側近をしているものでございます。実はこの度パシオス帝国でアイテール神教会の生誕祭を行う運びとなりました。どうかアルパード王国にもこの記念式典に参加いただきたく参った次第にございます。この式典はパシオス帝国だけでなく各国からそれぞれ国の代表をお招きするものです。ぜひご参加をお願いしたいのです」
「それはもちろん喜んで参加させて頂きます」
「早速のお返事ありがとうございます。実はその式典でわが帝王はパシオス帝国に代々伝わっている5つの指輪をアイテール神教会に寄贈を考えておりまして…この指輪は国の始まりに神から与えられたと言う伝説の指輪で実はその一つを120年ほど前その時のパシオスの帝王がこちらのフィアグリット家の領主に与えたとの記述があるのですが、翠玉の指輪の事をご存知でしょうか?」
「指輪ですか?それは前国王に聞いてみないと…とにかくお疲れでしょう。すぐに部屋を用意させましょう。まずは疲れを癒してください。ブラント卿、今晩、晩餐にご招待したいのですが?」
「はい、喜んで。ではどうぞよろしくお願いいたします」
ブラント卿はそう言うと謁見室から出て行った。
アルパモント国王はすぐに側近のグレブに指輪の事を聞いた。
「確かあの指輪は…代々国王が引き継いでいるものでしたが、ジャスミン様があの指輪を欲しがって前の国王がジャスミン様に差し上げたはずです」
「そうか。それでジャスミンが亡くなった後指輪はどこに行ったんだ?」
「さあ?お母様の形見としてアルフォン殿下がお持ちではないでしょうか?」
「アルフォンが?困った。アルフォンは西の国境警備隊にいる。誰か他に知っているものはいないか?」
あれからアルフォンは一緒の遊び仲間だったマッドと西の国境警備隊に派遣された。
バルガン国境警備隊長は国でも一番恐れられているというしごきの鬼と言われる隊長。ふたりは一騎士隊員としてへとへとになるまでしごかれて毎日ぐったりとなって寝床に入る毎日だと報告が来ていた。
アルパモント国王は頭を抱える。晩餐までに行方を突き止めようと思っていたが…
「陛下。確か側近だったイゴールが知っているのではないかと。アルフォン殿下はそのようなものに興味はなかったようですし、管理は側近が行っていたはず」
「そうか。イゴールを呼べ!」
アルパモント国王はイゴールに翠玉の指輪のことを聞いた。
「あの指輪はヴィオレッテ公爵家ソルティ様とのご婚約の時に婚約の証として彼女に届けました」
「なに?では、今はソルティの所にあるんだな?」
「はぁ、多分。アルフォン殿下に返されたとは聞いておりませんので」
「そうか、わかった。すぐにソルティを呼んでくれ!」
アルパモントは安堵する。良かった。パシオス帝国からいただいたとはいえ大切な指輪。失くしたらどうなることかと…それにアイテール神教会に寄贈すると言われればなくなったなど恐れ多い事。
パシオスの帝王もそんな大切なものを渡すなんて迂闊過ぎだろう?
まあ、先祖がそれだけ良い事をしたんだろうが…
アルパモントの肩には国王になった責任と気苦労がのしかかる。
父もこんな苦労をしていたんだと思うとあんなに女遊びをしていた理由も少しはわかる気もした。
だからと言って父のやったことは度が過ぎたことは事実だ。
私も肝に銘じて気をつけよう。
そんな事を考えていると扉がノックされた。
「国王陛下。ソルティです」
「ああ。ソルティ呼び出してすまん。実はアルフォンとの婚約の時イゴールから指輪を渡されただろう?翠玉の指輪だ」
「はい、それが?」
私はそんな事はすっかり忘れていた。
「あの指輪が必要なんだ。悪いが返してほしい。パシオス帝国の使者が返してほしいと来ている。今夜の晩餐の時には返事をしなければならない」
私は指輪を売った事を思い出し血の気が引いた。
どうしよう。そんな事すっかり忘れていた。確かあの店の店主は3か月は預かり期間だと…も、とっくに3か月過ぎているじゃない。どうしよう…でも、今からでも店に行ったらまだあるかも知れない。
「実は、アルフォン殿下から婚約破棄を言われて指輪を売ったんです」
「売った?うそだろう…」
「陛下、きっとまだ店にあると思います。私すぐに行ってきます」
「ああ、すぐに言ってくれ。おい、グレブ一緒に行け!」
私はすぐに馬車を出してもらって街の換金をするあの店に行った。
「すみません。3カ月ほど前に指輪を売りに来たものですが…」
「ああ。あんたあの時の」
3カ月前と同じ髭ずらで眼鏡をかけた店主が覚えていたらしい。
「良かった。それで指輪は?翠玉の指輪です」
「ああ、あれか。惜しかったな。あれは昨日売れましたよ。だってお客さん3か月を過ぎたら返せなくなるって言いましたよ。覚えてますよね?」
「ええ…そんな。それで買った人はどんな人でした?教えてください。あの指輪はすごく大切な指輪だったんです。私そんな事知らなくて…」
私は膝ががくがく震えながら店主に聞く。
どうしよう。どうしたらいいの?指輪がなかったら…
「どんな人って?黒髪で目は翠色。あっ、あれは騎士隊の男で年のころは20代半ばくらいか…」
「ご令嬢、とにかくその人を探しましょう」グレブに言われて店を後にする。
「騎士隊と分かれば王都の騎士隊員しかいないはず。あんな指輪を買うとなれば近々婚約するか婚姻が決まっている男と言うことになります。すぐに騎士隊に行ってみましょう」
「ええ、ええ。そうね。騎士隊の人と分かっているんですもの。グレブあなたの言う通りだわ」
私はもつれそうになる脚に渇を入れるように馬車に乗り込んだ。
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